採用や社員教育に使えるゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションとは、ゲームに使われている構造や、ロイヤリティプログラム、行動経済学を活用することで、顧客や従業員のエンゲージメントを上げるというコンセプトです。
『The Gamification Revolution』には、世界のトップ企業の事例を交えながら、ビジネスの中にゲームデザインを取り入れる具体的な方法が紹介されています。この本の著者ゲイブ・ジチャーマン氏は、ゲーミフィケーションに関する情報サイトを運営するGamification Co と、ゲーミフィケーションを専門とするコンサルタント会社Dopamine の最高経営責任者を務めています。また本書は、Gamification Coや、NPRに寄稿しているライターのジョセリン・リンダ―氏との共著です。
多くの人がゲームに夢中になるのと同様に、顧客がサービスを利用することに夢中になったり、従業員が業務に熱中するようになったりすれば、組織は、顧客や従業員を楽しませながら、業績を伸ばすことができるようになるでしょう。世界のトップ企業は、顧客や従業員の体験を楽しく熱中できるものにするゲーミフィケーションの効果に気づいています。いまや、競合に差をつけるためには、上手にゲーミフィケーションを取り入れることが欠かせません。
ジチャーマン氏は、エンゲージメントを高め、問題を解決するためのゲーミフィケーションを6つに分類しました。この6つのアプローチは、個々に使うことも、いくつかのアプローチを合わせて使うこともできます。また、組織の主要なステークホルダーである顧客と従業員、どちらに対する戦略にも使うことができます。
従業員のエンゲージメントを高めるためにゲーミフィケーションを取り入れるときには、ゲームのなかでスキルが上がっていく感覚を大切にすると上手くいきます。上達することは、勝負に勝つこととは違います。勝利は目的を達成することですが、上達は知識を習得し、それを使って継続した進歩をしていくことです。例えば、ダイエットプログラムのウェイト・ウォッチャーズや、飲酒をやめたい人のためのアルコホーリクス・アノニマスのプログラムなどは、この上達する感覚を大切にし、上手くユーザーを引きつけています。
パズルゲームなどの単純操作のゲームに多くの人が魅了されるのも、勝敗だけではなく自分のスキルが上がっていく感覚を味わえるためです。それに加え、挑戦がある、迅速なフィードバック、レベルが上がる、ポイントが増えるなど、エンゲージメントを高める工夫がされています。
2000年代半ば、アメリカを拠点とする大手スーパーマーケットのターゲットでは、清算レジの前の行列がなかなか進まず顧客から苦情が相次いでいました。原因は、レジ担当者が商品をスキャンするスピードが遅いことです。そこでターゲットは、レジの画面にミニゲームを導入しました。このゲームでは、スキャンをしたときに決められた時間内にスキャンできればG(緑)、できなければR(赤)が表示されます。ゲームのルールはシビアです。音もなくレジ担当者にしか見えない画面上のゲームで82%のスコアを出せなかった場合、再トレーニングや降格の対象となってしまいます。逆に82%以上であれば昇進のチャンスがあります。このゲームを取り入れた結果、レジ前の行列が解消できただけではなく、レジ担当者の仕事に対する満足度も上がるという良い結果が出ました。
オムニケアという介護施設向けの製薬会社では、24時間のITヘルプデスクサービスを提供しています。しかし企業が急成長にするにつれて業務が回らなくなってしまいました。電話の保留時間が20分を超え、30%近くの電話を受けられない状態が続きます。そこで企業は、現在かかってきている電話の件数、かかってきたタイミング、保留時間などの明確な統計が目で見て分かる新しいシステムを導入しました。効率よく業務を遂行できた従業員には賞品としてギフトカードが与えられます。企業側は、これで問題が解決できると思っていました。しかし、顧客への対応よりもスピードを重視したサービスに与えられるインセンティブは社内から歓迎されず、新システムの導入は失敗に終わります。高い技能を持つベテランのオペレーターたちは、仕事のスピードよりも顧客対応の内容で評価されたかったのです。
そこで、ServiceNowというクラウドベースのITシステムを使ったOmniQuestというゲームで、ヘルプデスクサービスの手順を管理することにしました。OmniQuestの中核となるのは、顧客対応の評価をポイント制にし、目標ポイントをクリアすることでバッジを獲得できるシステムです。目標のなかには電話を受けるスピードや、顧客の問い合わせに速く的確に対応するというチャレンジもあります。このゲームにより、パフォーマンスと士気の両方で即座に大幅な改善がみられ、電話の保留率と、電話がつながる前に顧客が電話を切ってしまうドロップオフ率の両方が80%低下しました。
従業員からのフィードバックでは、システムが提供する課題やクエスト、そして「5つの完璧な顧客評価を連続して取得する」といったパフォーマンス指向のゲームが気に入られていることが明らかになりました。ヘルプデスクで必要だったのは、業務のスピードアップだけではなく、仕事の体験をより魅力的でやりがいのあるものにする方法だったのです。
採用活動に取り入れられたゲーミフィケーションで有名なのはGoogleの“{first 10-digit prime found in consecutive digits e}.com.” と書かれた看板を使った採用キャンペーンでしょう。看板にはこの言葉以外には何もなく、数学に詳しくない人にはさっぱり分かりません。しかし、Googleにふさわしいギークたちは、このゲームに大きな興味を示しました。このパズルの答え“7427466391.com”には、さらに数式パズルが用意され、ユーザーがそのパズルを解ければ採用ページが開くという仕掛けでした。この例から、ジチャーマン氏は、採用活動におけるゲーミフィケーションは、候補者を企業のフィルターに通し、トップの人材を楽しく引きつけることに適していると述べています。
Quixeyというスマートフォン用の検索エンジンを開発する企業も、Googleと同じようなテクノロジーのバックグラウンドを持った人材を探していました。Quixeyはウェブサイト上にゲームを開設し、100ドルの賞金を用意しました。3つの練習問題を解けたプレイヤーは、最終ステージに進めます。最終ステージはスカイプで見ている視聴者の前で、アルゴリズムのバグを1分以内に見つけるというものでした。2011年の12月に成功者は38人となり、そのうち5人を採用。Quixeyが使った金額は3800ドルと、通常よりもずっと少ない予算で採用を成功しました。
ジチャーマン氏は、これからの企業戦略にゲーミフィケーションが欠かせなくなるだろうと予測します。特に幼いころからデジタル機器に触れて育った若い世代を引きつけるには、ゲーミフィケーションは必然の要素となるでしょう。そして年配のステークホルダーにも新しく楽しい体験をもたらすはずです。また、手ごろな予算で従業員の行動をポジティブに変えることができ、その効果を計測しやすいゲーミフィケーションは人材育成の分野にも向いています。
タイトル The Gamification Revolution: How Leaders Leverage Game Mechanics to Crush the Competition
著者 ゲイブ・ジチャーマン / ジョゼリン・リンダー
出版社 McGraw-Hill Education (初版2013/4/16)
ISBN-10 : 9780071808316
ISBN-13 : 978-0071808316
- 人材採用・育成 更新日:2020/05/07
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-