仕事にまつわる9つの嘘
チームリーダーの役割として3か月計画のようなプランを立てる役割を与えられている人は多いかもしれません。正しい計画を立て、それを企業の計画に織り込むことができれば、必要な人材が割り当てられ、正しいタイミングと順序で物事が進み、みんなの役割が明確になり成功がついてきます。ただし、そのようなことは滅多に起こりません。
優れた計画を立てることよりも、その計画を実行するための知恵が重要です。例えば、明らかに人員不足なのに計画を実行しようとしていないでしょうか。また、チームリーダーは、メンバーの進捗状況を毎週確認して任務が遂行できるように調節できているでしょうか。優れた計画を立てることよりも、どのように実行するかが大切です。
まず、チームリーダーがするべきことは、計画実行に役立つ情報をチームメンバーにできるだけ多く提供することです。さらに週に1度メンバー全員に進捗状況を確認し、今週の最優先事項と、助けが必要な部分を聞き出します。変化のスピードは速く、計画したときと状況がどんどん変わっていきます。情報を与えることと、個々のチームメンバーの知性に頼りながら、リアルタイムでチームの努力を調整していくほうがうまくいきます。
そしてリーダーが進捗状況の確認を週に1度できる環境を整えることが、とても大切です。調査によると、週に1度の進捗状況確認ができれば平均でチームエンゲージメントが13%上がりますが、月に1度の確認ではエンゲージメントが5%下がってしまいます。
組織のトップが立てた目標を達成するために、部署目標、チーム目標、個人目標と滝のように目標をつなげていくカスケード型の目標管理法は人気があります。しかし著者は、成功する企業は目標をカスケード型にしているのではなく、企業が存在する意義をカスケード型にしているのだと指摘します。
目標とは人々のやる気を正しい方向に向かわせるものです。しかし現実にはやらなければいけない仕事が目標として掲げられていることがあります。それは目標ではなく、単なる仕事です。
企業が存在する意義をカスケード型に上から下に伝えることで、先に述べた「あなたのチームが気にするべき8つのこと」の「企業が掲げるミッションが素晴らしいと信じている」という項目と「企業の未来を信じている」という項目が向上します。
一つの例としてマーク・ザッカーバーグがFacebookに書き込んだ投稿が挙げられています。投稿の中でザッカーバーグは、Facebookの目的を「世界をもっとつなげること」であると述べFacebookの構造を変えることを宣言しました。そしてプロダクトチームに課した、ユーザーがソーシャル上でもっと意味のある交流ができるようにするという新しい目標を発表しました。
それ以来少なくとも10年にわたり、半年ごとにFacebookが存在する意義を、世界中の人々と彼のもとで働く人々に向けて発表しています。ザッカーバーグはFacebookが正しい道を歩むための微調整を含めて、自分の考えを伝えることを重視し発表しているのです。
均整がとれて何でもできる人が優れている人材とは限りません。個性のほうが大切です。優れた人材は均整がとれていると思っている人は、自分の弱みを鍛えて何でもできるようになろうとします。しかしハイパフォーマンスの研究を見ると、個々に違いがあり、自分の強みを理解しその開発に力を入れた結果として高いパフォーマンスを実現しています。
個々の苦手なことに注目するのではなく各自の強みを鍛えるのを助けることによって、よい結果が生まれます。優れたチームリーダーは、メンバーそれぞれの強みを見いだすだけでなく、個人が受け持つ役割や責任範囲をその人に合わせて微調整することが上手です。そうすることで、メンバーは毎日の仕事の中で自分の強みが鍛えられているのを感じることができます。
ミレニアル世代がコンスタントなフィードバックを望んでいるという話題が、ビジネス書やウェブメディアにあふれています。また、メンバーにネガティブなフィードバックをきちんと伝えることがチームリーダーの役割であると思っている人もいるかもしれません。しかし著者によれば、部下はフィードバックを必要としていません。ネガティブなフィードバックよりも自分に注意を向けてもらいたいと思っているのです。
調査によれば、ポジティブな注意を向けることは、ネガティブなフィードバックをすることよりもチームのパフォーマンスを高くする効果が30倍あることを示しています。もちろん問題が起きている場合は解決しなければなりませんが、チームメンバーの強みを生かして上手くいかない部分を埋められるようにアドバイスするほうが効果的です。もしチームメンバーが問題を抱えて相談をしてきたら次のように伝えてみましょう。
- まず現在について。上手くいっていないことにフォーカスするのではなく、上手くいっていることを3つあげてもらいます。
- 次に過去について。過去に現在起きているような問題をどのように解決したか尋ねます。
- 最後に未来に目を向けます。「いま何をすればいいか、もうわかっていますか?」とチームメンバーがすでに決定をしていると仮定した質問をします。こうするとチームメンバーが自分で解決策を見つけることを手助けできます。
人はほかの人を正確に評価できません。言い換えれば能力や性格を数値で表すことは不可能です。もし「この人は戦略的思考ができる人である」と推測した場合でも、その能力を正しく10段階評価することは難しいことではないでしょうか。能力に対してレーティングを出す測定方法では、評価を出す人の裁量に頼ってしまいデータに不純物が含まれます。その結果、正しいデータは得られません。
しかし、人は自分の経験であれば正確に評価することができます。ある人のパフォーマンスを10段階で測定するのではなく「絶対に成功させなければいけない場面で、あなたはこの人に仕事を依頼しますか?」という質問であれば、その回答には信頼性があります。ほかにも信頼性のある評価を出すために次のような質問が役に立ちます。
- このチームメンバーと一緒にできるだけ多くの仕事をしたいと思いますか?
- このチームメンバーについて、すぐに報告しておいたほうがいいパフォーマンス上の問題があると思いますか?
- もしあなたに権限があったら、今日この人を昇進させますか?
私たちはリーダーシップを訓練で獲得できる特色としてとらえがちですが、それは間違いです。リーダーシップとは状態です。ついてくる人がいればあなたはリーダーとなり、ついてくる人がいなければリーダーにはなれません。ですから「優れたリーダーになるためにどうすればいいか」と考えることは無意味で「なぜその人に人がついていくのか?」と考えるほうが自然です。
歴史を振り返ってみても、私たちが考えるリーダーの要素を持っていない人が、優れたリーダーになっていることはよくあります。私たちは突出した人物についていきたくなるのです。
私たちがリーダーについていくのは、その分野に優れているだけではなく、私たちの未来への展望を彼らが変えてくれるからです。特に未来を確信させてくれる人に私たちはついていきたくなります。リーダーシップは重要ではありません。重要なのは、どうしてその人についていきたくなるかというフォロワーシップなのです。そしてこれは、訓練で手に入れるものではなく、人間関係から生まれるものです。
著者は、全編を通して、本当に大切なのは最初にあげた「あなたのチームが気にするべき8つのこと」であると繰り返します。この本は、仕事に関して「こうするべき」と一般的にアドバイスされていることでも、疑問を持ち何のためにそれを実行するのか、そして自分のためにどう生かすのか考えることが大切だと気づかせてくれます。
Nine Lies About Work:A Freethinking Leader’s Guide to the Real World
著者 Marcus Buckingham, Ashley Goodall
出版社 Harvard Business Review Press(初版2019/4/2)
ISBN: 9781633696303
- 労務・制度 更新日:2020/07/09
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-