テレワーク時代こそ予防を!メンタルケアで環境の変化に順応できる心へ
テレワークがメンタルヘルスに及ぼす影響について教えてください。
人間は、環境の変化によって心理的負担がかかりやすい生き物です。今回はたまたまコロナウイルスの感染拡大に伴い、各社がテレワークを導入したことで大きな環境の変化が訪れました。
これを例えば、テレワークから通常の働き方に一気に戻すと、これもまた環境の変化になります。この変化すること自体に心理的負担がかかるとご理解していただくのが一番わかりやすいかと思います。
別の例で言うと、会社が急成長していて、オフィスにどんどん人員が増えるのも環境変化。でも、そういうときは成長しているので、みんなが躁鬱の“躁”の状態なので心理的負担を感じにくい。
ですが、急激に業績不振に陥り、人員をカットしなければいけない環境の変化に立たされたときには躁鬱の“鬱”の状態になりやすく心理的負担を感じやすくなります。
メンタルヘルスへの影響が大きいと、仕事にはどのような変化が起きるのでしょうか?
メンタルヘルスとフィジカルコンディションはリンクしているので、パフォーマンスに影響がでやすい。
ですから、メンタルヘルスに影響を及ぼす「個人のモチベーション/メンタルの問題」「コミュニケーションの問題」「マネジメントの問題」に集約される3つの悩みを解決していかなければいけません。
まず始めに「個人のモチベーション/メンタルの問題」からお話します。
テレワークになってから机や椅子を揃えられた人も多くいると思いますが、家ではオフィスのように腰に負担がかからない椅子が当たり前のように設置されているわけではありません。
一人暮らしの人だと机も椅子もないからベッドの上で仕事をしていると聞きます。そうなると姿勢が崩れる。姿勢が崩れると体調が崩れる。体調が崩れるとメンタルも崩れる。そういうループに入ってしまうと、モチベーションが下がり、仕事に大きな影響が及んでしまう。
そうならないために、個人でできる対策として運動不足の解消や目肩首腰の凝り解消をしっかりおこなうセルフケアがメンタルヘルス予防につながります。
また、会社としてのテレワークをおこなうための仕事環境の指針を出すことも必要です。
仕事のパフォーマンスを下げないための健康や姿勢を崩さない対策として、照度だったり、温度・湿度だったりの最適値、机・椅子の選び方を伝えていくことがメンタルヘルス予防の観点からとても重要になります。
参考:総務省「THE Telework GUIDEBOOK 企業のためのテレワーク導入・運用ガイドブック(ワークスペースの整備)」
コミュニケーションやマネジメントの問題はどのように解決するといいのでしょうか?
「コミュニケーションの問題」に関しては、どの会社もメールやチャットを使っていると思いますが、テキストコミュニケーションはオフライン(対面)と比べて4割しか伝わらないと言われているので、テキストではあまり伝わらないことを大前提としつつ、上司も部下もお互いに理解をした上で社内チャットのルール・文化を作っていくと良いと思います。
これは弊社の事例ですが、責任はチャットで伝える側にあることをルール化しています。5〜10個くらいのシンプルなルールをつくって、それに基づいて運営していくとコミュニケーションの問題が解決でき、テレワークがしやすくなります。
特にいま課題に感じている人が多いと思いますが、「マネジメントの問題」の解決策についてお話します。
メンタルヘルス予防の考え方に自分自身を守る「セルフケア」と、メンバーの変化に気づいてケアする「ラインケア」というのがあります。ラインケアに力を入れる企業は多いと思いますが、産業衛生学会で発表されている調査結果では、ラインケアは費用対効果が悪い。
このラインケアのレベルが上がっていかないとテレワークでのマネジメントの難しさは解決されないでしょう。
では、解決するために何を理解しておく必要があるかというと、1つは「スタッフの置かれている環境の違い」です。
テレワークでは同僚や上司、お客様との交流が制限されているため孤独を感じやすかったり、相談のしにくさを感じてしまいがちです。また、出勤組と在宅組との情報格差が生まれやすくなり、問題が生まれる原因になっています。
そのことを理解したうえで、週1回は必ずオフラインで顔を合わせるコミュニケーションの場を部署内やチーム内で設けることをおすすめします。
もう1つが「メンバーの変化に気づくことの難しさと数字管理」を理解しておく必要があります。
テレワークでは、職場では見えていた行動を見ることができないため、メンバーの変化に気づくのが難しい状況が生まれてしまいます。なので、数字で管理することが重要になるのです。
例えば、営業は数字で判断する場面が多いため評価基準がわかりやすいのですが、カスタマーサクセスだと数字で評価するのは難しかったりします。
ですので、プロセスごとにKPIを設けて、1日にかける電話の件数を目標に用意して基準に達しているかどうかを見る。もし基準に達してない場合はなぜ達してないのかを見にいく。
プロセスすべてにKPIを設けて数値でマネジメントすることでコミュニケーションのすれ違いが減り、メンバーの感情の変化に気づくこともできるのです。
メンタルケアをおこなう上で、どのようなことに注意すべきなのでしょうか?
メンタルヘルスを予防するケアの種類は、先ほどのお話の中に出てきた「セルフケア」「ラインケア」。そして「事業場内・産業保健スタッフによるケア」「事業場外資源によるケア」の4つあります。
この中で重要なのはやはり「セルフケア」と「ラインケア」の2つ。ですが、自分自身を守れない人は他人を守ることはできないので、ラインケアをおこなってはいけません。
なぜなら、日本では40代の男性課長職(マネージャー)の自殺者が一番多く、求められる仕事の質と量が上がることでメンタルヘルスに影響が出てしまい、自ら命を絶ってしまう。
だからこそ、私はよく「まずは自分自身を守ってください」とマネージャー層にお伝えしています。健康的に働いていくためには、セルフケアが一番重要で、それができてからラインケアをおこなうようにしていきましょう。
特にテレワーク時代の今、「セルフケア」「ラインケア」の重要性はとても高まっているので意識的に取り組んでみてください。
「ラインケア」とは具体的にどのような取り組みをしていけばいいのでしょうか?
「ラインケア」で検索すると、アンガーマネジメントやアクティブリスニングといった内容が出てきますが、いつまでも覚えてられないのが正直なところだと思います。
では、具体的に何をするかというと、「認めること」「感謝すること」を大事にするリーダーシップスタイルである「サーバントリーダー」としてマネジメントをしてくださいとお伝えしています。
サーバントリーダーは、グローバルでも最新のリーダーシップです。これまでの支配型や指導者型ではない新たなリーダーシップの形を意識的に取り組んでみてください。
定期的にメンバーのメンタルケアをおこない、定期的に“あなたのおかげだよ、ありがとう”と伝える。これだけでラインケアの十分な効果を得られます。
その他にラインケアで大切にすべきことがあれば教えてください。
「コンフォートゾーン(快適空間)」「ストレッチゾーン(背伸び空間)」「パニックゾーン(混乱空間)」をご存知でしょうか。
コンフォートゾーンとは、安心で居心地のいい心理的安全性が保たれた空間を指します。この空間ではストレスはありませんが、新たな学びがない状態です。
ストレッチゾーンとは、不安やストレスを感じるものの、いろいろな新しいものに出会い、適応・対処することが求められる空間です。
挑戦することが求められるため、失敗のリスクがありますが、そこには学びがある状態です。
パニックゾーンとは、許容範囲を超えたストレスがのしかかり、負荷が大きい空間のことを指します。
ここでは、新しいものとの出会いの頻度が上がり、適応・対処の難しさも上がります。そのため、失敗するリスクが高く、学びがなく、パニックに陥ってしまう状態です。
この3つのゾーンの中で、マネージャー層に求められるのがストレッチゾーンです。
「ある人は量をこなせても質が低い」「ある人は質が高いけど量がダメ」といったように、このストレッチゾーンの広さは人によって違います。マネージャー層とメンバーの違いというのは、このストレッチゾーンの広さです。
マネージャーに抜擢されている方々はメンバーよりもストレッチゾーンが広いからマネージャーになっています。ということをしっかりと理解すれば、メンバーに寄り添ったラインケアをおこなうことができます。
働き方がテレワークへ大きくシフトするなど、環境の変化が激しい現代だからこそ、「サーバントリーダー(ケアして、認めて、感謝するリーダーシップ)」と「ストレッチゾーンの広さの違い」を理解して、環境の変化に順応できる心をつくるためのメンタルケアに取り組んでいきましょう。
- 労務・制度 更新日:2021/02/17
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