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後を絶たない「カスハラ」が従業員に与える影響は?人事担当者が取るべき対応とは

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顧客やサービスの利用者から過剰なクレームや罵声を浴びせられたり、不条理な謝罪を要求される、あるいは実際に暴力を受けるといった「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が後を絶ちません。

カスハラは従業員の心身に大きな負担をかけ、モチベーションを奪います。

会社のことは好きなのに仕事が辛いから離職する、という事態にも陥りかねません。

こうしたカスハラから従業員を守り、安心して働ける環境を作るために人事担当は何をすべきか、事例を交えてご紹介していきます。

ハラスメント相談を受けた企業の9割がカスハラを認定

厚生労働省が2022年に公表した調査結果によると、過去3年間でのハラスメントに関する相談を受けたとする企業のうち、カスハラに該当する事案があったとする企業の割合は9割を超えています。

また、注目したいのは事例の件数が「増えている」としている企業の割合です。

上のグラフの「顧客等からの著しい迷惑行為」についてよく見ると、「該当すると判断した事例の件数が増加している」とする割合が、パワハラやセクハラを大きく上回っている点です。

また、厚生労働省によると、カスハラを一度以上経験は「生活関連サービス業、娯楽業」(16.6%)、「卸売業、小売業」(16.0%)、「宿泊業、飲食サービス業」(16.0%)の順で高く、接客頻度の高い業種で経験者の割合が多くなっています*1。

カスハラが従業員や企業に与える影響

カスハラはまず、従業員にパフォーマンスの低下、心身への悪影響をもたらします。

怒りや不満、不安、仕事に対する意欲の減退もそうですが、何度も繰り返し経験した人では、「眠れなくなった(21.2%)」「通院したり服薬をした(8.8%)」と深刻な影響を受けています。
これらの影響は、休職や離職につながりかねません。

また、企業も無縁ではいられません。
クレーム対応で時間を奪われるほか、業務が遅れることで他の顧客への対応が遅れるなどの弊害も出てくるでしょう。弁護士費用などの出費も伴います。

さらに、当該従業員への対応を怠ると、従業員からの訴訟に発展する可能性もあります。
過去には、市立小学校でこのような裁判事例がありました*2。

児童の保護者から理不尽な言動を受けた教諭に対して、校長は教諭の言動を一方的に非難し、事実関係をきちんと確認することなく、その場を穏便に収めるために、教諭に対し保護者に謝罪するよう要求しました。
この出来事について、甲府地裁は市と校長は賠償責任を負うと判断しています。


毅然とした対応を示す企業が続々

こうした中、カスハラに対し毅然とした対応を取る企業が相次いでいます。

JR西日本は今年4月に「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を制定、公表しました。
乗客から不当な言動や要求があった場合、必要に応じて商品・サービスの提供や客対応を中止するという厳しい内容です*3。

JR東日本も同様の方針を策定しているほか、ANAホールディングスもカスハラを繰り返す利用者には対応をしないなどのマニュアルを作成しています*4*5。

また、佐川急便は運転手の名札を廃止したほか、ファミリーマートは実名ではない勤務用の名札を使えるようにルールを改訂しています*6。最近ではスマートフォンで従業員の顔や名札を撮影しSNSに投稿するといった事例もあるからです。

従業員をカスハラから守るための具体策

さて、従業員をカスハラから守るために、他にできることはあるでしょうか。

残念ながら、カスハラそのものをゼロにすることはできないでしょう。企業側でコントロールできるものではないからです。
よって、企業や従業員が対策を行う必要があります。

従業員にトレーニングすべきこと

ペンシルベニア州立大学のアリシア・A・グランディ教授は、エモーショナルトレーニング(表現力の訓練)として従業員にこのような心構えを持たせることを提案しています*7。

  • 「思いやりのある無関心」=迷惑行為に出る顧客や利用者に対し、一部は共感を示しつつも、迷惑客の負の感情に引きずられないようにする。


  • 「深層演技」=迷惑客に対して、この人は人生のつらい出来事に苦しんでいるんだなと思い、作り笑いをしている感覚を解消して本当の笑顔を作る。


  • 従業員に自主性を与え、どう対処するかを選択させる。作り笑いが気楽というならそうすれば良いし、冷淡に対応することも選べるようにする。 作り笑いを強制される場合よりも自分で選ぶ方が悪影響は小さくなるという調査結果もある。

「深層演技」の領域まで達することは難しい従業員も出てくることでしょうが、自主性を与え、その場の対応を本人に選ばせるというのは有効な手段になりそうです。

「逆ギレ」はよくありませんが、マネージャー層などの役職者は「もうちょっと我慢しろよ」という気持ちを持ってはいけません。

迷惑客に対するキャパシティは個人によって異なるのです。誰もが自分と同じ忍耐力を持っていると考えると、おかしなことになってしまいます。上司から理解を示されないとなると、離職の可能性は高まることでしょう。

経営者が顧客を選別する必要も

また、ブリティッシュコロンビア大学のDanielle D. van Jaarsveid教授らは、経営者が「顧客を選別する」ことの重要性を述べています*8。

よって「無礼な顧客に対しては忙しくて対応できない」「不当な扱いは許さない」という意思表示を最初からしっかりしておくことで、目先の利益はもしかしたら失うかもしれませんが、従業員が離職してしまうことのリスクを考える必要があります。

また、最初から理不尽な態度で接してくる相手、それが潜在顧客であったとしも、それは理不尽な顧客として残り続けます。

それによって機会損失が生じてしまうと考えるのではなく、得られるものに目を向ける必要があります。

まずは大切な従業員の安心が保たれ、人材を失わずに済みます。
そして、毅然とした姿勢に共感する良質のクライアントが残ります。

従業員の安全や良質なクライアントと執拗なクレームに対応する従業員の労力、奪われる時間のどちらが大切かということを、冷静に考える必要があるのです。

不当な要求を突きつけてくる顧客は従業員や企業を苦しめるだけでなく、他の良質な顧客への対応に回す時間を奪います。良質な顧客にまで迷惑をかけることになりかねません。

線引きを明確にすることで従業員に権限移譲を

そして従業員に対し、カスハラに対応するマニュアルをきちんと示す必要があります。そのためには「カスハラ」の定義、つまり線引きを決めておくことです。
明確な線引きがあれば、従業員も「ここを超えたら厳しく対応していいんだ」という安心感を前提に働くことができます。

逆に、線引きがなければ従業員は「自分が悪いんだ」「自分が弱いからだ」と自分を責めてしまう可能性があります。そしてひとりで抱え込み、心身の健康を損ねていくのです。

例えばJR西日本は、具体的な行為事例をこう示しています。

なおカスハラ対策については、企業に対し、従業員保護策を義務付ける法改正が調整される見通しです*9。

まず、今できることとしては、従業員に対し顧客や利用者から理不尽な要求を受けたことがあるか、その時にどう対応したかの聞き取りを実施し、自社の現場やカスハラの傾向、従業員の対応の傾向を把握することです。

カスハラに該当するかどうか個別の従業員では判断できず、言い出せずに黙っていたというケースも少なからずあるはずです。

自分が悪かった、と勝手に判断してしまっている従業員もいることでしょう。しかしその声をきちんと拾わなければ、理不尽顧客を増長させるだけでなく、従業員の離職を招きかねないのです。

また厚生労働省が企業向けのカスハラ対策マニュアルを公開しています*10。

具体例も掲載されていますので、こちらに目を通すことから始めましょう。

「お客様は神様」という概念を捨てなければ、企業にとって本当に重要なものを失ってしまいます。サービスを受ける方も提供する方も同じ人間であり、どちらかだけが理不尽な扱いを受けてはいけない、という基本に立ち返ることが大切です。

  • Person 清水 沙矢香

    清水 沙矢香 -

    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
    取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2024/10/08
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