101人以上の企業に拡大する「男女の賃金差異」と「女性管理職比」の公表義務、さらに多くの企業の情報開示で期待される経済効果とは?
厚生労働省は女性活躍の推進に向けて、情報公表義務を大幅に拡大する方針を打ち出しました。
予定される法改正では、従業員301人以上の企業に公表義務があった「男女の賃金差異」が101人以上の企業にも拡大、さらに従業員101人以上の全企業に対し「女性管理職比」の公表が課されることになります。
こうした法対応を戦略的に捉え、いち早く自社の現状分析や課題解決を進めることが、企業としての成長や競争力強化につながることは言うまでもありません。支援策として政府が提供している解析ツールや女性活躍推進企業に特化したデータベースの活用を含め、本稿では主に今法改正について解説します。
【この記事のポイント】
- 女性活躍推進法は10年期限を延長、見直しを進める方針
- 予定される法改正で「男女の賃金差異」の公表が101人以上の企業にも義務化
- 同法改正で「女性管理職比」の公表も101人以上の全企業に義務化
- 法対応をフォローするツールやデータベースが提供されている
1. 女性活躍推進法、法改正の経緯
女性活躍推進法は2016年4月に施行され、「日本社会に根強いジェンダーギャップの解消と、急速に進む労働力不足への対応」を目的としています。当初は2025年度末までの時限立法でしたが、政府は期限を10年間延長した上で見直しを行う方針です。成立当初より、従業員数301人以上の事業所に対し、女性の活躍に関する行動計画の策定・公表を義務付け、優良企業を「えるぼし認定」として認定するなど、企業の自主的な取り組みを促していました。2022年4月には、101~300人の企業にも行動計画の策定・公表が義務化。同年7月にはさらに301人以上の企業に対し「男女間の賃金の差異」の公表が必須となりました。今後改正が予定されている法案では、101人以上300人以下の全企業に「男女間の賃金の差異」と「労働者における女性管理職の割合」の公表義務が課される見込みです。女性活躍推進法は法改正を重ねながらより実効性の高いものへ進化しています。
2. 男女間賃金差異の公表が拓く、組織変革と公平性への道
新たに101人以上300人以下の企業に拡大される男女間賃金差異の公表義務は、これまで表面化していなかった賃金格差を広範囲に可視化する一歩となります。図1・図2が示すように日本企業の賃金の男女比は10:7であり、依然として他国と比較して女性の待遇が低いのが現状です。
義務拡大で、より多くの企業が客観的なデータを公開することで、これまで組織内部に潜んでいた課題を白日の下に晒し、公平な労働環境をつくるための議論や具体的な行動を促すことが期待されます。こうした法対応は一見して業務負担増のようですが、以下の①~④にあるように、結果的に企業にもたらされるメリットは多岐にわたります。
① 賃金格差のデータ分析による課題の特定男女間賃金差異のデータは、平均値の比較だけでなく、勤続年数、役職、雇用形態、職種、業績評価といった要因との関連性の分析を通して、賃金格差が生じている根本的な原因を特定する手がかりになります。
例えば女性の平均勤続年数が男性よりも短い場合、ライフイベントとキャリア継続の両立支援の不足などの課題が潜んでいる。また、同じ職務内容にもかかわらず、男女間で基本給や各種手当、昇進格差がある場合は、人事プロセスに潜在的なバイアスや構造的な障壁がある可能性も考えられます。
② 公平な給与体系の構築による労働環境の是正賃金格差の実態をデータに基づいて理解することは、公平な給与体系を構築するための契機になります。客観的に給与制度を見直すことで、能力や貢献度などの評価基準に基づいた公正な評価・報酬体系を確立することができるでしょう。公平な給与体系は、従業員のモチベーションを向上させ、エンゲージメントを強化する上で不可欠。自身の貢献が公正に評価され、報酬に反映されれば、従業員の仕事への意欲を高め、組織全体の生産性向上に大きく貢献します。さらに、情報公表を通じて社会からの監視の目が向けられることは、企業にとって賃金格差の是正に向けた行動を促すインセンティブとなり、公正な労働市場の形成に寄与する一面もあるでしょう。
③ イメージ向上による人材獲得の優位性優秀な人材ほど、企業の倫理観や社会貢献度を重視する傾向が強くなっています。ジェンダー平等への意識が高い求職者にとって、賃金格差の情報は会社選びの判断基準の一つ。積極的に情報公開を行い、公平な給与体系整備を内外にアピールすることで、人材獲得で他社にリードし、女性はもとより多様な求職者にリーチできるようになります。
④ 従業員の信頼感と安心感の醸成従業員の生活基盤に関わる「賃金」の情報を公開し、公平性確保に向けた姿勢が示されることで、従業員の信頼感と安心感を醸成します。特に、自社の賃金体系に不透明さを感じていた従業員にとっては、企業に対するロイヤリティを高める効果も。組織の安定性を高めて離職率を低下させ、生産性向上にも貢献しうるでしょう。
3. 女性管理職比率の公表拡大が促す、組織の多様化と潜在能力
管理職層に占める女性の割合は、女性のキャリアに向けた企業姿勢、リーダー育成への取り組み、企業全体の成長可能性を示すものです。図3にあるように統計的に日本の女性管理職比率は低迷しており、図4の先進諸国と比較したグラフでも顕著。今後多くの企業が参加することで、女性管理職比率の公表データが日本のジェンダーバランスの指標となります。こうした情報を元に課題を把握し段階的に対策をとることで、女性労働者の地位向上、賃金格差是正につながる未来が見えてきます。
① 組織のジェンダーバランスと真の多様性の実現に向けた現状確認
客観的な数値データとして認識することでジェンダーバランスの偏りに気付き、潜在的な課題に向き合うきっかけにもなるでしょう。法改正では女性管理職比率の数値の他に新たに「説明欄」を設け、追加的な情報公表や、男女別管理職登用比率を参考値として記載することが推奨されることになります。それにより、様々な背景や価値観を持つ人材が管理職に就くことで多様性が増し、組織全体の意思決定の質を高めてイノベーション創出の可能性が高まります。
② 女性のキャリア開発とリーダー育成への投資女性管理職比率が低い場合、企業は女性のキャリア開発とリーダーシップ育成についての検証、採用→育成→評価→昇進といった人事プロセスを見直し、女性が昇進できる環境整備が必要になります。メンター制度やロールモデルとなる女性リーダーの育成、研修プログラムの提供、柔軟な働き方支援などのキャリア支援は、戦略的投資として組織の活性化と成長に寄与するでしょう。
③ 企業文化の変革と誰もが働きがいを感じられる企業文化の醸成女性管理職比率の向上に向けた取り組みは、企業文化を変革する推進力になります。性別に関わらず、全ての従業員が個性や能力を発揮する働きがいのある職場環境の整備は、従業員のエンゲージメントを高め、生産性の向上と離職率の低下にも。企業がダイバーシティ&インクルージョンに本腰を入れる姿勢は、従業員の安心感と満足度を高め、企業文化を醸成する上で不可欠です。
4. 情報公表を支援する2つの公式データツール
情報発表は自社ホームページと合わせ「女性の活躍推進企業データベース」に掲載することで、女性求職者など女性活躍に関心が高い層にリーチすることができます。このデータベースは女性活躍推進に先進的な企業が紹介されており、同業他社や同規模の企業の動向を参照して、対応策を策定・実行するのにも役立つでしょう。
また新しく提供された「男女間賃金差異の要因分析ツール」は、賃金差異などの複雑な要因分析を効率的にかつ客観的に行う上で有用です。ツールを活用することで、自社の賃金構造の特性を詳細に理解することが、課題解決に向けた具体的なアプローチを検討する基盤となります。こうしたデータツールを活用すれば、煩雑なデータ業務をスムースに行うことができそうです。
5. 女性活躍推進法で義務化されている取り組みと、法改正への対応
現行法では、従業員数101人以上の事業主に対し、情報公表だけではなく、女性活躍に向けたPDCAサイクル※の実施を義務付けています。そのため自社の女性の活躍状況を把握・分析し、課題を踏まえた行動計画を策定・届出・社内周知・外部公表する必要があります。
行動計画には、定量的な目標、取組内容、実施時期、計画期間の記載が必須です。また公表の情報は「職業生活に関する機会の提供」と「家庭生活との両立支援に関する実績」が要件になります。従業員数301人以上の企業は、男女間の賃金差異を含む下記の表①から2項目以上、表②から1項目以上の計3項目以上を公表する必要があります。101人以上300人以下の企業には、表①及び表②の全項目から1つ以上の公表が義務化されています。
改正が予定されている新法案では、101人以上の企業に「男女の賃金の差異(301人以上の企業はすでに義務化)」と「管理職にある女性労働者の割合」についての情報公表義務が加わることになります。詳細については未定なので、最新の情報については厚生労働省や報道での確認が必要です。(2026年4月現在)
※業務改善のための基本的なフレームワークで計画、実行、評価、改善を繰り返す手法
女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供 |
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職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備 |
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(表①と②の注)
※(区)の表示のある項目については、雇用管理区分ごとに公表を行うことが必要です。ただし、属する労働者数が全労働者のおおむね1割程度に満たない雇用管理区分がある場合は、職務内容等に照らし、類似の雇用管理区分とまとめて算出して公表して差し支えありません(雇用形態が異なる場合を除きます)。
※(派)の表示のある項目については、労働者派遣の役務の提供を受ける場合には、派遣労働者を含めて公表を行うことが必要です。
※「男女の賃金の差異」については、「全労働者」「正規雇用労働者」パート・有期社員の「非正規雇用労働者」の3区分での公表が必要です。
※「男女の賃金の差異」を含む女性活躍推進法に基づく情報公表項目について、有価証券報告書のみにおいて公表しても、女性活躍推進法の義務を果たしたことにはなりません。一般の求職者等から見て、男女の賃金の差異の情報がどこに掲載されているのかがわかるように「女性の活躍推進企業データベース」や自社のホームページ等で情報公表をお願いします。
透明性を組織の力に変え、成長軌道に転じる契機に
改正を予定されている女性活躍推進法の新法案は、多くの中小企業にとって、新たな挑戦であると同時に、自社の組織をより強く魅力的なものへと進化させるための絶好の機会でもあります。男女間賃金差異や女性管理職比率の情報公表をプレッシャーとして捉えるのではなく、潜在的な課題を明らかにし、改善するための推進力として活用する姿勢が重要です。そうすることで企業組織の透明性が高まり、優秀な人材の確保、従業員のエンゲージメントや企業イメージの向上といったプラス効果につながるでしょう。そうした変化がやがては日本経済を持続的な成長軌道にのせる転機になることを期待されています。
- 経営・組織づくり 更新日:2025/06/13
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