人事業務にDX化が求められる背景とは?SDGsとの関わりや導入のメリット・注意点
DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、データとデジタル技術を用いて、製品やサービス、ビジネスモデルを再構築し、業務プロセス、組織、企業文化などの変容を進めることで、企業の競争優位性を高めるための動きを指します。
まずは、混同されやすい「IT化」との違いや、人事業務との関わりが深い「HRテクノロジー」との関係性について確認しておきましょう。
DX化と「IT化」の違い
DX化を進めるうえで理解しておきたいのが、IT化との違いです。IT化について明確な定義はないものの、多くの場合、システムやツールなどのIT技術を導入し、今までの業務を効率化することを指します。つまり、従来と同じ業務プロセスを前提として、IT化による業務ステップの削減やフローの簡素化などを進めるものです。
一方のDX化とは、IT技術を用いて、ビジネスモデルや組織を変革させることであり、単純な効率化だけを指すものではありません。IT化は、あくまでDX化の前段階といえます。
DXと「HRテクノロジー」の関係
人事分野では「HRテクノロジー(以下、HRテック)」という言葉を目にする機会も多いかもしれません。HRテックとは、クラウドやAIなどのテクノロジーを活用し、人事業務全般の効率化や、課題解決に導くシステムや技術を指します。近年、さまざまなHRテックのサービスが展開されており、人材管理や採用管理、人事評価、タレントマネジメントなどに役立てられています。HRテックはクラウド型のサービスが中心で、AIによるデータ解析や提案などを特徴とするものも多く見られます。
HRテックの導入は、人事業務の効率化においては非常に有効なものですが、DXの概念と比較すると、あくまでIT化の範疇だと考えられます。先にもお伝えしたとおり、DX化は、IT化の先にあるものです。「HRテックを導入したら終わり」ではなく、HRテックによって収集・分析されたデータを活用し、さらなる組織の変革を目指すのがDXです。
なぜ人材管理のDX化が必要なのか
人材管理の分野においてDX化が求められている背景としては、SDGsの広がりや、将来的な人材不足といった背景があります。
SDGsへの取り組みとして
企業のDX化は、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成に向けて、社会課題の解決や、企業の持続可能な成長を促す手段の1つとして注目されているものです。
SDGsには17の目標が設定されており、その中には、経済成長や技術革新などの目標が掲げられています。政府が毎年発表している「SDGsアクションプラン」(SDGs推進のための具体的な施策を取りまとめたもの)の2022年版においても、重点事項の1つである「Prosperity 繁栄:成長と分配の好循環」のなかで、市場の成長や科学技術イノベーションの基盤となるDXの推進を強化するとされています。
企業のDX化はSDGsへの取り組みの一環としても取り組むべきであり、企業成長を促すための土台として、さまざまな分野で求められるようになるでしょう。
人材不足への解決策として
少子高齢化が進む中、将来的な労働力人口の減少が懸念されています。冒頭でもお伝えしたとおり、人材不足に悩む企業にとって、生産性の向上は早急に取り組むべき課題と言えるでしょう。限られた人員で効率よく業務を進めるには、データ管理や情報処理の最適化が欠かせません。さまざまな分野でDX化が求められますが、なかでも膨大な情報を扱い、複雑な業務に対応する人事分野における生産性向上は急務となっています。
DX化で人事が解決すべき課題とは?
多くの企業が人事分野でのデータ活用を取り入れているものの、適切に連携できていなかったり、意味のないデータを集めるだけで終わってしまったりするケースも考えられます。近年はデジタル化が進み、データの収集は容易になりましたが、その分析や連携、共有ができていなければ、かえって混乱を招く場合もあるでしょう。従来のように、人事の業務負担が大きいままでは、人材確保などに避ける時間が減ってしまい、今後ますます人材不足が進んでしまうかもしれません。
とはいえ、人事業務をシステム化すればよいかというと、それだけでは不十分です。より効果的で効率のよい環境を整えるには、業務そのものを見直し、フロー全体の再構築を行うことも視野に入れる必要があります。業務そのものの在り方を見直し、より効果的な人材戦略につなげる手段として、人事分野でのDX化が求められています。
人材管理におけるDX化のメリットと改善できる業務
人事分野でのDX化を進めることで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、DX化によるメリットとあわせて、改善できる業務の例を紹介します。
人事業務における生産性の向上
人事は、従業員に関する多くの情報を取り扱います。従業員個々の業績や目標達成度、研修や面接の実施状況をはじめ、採用選考においては応募者の個人情報なども取り扱い、基本的なデータだけでも膨大です。また、勤怠や給与の管理、社会保険などの労務関連の情報も扱うとなれば、管理すべき情報はさらに増えます。システムやツールを導入して管理していたとしても、入力作業に手間がかかったり、連携できないデータをまとめるのに時間がかかったりすることもあるでしょう。
DX化によって、例えば「個人情報は従業員本人に入力してもらう」、「電子手続きを導入する」など、人事業務における入力や管理の手間を省く仕組みを作ることも可能です。煩雑な作業が軽減され、人事業務の生産性向上が期待できます。企業が目指すDX化の方向性によっても異なりますが、例えば、情報を一元化し、システムを連動させることによって労務管理や勤怠管理などの業務改善に役立ちます。
人事評価の公平性向上
人事評価に関わるデータには、採用から育成、成果に関するものなど、定量化しづらいデータが多くありますが、上司などによる主観的な評価では、公平性に疑問が残るでしょう。DX化によって、データを活用した評価制度を整備すれば、根拠ある評価として本人に納得してもらいやすくなります。
例えば、日常業務の一環として、業務の進行状況や成果を従業員に直接入力してもらえば、データ収集や入力の手間を軽減できるほか、評価項目の見える化が進みます。使用するツールによっては、分析まで行うものもあるため、評価分析における業務改善に役立ちます。
効果的な人材採用・配置
DX化による評価制度の見直しや、データの活用によって、人材配置の最適化にもつながります。従業員個々の評価だけでなく、部署ごとの人材のバランスや不足しているスキルなども把握でき、人材戦略に基づいた施策を検討できるでしょう。組織全体の人材を把握することで、今後の採用戦略にも大きく役立ちます。DX化によって、人材採用や人材配置に関連する業務の改善が可能です。
従業員のモチベーション向上と離職率低下
上述した、評価の公平性向上や人材配置の最適化は、従業員のモチベーション維持や向上につながります。本人が納得して働ける職場、働きがいのある職場として、離職率低下が期待できます。DX化は従業員のワークエンゲージメント向上にも役立つことに加えて、研修対象を絞り込んだり、研修内容を決定したりする業務において負担軽減が期待できるでしょう。
人材戦略の土台として
蓄積された人事関連の情報は、人材戦略の土台となります。組織の方向性や現状を踏まえて、根拠あるデータに基づいた採用活動や人材マネジメントを検討できるでしょう。ノウハウが蓄積されると同時に、PDCAを回しやすくなるのも大きなメリットです。
人事がDX推進に向けて取り組むべきこと・注意すべきこと
人事部門のDX化には多くのメリットがありますが、一方で費用がかかる点や、成果を上げるまでに時間がかかりやすいといった注意点もあります。できるだけスムーズかつ効果的にDXを推進できるよう、導入前に以下の点を確認しておきましょう。
現状の課題を把握し、まずはIT化を進める
多くの企業でIT化が進んでいるとはいえ、企業によってその程度は異なるでしょう。現在もすべての人事業務を手作業で行っている場合には、まず、IT化を進める必要があるでしょう。また、勤怠管理などのシステムを導入していても、「打刻されたタイムカードの時刻を手作業で打ち込んでいる」、「集計は結局Excelで行っている」……といった状況であれば、より効率化できるシステムを導入する必要があるかもしれません。
DX化は、何らかのツールやシステムを導入すれば実現されるものではありませんが、まずは人事業務における現在の課題を抽出し、DX化の土台となる仕組みを作る必要があります。
システムやツールの導入で終わらせない
システムやツールを導入しても、組織の変容につながらなければ、DX化とはいえません。一元管理されたデータを生かしながら、業務効率化の先にある「人材戦略の成功」を目指して、施策を立案し、実施する必要があります。IT化で終わってしまわないよう、中長期の目標を立てながらDX化を進めることが大切です。
DX化を進める人材を確保する
テクノロジーは日々進化しており、スピーディな対応が求められます。HRテックの拡大により、今後ますます便利なシステムやツールが提供されることでしょう。そうしたシステムやツールを効果的に活用するには、専門的な人材の確保、もしくは育成を進める必要があります。また、経営戦略に基づいたDX化の提案や、自社の課題に適したシステムやツールの見極めなど、ノウハウや実績を持つ人材確保も大きな課題となります。
従業員へ周知する
DX化に伴い、既存システムからの変更や業務の見直しを行う場合には、実際に業務を担当する従業員に理解を促す必要があります。DX化は人事部門にとってだけの変化ではなく、従業員全体に関わることです。部署ごとに構築されたシステムを一元化したり、現状の業務プロセスを仕様変更して最適化したりするとなると、現場サイドが抵抗を感じるケースも出てくるでしょう。
どのような目的で新たなシステムやツールを導入するのか、DX化の意義を組織全体に周知し、段階的に進める必要があります。
経営戦略と連動したDX化を
DX化は、組織全体のビジネスモデル構築や変容を促すものであり、特定の部署や業務だけをIT化しても意味がありません。データを活用して効果的な人材戦略を立案できたとしても、経営戦略と連動していなければ持続可能な企業成長は見込めないでしょう。
まずは経営層が、経営戦略やビジョンを提示し、目標達成に向けたDX化の一部として、人事分野での導入を検討する必要があります。
人事分野におけるDX化の成功事例
DX化といっても、企業によって取り組み方は異なります。業務の在り方を見直すケースもあれば、業務フローの改善に役立つシステムやツールの導入によって人事業務の効率化を目指すケースもあるでしょう。ここでは、人事分野におけるDX化の成功例を紹介します。
事例1:単純作業はシステム化。ペーパーレス化でテレワークが可能に
ある企業では、人事関連システムの導入により、単純作業はシステムで行う環境を構築し、人事はイノベーションやコミュニケーションなどに関するコア業務に注力できる環境を整えました。また、ペーパーレス化が進み、テレワーク環境を整えることにも成功しています。中小規模企業の場合、人事総務部など、人事だけでなく総務や庶務といった業務を少人数で対応するケースも少なくありません。同社では、クラウド対応のシステムを導入し、自社にいなくても情報共有がしやすくなったことから、テレワークが可能になりました。慣例的な業務の見直しを行い、業務の整理を行ったことで、人事業務の負荷は5割ほど削減されたといいます。
事例2:散在していた情報を一元化し、人材情報の見える化を実現
近年注目されている「タレントマネジメント」を進めるためにDX化に取り組んでいる企業もあります。タレントマネジメントとは、従業員個々のスキルや評価を経営資源と考え、採用や配置などに生かしながら、組織全体のパフォーマンスを向上させるマネジメント手法です。タレントマネジメントを成功させるには、従業員に関連するさまざまな情報を収集・分析する必要があります。
同社では、社内に散在した情報を一元化するシステムを採用することで、人材情報の見える化を進め、効果的な人材採用や配置ができるよう実践しています。
人材管理のDX化で、効果的な人材戦略を立案しよう
人事分野でのDX化は、単純に業務効率化につながるシステムやツールを導入することではなく、データによる客観的な現状把握により、効果的な人材戦略につなげるのが大きな目的です。表面的なシステム化にとどまらず、経営戦略に基づいて人材データを活用できるよう、DX化の目的を理解したうえで導入を進めましょう。
- 経営・組織づくり 更新日:2022/11/29
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