ピープルストラテジー:人に投資し、競争力になる文化をつくる方法
人事・業績管理プラットフォームLatticeの共同設立者兼CEOである著者のジャック・アルトマン氏は、『People Strategy: How to Invest in People and Make Culture Your Competitive Advantage』のなかで、パフォーマンスの高いチームを育成し、従業員のモチベーションを高め、データを活用して魅力的で効果的な企業文化を構築するためのフレームワークを読者に提案します。
この記事では、その概要を紹介します。
企業文化の3つの柱
企業文化とは、企業において起こるたくさんの相互作用、規範、行動を総合したものです。企業文化は従業員が有意義な職場体験をするための手段ともなります。そして、従業員が仕事に打ち込み熱中するには企業文化のなかに次の3つの柱が必要です。
目的
目的は私たちの生活に意味を与えるものです。目的があることで、私たちは毎日ベッドから起きだします。目的があることで、大人たちは起きている時間のほとんどを仕事や日常業務に使います。
キャリアのなかに意味を見いだすためには、私たちの個人の目的と、職場でどのように時間を過ごすかについて明確なコネクションを見いだすことが必要です。そうすれば日々行う仕事に集中し、献身的に取り組むことができるでしょう。
コミュニティ
コミュニティとは、小さなグループやチーム、または組織全体を指すこともあります。それぞれのコミュニティでは、従業員が信頼し合い、コミュニケーションができ、尊敬し、平等で、協力しています。
大きな内部コミュニティが繁栄することは、個々の従業員が自分たちで作るコミュニティよりも、コミュニティをさらに良く大きくするための集団的な努力が増幅されます。コミュニティは従業員にとって、今まで以上に重要です。
所属感を育むことで、チームメンバーの会社の使命に対するパフォーマンスと献身を高めることができます。
成長
目的意識とコミュニティは成長を促進させることにも役立ちます。多くの組織では、従業員の将来のキャリア形成を助けることに焦点を当てていません。現在にフォーカスしすぎている企業が多いのです。
しかし、それでは、より大きなビジョンを犠牲にして日々の業務に注意を払っているだけになってしまいます。短期的なイニシアチブを満たしていても、長期的には成功のための能力が十分ではありません。
従業員とマネージャーが協力して、明確でパーソナライズされたキャリア開発計画を構築し、各個人が自分の道を見ることができるかを把握することが重要です。
企業文化とパフォーマンスを重視した採用
ピープルストラテジーの第一段階は、ふさわしい人を雇用することです。人は企業にとって最も大切な財産となります。才能を引きつけ、輝かせ、維持しなければなりません。
そこで大切なのが企業の価値観です。企業の価値観は、従業員の経験と雇用者のブランドを形づくる力を持っています。
企業は、文化に「適合」する候補者を特定するのではなく、それを豊かにする候補者を特定するために、採用活動で、価値観を利用する必要があります。
企業の価値観を書き出す
企業には、それぞれの組織の価値観を記して行動指針とするカルチャーコードが必要です。価値観には、従業員体験と雇用主ブランドを形づくる力があります。手を抜かず丁寧にまとめましょう。価値観をまとめるときのポイントを挙げます。
従業員の意見を入れる
従業員に受け入れてもらえるカルチャーコードを作るには、従業員を巻き込む必要があります。例えば、トップパフォーマーや、従業員アンケートで選ばれた人からなる委員会を作るといいかもしれません。メンバーには、企業に既に存在しているが、まだ定義されていない価値を例示している人を選びます。
最終委員会は、部署、マネージメントレベル、人種、性別、国籍、セクシャリティなど、企業の様々な場所からの眺めを取り入れるべきです。
オリジナル、かつ真正であること
「コミュニケーション、尊重、及び整合性(Communication, respect, and integrity)」これは2001年にエンロン社という企業に展示されていた3つの価値観です。このような伝統的な価値観は、それ自体に問題はありませんが、コンテキストが多くなく、空洞に見えたり、誤解を受けたりする可能性があります。
価値観を表現するときには、単一の単語の代わりに「ガラスの天井を打ち破ろう(Break Our Own Glass Ceilings)」や「共感と努力(Empathy and Endeavor)」「日々の成長(Develop Daily)」など、耳に残りやすいフレーズを考え、初めて見た人にとって分かりやすいように説明の行を加えます。
日本語で例えると、韻を踏んだ文や五七五などの聞きやすく耳に残りやすいフレーズを作成するということです。
反復することを恐れず変化を起こす
一度価値観を決定しても、企業や優先順位が進化し、ものごとがフィット感をなくしたら、振り出しに戻っても構いません。合併、買収、またはビジネスの変更などにともない新しい価値が必要になることもあるかもしれません。そのようなときには、恐れずに組織の価値観を見直しましょう。
採用活動に価値観が統合されるためには、職務内容の設計から面接まで、その価値を表している人物が採用活動に関与する必要があります。採用活動全体が、企業の価値観に合った担当者で実行されることにより、候補者に企業の価値観が伝わります。
パフォーマンスとフィードバックの重要性
パフォーマンスに関するフィードバックは、一貫性を持って継続的に行われている必要があります。まず目標を決めることで、期待値がどれくらいなのか知ること、上司からフィードバックをすること、パフォーマンスの測定が可能になります。
健全なフィードバックの文化には、日常的なコミュニケーション、従業員主導型の一対一のミーティング、および業績のレビューが含まれます。
肯定的なフィードバックはトップパフォーマーを維持し、従業員が素晴らしい仕事をする動機づけに大いに役立ちます。フィードバックでは厳しい意見を言う必要も出てきますが、そのようなときには正直でオープンなコミュニケーションが重要です。
目標設定におすすめのSMARTゴール
具体的な目標を立てるためにSMARTを意識することがおすすめです。
- SPECIFIC (具体的な)目的には特定の意味と終わりがありますか?
- MEASURABLE(測定可能)目標を測定できますか? どのように測定できますか?
- ACTIONABLE(実行可能)この目標につながる特定のアクションはありますか?
- RELEVANT(関連性)この目標は仕事に関連していますか?
- TIME-BOUND(タイムバウンド)締め切りや定期スケジュールが決められていますか?
従業員主導型の一対一ミーティング
一対一のミーティングは、マネージャーと直属の部下が定期的にコミュニケーションをとる機会です。この時間を利用して従業員は直面している可能性のある障害をクリアし、上司から率直なフィードバックを得て、より広範な目標について話し合うために議題を提案します。
マネージャーはミーティング後のレポートを使って、新しいアイデアを強化し、チームの目標達成を手助けします。
1 従業員について確認する
まず従業員についてのミーティングであることを忘れないようにしましょう。
従業員の仕事に対する気持ち、直面している課題、職場の改善に対するアイデア、個人的な問題、キャリアの拡大と新しいスキルの開発に関する情報などを話し合います。ミーティングのテーマや会話の流れを従業員が決められるようにします。
2 スケジュールをつくり、それを遵守する
定期的に30分のミーティングをスケジュールに入れ、キャンセルすることのないように優先度を上げてください。都合が悪くなったときはスケジュールを変更しましょう。
従業員が最優先であるというアピールになるだけでなく、チームの作業生産性を上げます。
3 従業員に課題を聞く
ミーティングには事前準備が必要で、一対一ミーティングも例外ではありません。従業員が上司との時間をどのように使用するか決定します。
4 従業員の心を開く
話題になることを思いつかないときや、内気な人でも会話ができるよう、上司から質問を投げかけ、ミーティングをしている従業員の心を開きましょう。
- 「上司として、あなたの目標達成に向けて何をサポートできますか?」
- 「いま抱えている最も大きな問題はなんですか?」
- 「現在取り組んでいるプロジェクトについてどう思いますか?」
など、相手の立場に立っていることや、サポートをする姿勢を示すと相手の気持ちを引き出せます。
また、ミーティングの場所をカフェや屋外に変えることで、よりリラックスできることもあります。
5 在宅社員がいる場合は、その人に合わせたアプローチをする
インターネットを使ったミーティングや時間の調整などをして、在宅社員でもミーティングができるようにします。
6 ノートを取ってフォローアップする
従業員の話はメモを取り、後日フォローアップをします。
エンゲージメント
強い企業文化は、魔法のように作られるものではなく、育成と維持に意識的な努力を必要とします。エンゲージメント調査は、文化の温度を測り作業が必要な範囲を知るための最も効果的な方法です。
エンゲージメント調査の作り方
エンゲージメント調査は「強く反対、反対、どちらでもない、賛成、強く賛成」といったゲージで回答してもらう形式が一般的です。
また次のような項目を含むといいでしょう。
自己効力感について
自己効力感とは、従業員が必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していることです。そのことを確認するための質問は、例えば次のようなものがあります。
- 「この企業のなかで自分が成長していると思える」
- 「私のスキルを開発するのに十分なサポートがある」
- 「自分の仕事/プロジェクト/顧客の対応に、夢中になれる」
フィット感と帰属
従業員が企業文化に強く属していると感じないと、モチベーションが失われ離脱します。
チーム文化、チームラーニング、仕事の関係性
従業員のエンゲージメントに貢献する最大の要素の一つはチームとの関係性です。
従業員の成長
従業員を育成することに重要性を認識する企業は、人材を引きつけ維持することができます。よく整備されたキャリアパスがあれば、キャリアの構造を知りたい従業員が先を読めるようになります。職種ごとにどのような能力が必要かというコンピテンシーがまとめられていれば、人材計画の基盤として役立ちます。
コンピテンシーとレベルの決め方
コンピテンシーという言葉には「能力」「技能」「力量」「適性」など、さまざまな意味があります。コンピテンシーテンプレートは、特定の職種にどのような能力が必要か書き出すことで、人材計画に役立ちます。
コンピテンシー
- 役割から始める:どの職種のコンピテンシーを決めたいですか? セールス、マーケティング、カスタマーサービスなど。
役割ごとの定義
- インパクト:なぜ企業はこの役割が必要なのか?
- 行動:この役割が社内で正常に機能するためには、どのような行動が必要ですか?
- 管理:この役割のリーダーを成功させる性質は何ですか?
- 機能的なスキル:この役割に必要なスキルは何ですか? この質問の答えは仕事のレベルによって異なることもあります。
仕事のレベル
社員から管理職、役員まで、社内の役割を5~6段階に分けます。そして、各役割でどのようなスキルが求められるかを表に落としていきます。現在その役職についている人を基準に書いてはいけません。
パーソナライズされずに段階に沿った純粋なレベル分けをします。表ができたら、レベルに合った人材を表に加えアサインします。
データの活用
人事は人の判断だけに頼るべきではありません。データはチームが目標を設定し、成功を測定し、戦略を知らせるのに役立ちます。ピープルストラテジーでは、データと分析を通してビジネスの成果を促進します。データの運用は、人事部が重要な戦略的機能であることを経営幹部に証明させるための鍵でもあります。
例えば人事部では次のようなデータ分析が可能です。
活動内容 | 分析する内容 | 用いるデータ |
採用活動 | 採用プロセスの有効性と効率性。 | 採用までにかかった時間や受け入れ率 |
パフォーマンス | 従業員とマネージャーが目標や期待に対して、どの程度のパフォーマンスを発揮しているか、また従業員がビジネスにどれだけ貢献しているか。 | 目標追跡、業績評価スコア、従業員ごとの収益 |
エンゲージメント | 従業員の定着率や離職率、何人の人が自社を誰かに勧めたいかなどを基準に、文化の健全性を測定します。 | eNPS、従業員エンゲージメント調査、パルス調査、売上高、離職率 |
従業員育成 | トレーニングを受けた従業員数、キャリアパス参加、トレーニングの有効性など、企業内で起きている学習と開発の有効性と量を測定します。 | トレーニング修了率、キャリアパス比率、および成長計画参加率 |
人と仕事への価値観が重視される時代
人々は、何のために仕事を続けるのかを考えることが多くなっています。私たちは人に焦点を置き、深く掘り下げて最高のバージョンの組織に変身しなければなりません。そして変化を続ける価値観に応えるために企業を進化させる方法を見つける必要があります。
People Strategy: How to Invest in People and Make Culture Your Competitive Advantage
著者 Jack Altman
出版社Wiley 第1版 (2021/4/6)
ISBN-10 : 1119717043
ISBN-13 : 978-1119717041
- 経営・組織づくり 更新日:2022/07/07
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