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第18回 マイナビHRサロンレポート 「対話から始める!人と事業を成長させるマネジメントと制度」

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人事業界の著名人をゲストにお迎えし、採用課題や経営課題について語り合うセミナーであるマイナビHRサロン。

第18回では、ニトリホールディングスにて組織・人事責任者として人事制度改革を指揮した永島寛之様をゲストに迎え「人と事業を成長させるマネジメントと制度」というテーマのもと、組織開発を通じた生産性向上や、個人と企業の関係構築について議論していきました。ニトリの事例を交えながら、若手社員が求める成長環境の重要性や、個々の成長実感を促進する評価制度の運用方法についても具体的にお話いただきました。

今後、組織と個人が共に成長していくためのマネジメントはどういった点に注目していくべきなのでしょうか?これから先のマネジメントや評価制度のあり方について、本記事を通じて一緒に考えていきましょう。

※本記事は、第18回マイナビHRサロンの講演内容を元に作成しています。

  • 永島 寛之 氏
  • 永島 寛之 氏 中央大学 企業研究所 客員研究員 元ニトリ組織開発室長(理事/人事責任者)

    大学でマーケティングと産業組織論を学んだのち、東レおよびソニーで海外事業の新規市場開拓に従事。米国駐在(ソニーUSA)を経て、ニトリホールディングスに入社。似鳥昭雄会長の元で組織・人事責任者として、タレントマネジメントの観点から、採用、育成、人事制度改革を指揮。 その後、再生エネルギー発電所開発のレノバ(東証プライム)にて、執行役員/CHROとして中長期の事業戦略と連動した組織・人材戦略の立案と人事施策実行を担い、世界のエネルギー変革のリーダー(グリーン人材)の育成に注力。2023年2月にQrious合同会社(現:トイトイ合同会社)を創立。複数の企業の経営者の元で、「個人の成長」を起点とした未来組織開発を支援している。


組織開発で生産性向上を果たした「ニトリ」

賃金を上げるにはどうしたらいいか、多くの企業で検討されています。この賃上げを短期的な目的ではなく長期的な事業の成果にする組織とはどういうものか。ここでは組織開発から考える賃上げについて解説します。

一般に小売業の従業員一人あたりの生産性は低め。販売業では決まった商品をどう売るかでしかなく、稼ぐ方法が限られているからです。

しかしニトリは、従業員一人当たりの労働生産高が2271万円と、日本の平均金額の約3倍と突出して高いことで知られています。創業以来ニトリでは企業文化の強化、リーダーシップの進化、従業員それぞれの成長を促す「組織開発」「人材開発」で生産性を高めてきました。

労働生産性向上策といえば「働き方改革」など業務プロセスの改善を言われますが、コストカットで企業価値は上がりません。組織開発を行い、人を育て、付加価値を分け合える世界観を構築することで生産性向上を図り、賃上げに結びつけることが重要です。


個人と企業の新しい関係

・若手の企業選びは「成長できる環境」が最優先

大学生が新卒で会社選びをする場合のデータを見ると、1位は「自らの成長が期待できる」とあります。かつて上位だった「知名度」「団体規模」の順位は低下。今や成長環境を提示できれば知名度が低い中小企業でも優秀な人材を採用できる可能性があるということになります。

また、近年学生一人当たりの内定数は増加傾向で、そこから入社する企業を選ぶ際の志望理由はまず「価値観」です。自分の価値観との一致を重視し、それまでの勉強や経験が活かせる進路を選ぶ傾向にあります。かつては社会人になる段階で自意識が切り替わって分断していましたが、今の若手は連続している。就職先には、学生時代から培ってきた自分を成長させてくれる環境を求めていると言えるでしょう。

さらに特長的なのが不安のレベルの高さ。上司の指示をクリアしていても、良い評価があっても不安を抱いている人が少なくありません。転職サイトなどで情報が得やすく、他社の条件や待遇と比較できるため、人材としての自分の市場価値が客観的に見えてしまう。

今の会社にいて将来成長が止まったらどうしよう、社外で通用する価値がない人材になってしまったら生きていけない…という不安があるということが、これまでの若手との一番の違いです。

・Z世代の社会人イメージは組織より個人重視

従来の個人と企業の関係は、組織への帰属意識や同調圧力が強く、年功序列が基本。社会が安定しており、右肩上がりの成長が続くので、忠誠心をもってキャリアも人生も会社に託せる環境に基づいていました。

しかし、今の若者が抱く社会人のイメージは、会社員は企業だけではなく社会のなかの存在として社会課題と向き合い、それを挟んで企業とフェアに向き合うという形です。企業のミッションが社会課題にどうコミットしているのか、自分と価値観が一致するかが入社の決め手になります。

社会課題解決のために、企業は個人に成長環境や機会を提供すべきであり、そういった環境で自分が成長することで社会貢献ができると考えています。育成過程でも上司や周囲からフィードバックを受け、成長実感を得ながら目標を達成する。その結果、成果に見合うフェアな報酬を受け取ることで企業との最適化された関係性(エンゲージメント)が生まれるという考え方です。

上司の背中を見て育ち、組織のために邁進してきた昭和世代と、組織の躍進よりも自身の成長実感を重視するZ世代とのギャップは、こういった考え方の相違によるものです。

また、かつての組織は求心力でまとまっていましたが、これからは遠心力の組織にならないと生き残っていかれません。多様性のある組織は1つに集まらず散っていくもの。もし、組織に「一体感がない」と感じているなら、「遠心力」が働いている現れとしてむしろ活用すべきです。

帰属感が薄い組織ではあっても、多様性を上手に管理できればイノベーションが生まれる可能性が向上します。このような組織運営は難易度が上がりますが、多様な考えを持つ人を、どうまとめるかが大事になってきます。

恐怖体験が必須!?社員を成長させる4つの領域

・成長実感が人を育てる

では、若者が求める「成長の実感」が得られる組織を作るにはどうしたらよいのでしょう。

成長実感とは他者の評価ではなく、自らの組織や社会に対する貢献を感覚として認識すること。組織で人が成長するというのは、そうした実感をモチベーションに社員が自ら挑戦を繰り返し、能力を開発するということです。

キャリアについても、組織より個人の能力開発の意味合いが強くなっています。

・組織で人が成長する4段階のメカニズム

組織で人が成長するメカニズムには4段階あります。

1段階目)快適領域
仕事は残業もなく容易にこなせる、必要とされている実感もある快適な職場です。人はこうした快適領域に3年もいると成長が止まると言われています。

2段階目)恐怖領域
そこで、上司は部下に越境体験を与えます。新しい職務や異動、海外派遣、社外プロジェクトなど挑戦領域=恐怖を体験させます。成長には「なぜ異動するのか、何を期待しているのか」納得することが重要なので、異動先は可能な限り本人の価値観や希望に沿うようにします。その上で上司は越境先で良い結果を出せているか、苦戦しているかなどを見守り、「恐怖」が強すぎたら負荷を弱めるなどの調整、評価していくケアが大切です。

3段階目)学習領域
経過を見ながら上司や同僚との対話によるフィードバックを続けていくと、新しい課題に対応できるようになり、スキルアップ。徐々に学習領域に到達します。

4段階目)成長領域
やがて恐怖だった環境が成長領域を経て快適領域に変化します。成長実感が持てたら、さらに上位の恐怖領域に挑戦し…というサイクルで育成するのが一般的な成長モデルになります。


いわゆる「ゆるブラック」というのは、快適領域に置いて成長実感がないケースで、成長への不安があり転職を考えてしまうケース。逆に「ブラック企業」というのは、恐怖ゾーンに放置してフィードバックでフォローしないパターン。どちらも人が育つ環境とは言えません。
成長を促す越境体験にはこの4段階が揃って必要です。

・ピープルマネジメントとはなにか

部下が成長する組織の上司は、数字を伸ばす業務マネジメントだけではなく、中長期の成長を管理するピープルマネジメントを習得する必要があります。簡単に言うと以下のプロセスになります。

  • 目標設定をする
  • 成功確率をコントロール
  • フィードバック

いずれも対話がメインです。若手を意識していないマネジメント層では不要説が強いかもしれませんが、意識が業務に向きすぎていると短期的な意見しか出てこないもの。しかも対話による人材育成力は、自分が対話で育てられてないと身につかないスキルです。研修、評価基準、フィードバックのスキルを3本柱にマネージャー教育を設け、ピープルマネジメント能力を獲得していかなくてはならないと考えます。

・越境教育の具体策「ニトリ」の事例

ニトリを例にとると、3年~ 55年ごとに部署変更部署異動「配転教育」を実施し、毎週30名ほどが異動する制度があります。

恐怖領域での成功確率設定は7割程度。また、部署異動による配置転換の他、様々な越境教育の仕組みがあり、企業カルチャーとして定着しています。「チョコ配転」は、部署にとらわれず社内で課題を切り出して選抜チームで解決するプロジェクト活動。ほかにも小集団でサークルを結成し社内課題を解決する活動「NWC」では実際に経営陣に直接提言をするなど、部署を超えた自由参加型の自主活動もあります。

自主性がなく関係も関心も理解もない場所に行くのは、ただの恐怖体験で無益なだけ。同じ越境恐怖体験でも楽しいものにするには、本人が描く中長期のキャリアパスを確認し、明確な自己認識を持ってもらうことが肝心です。

成長実感のための評価制度の運用

成長実感の形成には、業績や数字の評価だけではなく対話による公平で丁寧な評価があるべきです。人的資本経営における組織運営の根幹には評価制度があります。このような評価制度がないと、組織のなかの対話を企業の経済価値と結びつけることができません。

評価の基準は売り上げ重視、年功序列など、組織カルチャーによって様々ですが、課題設定がなされていてフィードバックがあり、各人に納得感があるなら問題ありません。組織の中にきちんと対話があるなら、どういう評価制度でも究極問題はないと考えます。

・これからの人事制度は評価制度中心へ

かつての等級や格付けによる評価と違い、今は個人のギャップと成長実感を個人と上司の間において対話する仕組みに変化しています。

評価を中心にして、等級や報酬、人材育成を考えるシステム全体で成り立たせるのが人的資本経営の主流です。この評価プロセスが人事制度の中心になることで、人材育成を支援し、社員が自己認識と成長実感を得ることにつながると考えられます。

どんな人を評価するのか、人材評価の方向性を決定して報酬を決める制度では、企業のビジョンやパーパスが評価にリンクする必要があります。評価制度が報酬を決める尺度になるのは副次的なことで、本来は人材育成を支援するためにあるという考え方です。

理想を言えば、一年間ずっとフィードバックがあって、上司や周囲との対話が続き、それによって組織のなかで個人の社会人としての自己認識が形成され、成長実感が得られること。丁寧な育成環境が構築できれば人は安易に会社を辞めなくなります。

・評価制度は対話の塊

目標設定から項目ごとに整理すると、評価業務は対話の塊と言えます。

会社のパーパスとは社員への問いでもあり、経営者の自問でもあり、社会や株主への問いでもあります。目標設定も同じで、部下に対してチャンレンジングな問いを立てて、どう動くか決める。評価にも成長にも一番大事なところです。その上で毎月1on1を実施して確認する。それを年間で連動させ、1~12月まで揃うと部下の評価になる、というのが理想です。

日々のフィードバックでは褒めるだけではなく、ネガティブな面も指摘し、本人に課題認識させることも成長実感につながります。また目標設定が今期と次期のコピペではなく、長期に一貫性がある目標を設定することも重要。業務に連続性が生まれます。

・対話がある組織は成長する

相互にフェアな立場で話をする「対話」、これをやってみると気持ちがいいものです。役職や肩書を一旦置いて、若い人と対等な立場で話していると、いろいろな意見を知ったり、新しい情報を得たり、発見も多いもの。まずは気持ちがいいオープンなコミュニケーションを心がけましょう。

コツは「評価や判断の保留」です。相手の話を評価判断せずに聞く。相手の価値観を無批判に理解してから問いを発し、話をすすめるのが基本です。このようなテクニックを使って人の話を傾聴できるようになれば、有益な対話が成立します。

豊かな対話が起こりうる組織に変化することで、イノベーションがおこり、大きな事業成果につながることが報告されています。

対話はただ実施すればよいのではなく、組織の労働生産性向上に活用し、経済的な成果につなげていかなくては意味がありません。

それには社内の抜本的な意識改革が必要になります。社員一人一人に対して上司や周囲からの丁寧なフィードバックがあり、それによって個人の自己認識が変わり、行動が変わっていくことで、業務の達成率が上がり、社員個人の成功体験につながる。

こうした成長実感を伴うことでエンゲージメントを深め、自律的に業務が展開していくこと。多様な人材が成長することで、組織も事業も成長し企業の生産性が上がっていく、このような好循環はすべて対話から始まると考えられます。

まとめ

  • 組織開発に積極的な「ニトリ」の労働生産性は平均の3倍
  • 新卒の企業選びは成長環境の有無と価値観の一致が最優先
  • 成長できる組織には越境体験と対話によるフィードバックがある
  • 対話ベースの評価制度が社員の成長と企業の業績をリンクさせる
  • 人を育てるピープルマネジメントこそ業績・給与アップの要

創業当時から組織開発を進め、躍進を遂げてきた「ニトリ」の歴史が物語るように、社員個人の価値を上げる施策の重要性は明らかです。組織力の強化というベクトルの中で育った管理職世代にとっては、個人へのフィードバックは難しく、対話スキルをはじめとするピープルマネジメントについて新たな学びが必要かもしれません。

しかし、対話があり成長実感が得られる職場の構築こそ、今後は高給よりも魅力的なアピールポイントになると考えられます。今は先が読めないVUCAの時代と言われていますが、仮にそういう世界にいるのだとすれば、一人で解決できることはほぼありません。

克服が困難な課題を組織で乗り越えていくには、一人一人が問いを発し、対話により多様性を活用するピープルマネジメントこそ要。混沌とした社会で勝てる組織には、個人の成長を促す育成環境がますます必要不可欠だと言えるでしょう。

  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 経営・組織づくり 更新日:2024/12/09
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