テレワークへの5G活用方法と重要性
多くの従業員が一つのオフィスに集まって仕事を行う従来の勤務形態ではなく、自宅やサテライトオフィスなどでも仕事を可能にするテレワークが注目されています。近年、働き方改革によって長時間労働をはじめとした環境の見直しが求められ、この一環としてテレワークが多くの企業に導入されるようになりました。
また、2020年に入ってから世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ手段としても、テレワークの導入が推奨されています。企業や従業員のなかには、「今回のタイミングで初めてテレワークを行うようになった」というケースも多いのではないでしょうか。
従来のオフィス勤務は、経営者や管理職にとって従業員を管理しやすいというメリットがありました。しかし、働き方が多様化するなかで毎日オフィスに通うことは必ずしも合理的とはいえません。テレワークを導入することで、通勤時間が削減されて従業員のワークライフバランスが充実するほか、自身が今後目指すキャリアを見据えたスキルアップのための勉強に充てる時間も確保しやすくなるなど、従業員にとってさまざまなメリットがあります。
一方で、テレワークは企業側にとってもオフィスの家賃や光熱費、通勤にかかる交通費などの経費を大幅に節約できるメリットがあります。実際に、新型コロナウイルスが収束した後もテレワークを原則とする企業も増えています。
テレワーク導入前における課題と有効な対策
従業員と経営者側それぞれにメリットがあるテレワークですが、実際に導入を検討するときにはさまざまな課題が想定されます。まずは、テレワークを導入する前の段階で想定される課題を2点ピックアップしてみます。
①ICT環境とセキュリティ対策が整備されていない
テレワークを導入した場合、多くの従業員は自宅で仕事を行うことになります。しかし、会社で普段使用しているPCをそのまま自宅に持ち帰って使用すれば良いというわけではなく、万全なセキュリティ対策やICT環境の整備が必要不可欠です。
たとえば自宅にインターネット環境がない従業員に貸し出すモバイルWi-Fiルーターや、持ち運びが簡単なノートPCなど、適切なハードウェアを選定することも重要な要素といえるでしょう。
また、万が一外出先でPCを紛失したり盗難の被害に遭ったりした場合でも情報が盗み取られないように、二重三重のロックやリモートワイプ(遠隔消去)などの対策をあらかじめ講じておく必要もあります。テレワークの導入にあたっては、以下のチェックリストを参考に準備すべきものを整理し対策を講じておきましょう。
【ICT環境整備のためのチェックリスト】
- PC
- モバイルWi-Fiルーター
- モバイル端末(スマートフォン・タブレット)
- VPN
- 生体認証などのセキュリティ対策
- リモートワイプ(遠隔消去)
②業務そのものがテレワークに対応できない
新型コロナウイルスの影響によってテレワークが叫ばれた今回、大きな問題となったのが、そもそもテレワークに対応できない職種です。一口にオフィスワークといっても、会社のセキュリティ上の問題やシステム的な問題によって社外で仕事を行うことが難しいケースが存在します。
また、サービス業や建設業など、現地に出向かなければ仕事そのものが不可能な職種も多く、テレワークの物理的な限界を感じた経営者や従業員も多かったのではないでしょうか。
しかし、現在の業務内容がテレワークに対応できないとしても、業務フローの見直しやテクノロジーの活用によって解決できるものもあります。たとえば紙ベースでの業務や捺印が必要な業務など、テレワークを阻害している要因を具体化してみると解決の糸口が見つかる可能性もあります。
テレワーク導入後における課題と解決策
会社としてテレワークの制度を確立し導入できたとしても、実際に運用してみて初めて浮かび上がってくる課題もあります。テレワーク導入後における課題を2つピックアップして紹介します。
①コミュニケーションが難しい
オフィスで働いていると、近くにいる上司や同僚、部下と会話によってコミュニケーションをとる機会が多いものです。物理的に近い場所にいるときには無意識のうちに行っている行為でも、実際にテレワークを導入して離れた場所で働くようになったとき、コミュニケーションがとりづらいと感じるケースが増えてきます。
「今連絡をとっても大丈夫だろうか?」「作業の邪魔にならないか」など、相手の様子が目に見えないためコミュニケーションをとるタイミングが難しく感じてしまいます。また、普段は何気なく交わしている雑談が一切なくなることによって、ストレスを抱え込んでしまう従業員も少なくありません。
通常業務だけでなく、複数人で行う会議においてもコミュニケーションの問題は想定されます。テレワークの拡大にともなって「Zoom」や「Skype」といったビデオ会議用のツールが注目を集めましたが、相手のジェスチャーや表情などが小さな画面上では見えにくくなったことで、使いづらさを感じることもあります。
それならば、常に相手の状況が見えていればコミュニケーションの問題は解決するのではないか、と考える人も多いと思います。しかし、従業員にとっては常に監視されているような気分になり、ストレスによって仕事の効率が悪化してしまう懸念があります。メールやチャットツール、ビデオ会議システム、電話など、テレワークではさまざまなツールをうまく使い分けたコミュニケーションが求められます。
【コミュニケーション手段確保のためのチェックリスト】
- 電話
- メール
- チャットツール
- ビデオ会議システム
緊急性の高い連絡 | 緊急性の低い連絡 | 複数人とのコミュニケーションが必要な用件 | 対面でのコミュニケーションが求められる用件 | |
電話 | ◯ | |||
メール | ◯ | ◯ | ||
チャットツール | ◯ | ◯ | ||
ビデオ会議システム | ◯ | ◯ |
②自宅での仕事に集中できない
普段働いているオフィスの場合、周囲の人が会話している声や、さまざまな作業をする音、人がオフィス内を歩く音など、さまざまな雑音が存在します。このような環境からいきなり静かな自宅の一室に移ったとき、あまりにも静かすぎて気が散ってしまう人も多いようです。
また、テレビやゲーム、インターネットなどの誘惑に勝てず、仕事が一向に進まないケースも少なくありません。そのようなときは、思い切って自宅の外に出て仕事をしてみるのもひとつの方法です。カフェやコワーキングスペースなどをうまく活用することによって、自宅ではなかなか進まない仕事も短時間で集中して仕上げられるようになるかもしれません。リモートワークの需要増加によって、一部のビジネスホテルではリモートワーク用に部屋を格安で貸し出しているケースもあります。
【自宅以外で仕事が可能な場所】
- カフェ・レストラン
- コワーキングスペース・シェアオフィス
- ホテル
- 図書館
静かすぎる環境で気が散ってしまうとき | 仕事以外の誘惑を断ち切りたいとき | 周囲の雑音で気が散って集中できないとき | コストをかけずに利用したいとき | |
カフェ・レストラン | 〇 | |||
コワーキングスペース・シェアオフィス | 〇 | 〇 | ||
ホテル | 〇 | 〇 | ||
図書館 | 〇 | 〇 | 〇 |
5Gがテレワーク導入に重要な理由
テレワークを実現するにあたってはさまざまな課題が考えられますが、これらの解決のヒントとなるのが5Gです。2020年春から商用サービスがスタートし注目を集めている5Gは、テレワークの課題解決にどのように役立つのでしょうか。
①ビデオ会議システムへ活用できる
【要点】
- 5Gではよりスムーズで高画質なビデオ会議を実現
- ARやVRも加わり、相手が目の前にいるかのようなリアリティのあるプレゼンも可能
5Gは従来の4Gに比べて高速かつ安定したネットワーク品質が実現できるため、途中で映像が止まったり画質が悪くなったりという心配がありません。将来的には8Kレベルの超高画質な映像も5Gで通信可能になるともいわれており、相手の細かな表情や雰囲気も伝わりやすくなるはずです。
また、さらにテクノロジーが発展していくと、従来の2次元的な映像だけではなく、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった新たな表現方法がさらに発展する可能性があります。まるで相手が目の前にいるかのようなリアルな体験ができるほか、新商品のプロトタイプをプレゼンする場面などにも活用でき、商品が目の前にあるかのようなリアリティのあるプレゼンが可能になります。
ARやVRのコンテンツを配信するためには大容量のネットワークが不可欠です。たとえば出張先であっても5Gネットワークが整備されていれば、ビデオ会議でストレスを感じることなくスムーズなコミュニケーションとプレゼンが実現できます。
②あらゆる場所でネットワークにつながる
【要点】
- 高速・大容量の5Gなら自宅以外でもネットワーク接続の心配なし
- テレワーク時の情報漏えい対策にも優れる
固定ブロードバンド回線があれば安定したネットワーク環境を構築できますが、自宅以外の場所で仕事をしようと考えた場合、必ずしも現地にネットワーク環境が整備されているとは限りません。
カフェやコワーキングスペースなどに設置されているWi-Fi環境の場合、不特定多数のユーザーがアクセスしているため通信速度が低下して仕事に影響を及ぼすケースや、十分なセキュリティ対策が行われていないと情報漏えいなどの危険性も高まります。
モバイルネットワークである5Gは、適切なセキュリティ対策をとっておけば第三者がネットワーク内に侵入して情報を盗み取る心配も少なく、安心して利用できます。いわば自分専用のプライベートネットワークのようなもので、テレワークで重要な情報をやり取りする際には不可欠なものといえるでしょう。ちなみに、従来の4Gであってもセキュリティ面では万全ですが、ビデオ会議を頻繁に利用する方にとっては大容量の5Gが適しています。
③AIやIoTとの連携でさまざまな業務に対応できる
【要点】
- IoTやAIと連携し、幅広い業種のニーズに対応可能
- 5Gによって建設現場作業もリモートワークが可能になる
- 製造業では大規模な生産設備になるほど5Gが有効
5Gは、通信速度が速いという特性のほかにも、低遅延や同時多接続といった特性もあります。これらの特徴を生かし、IoTやAIなどと連携しさまざまな事業に役立てることが検討されています。
たとえば、大手建設会社と通信キャリアが共同で建設機械の遠隔操作を可能にする実証実験を行った事例もあります。わずか1ms(0.001秒)という超低遅延の5Gを活用することにより、建設機械の動きと操作のタイムラグを最小限に留めることができ、現地で操作を行っているのと同等の環境が再現できます。これによって、近い将来現場作業もリモートワークに対応できる日がやってくるかもしれません。
また、製造業の現場では生産設備の故障予兆検知にもIoTとAIが活用されます。生産機器の各部にIoTセンサーデバイスを取り付け、異音や機器が発する熱などのデータを収集。何らかの異常を検知した場合は作業員へ通知されます。大規模な生産設備になればなるほどIoTセンサーデバイスの数も増えていきますが、Wi-Fiでは接続できるデバイス数にも限りがあります。しかし5Gの場合、1平方kmあたり100万デバイスが接続できるため、保守点検作業には極めて有効な方法といえるのです。
このように、5Gとその他のテクノロジーを併用することにより、これまで実現することが難しいとされてきた業種のテレワークやリモートワークも将来的には現実的なものになると考えられるのです。
まとめ
働き方改革や新型コロナウイルスの影響によって今後私たちの労働環境は変化し、テレワークが一般的な働き方として定着してくる可能性もあります。しかし、今回紹介してきたようにテレワークを定着させるためには解決すべき課題も残されており、企業にはさまざまな対策が求められます。
そのなかでも、テレワークにおけるコミュニケーションやネットワーク環境などの課題を解決するうえで、5Gは不可欠なツールになっていくのではないかと期待されているのです。
- 経営・組織づくり 更新日:2022/08/18
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