スキルマップの正しい使い方 効果を上げるノウハウとは?
スキルマップが「万能のつえ」であるという誤解

— 今日はよろしくお願いします。まずスキルマップとはどのようなものなのでしょうか。
田口: 従業員が保有するスキルや知識を視覚的に整理・把握できるようにしたものです。Excelなどのシートで作成されている企業さんも多いのですが、最近はシステムで管理する企業さんも増えてきました。
— スキルマップというと、ある種の万能なツールと考えている方も少なくないようです。
田口: そうですね。まず、「スキルマップ」自体が幅広く解釈できてしまう言葉であることが問題かもしれません。本来スキルマップは、ある程度限定的に使われてきたものです。
例えば、よくある誤解として「タレントマネジメントなどの全社的な人材管理や、人事評価に使える」というものがあります。
確かにタレントマネジメントでも人事評価でも、スキルの可視化は欠かせないでしょう。しかし、それはあくまでも必要なパーツの一つであり、実際にはより広く深い情報収集や、既存の評価制度との整合性を考慮したりする必要があります。
スキルマップの大きな特徴は、先ほどもご説明したように、「スキルや知識を視覚的に整理・把握」することです。逆に言えばこの機能に特化しており、汎用的に何にでも使える「魔法のつえ」ではないのです。
— 「限定的に使われてきた」とありますが、どのような場合であれば役に立つのでしょうか?
田口: 人材管理や人事評価のような全社的な取り組みではなく、「こういうスキルを持った人材をプールしておきたい」とか、「○カ月でこんなスキルを持った社員を育てたい」というように、明確な目的に対してそれぞれ最適化されたスキルマップを作り、運用する場合にはとても有効です。
スキルマップは「目的をはっきりさせて」作るべし

— ぜひ、具体的に教えてください。
田口: はい。例えば「新入社員を早期に戦力化したい」という場合には、スキルマップを活用できます。
こうしたケースでは、まずは自社で「戦力化できた・一人前になった」と判断できるスキルの一覧を作ります。これがスキルマップのもとになるわけです。
次に、新入社員がそれらのスキルについて「いつまでに、何を」習得してほしいのかを明確にし、ロードマップを考えます。
例えば「3カ月以内に基本的なビジネスマナーを習得する」とか、「半年以内に顧客提案時のプレゼンスキルを習得する」とかですね。
そして、実際に研修やOJTを通じてロードマップを実現できるように支援を行い、その成果をスキルマップと比較して記録していくわけです。
成長速度はそれぞれで異なりますから、一人ひとりのスキルマップを上司や人事部と新入社員とで一緒に見ながらフィードバックを行うのが良いでしょう。足りない部分を補って、伸びている部分をさらに伸ばすように支援していき、新入社員それぞれのスキルマップが充実するように促していくと、効率的に成長を支援できますので、「早期に戦力化したい」という当初のニーズを満たすことができるわけです。
— なるほど……。 もとのイメージではそれぞれが持っているスキルが幅広く可視化されている「通知表」のようなものを想像していましたが、どちらかというと「チェックシート」に近いものですね。
田口: そうですね。このように、スキルマップは特定の目的を持って、その目的を満たすために必要なスキルを棚卸していくことから始めるのが成功への近道です。
— 他の具体例も教えてください。
田口: 新入社員の例では階層で限定していましたが、職種や仕事の内容で区切って活用したいという場合にも使えます。
例えば、システム開発会社で「官公庁案件にアサインできるプログラマー社員をプールしておきたい」というようなケースです。
スキルマップを使えば、官公庁案件を受注した際に迅速に動けるよう、対応可能なプログラマーを素早くピックアップすることができます。
この場合でも、まずは自社として「官公庁案件にアサインできるプログラマーのスキル条件」を棚卸し、スキルマップを作成するところから始まります。
その上で、スキルマップに即した教育を行ったり、案件での経験や学習に応じて蓄積された個々のプログラマー社員のスキルを可視化していきます。
ポイントは、プログラマーとしての能力を幅広く評価するのではなく、あくまでも「官公庁案件にアサインできる社員」の条件を満たしているかどうか、という判断に限定することです。
いずれにせよ、スキルマップは何となく大きな人事施策を実現するためというよりは、目的がクリアな課題に対して活用していくことが大切です。
スキルマップを作るには「巻き込み力」が重要

— 「ある特定の目的のためにスキルを棚卸し、スキルマップを作る」と、言葉にすれば簡単ですが、これはなかなか難しいことではないでしょうか?
田口:
そうですね。まず、実効性のあるスキルマップを作るためには、現場社員の声をしっかり聞いていく必要があります。
人事が外から現場を見て「こんなスキルが必要だろう」とスキルマップを作って渡しても、現場の納得感がなければ活用されていきません。
現場にアンケートを取ったり、スキルマップ作成のためのワークショップを開いたり、必要であればエース社員や現場リーダーなどのキーマンの理解を個別に促すなどして、有効性のある「スキルの棚卸」ができるよう、どんどん人を巻き込んでいく必要があります。
— 人事が現場に「押し付ける」という構図は、確かに避けたいですね。
田口: スキルマップの効果として、社員の成長意欲を刺激するというものがあります。対象社員は身に付けていくべきスキルが可視化されますので、目的達成のための努力をしやすいですし、上司にとっても具体的なスキルについてポジティブなフィードバックを与えることで、部下の自己効力感の高まりを期待できるからです。
ただ、それも「押し付けられた」ものだと高い効果は望めないでしょう。人事がしっかりと現場の声を聞き、巻き込み、現場サイドに「一緒に作った」というほどの実感を持ってもらうことができて、初めて成功と言えるのかもしれません。
その意味では、運用のために上席者などを巻き込むことも忘れないでいただきたいですね。
— スキルマップを作っても、それが実際に活用されなければ意味がないということですね。
田口: そのとおりです。2つの具体例で解説したように、スキルマップを使って社員のスキルを可視化し、フィードバックを与える上席者の存在は欠かせません。このステップがあって初めて、新入社員が戦力化したと判断できたり、特定の案件にアサインできると判断できたりするからです。
スキルマップは作成するよりも、運用する方が難しいはずです。現場にとっては作成以上に運用が負担なので、形骸化してしまいやすいのです。スキルマップの有用性をまずは人事がしっかりと理解した上で、現場と上席者を説得できないといけませんし、現場での活用が浸透するようなワークショップや、運用上の課題を聞き出すヒアリングなどの継続的な活動を行う必要があるでしょう。
— 非常に具体的で役に立つお話でした。ありがとうございました!
スキルマップは「目的に特化して」「みんなで作る」もの
スキルマップを「万能ツール」と考えていた方も、そもそもどのようなものなのかをいまひとつ理解できていなかった方も、このインタビューを通じてその実体を理解していただくことができたのではないでしょうか。
スキルマップは万能ツールではありませんが、特定の目的に特化して、現場や上席者を巻き込みながらみんなで作ることができれば、人事戦略や組織開発にとって非常に有用なツールとなり得ます。
ぜひ、巻き込みを意識しながら作ってみてください。
- 人材採用・育成 更新日:2025/02/26
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