小さなスタートから大きな成果へ 人事データ活用の第一歩
なぜか、内定受諾率が下がっている。なぜか、説明会の集客がしにくくなっている。なぜか、優秀な社員から辞めてしまう……。
就職活動の早期化や人材流動性の高まりから、人事にまつわる課題は複雑さを増しています。解決のための打ち手を出しかねているという方も多いのではないでしょうか?
そのような状況の中で、人事データを統合して分析する手法が注目を集めています。一般に「人事データ活用」と呼ばれるこの考え方、きっと読者の皆さんにとっても聞き覚えのある言葉なのではないでしょうか。
一方、実際に「人事データ活用」をしようと考えてみると、高額かつ高機能なシステムの導入を薦められたり、社内に散らばったデータの集約にめどが立たなかったりと、壁にぶつかってしまうこともあると思います。
しかし、今回お話を伺ったパナリット株式会社の小川 高子さんは、中小企業のデータ活用について「まずは自分たちでできる、小さなことから始めてみることが大切です」とおっしゃいました。
中小企業のデータ活用はどのようなスタートを切るべきなのか、詳しくお話を伺いました。
就職活動の早期化や人材流動性の高まりから、人事にまつわる課題は複雑さを増しています。解決のための打ち手を出しかねているという方も多いのではないでしょうか?
そのような状況の中で、人事データを統合して分析する手法が注目を集めています。一般に「人事データ活用」と呼ばれるこの考え方、きっと読者の皆さんにとっても聞き覚えのある言葉なのではないでしょうか。
一方、実際に「人事データ活用」をしようと考えてみると、高額かつ高機能なシステムの導入を薦められたり、社内に散らばったデータの集約にめどが立たなかったりと、壁にぶつかってしまうこともあると思います。
しかし、今回お話を伺ったパナリット株式会社の小川 高子さんは、中小企業のデータ活用について「まずは自分たちでできる、小さなことから始めてみることが大切です」とおっしゃいました。
中小企業のデータ活用はどのようなスタートを切るべきなのか、詳しくお話を伺いました。
「データ活用」、よく聞くけれど、具体的に何が変わる?
— 「人事データ活用」という言葉自体は、多くの方が聞いたことがあると思います。一方、具体的にどのような効果が期待できるのかは、漠然としてしまっている方も多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
小川さん: そうかもしれません。「データ活用」というのはあくまでも手段であって、それ自体が「魔法のつえ」のように何か効果をもたらしてくれるものではないからです。
しかし、人事がデータの活用を始めれば、採用や人材育成はもちろん、会社全体に変化が起こるでしょう。
なぜなら、人事の仕事は、慣習的に「定性的」な調査や解釈をもとに議論をしたり、決定を下したりといった傾向がありますが、そこへデータという「定量的」な要素を導入することで、ある種の変革が起こるからです。
— 具体的には、どのような変化が考えられるのでしょうか?
小川さん: 実際にご相談をいただいた事例を1つご紹介します。
とある会社で、経営陣から人事に「なぜ、優秀な社員ばかりが辞めるのか」という投げ掛けがありました。
確かに、人事の目から見ても活躍していて社内でも注目を集める社員が離職する事例が直近で複数あり悩んでいらしたのですが、データを見てみるとそれがある種の「思い違い」であると分かりました。
社員の評価データと、退職者のデータを突き合わせてみると、実際には「優秀な社員も、そうでない社員も、同じ程度に辞めている」というのが事実だったからです。
加えて、精緻にデータを見ていくと、マーケティング部門では離職率が低く、営業部門では高いという結果も分かったため、最終的には人事から経営陣に対し、営業部門のマネジャー研修を強化するよう、進言することができました。
— 素晴らしい事例ですね。
小川さん: そうですね。一連の流れを通じて同社に起こった変化は、次の3つです。
1つ目が、データをもとにした人事にまつわる意思決定に価値があることが認められ、まずはデータを見てみよう、という風土が生まれたこと。
2つ目が、その結果、経営陣と人事とが、同じ土台(データ)の上で視点を共有し合いながら議論ができるようになったこと。
そして3つ目が、上記2つの変化によって意思決定にスピード感と納得感がもたらされたことです。
人事は「人を扱う仕事」であることから、すでにお伝えのように定量的なデータよりも、定性的な感覚が大切にされてきました。
もちろんそれも大切ですが、データ活用の有用性を経営陣と人事とが共有することができれば、このように大きな変化が会社に生まれていきます。
データ活用を「まずは始めてみる」ことのメリットはなんとなく、ご理解いただけたのではないでしょうか。
まずは何から? 中小企業のデータ活用
— ありがとうございます。確かに分かりやすい事例でした。一方、同じようにデータを活用できるかと問われると、まだまだ風土ができていないという企業の方も多いのではないかと思います。
小川さん: そうかもしれませんね。データ活用というのは、非常に裾野が広く、頂点が高い領域です。
例えば、人事データ活用のトップ企業では専任のデーナアナリストが膨大な人事データから仮説を立て、課題を発見し、解決の糸口を見つけ、採用や育成の担当者に提案していくという流れが日常的にありますが、そのような状態をいきなり目指すのは現実的ではありません。
— そうですね。まずは何から始めると良いのでしょうか。
小川さん: 弊社が人事データ活用のご相談をいただいた際には、「裾野」から着手していくことをお勧めしています。
具体的には、まず「自社がどのような人事データを持っているか」を探してみることです。
— とはいえ、そもそも「人事データ」を持っていないと考えている企業の方も多いと思います。
小川さん: そういうお声もいただきますが、「人事データなんて持っていない」と考えている企業の方でも、勤怠はデジタル運用されていることが多いと思います。つまり、勤怠システムの中には社員一人ひとりの勤務時間、残業時間といったデータがあるわけです。給与計算も手作業でやっているということは今やほとんどないと思いますので、給与計算ソフトに人事給与データがたまっているはずです。
他にも、採用であれば就職サイトや採用管理システムに、評価やエンゲージメントサーベイデータもまた別なシステムやエクセルシートにデータがあることでしょう。これらのデータは人事がすでに持っているものであり、データ活用の取っ掛かりとしては十分です。まず「見てみる・触ってみる」ことから始めてみましょう。
すると、例えば勤怠データを部署ごとに見ていけば「残業の多い部署」が見えてきたり、年次別に見ていけば「業務負荷の高い年代」が見えてきたりします。
そうして傾向が見えたら、次は社員にヒアリングをするなどして、実際にその「傾向」が「課題」であるかを確認した後、解決すべき課題なのであれば、どのような打ち手があるかを考えられるようになります。ポイントは、手元にあるデータだけでは答えまで導くことができなくても、インタビューやヒアリングを効果的に組み合わせれば、課題解決にグッと近づくことができるということです。
ここまでくれば、もう人事データ活用の第一歩を踏み出していると言えるでしょう。こうしてトライを続けていき、成功体験を積み重ねることができれば、先ほどの事例のように少しずつでも社内の風土が変わっていきます。
まずは手元・足元から着実に進めていくことが大切です。
「アンケート」も立派な人事データ! まずは始めてみよう
—
なるほど。まずは手元のデータから課題を探し、解決のためにトライをしてみる、ということですね。
次のステップとしてはどのようなことが考えられるでしょうか?
小川さん: はい。最初にお話しした事例のように、まずはトライをしてみて成功体験を積み重ね、経営層との合意が取れてくれば、次のステップは「今ある課題に対してどうデータを活用して、どのようにアプローチできるか」と考えることです。
例えば、いま多くの採用担当者の方が共通して持っていらっしゃる課題として「内定受諾率の低下」や「選考辞退率の増加」がありますよね。
しかし、これらの課題に対して現状把握をするのに十分なデータを持っていらっしゃる企業の方は多くないかもしれません。
となれば、次は自発的に「データを取りに行く」という行動に移ることになります。
— つまり、手元にあるデータを使うだけではなく、リソースを投じてデータを「収集する」というアプローチの併用ということですね。
小川さん: そのとおりです。少しハードルが高く感じられるかもしれませんが、難しく考える必要はありません。例えば対象の「主観」を捉える手法としてサーベイデータを活用する企業は多いですが、高額なタレントマネジメントシステムを導入しなくとも、まずは無料・安価なアンケートフォームを使ってみるところから始めてもいいでしょう。
先ほど例に挙げた課題であれば、自社の内定者や新入社員に対し、「1次選考の前に自社の理念は理解できていましたか?」とアンケートで尋ねてみたり、選考途中で辞退された候補者に「選考プロセスの体験についていくつかの設問に答えてください」と調査をすることなどが考えられます。
すると、人事としては十分できていたつもりでも、意外なことが落とし穴になっていた、ということが分かったりします。
となれば、選考辞退や内定辞退を引き起こしている可能性のある落とし穴を補う施策を立案してみることで、効果的に対策を打つことができます。例えば、企業理念をしっかりアピールできていないことが早期の選考辞退を生んでいるという仮説ならば、面接前に採用担当との1on1を行って理念の理解を促したり、他社からの内定が先に出たことでの内定辞退が多い事実があったとしたら、採用プロセスの効率化を目指す施策が効果的でしょう。
もちろん、当初の仮説が間違っている可能性はあります。
しかし、ファクトに基づいた仮説と対策は、単なる思いつきの意思決定よりは正しくなる可能性が高まるのは当然です。何度かトライ&エラーを繰り返し、最後には成果につなげる、という姿勢で取り組むべきだと考えます。また、会社としてファクトに基づく意思決定をする土壌をつくることができれば、より正確な予測や分析のために高機能なデータ分析ツールを導入することにつながるかもしれません。
繰り返しになりますが、小さな一歩から着実に、少しずつでも進めていけば人事も、会社も、必ず変わっていきます。
— 今日は具体的で学びの多いお話をありがとうございました!
データ活用は大企業だけのものではない
インタビューの中でもあったように、私たちは「データ活用」と言われると高度な分析スキルと高価なツールを駆使した専門領域のように思えてしまい、尻込みしていた部分があったのかもしれません。しかし、小川さんがおっしゃったように、データ活用は「小さな一歩」から始めることができます。むしろ、どんなに高価なツールがあってもそれを使って課題を導き、解決する風土が根付いていなければ活用は難しいでしょう。その点でも、少しずつデータ活用に親しんでいくことは非常に有効であると思いました。
また、人事データ活用は規模の大きな企業だけでなく、人事と経営との距離が近い中小企業にも有効だと感じました。複雑化する人事課題への新たな一歩として、検討してみてはいかがでしょうか。
- 経営・組織づくり 更新日:2024/12/16
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