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CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)が経営幹部の次の要職となる可能性

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CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)といった「CxO」の肩書きは、企業の業務や機能における「最高責任者」を指す言葉です。企業統治における監視役である取締役、業務を取り仕切る執行役(Officer)を分け、機能と責任を分けて位置づける欧米や外資系企業を中心に導入されています。

また、近年では日本でも、顧客や取引先に対して責任の所在を明確化したい企業などがCxOを導入するケースが増えています。しかし日本企業では、CxOの権限や責任に法的な裏付けがないため、代表取締役や取締役、執行役員が兼務するケースも多く、聞いたことがあっても詳細をイメージすることができない人もいるかもしれません。

その一方で、ミッション、ビジョン、パーパスに基づいた経営の概念は、この変化が激しく正解のないVUCA時代において一定の概念として確立されつつあります。また、企業独自の持続的な競争優位性を生みだすためにも欠かせない概念となっています。

いま、新たなCxOとして「CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)」が欧米において誕生し始めています。この誕生の背景を考察していくとともに、グローバル企業における経営幹部の次の要職となる可能性、CPOが担う役割について検証します。 経営者やHR担当者にとって、より変化の激しくなる経営環境に向けて、自社の状況と比較して認識を新たにする機会となれば幸いです。

パーパスについて、詳しくは 『「パーパス」の意味は?注目される理由や関連用語をわかりやすく解説』の記事もあわせてご覧ください。

新たな時代における役職「CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)」

指数関数的に成長していくテクノロジーにより、さらに進化のスピードが加速し、破壊的なイノベーションが生み出されることは、新たな市場を生み出すだけではなく、既存の市場を消滅させることでもあります。そして、それはビジネスの平均寿命の著しい低下の一因となっています。では、ビジネスの死期が早まっているのであれば、何世代にもわたって安定した業績を上げている企業にはどのような特徴があるのでしょうか?

その特徴を見ていくと、以下のような共通点があります。

  • 寛容で、好奇心が強く、アイデアのための余白がある
  • 社会・環境の変化に対応できる
  • 経済的に自由な発想ができ、前例に縛られずに自立していて、外部からの測定に対してオープンマインド
  • 高いモラル、価値観、文化、ビジョンに支えられている

上記の共通点は、自社が何のために存在するのか(社会に対して何を生み出すのか)、社員は何のために働いているのかといった「パーパス(存在意義)」を抜きにしては実現できません。つまり、組織が生き残るには、パーパスがイノベーションと同じくらい重要であることがわかるのです。

あるビジネス理論家は、「企業が滅びるのは、経営者が商品やサービスを生産するという経済活動に焦点を当て、組織の本質が人間の共同体であることを忘れているからだ」と話しています。

新たな時代に組織が直面している変化とは

特に米国においては、政治や文化、社会問題などに関する議論が、日常の職場でも頻繁に繰り広げられています。これは、SNSをはじめとした雑多な情報を即時入手できる環境があることに加え、イデオロギーが多様化していることも背景にあります。 そのようななかで、企業はグローバルに人材を獲得して持続的に成長するためにも、よりインクルーシブ(包摂的)、かつ生産的な職場環境の構築をめざさなければ、生き残れない競争環境に置かれています。

これは、旧来の「政治や文化、社会問題などに関する個人的な見解を組織に持ち込むべきではない」と言われていた時代からすると大きな変化です。いま、従業員はむしろ「ありのままの自分であること」が求められている職場環境になってきているのです。

日本では、あまりピンと来ないかもしれませんが、米国では「企業がその時々の政治論争や文化比較、社会問題への取り組みに積極的に関与することは、従業員満足を高める」というデータも報告されています。

その一方で、このような要因が積み重なると、政治的信条を理由として同僚を避けたり、社会的・政治的な問題に対する雇用主のスタンスに失望した場合に、従業員エンゲージメントが低下したりする可能性が出てきます。実際に、職場における対立が多発するなど、組織に変化が起きているようです。

CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)とは何か

このように、あらゆるレベルで変化が進行しているなかで、企業という資本主義構造の内側でも、「必要な変化を社会環境と組織環境の中でコントロールして生み出すことができるのか」そして、「企業が従業員やコミュニティとどのように関わり、社会でどのような役割を果たすか」が、問われています。

具体的には、以下で紹介するような社会やビジネスにおける変化に対応し、必要なリーダーシップを発揮するために、経営幹部の新たな要職としてCPO(チーフ・パーパス・オフィサー)という新たな役職が設置される可能性がでてきています。

労働市場の需要変化

優秀な人材を獲得しようとしているリクルーターが、面接で「あなたは何をめざしているのか」と、人生のパーパスを聞くようになっています。これは、将来のリーダーにとって重要な意思決定要因として、給与や待遇よりも自分自身への価値提供や個人が社会に対してどのような影響を与えるのか、といったことが同等かそれ以上に重要であることを示しています。

株主の倫理観の変化

昨今では、史上初の10億ドル規模の「倫理的ファンド(※)」の誕生や、AlquityやKamesといった倫理的投資会社の業績向上により、市場は倫理的な規範を示すだけの存在から、実績を伴った存在へと移行しつつあります。
このような変化によって、以下のようなパラダイムシフトが起きつつあるなか、CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)が要職になっていくと考えられているのです。

【旧来のパラダイム】

  • これまでと同じ価値観のままで製品やサービスを提供し続ける
  • 企業経営者の使命は株主価値の最大化だと思い続ける
  • 使用者と労働者の関係のままに従業員に報酬のみを与える
  • 消費者は適正な対価や環境保護コストを生産者や流通に支払わずに企業は利益最大化を優先することがwin-winの関係である

【新しいパラダイム】

  • ニーズに応える
  • 文化を通じて管理する
  • パーパスを通じて導く
  • 多様性を活用する

CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)の役割

このような時代の変化に対する有望な解決策として、企業のパーパスを活性化させるためのCPO(チーフ・パーパス・オフィサー)を2017年に設置したコンサルティングファームのPwCの事例から、CPOの役割を見ていきます。

  • 仕事に意味を持たせ、人々が仕事の背後にある意味を理解できるように保証する
  • そのために、組織のミッション、ビジョン、バリュー(行動指針や重要な価値観)に基づいて行動するよう、あらゆるレベルのスタッフを教育し、指導する
  • 社内のあらゆる側面に共通のパーパスが浸透したら、全員がパーパス・ドリブンの価値観を持ち続け、社外のステークホルダーを巻き込む戦略を策定・管理し、世に知らしめる

CPOはこれらを通じて、社内外の顧客やチーム、事業目標の価値を一致させ、利益を超えた永続的で測定可能なポジティブ・インパクトを生み出すことで、組織の長期的なパフォーマンスを向上させることをミッションとしています。

ここからは、さらに役割を細分化して定義していきましょう。

社内チームへのインスピレーション

チームメンバーは、利益よりも意義のある仕事を望んでいます。CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)は、パーパスをもってチームメンバーを鼓舞する必要があります。ある意味では、CPOは究極の人事と言えるかもしれません。

パーパスは、企業文化を高め、業績を向上させ、従業員の定着率を高め、イノベーションを鼓舞するため、仕事の満足度を高める効果があります。CPOは、組織のパーパスを掘り起こし、共有することで、優秀な人材を惹きつけ、組織全体を向上させる役割を持ちます。

外部ステークホルダーとのコネクター

CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)は、組織が理想的な外部ステークホルダーと繋がることを保証することができると考えられます。パーパスとは、ブランドを結びつける糸でもあります。パーパスが組織の本質であるように、パーパスと経営戦略との一貫性が強いブランドを作り上げると、外部のステークホルダーは感情的に共鳴するブランドに集まり、収益を上げることができるという好循環を生み出すことができるのです。

一貫性のある意思決定者

本来、組織はすべての意識決定において、その価値観や信条とパーパスに基づいたものにしなければなりません。しかし、意思決定において考慮しなければならない多くの要素のうち、多くの組織では、パーパスの要素を置き去りにしがちです。

CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)は、ブランドがそのパーパスに忠実であることを保証し、一貫性や信頼性、そして消費者、従業員、投資家といったすべてのステークホルダーからの信頼を維持するために、人間的な意思決定を行うためのフィルターとしての役割を持ちます。

メンバーの結束を高める

チームメンバーもリーダーも、個性や考え方、アプローチによって対立することがありますが、組織においては、全員がブランドの信念と目標を共有し、団結しなければなりません。CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)は、このパーパスを達成するために存在します。

CPOが存在することで、パーパスを通じてチームの関係が強化され、効率が上がり、目標が達成されるようになります。人々が同じビジョンを信じているとき、人々はより強くつながり、その達成のために互いに協力し合うことになります。CPOは、そのビジョンのメッセンジャーであり、従業員に動機付けをするための管理者でもあるのです。

適切な肩書を持つリーダー

今日、組織におけるパーパスの重要性が高まっていることは、数え切れないほどの研究で明らかにされています。ブランド力、成長性、収益性、社会的責任/持続可能性においてパーパスが果たす役割が大きいことを考えると、パーパスの重要性を強調するために、リーダーの役割を再定義することは理にかなっているでしょう。

成功のためには、組織内のリーダーが、企業のパーパスと価値観の教育・実践に主体的に取り組む必要があります。リーダーの肩書きに「CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)」という言葉を当てはめることで、そのリーダーと組織に、あらゆる組織の原動力である「パーパス」を思い出させることができるのです。

CPOを雇うことができるかどうかにかかわらず、これらの責任は、すべての組織の将来にとって不可欠です。どんな組織でも、その経験のあらゆる側面にパーパスをうまく吹き込むことができれば、成功する可能性があるからです。

まとめ

ここまで紹介してきたCPO(チーフ・パーパス・オフィサー)の役割は、現時点では、人事、法務、日本企業においては経営企画など、組織内のさまざまな役職に広く分散しています。 しかし、企業戦略においてESG(環境、社会、ガバナンス)やサステナビリティの重要性が高まっているなか、 CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)にこれらの業務が集約される可能性があります。

企業内の各リーダーがパーパスに基づくカルチャーを醸成するとしても、もっとも影響度が高いのはCEOの声であることを考えると、本来はCEO自らがCPO(チーフ・パーパス・オフィサー)であるべきでしょう。実際に多くのCEOは、パーパスの重要性を理解しています。しかしながら、現状では多くの企業においてパーパスが根付いているとは言えません。

だからこそ、CEOだけでなく CPO(チーフ・パーパス・オフィサー)という役職を設置することで、効率的で多様なコミュニケーション手段をとり、意思決定を積み重ねることにより、パーパスを本当に根付かせることができるのではないでしょうか。社内外の環境の変化を捉え、具体的な戦略立案や施策展開に移せるようにしていきましょう。将来に通用する組織づくりを今日から始めるその一歩として、本記事が参考になれば幸いです。

参考

  • Person 鈴木 秀匡
    鈴木 秀匡

    鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2023/04/11
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