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企業組織に損失を与える「エイジズム」とは? 克服方法はあるか

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「高齢者は生産性が低い」

「自分の仕事は若者には任せられない」

組織では、このような年齢を理由にした偏見を多くの人が抱きがちです。

年齢だけを根拠にした偏見や差別は「エイジズム」と呼ばれ、高齢者雇用が広がる中では大きな課題のひとつになっています。

このエイジズムが原因で、人材の本来の力を活用しきれていない可能性もあるでしょう。

企業組織におけるエイジズムとはどのようなものなのか、またどう克服すれば良いかをみていきましょう。

若手チームとの連携を持ちかけたら・・・?

ハーバード・ビジネス・レビューのディレクターであるニコル D.スミス氏が、年上部下がいるチームにマネジャーとして就任した当初の出来事を、こう綴っています。

50代後半の年上部下と話し合いをしていたときのことです。

「ところで、提案があるのですが」

部下は少し警戒しながらも関心を示し、「話してください」と答えた。能力と勤続年数の長さという点で、彼がほかの従業員から一目置かれる存在であることは、チームを指揮するようになって日が浅い私にもわかっていた。そのため、彼の賛同を得られれば、ほかの従業員も自分の提案に耳を傾けるだろうと考えたのである。

「私たちはデジタルチームと連携し、彼らの仕事をもっとよく理解すべきだと思うのです」

「彼らは優秀かつ発想が斬新です。わたしたちをサポートし、次のレベルへと引き上げてくれることでしょう」

<引用:「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年9月号 p71-72>

20代が中心のデジタルチームとの連携に対して、この部下はどんな反応を示したでしょうか?

長い沈黙の後、彼はきまり悪そうに体を動かしてこう言った。

「彼らと一緒に働くことを強制するつもりではありませんよね」

<引用:「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年9月号 p72>

スミス氏はその後、50代・60代を中心とするこのチームの他のメンバーとも話し合いを重ねましたが、結果は同じようなものでした。

このチームのメンバーたちは、「部屋の向こう側にいる若手社員たち」と一緒に働きたいとは思っていなかったのです。また、若手社員たちもしばしば、年上の社員の技術的スキルや学習意欲を軽んじており、自分達の知識、洞察力、スキルが評価されず、成長や昇進から遮断されていることを陰に陽に嘆いていたといいます。

「エイジズム」とは

スミス氏はこの組織について、「エイジズム的な振る舞いが常態化した企業文化」と指摘しています。

エイジズムとは、年齢を理由にした偏見や差別のことです。広義には全世代での偏見や差別、狭義には高年齢者に対する偏見や差別をさします。

WHO(世界保健機関)はエイジズムについて、年齢を根拠にする「固定観念(=考え方)」「偏見(=感じ方)」「差別(=行動)」の3層があると指摘しています*1。年齢を理由にした解雇などは明らかな差別行動といえますが、そこまでいかずとも、年齢に対する「固定観念」「偏見」はそう簡単に乗り越えられるものではありません。

「今時の若者は」「どうせおじさんたちにはわからない」「これだから高齢者は」という言葉とは、わたしたちはなかなか無縁ではいられません。 しかしこれらの言葉は「エイジズム」を象徴するものでもあります。

エイジズムの根深さ

特に高年齢者に対するエイジズムは根深く定着しています。

スイスで行われた調査では、企業において全世代の53%の従業員が「高齢の社員はトレーニングが難しい」と信じています。

また、52%の従業員は「高齢の社員は挑戦的な仕事への興味が薄い」と信じていた、という結果が得られています*2。

また、スタンフォード大学のスーザン・ゴールデン氏によると、

  • 高年齢労働者の5人に3人が、職場で年齢差別を目撃したり経験したりしたことがあると報告している
  • 1年以内に職を失うことを懸念している人の3人に1人が、解雇の主な理由または副次的な理由として、年齢差別を挙げている
  • 高求職においては、高齢応募者の44%が、応募や面接の過程で年齢に関する情報を求められたと回答している

という調査結果もあるということです*3。

エイジズムが生み出す損失

こうしたエイジズムは、企業に損失をもたらすことがわかっています。

職場でエイジズムを経験している従業員は職場満足が下がり、そのことが抑うつの原因になり得るという研究結果があります*4。

さらにWHOの報告書では、このような研究結果も紹介されています。

エイジズムは従業員の心身に悪影響を与え、アメリカの1万人規模の企業では1年で約5000日間分の無断欠勤が生じ、約60万ドルの損失が発生しているというのです*5。

エイジズムを克服することはできるか

日本では高齢化の進行と人材不足によって、高年齢者の活躍が欠かせないものになっています。

よって、こうしたエイジズムによって上記のような損失が生まれることは避けなければなりません。

では、どのように克服すれば良いのでしょうか。いくつかの手法が示されています。

まず、中央大学の中島豊特任教授は、企業には「加齢=職業能力の劣化」という思い込みが強く存在する、としたうえで、

「ミドル人材に対して蓄積された能力に見合うような貢献を引き出すような場を与えていない」

ことが問題点であることを指摘しています*6。

日本企業特有の年功賃金は若手が不満を抱きやすく、エイジズムにつながります。

ミドル人材の貢献を引き出す場を提供することで、若手が感じる不公平感を拭う必要があるというのが中島氏の考えです。

また、冒頭に紹介したスミス氏は、エイジズムと戦ううえで大変なのは人々の振る舞いを変えることであるとしたうえで、言葉から変化させることを提案しています。

変化を起こすには、まず使う言葉を変えることから始めよう。若手や年配の従業員を表現する時に使われるコメントやジョーク、あだ名をチェックし、それがマイクロアグレッション(無意識の差別的な言動)に当たらないか、偏見や無神経さが含まれていないかを考えてみよう。

「古株」「ひよっこ」といったあからさまな表現は「ベテラン」「新米」といった婉曲表現同様、根絶すべきである。必要もないのに年齢に言及することも、争いの種になる。

<引用:「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年9月号 p74-75>

「ベテラン」という言葉はある意味では褒め言葉のように感じますが、これが年上社員から年下社員に向けたエイジズムに繋がる可能性は否定できません。

世代同士が磨き合い、全世代が責任感を持つ組織へ

さて、スミス氏は年配チームと若いデジタルチームとの連携をなんとか実現しました。その結果、最終的には年齢を気にすることなく働くようになり、「鉄は鉄によって研がれ、人は人によって研がれる」という格言を体現する存在になったといいます。

これらの話題を通して、筆者はあることを思い出しました。 新入社員研修の時の、ある先輩の言葉です。

「新入社員であろうと、会社の名刺を持った以上、社会的責任のあるひとりの記者だという自覚を持ってほしい。外の人からすれば、あなたたちが何歳であるかは関係なく、会社を代表して自分と接している存在だと認識している」。

確かに、顧客に向かって「こいつは新米なので大目に見てやってください」と言い放つ企業は、外からはどう映るでしょうか。組織の中ではそれぞれの従業員にスキルの差があることは避けられないとしても、それを顧客に押し付けるのは筋違いというものでしょう。

エイジズムの排除は、高齢者雇用を充実させるだけでなく、組織の健全さを外部に示すことにも繋がりそうです。

参考

  • *1 「Global report on ageism」WHO p2
  • *2 「Global report on ageism」WHO p26-27
  • *3 「ハーバード・ビジネス・レビュー」2022年9月号 p66
  • *4 原田謙、小林江里香「高齢就業者の職場における世代間関係と精神的健康」p308-310
  • *5 「Global report on ageism」WHO p55-56
  • *6 中島豊「ミドル人材の活躍推進のために何をすべきか─サービス・ラーニングによる企業の人材育成の可能性」
  • Person 清水 沙矢香

    清水 沙矢香 -

    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
    取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2023/04/20
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