経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
0 ty_keiei_t02_talent-keepers_221114 column_management c_organizationc_engagementc_book

タレント・キーパーズ:従業員エンゲージメント向上の鍵はリーダーシップの質にある

/news/news_file/file/t-20221114111540_top.png 1

アメリカで人事系の研修プログラムを提供するTalentKeepersのCEOクリストファー・マリガン氏と、同社の元バイスプレジデント(VP)だったクレイグR.テイラー氏の著書『Talent Keepers: How Top Leaders Engage and Retain Their Best Performers』では、従業員エンゲージメントを高め、離職を減らすためには、リーダーの質を上げることが最重要であると述べられています。リーダーの質を上げるために、何をすればよいのでしょうか? 本書の要点を紹介します。

従業員エンゲージメントはビジネスの必須条件

従業員の入れ替わりが激しいと、採用や研修などにかかったコストが無駄になるだけでなく、同僚を失うことでチームの士気も下がります。ビジネスを成功させるためには、従業員のエンゲージメントを上げ、長く働いてもらうことが必須です。本書では従業員のエンゲージメントを上げるポイントは、リーダーシップ戦略を改善し、リーダーの質を上げることにあると説きます。

本書の調査では、賃金の引上げ、福利厚生の向上、職務別トレーニングの追加提供などを実施するよりも、リーダーの質を向上させることに力を入れたほうが、従業員エンゲージメントが上がるという結果が出ています。しかし、それにもかかわらず、調査対象となった組織の半数以上(54%)は、従業員エンゲージメントと離職防止の分野において、リーダーの質を上げるための対策をしていません。

エンゲージメント向上に、従業員アンケートが効果的な理由

従業員の業績やエンゲージメントが低い、あるいは離職を決意した従業員からその理由を聞き出すために、多くの企業では面接やアンケート調査が実施されています。従業員アンケートによって、従業員エンゲージメントを向上させるためのアイデアや戦略を見つけられるかもしれません。
また、従業員アンケートの実施には、次のような効果も期待できます。

  • 組織が従業員を気遣っていることの証明になる
  • 従業員が自分の職場でなにが起こっているか報告する場(説明責任を実行する場)となる
  • 従業員の意見を知ることで、職場が行動指針(理念)に沿っているか確認する機会となる
  • 役割に関係なくすべての人からフィードバックを受ける機会を得られる

従業員エンゲージメント向上のために最も重要なのは、リーダーの質

組織が従業員エンゲージメント向上のためにできる効果的な戦略のひとつとして、本書では、従業員に「直属の上司に対する意見」を聞く調査の実施を提案しています。そこで登場する調査方法がLeadership Engagement Index (LEI)です。LEIは、その従業員に対して直属の上司がどれくらいよい影響を与えているか(エンゲージメントを引き出しているか)を知るためのアンケート形式の調査です。

調査結果は、直属の上司によって、十分に能力を発揮できている(エンゲージできている)チームメンバーの割合として表されます。著者によれば、LEIの高さは、チームのパフォーマンスの高さと強い相互関係があるといいます。
LEIでは、従業員が22の質問に答え、その回答をデータ分析することで結果を出します。例えば次のような質問に従業員がYESまたはNOで答えます。

  • 私の上司は、私に成功してほしいと思っている
  • 私の上司は、私の指導をするとき、具体的な事例をあげて説明する
  • 私の上司は、私が安定したキャリアと職業上の目標を達成することをサポートしている
  • 私の上司は、通常、私の同僚からの提案を受け入れている
  • 私の上司は、効果的にコミュニケーションをとることができる
  • 私は、私の上司から自分の功績が認められて満足している
  • 上司からのフィードバックと指導は、私のパフォーマンス向上に役立っている
  • 私の上司は信頼できる人である

LEIは一度だけではなく、定期的に調査することによって効果が出る調査です。LEIが高いリーダーは、ほとんどの場合、仕事のパフォーマンスも高く、特に顧客満足が関係する職種において顕著であると著者は言います。

従業員エンゲージメントを向上させるリーダーの例

LEIの結果を元に、リーダーは従業員をやる気にさせる上司になるためにトレーニングをします。従業員エンゲージメントを向上させるリーダーの例を見てみましょう。ここで挙げるリーダー像は、TalentKeepersで実際に行われているリーダー研修のコース名にもなっています。

信頼を築く人(Trust Builder):自分とメンバーの間に信頼を築くことができるリーダー。

コミュニケーター(Communicator):チームメンバーが働きやすいよう、積極的かつ思慮深く情報を共有し、高いパフォーマンスに不可欠な「知識」を与えることができるリーダー。

エスティームビルダー(Esteem Builder):チームメンバーに肯定感やプライドを生み出すことができるリーダー。

柔軟さの専門家(Flexibility Expert):個々のニーズや価値観を認識し、理解し、それに合わせて柔軟に対応できるリーダー。

開発者とコーチ(Developer and Coach):従業員が新しい知識とスキルを開発できる研修や指導を提供することで、プロフェッショナルな成長を促進できるリーダー。

ハイパフォーマンスビルダー(High-Performance Builder):チームメンバーのパフォーマンスレベルを強化するための訓練を実施できるリーダー。

雰囲気をつくる人(Climate Builder):誰もがチームの一員であると感じられる、まとまりがありコラボレーションしやすい関係を職場環境の中につくることができるリーダー。

ジェネレーションマネージャー(Generation Manager):さまざまな世代の人がいる職場で、それぞれの才能、スタイル、知識、経験を生かせるように調整できるリーダー。

才能を見つける人(Talent Finder):それぞれの仕事の特徴に合った人材を採用できるリーダー。

リテンションエキスパート(Retention Expert):チームメンバーとの関係を育み、エンゲージメントと満足度の変化を認識しながら、問題に対処するために積極的に措置を講じて離職を防ぐリーダー。

潤滑なコミュニケーションが鍵

理想のリーダー像を上に挙げましたが、どのタイプのリーダーにも共通して必要なのがコミュニケーション能力です。今後の発表、ポリシーの変更、新しい目標など、できる限りの情報を部下と共有します。そして何かを変更する前に必ずほかのチームメンバーに伝え、意見を聞くこと。リーダーだけで決めたルールに下の人たちを従わせようとすることは最大の間違いです。

従業員エンゲージメントを向上させる4つのポイント

世代、組織、業界が何であれ、リーダーシップの質が、絶対的で最もコントロールしやすい従業員エンゲージメントの推進力であると著者は述べています。しかし、著者が数百万件のアンケート調査結果をまとめたところ、ほかにも以下のように従業員エンゲージメントを向上させる要因があるようです。以下4つのポイントを充実させていきましょう。

  • 組織のビジョンやミッションが自分に合っていること
  • 仕事とキャリアの満足度
  • 同僚との関係
  • 信頼できるリーダーシップ

リーダー自身のエンゲージメントが組織に与える影響

なぜ、リーダーシップに焦点を当てると結果が出るのでしょうか? その理由は、新しいリーダーが、リーダーの仕事に慣れていないことが問題になっているケースが多いからです。リーダー自身がリーダーの仕事に慣れていないと、例えば、キャリア相談や、職場の雰囲気をよくするための調整など、従業員エンゲージメントを向上させるための施策が十分にできません。
本書では、リーダーが組織のエンゲージメントに与える影響をモデル化しています。その結果生じるチームメンバーの感情は以下の通りです。

リーダーのエンゲージメントが高く、組織的なエンゲージメントも高い

熱心:従業員はリーダーと組織に対して熱心になり、従業員エンゲージメントも高く、組織とリーダーを強く支持します。

リーダーのエンゲージメントが高く、組織的なエンゲージメントが低い

疑い:従業員はリーダーのことが好きですが、組織や上層部のリーダーに不信感を持ちます。

リーダーのエンゲージメントが低く、組織的なエンゲージメントも低い

批判:従業員はリーダー、組織、上層部のリーダーに批判的になります。

リーダーのエンゲージメントが低く、組織的なエンゲージメントが高い

退屈:従業員は組織全体には満足しますが、それ以上の努力をしたいと思いません。

リーダーは自分の影響力を過小評価せず、リーダー自身のエンゲージメントを向上させる必要があります。

エンゲージメント向上に役立つ「1on1ミーティング」のすすめ

「入社前に思っていた仕事内容と違った」「将来のキャリアパスがはっきりしない」「自分のスキルと仕事が合っていない」といった、仕事上の不満から離職するケースはどこの国にも多いようです。しかし、従業員が離職を決めてから、その理由を聞くための「退職面談」をしても、離職者を引きとめることは困難です。
それよりも、毎月(少なくとも四半期に1回)リーダーがチームメンバー全員と1人ずつ面談をして、仕事について考えていることを聞き出す1on1ミーティングを実施してみるとよいでしょう。面談を繰り返すうちに、メンバーの人となりや希望がわかり、彼らを組織に引きとめるために何をすればよいか見えてくるはずです。

リーダーのエンゲージメントが従業員のエンゲージメントを決める

工場で働く仕事や顧客と関わる仕事をする従業員(フロントラインスタッフ)の離職は、しばしばリーダー職の入れ替わりが原因となります。これは離職に限らずエンゲージメントでも同じです。リーダーのエンゲージメントが高ければフロントラインスタッフのエンゲージメントも高いことは、ほぼ保証されるといいます。

もしパフォーマンスが高く団結できるチームを作り、組織に有意義で前向きな変化を生み出したい場合には、上層部のリーダーがそのメッセージを具体的な施策に落とし込み、実行する必要があります。
そして、リーダー自身が高いパフォーマンスを見せているだけでなく、チームのエンゲージメントと定着率もリーダー職の評価と認められるべきでしょう。

エンゲージメント向上に取り組むためにデータを揃える

組織の長期的な成功のためには、やる気があり、安定し、熱心な従業員が不可欠です。そのためにリーダーの質を向上させることが必要であることは、ここまでに申し上げたとおりです。これはビジネス戦略であり、実際にリーダートレーニングやエンゲージメントに関する施策を導入するためには、ある程度、上級管理職の支持を得る必要があります。そこで必要なのがデータです。
組織として、おそらく離職率はすでに調べているはずです。リーダーごとのスタッフの離職率は割り出されていないかもしれませんが、手に入るでしょう。従業員が1人離職したときのコストも計算しておく必要があります。

しかし、それよりも説得力のある数字は「パフォーマンス指標」です。例えば本書では、従業員エンゲージメントの向上と離職防止により、カスタマーサービス66%、生産性62%、収益性37%、年間売上25%に、よい影響を与えたというデータがあります。このような数値を提示できれば、リーダートレーニングや、従業員エンゲージメントを向上させる重要性を組織内で理解してもらいやすくなるでしょう。

リーダーシップの質を向上させることの影響力を知る

組織のなかでリーダーシップの質を向上させることは、従業員エンゲージメントを高め、離職を減らすだけでなく、リーダー自身のエンゲージメントや自信にもつながります。その影響力は、想像以上かもしれません。従業員のやる気が出ない、離職が多い、チームのパフォーマンスが上がらないといった問題があるときには、リーダーシップの質を見直してみることをおすすめします。

用語解説

  • バイスプレジデント(VP):多くの場合、副社長と訳されますが、国・企業によって待遇や業務内容が異なる
  • リテンション……採用した人材を維持・保持すること

Talent Keepers: How Top Leaders Engage and Retain Their Best Performers
著者 Christopher Mulligan/ Craig Taylor
出版社Wiley; 第1版 (2019/4/16)
ISBN-10 : 1119558247
ISBN-13 : 978-1119558248

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/12/01
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事