経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
0 ty_romu_t20_social-insurance_221107 roumu c_keywordc_systemc_houritsuc_roumukanriauthor_kato

社会保険の適用拡大とは?人事や企業担当者が知っておくべき基礎知識や注意点

/news/news_file/file/t-20221107150738_top.png 1

社会保険の適用拡大は、2022年10月 から規模の小さい中小企業に向けても段階的に適用されるようになります。今回は、社会保険の適用拡大についての概要や適用拡大措置が各企業に及ぼす影響や変化、企業の担当者が気をつけるべきポイントについて、順を追って解説していきましょう。

社会保険の適用拡大とは何か

社会保険の適用拡大とは、会社の形態や社員の勤務形態などにより、これまで社会保険が適用されていなかった会社や労働者が、新たに社会保険の加入対象に含まれることをいいます。

法改正により何が変わるのか

社会保険の適用拡大については、すでに2016年の法改正 により実施されています。実施当初は、従業員数が501人以上となる規模の大きい企業に向けて適用拡大が開始されました。
今回行われた法改正では、この社会保険の適用拡大の対象となる企業規模が変更になりました。2022年10月以降には従業員数101人以上の企業が、2024年10月以降には従業員数51人以上の企業が、それぞれ適用拡大の対象に含まれることになります。

適用拡大の意図とは

国が社会保険を適用拡大する目的としては、より多くの労働者に社会保険に加入してもらうことで、手厚い保障を受けることができるようにする点が挙げられます。
少子高齢化の流れは加速し続けており、働き盛り世代の減少が社会問題になって久しい状況が続いています。また、労働人口が減少すると、納める社会保険料の額も比例して減少し、年金財政に悪影響を及ぼす可能性があります。
一方で、ワーク・ライフ・バランスや働き方改革の影響により雇用形態が多様化し、非正規雇用として働く女性労働者や高齢労働者が増加していることも事実です。

これらの問題に対応するため、社会保険の適用拡大が実施される運びとなりました。
社会保険に加入した際の利点としては、将来受け取ることのできる年金額が上乗せされることです。そして、病気や怪我が原因で仕事ができなくなった場合でも、生活保障のために一定の手当を受け取ることも可能になる点です。
この社会保険の恩恵をより多くの企業や従業員に受けてもらうため、今回の法改正により適用拡大の対象企業が拡大されたのです。

社会保険の適用拡大の詳細内容

社会保険の適用拡大に関する概要や目的を踏まえ、次は適用拡大とは具体的にどのような内容を指すのか、順に見ていきましょう。

適用対象

  • 週当たりの所定労働時間が20時間以上の者
  • 月額給与が88,000円以上の者
  • 2カ月を超えて雇われる見込みがある者
  • 学生ではない者

2022年10月以降に、新たに社会保険の適用対象となる者は、次のすべてに合致する短時間労働者(パートタイム労働者、アルバイト従業員)になります。

週当たりの所定労働時間が20時間以上の者

一週間あたりの所定労働時間が20時間を超える従業員がこれに該当します。なお、この要件は雇用保険の加入要件でもあるため、あわせて覚えておきましょう。
なお、この所定労働時間とは、就労を開始する際に交わした雇用契約で定められている時間を指します。つまり、たまたま残業をしてしまったことで、週当たりの労働時間が20時間を超えた場合などはこれに該当しません。
ただし、契約当初に「週あたり20時間未満」として雇われた労働者の場合でも、実働時間が週あたり20時間を超えるケースが2カ月間続き、今後もその状況が変わらないと予測される場合は、3カ月目に入った時点で社会保険の適用対象となりますので注意しましょう。

月額給与が88,000円以上の者

月々の残業手当や通勤費などの手当を除き、純粋に給与のみで算出した金額が88,000円以上になる従業員がこれに該当します。

2カ月を超えて雇われる見込みがある者

日雇労働者や2カ月以内の短期で雇われる従業員については、所定労働時間や月額給与の要件をクリアしていても、社会保険の適用対象外となります。
ただし、一回の契約期間が2カ月以内であっても、雇用契約書や就業規則などに契約の更新を行う可能性がある旨が記されているケースや、同じ待遇で2カ月を超えて働いている従業員がいるケースなどは、実質的には2カ月超の雇用契約であると判断され、社会保険の適用対象になります。
なお、この場合の適用期間は、雇用契約が交わされた当初、つまり雇用契約書に記載された「契約開始日」になります。

学生ではない者

大学生アルバイトなどは社会保険の適用対象外となります。ただし、卒業する前に雇用契約を交わしており、卒業後もその会社で働き続ける場合などは社会保険の適用対象となるため注意が必要です。

従業員のカウント方法に注意!

社会保険の適用拡大を理解する上で重要なポイントとなるのが「従業員のカウント方法」です。
従業員のカウントとは、社会保険の適用拡大の対象となる従業員の数を数える行為をいいます。カウント方法は、さまざまなルールが入り組んでいるため、順に見ていきましょう。

カウント対象となる従業員とは

まず、カウントが必要となる従業員についてです。
一般的に「従業員」というと、社内で雇われている正社員の他、契約社員や嘱託社員、パートタイム労働者、アルバイト、臨時の雇用者など、雇用形態にかかわらずすべての者を指します。しかし、今回カウントする必要がある従業員数は、「フルタイム勤務の従業員」と「週あたりの労働時間がフルタイム勤務者の4分の3以上の従業員」の合算で割り出します。
なお、今回カウントを行うのは「社会保険」へ加入する従業員を指しますので、雇用保険のケースのように事業場ごとにカウントを分散する必要はありません。同じ法人番号の会社で雇われている従業員であれば、すべて合算することになります。

カウントのタイミングはいつか

従業員のカウントについては、今回社会保険の適用拡大についての詳細が制定された「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要」という法律上では、「会社が自主的にカウントのタイミングを判断する」とされていますが、毎月従業員数に変動がある会社の場合は、いつカウントをすれば良いのかが難しいのではないでしょうか。
カウントのタイミングにおけるポイントは「直近1年間のうち、その半数の6カ月以上の月で社会保険の加入要件を満たす場合は、カウントに含める 」ことです。また、いったん社会保険の適用対象となった会社は、その後のカウントで適用従業員数に満たなかった場合でも、引き続き適用が行われる点に注意が必要です。

適用拡大による企業や従業員への影響

社会保険の適用が拡大されることで、企業や従業員にどのような影響があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

企業への影響

社会保険の適用対象拡大により、より多くの企業や従業員が適用対象となります。これによる企業への影響として、まず対外的なイメージアップが挙げられます。
特に非正規雇用者にとっては、安定した保障を受けられる社会保険に加入できるか否かは、死活問題です。
また社会保険の適用拡大に対応している企業には、社会保険へ加入を希望するより多くの求職者が集まる可能性があります。
そして既に働いており、これまで適用対象外であった非正規社員等にとっても、新たに社会保険の加入対象になることで、仕事に対するやる気が増大し、キャリアアップへとつながる可能性が考えられます。優秀な人材を新たに発掘するきっかけになる場合もあるでしょう。

一方、注意しなければならない点としては、企業側の社会保険料の費用負担が増加することです。社会保険は、企業と従業員が毎月折半負担をして納めるものです。社会保険の加入対象者が増加することで、コストがかかる点についてあらかじめ検討を重ねておく必要があります。

従業員への影響

社会保険の加入対象者となった従業員は、まず健康保険や厚生年金保険による保障を受けられます。健康保険は、仕事外の場面での病気や怪我により会社を休まざるを得なくなった場合や、出産・介護により休業が必要となった場合などに、一定額の金額を受けとることができる制度です。そして、厚生年金保険については、会社などで働く者のための、所得額に比例した年金制度で、後ほど支給される年金額に上乗せした金額が支給されるシステムです。社会保険加入によりこれらの制度の対象となることで、より安定した生活を送ることができます。
また、これまでは配偶者の扶養の範囲内で働いていた従業員についても、社会保険に加入することで扶養の基準額にとらわれることなく、自身のペースで働くことが可能になります。

一方、気をつけるべき点は、企業側と同様に社会保険料の負担額が発生する点です。特に、これまで扶養の範囲内で働いていた従業員は、新たに自身の給与額から算出される健康保険料(介護保険料)、厚生年金保険料の負担が必要になりますので、事前に社会保険の加入前・加入後の金額でシミュレーションを行うことをおすすめします。

社会保険適用拡大の導入スケジュール

ここからは社会保険の適用拡大を前にして、企業や従業員それぞれの導入スケジュールを手順に沿って述べていきます。

適用前の準備

適用拡大後、社会保険に加入する従業員がいる場合、保険料負担によるコスト増や人事担当者の作業負担増加が予想されます。また、現在は社会保険の加入対象がいない場合でも、未来に向けて準備や検討の必要性があるでしょう。
特に規模の小さい中小企業の場合、社会保険料の負担増加に耐えられるかどうか、担当者だけで作業が賄えるのかなどを事前に検討する必要があります。コストが増えることに対してどのような対策を取るか、また実際に人事担当者が行う作業を洗い出し、マニュアルにしておくなど適用拡大に向けて備えておきましょう。

加入対象者のカウント・保険料額の算出

適用に向けた準備が整ったところで、次は社会保険の加入対象者を割り出します。すべての従業員の雇用形態や給与、実働時間を確認し、一人ずつ対象者か否かを洗い出していきましょう。
そして、加入対象者となった従業員ごとに社会保険料を計算します。社会保険料は、従業員の月ごとの給料額を等級に分類する「標準報酬月額」をもとに、年度ごとに定められた保険料率を乗じて求める方法を取ります。

加入対象者への内容周知

社内体制が整ったところで、次は社会保険の加入対象となった従業員に対し、社会保険適用拡大の概要や法改正の制度内容を周知し、理解を求めます。
正しい内容を周知するためにも、社内で社会保険適用拡大の情報を正しく理解し、把握しておく必要があります。周知の方法は、社内掲示板やメールなどの方法がありますので、社内の状況に応じて対応していきましょう。

従業員ごとに内容の確認

社会保険の加入対象となった従業員は、原則として本人の意思にかかわらず自動で加入者として扱われます。ですが、従業員の中には社会保険への加入をためらう者がいるかもしれません。
そこで、社内で社会保険適用に関する周知を行った後の段階で、対象者ごとに説明会や面談を実施し、自身が社会保険の加入者である旨を理解してもらった上で、今後の働き方などについて話し合いを行います。

社会保険の加入手続きを取る

新たな社会保険の加入者とのコミュニケーションが一通り取れた段階で、実際に社会保険へ加入するための手続きを行います。
加入の手続きの際には、従業員の個人番号や年金番号などの情報が必要になりますので、あらかじめ入手しておく必要があります。届け出の方法は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を届け出ることで行いますが、昨今では郵送や電子申請による方法もありますので、効率よく届け出ができる方法を検討しましょう。

まとめ

社会保険の適用拡大の概要や流れについてお分かりいただけましたでしょうか。国からは、中小企業の適用拡大対応を後押しするための方策として、「キャリアアップ助成金 」の支給や「中小企業生産性革命推進事業 」による補助金優先対応などのサポート体制を整えています。自社内での対応が難しい場合は社会保険労務士などの専門家を頼る方法もありますので、一度社内で検討してみてはいかがでしょうか。

  • Person 加藤 知美

    加藤 知美 社会保険労務士

    総合商社、会計事務所、社労士事務所勤務を経て「エスプリーメ社労士事務所」を設立。
    総合商社時代は、管理部署の長として指揮を執り苦情処理に対応。人事部と連携し、数々
    の社員面接にも同席。社労士事務所勤務時代は、顧問先の労務管理のかたわらセミナー講
    師としても活動。

  • 労務・制度 更新日:2022/11/16
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事