経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
1 ty_keiei_t06_event-report_221003 column_management c_organizationc_japanhrtvc_managementauthor_jimbo

チームの心に火を灯す

/news/news_file/file/t-20221003122958_top_2.png 1

「部下や社員のモチベーションが上がらない」「自分で課題を考えて自律自走してもらうには、どんな言葉をかけるべきか」……。このような悩みを抱える経営者・役職者の方は多いと思いますが、問題の根本は、部下や社員の「心の火が消えている」ことにあるのかもしれません。

この見えない問題を解決する手法が「トーチング」です。本記事は、トーチングという手法を用いて社員やチームの心に火を灯すための方法について解説します。

上司と部下の「悩みのズレ」ありませんか?

社員やチームの心に火を灯すための「トーチング」における基本姿勢について知る前に、まずは経営層やマネジャー(管理職)からよく寄せられる、以下の悩みについて考えてみましょう。

  • 多くの部下のモチベーションが低く悩んでいる。
  • 上司として、どんな言葉を部下に投げかければ、部下が自分で考え、自律自走してくれるのか?

対して、部下(現場で働く社員)から寄せられることの多い悩みも見てみましょう。

  • 一人ひとり、性格も生い立ちも違うのだから、「部下」と一括りにしないで私個人に興味を持ってほしい。
  • アドバイスをくれるのは嬉しいが、まずは私の悩みを聞いてもらわないと、自分の状況に合った解決策にはならない。
  • 自分で考えられるようになるための教育もありがたいが、今は自分のこの悩みに対して一緒に向き合って考えてくれた方が助かる。

この悩み相談の時点で、すでに双方には大きなすれ違いが生じています。

まず、上司は「多くの“部下”のモチベーションが低い」ことを悩む一方、部下は「“私個人”に興味を持ってほしい」と感じています。つまり、「多くの部下」という主語を使っている上司と、「私個人」に興味を持ってほしい部下とでは、そもそも悩みの対象に大きなズレが生じているのです。

また、「“自分の言葉”をどう投げかければいいのか」に注目している上司と、「“私の悩み”を聞いてもらいたい」と思っている部下とでは、こちらも双方の認識にズレが生じています。

さらに、上司は部下に「自分で考えて行動してほしい」と思っている一方で、部下は自分が抱える特定の悩みに一緒に向き合ってもらいたいと思っています。

社員やチームの心に火を灯すには、まずはこれらの認識のすれ違いを理解したうえで、次に紹介する「心に火を灯すための3つの基本姿勢」を持つことが欠かせません。

心に火を灯す「トーチング」における3つの基本姿勢

トーチングによって社員やチームの心に火を灯すための、3つの基本姿勢について解説します。

1.一人ひとりに寄り添う

上司・先輩の立場にある方々は、部下のことを「部下」と一括りに捉えていることも少なくありません。 しかし、そもそも「部下」という名前の部下は誰一人として存在しません。上司・先輩社員が向き合うべき人は、「部下」ではなく、目の前にいる〇〇さん、△△さん、□□さんという「個人」なのです。 社員やチームの心に火を灯すには、まずは「一人ひとりに寄り添うこと」が最も大切です。

2.「自分の言葉」ではなく「相手の悩み」を主役にする

上司・先輩社員は「自分がどんな言葉を相手に投げかければ、相手の心に灯が灯るのか」と自分視点で考えるのではなく、「〇〇さんが心に火を灯せていない理由は何なのか」と、相手の悩みに興味を持つことが大切です。

自分の言葉が主役ではなく、相手(部下の〇〇さん)の悩みを主役にして考える姿勢を持ちましょう。

よく目にする光景として、仕事終わりに社員同士で居酒屋に行き、上司が部下に対して「何か悩みごとがあれば、自分に相談してほしい」といって悩みを聞くシーンがあります。最初は上司も部下の話を聞いているのですが、徐々にお酒も進むと「自分はそんなことでは悩まない」「自分が若い頃は、そんなことはこうやって解決した」と自慢話をされたり、悩みをねじ伏せられたりしたという経験がある方もいると思います。

これは「相手の悩みが脇役、自分の言葉が主役」という、トーチングの基本姿勢とは真逆のアプローチです。これでは、相談者の心に火を灯すどころか、相談者の心の火を消してしまうことになりかねません。

3.相手の悩みを自分事として捉え、相手以上に相手の悩みに向き合う

「相手が自律自走するためにどうすればよいのか」から考えるのではなく、まずは「自分が相手の立場だったら悩みにどう向き合うか」を全力で考えることが大切です。

「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、まずは「相手の悩みを自分も一緒に味わう」というスタンスで向き合うことで、相手の心を開いて火を灯せる可能性を広げられます。

チームの心に火が灯った、ユニクロの実例

チームの心に火を灯した実例として、当時ユニクロで物流部門の役員として就任した際のエピソードを紹介します。

当時のユニクロは物流機能がパンクしていた

2016〜2017年当時のユニクロでは、物流部門の機能が完全にパンク状態にありました。商品をECサイトで注文しても顧客の手元に届くまでに何週間もかかるという状況であり、中には倉庫で顧客の注文した商品が行方不明になって届かないといった事態も起こっていました。

コールセンターには顧客からのクレーム電話が朝から晩まで鳴り、物流機能の改善は社内の優先経営課題といわれていました。

このように経営そのものが危ぶまれ、週刊誌にも当時の状況が批判されていたなかで、物流に関して未経験の私が、物流改革のために役員として就任しました。

一人ひとりの悩みに寄り添うことから始めた

物流部門を立て直すために、最初に取り組んだことが「社員一人ひとりに寄り添い、一緒に悩みと向き合うこと」でした。

日々、国内外を問わずにミーティングやトラブル対応に追われる中で、毎週金曜日の午後の時間の一部だけは他の業務を一切断り、「仕事だけでなく、職場の人間関係やプライベートの相談までできる面談の時間」を確保。この時間を利用して、社員一人ひとりと話しながら、心に火を灯すための1on1を応募制で開始しました。

砕けたメールで1on1への応募者を募った

一定の時間を確保し、役職や立場に関係なく1on1の機会を設けたものの、「役員との面談」という場に対して緊張感や警戒心を持った社員がほとんどで、当初は誰一人として応募が来ませんでした。

そこで、悩み相談に応募する部下の「心のハードル」を下げることを目的に、砕けた内容のメールを作成して約400人の全部下に送信しました。

結果として、はじめは、社員に声をかけて悩み相談に乗っていた1on1が、次第に声をかけなくても社員自身から「相談したい」という声が上がるようになっていったのです。

部下の悩みにひたすら伴走することで起きた変化

では、実際にそれらの悩みや困りごとに対して、どのように向き合っていったのでしょうか。

例えば「他部署の役員のところへ物流トラブルの原因を報告しに行く……」という部下がいれば、私も一緒に同行し、一緒に他部署の役員に謝りながら、問題の原因を詳細に聞き出し、根本的な原因を部下と一緒に考えました。

このような取り組みを継続しているうちに、「いま部門内で起こっている課題の根本的な原因は何だろう?」、「その原因に対して、どのような打ち手を講じればよいのだろうか?」といった会話が物流部門の中で増え始めました。

また、課題の根本的な原因や解決策を考えていくと、そもそも物流部門はその前後の商流とつながって初めて成立する部門であり、物流部門単体で努力をしても根本的な問題解決には至らないことがわかりました。そこで、物流部門の考える課題の根本的な原因・解決策を他の部署へも提示して協力をお願いするなど、自分たちの考えを自分たちの言葉で伝えられるようになっていきました。

また、部門内での集まりや飲み会などでは、「相談したら親身になって聴いてくれた」「一緒に会議に同行してくれたから丸く収まった」といった口コミが広がり始めます。1on1や業務同行などに関する良い口コミが広がることで部下からの悩み相談の数も増加してきました。

そして、「部下の悩みを集める」ことを何か月も続けていった結果、組織全体に関わる課題や社員を悩ませている「負の仕組み」が徐々に見えてきました。

部下が問題を「自分事」として捉えるように

悩みの原因や負の仕組みの正体がわかってくると、ある程度の方向性を示しながら、悩みの当事者である部門内の多くの社員へ声をかけ、改善に向けて協力をお願いすることができるようになります。社員としても、部門内の悩みや困りごとを自分事として捉えることができるようになり、当事者意識を持って改善に向けて取り組めるようになっていきました。

そのような社員を増やしていくことで、元々は愚痴に近かった悩み相談が、組織の変革につながるような相談に変わっていきました。

このような形で、社員自身が自律自走できる状態にまで成長していくと、社員間での学び合いも起き始めます。こうして、社員から社員へと聖火リレーのように心に火が灯り出し、加速度的に組織全体へと広がっていきました。

組織の根本的課題の発見と解決

部下の心に火が灯っていくなかで、悩み相談を繰り返すうちに、悩みの根本的な原因がすべて組織の「負の仕組み」にあることがわかりました。

当時、物流のオペレーションは、そのほとんどを人力に頼ったアナログな方法が採用されていました。これでは、毎年新規国に出店して急速に事業拡大していた当時のユニクロの物流において、品質・コスト・生産性の水準を保つことは難しいでしょう。物流機能のパンク改善は、機械化による「自動倉庫」を取り入れなければ難しいという結論に至りました。

実は、当時の物流部門の社員は自動倉庫での業務経験がなく、導入には及び腰でした。しかし、社員の悩みを繰り返し聞いていくプロセスを経て、負の仕組みが明らかになっていったことで、社員自身が「自分の悩みを解決するには自動倉庫を導入するしかない」と、自分事として課題に向き合い、大幅な業務改善につながりました。

相談に乗るとき、「部署の課題解決」や「会社の課題解決」を無理やり自分事にさせるのではなく、「元々自分事である悩みの解決に対して一緒に取り組む」という姿勢を維持したことで、結果的に社員の自律自走につながったのです。

課題解決に寄り添う「プロジェクトディスカッション」

現場を伴走する以外にも、社員の課題解決に寄り添う仕組みとして「課題解決に寄り添うプロジェクトディスカッション」を導入しました。火曜日・水曜日の午前中4時間ずつを部下の課題解決に寄り添う時間として確保。特に重要なプロジェクト約20個について、それぞれ各15〜30分ずつ時間を取りながら、担当者や関係者が入れ替わり立ち代りし、1,000本ノックのような形で悩み相談に乗りました。

加えて、毎週のディスカッションの記録を残して、各プロジェクトの進捗状況に対して通知表(〇△×)を毎週つけ、平均点を出しました。ウィークリーで通知表を部下にフィードバックすることで、部署内でどのプロジェクトが進んでいて、どのプロジェクトが停滞しているのかがすべてクリアになりました。

また、フィードバックの内容は社員全員が覗けるようにし、役職に関係なく全員に進捗や評価を毎週共有する仕組みをつくりました。部門内には経験豊富な社員がたくさんいるため、各プロジェクトを自分事として捉えられ、さまざまな提案が上がってくるようになっていきました。

心に火が灯る順番とは

社員やチームの心に火を灯すには、「①一人ひとりの悩みを欲しがる」「②悩みの中からチームの登る山を定める」という順番を守ることが大切です。それぞれどのように進めればよいのか、解説していきます。

1.一人ひとりの悩みを欲しがる

社員やチームの心に火を灯すためにまず取り組むべきことが、一人の部下の悩みをとにかく欲しがること。つまり、相談に乗ることです。一人の悩みに対して相手に寄り添い、全身全霊で悩みと向き合いましょう。 悩みの相談に乗りながら一人の部下と向き合うことで、その部下を悩ませている背景にある「負の仕組み」が見えてきます。そして、悩みの解決に向けての方向性をその部下に示しながら「負の仕組みを一緒に変えよう」と巻き込むことできます。

自分の悩みに対しての解決の糸口が見えることで、部下が負の仕組みを自分事として捉えることにつながっていき、負の仕組みの解決に向けて真剣に取り組んでくれるようになります。

部下に徹底的に伴走することで、その部下がミーティングや食事の時に「●●さん(上司)が自分の悩みに向き合ってくれた」「徹底的に伴走してくれた」と話してくれれば、口コミから自然と「自分も●●さんに相談してみよう」と、部下の悩み相談が増えていき、悩みを手に入れるための環境が整います。

悩み相談の数が増えれば増えるほど、悩みの中から「チームや組織全体を苦しめている原因はここにある」という組織全体における根本的な課題が見えてくるようになります。

2.悩みの中からチームの登る山を定める

組織全体を苦しめる根本的な課題が見えてくると、原因に悩まされているのは自分の部署だけではなく、他部署の人たちも同じように苦しんでいることがわかります。

すると、課題解決に向けて他部署の人たちも巻き込んで「当事者として一緒に解決しませんか?」と協力をお願いすることができるようになり、負の仕組みの改革に参画してくれるメンバーが集まりやすくなります。当然、メンバーが増えれば増えるほど、解決できる課題の範囲や規模も広がっていきます。

課題解決の道筋が見え、さまざまな悩みの根本的な解決を一人ひとりが自分事として捉えられるようになると、結果的には「心に火が灯ったメンバーが自律自走しながら課題解決をしてくれる」という流れを生み出せます。

心に火を灯すために「悪口」を活用する

「一人ひとりの悩みを欲しがる」ことが大切とは言うものの、実際には悩みは集まらないのではないか? 本音で話してくれないのではないか? と考える経営層や上司の方々もいるでしょう。むしろ、「悩みよりも悪口が出てくるばかり」と悩むケースの方が多いかもしれません。

例えば、以下のような悪口が社員から上がってくることは、多くの企業が抱えている悩みではないでしょうか。

  • 上司が尊敬できない。上の人に対してごまをするばかりで、会社はなぜそういう人を出世させるのか理解できない。
  • 人事は結局、人事異動の采配しかしていないように見える。本当の人事課題を解決してほしい。
  • 経営陣には「軸」がないように思える。経営方針が毎年コロコロ変わり、どこに進みたいのかよくわからない。

確かに、社員からのこのような悪口を聞くことは決して気分の良いものではありません。しかし、最初から「悩み」として現れることは意外と少なく、むしろ悪口として自然と出てくることの方が多いものです。まずは「悪口≒悩み」だと捉えて、「悪口の中に、チームの心に火を灯して経営を変革する火種を探しに行こう」という考え方を持つことが、社員やチームの悩みを見つけ出す一歩目となります。

建設的な悪口を欲しがる

また、悪口の中でも、以下のような「建設的な悪口」を欲しがることが心に火を灯すためには重要です。

  • 上司が本部への報告業務で手一杯に見え、現場社員と話す機会をあまり持てていない。その結果、指示が一方的に見えてしまう。そこで、上司と現場社員の間で重複している業務を洗い出し、報告業務の一部は現場社員でも対応できるように変更することで、上司がより現場に入り込めるような体制に変更してほしい。

悪口を忌み嫌うのではなく、まずは悪口を欲しがり、上記のような建設的な悪口を聞き出すことが、組織の根本的な課題解決の糸口につながっていきます。

「険悪な」サーベイを「建悪な」サーベイに変える

現在「360度サーベイ(360度評価)」を評価方法として取り入れている企業も多いでしょう。しかし、さまざまな企業の人事担当者の話を聞くと、この360度サーベイによって社員の心の火が消されているのではないかという声が多数上がっています。それはなぜでしょうか。

360度サーベイによって吸い上げられた評価(コメント)が辛辣であったり、自身が想定していない領域からのコメントが多かったりすることで、他者からの評価がただの悪口になってしまっているためです。

そうなると、評価される側は定期的に訪れる360度サーベイに恐怖してしまったり、どのように受け止めればいいのかわからなくなったりしてしまい、チームや組織が「険悪な」雰囲気になってしまいます。

そこで活用できるのが、「険悪」ではなく「建設的」な悪口を取り入れた360度サーベイ、つまり「建悪な360度サーベイ」です。建悪な360度サーベイでは、最初に社員から「困っていること」「面倒なこと」といった困りごとをできるだけ多く挙げてもらいます。

そして、社員から集まった困りごとを吸い上げ、それを経営者や人事担当と共有した後に、社員の方々に対してフィードバックを行います。

フィードバックの際には、より建設的な悪口を言ってくれた社員をピックアップしたり、建設的な悪口の内容を経営変革に繋げるためのアドバイスをしたりすることで、全社員への教育や現場と経営層の橋渡しに繋げることができます。

このようなフィードバックを全社員対象に繰り返すことで、ただの悪口が次第に建設的な悪口に変わり、「悪口 → 悩み相談 → 課題発見 → 解決」という、チームが自律自走するための循環を作り上げられます。

チームが自律自走することで、チームや社員の心に火が灯ってさらなる好循環が生まれ、より強固なチームへと成長します。

まとめ

チームの心に火を灯すには、部下を「部下」と一括りにせず、一人ひとりにしっかりと寄り添い、悩みを自分事として考えながら、解決できるように伴走していくことが何よりも大切です。ぜひ、今回紹介したトーチングの手法を取り入れて、社員のモチベーションアップや組織の課題解決を目指してみてください。

  • Person 神保 拓也

    神保 拓也 株式会社トーチリレー代表取締役

    1981年、神奈川県横須賀市生まれ。
    中央大学経済学部卒業後、三菱UFJ銀行、外資系コンサルティング会社を経て、ユニクロの親会社であるファーストリテイリングに入社。
    平社員としてキャリアをスタートし、人事部でのグローバル人材の採用や、社内経営者育成機関の立ち上げ・運営の実績を評価され、35歳で史上最年少の執行役員に抜擢される。
    様々なメディアに「危機的状況」と評された物流の改革責任者に、業務未経験ながら就任し、倉庫の自動化を中心とした構造改革をわずか2年で実現。同社を「物流のデジタル化に取り組む最先端企業の1社」と言われるまでに変革し、その成果から全社改革の責任者も任される。
    その後、自らの半生を振り返り、部下・同僚・チームの悩みに向き合うことが、自身の成長にも、組織の成長にもつながると確信。その経験から「人に寄り添い、悩みに一緒に向き合う」をコンセプトとした株式会社トーチリレーを2020年に設立。心に火を灯す「トーチング」面談や、企業の悩み相談、講演会などのサービスを提供し、「心の聖火リレー」を広げていくことを提唱している。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/10/14
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事