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育児・介護休業法とは?人事・採用担当者がおさえておくべきポイント・注意点

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育児・介護休業法は、1992年に施行された「育児休業法」が1995年「育児・介護休業法」として改正されて以来、労働者が仕事と子育て・介護などを両立できるようにするため、複数回の改定を経て支援制度の充実が図られています。しかし実際に従業員がその制度を利用するためには、数々の手続きが必要となります。
本記事では支援制度の概要と、従業員の妊娠・出産から仕事復帰後までの間に人事・総務が行う手続きと注意点を解説します。

育児・介護休業法の趣旨

育児・介護休業法の正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 」(以下、「法」という)といいます。この法律が制定された目的は、少子高齢化で労働人口が減少する中で、労働者が育児や介護をしながらでも働き続けることができるように、企業が職場の環境を整えていくことにあります。そして法で定められた制度のひとつに育児休業があります。

育児休業とは

育児休業とは、労働者が子どもを育てる目的で法律上決められた一定期間取得できる休業制度です。
育児休業を取るための条件は、原則として1歳未満の子を育てている従業員です。ただし以下の場合には、育児休業の期間を延長できるケースがあります。

  • パパママ育休プラス:子が1歳未満の期間中に本人と配偶者がともに育児休業をする場合は、1歳2カ月まで休業の期間延長が可能。
  • 子が1歳になった時点で、保育園に入れないなどの事情がある場合は、最大2歳になるまで期間延長が可能。

育児休業の取得要件について、次の事項も確認が必要です。

  • 有期雇用契約を結んでいる従業員が育児休業を利用する場合、従来の条件に加えて「子が1歳6カ月までの間に契約期間が終了しないこと」の条件を満たすことが必要です。
  • 次のいずれかに該当する従業員は、労使協定を結ぶことにより育児休業の適用除外になります。
    (1)入社してから1年未満の場合
    (2)従業員の雇用契約期間が、育児休業申請日から1年(ただし1歳以降の休業の場合は6カ月)以内に終了する場合
    (3)従業員の所定労働日数が週2日以下の場合
  • 日雇いで労働契約を結んでいる従業員は、育児休業の取得ができません

育児休業と育児休暇の違い

育児休業は法で決められた制度です。そのため、育児休業を取得できる従業員が申請した場合、企業側はこれを拒むことができません。
一方育児休暇は、従業員が育児に参加するため企業が独自に設ける休暇を指します。例えば子どもの行事参加休暇などが該当します。取得条件は小学校入学前の子がいる従業員で、この休暇制度は法により努力義務の扱いになります。休暇中の賃金は有給、無給どちらでも可能ですが、就業規則に明記する必要があります。

2022年育児休業の改定内容

2022年4月に育児休業法の改定がありましたが、10月にも大幅な改定があります。4月の改定された内容と、10月より改定、施行される内容は以下になります。

2022年4月施行の改定内容

育児休業の利用促進をはかるための施策をする

企業は従業員に対して育児休業の利用を促進する目的で、次のいずれかを行うことが義務化されました。

  • 企業が育児休業の取得を促進する旨の方針を明示する
  • 育児休業をはじめとした育児支援制度を周知するための研修を行う
  • 育児休業、育児支援制度に関する社内相談窓口を設ける
  • 社内で育児休業を取得後、職場復帰した従業員を事例にした情報提供を行う

制度に関する周知と育児休業の取得意向を個別確認する

本人または配偶者である従業員が、企業に妊娠や出産の申し出をした場合、企業は従業員に対して育児休業や産前産後休業など妊娠時や出産後に利用できる関連制度の説明・周知を行い、育児休業の取得意向を確認する必要があります。制度に関する説明・周知、確認の方法は面談や文書の交付(FAX)などがあります。本人が希望した場合は、電子メールでの確認も可能です。以前からすでに上記の説明や確認を行っている企業も多いですが、改定後は義務化されたので説明する内容に漏れがないか再度チェックしてみましょう。(チェックは後述した「育児休業の制度などのご案内」で可能)

有期雇用労働者の育児休業の取得条件の緩和

有期雇用契約の従業員が育児休業を取得できる条件は、改定前では次の2つの条件を両方満たす必要がありました。
(1)入社後1年以上雇用されていること
(2)契約期間は子が1歳6カ月までの間に終了しないこと

しかし改正後は(2)の条件のみ満たせば育児休業の取得が可能になります。
ただし(1)の条件については労使協定を結ぶことにより、改正前と同じく育児休業の取得条件に加えることができます。

2022年10月施行の改定内容

出生時育児休業(産後パパ育休) の新設

産後パパ育休は、育児休業とは別に取得できる男性従業員を対象とした休業制度です。取得時期は子の出生後8週間以内で取得可能日数は最大4週間まで。その間で2回に分けて休業することも可能です。
産後パパ育休を取得する場合は、原則休業の2週間前までに申請し、2回に分割して取得する場合は初回の休業時に2回分をまとめて申請します。また労使協定を結ぶことにより、労働者が合意した範囲で休業中に働くことが可能になります。なお、この制度の施行によって従来のパパ休暇は廃止されます。

育児休業を2分割で取得可能

これまで育児休業の取得回数は原則1回で、分割して取得することは不可能でした。
しかし今回の法改定により、育児休業期間中2回に分割して取得ができるようになります。
育児休業を分割して取る場合は、1回目と2回目の休業時にそれぞれ申請が必要です。
また、保育園に入園できないなどの事情で育児休業を延長する場合、これまで育児休業の開始日は1歳、または1歳半の時点のいずれかに限られていましたが、1歳または1歳半の時点に限らず、例えば1歳2カ月から、1歳8カ月からでも取得が可能になります。
さらに、子どもが1歳以降の育児休業は再取得不可でしたが、特別な事情がある場合は 再取得が可能になります。

人事・総務担当者の実務留意点

法改定により企業の人事・総務担当者が行う実務の内容とポイント、注意点について説明します。

法律と改定の内容を理解する

育児・介護休業法の趣旨や内容を理解するとともに、今回の改定事項の確認も必要です。厚生労働省から育児・介護休業法に関する解説が記載された冊子や、法改定の情報をわかりやすく説明したパンフレットが配布されているので、ダウンロードして情報を入手しましょう。

就業規則を変更する

法改定に合わせて就業規則の変更が必要です。10月1日の改定施行に間に合うよう就業規則を変更し、所轄の労働基準監督署に変更届、労働者代表の意見書、改定前と改定後の条文が比較できる文書を添えて提出しましょう。提出は直接来所するほか郵送や電子申請が可能です。

育児・介護休業法はこれまで度々改定されており、その都度就業規則の変更、届出が必要となります。ですが、一部の企業では変更がされておらず、内容が古いまま運用されているケースが目立ちます。原因は社内に育児休業や介護休業を申請する社員がいない、規程内のどの箇所をどう変更したらいいかわからないため放置しているなどがあります。特に中小企業の場合、法と同じ基準で運用していることが多いので(例えば法で定められた期間より育休期間を長くするなど、企業独自で行っているプラスアルファの要素がない)その場合ほとんどが厚生労働省のモデル就業規則をそのまま転用し、自社の規程としている場合があります。しています。 転用すること自体は問題ありませんが、例えば企業名、社員の呼称(職員、スタッフなど企業特有の呼称)などは実情に即した内容に修正した上で規程を作成しましょう。

育児休業の利用促進をはかるための方法を実施する

2022年4月の改正により、企業は全従業員に対して育児休業の制度を知ってもらい、本人もしくは配偶者が妊娠・出産する際には安心して利用できるようにするために策を講じる必要があります。

実施内容のうち、すべての企業で必要なのが相談窓口の設置です。制度を利用する従業員に対する内容説明や手続きに関する相談、職場復帰のアドバイスなどが主になります。相談窓口は手続きの実務をする関係上、人事・総務部署が担当するケースがほとんどです。
その他、一例として

  • 育児休業の取得を促進する旨の企業方針を社長名で全社員に宣言するとともに企業のHPに掲載する
  • 妊娠から出産、職場復帰までの流れの中で利用できる制度を説明するための研修会を開く
  • 社内で育児休業を取得した従業員を事例とした研修会や文書、ウェブサイトなどでの情報提供を行う

など、企業の実情に合わせた内容で取り組むと良いでしょう。

妊娠を報告した従業員に対して行う制度周知と育児休業の取得意向を個別確認するためのフォーマットを作成する

育児休業などの制度周知や育児休業の取得意向を確認する場合、口頭のみ、文書のみでも法違反ではありません。ですが、説明する内容が煩雑で従業員が理解できないことも多いため、フォーマットを作成し、従業員に示しながら説明を行った後に文書交付するのが最も確実な方法です。 フォーマットには、主に次の項目と制度の内容を記載します。

<育児休業の制度などのご案内>(ただし一例)

妊娠中および出産後に利用できる制度

  • 通院のための休暇が取れること
  • 妊娠中の勤務に関する措置。例えば通勤時の混雑を避けるために時差出勤を認める など
  • 産前産後休暇
  • 育児休業(パパママ育休プラス、育児休業の延長が可能な場合も記載)

妊娠中および出産後に受けられる給付金(ただし受給要件を満たした従業員のみ)

  • 出産手当金
  • 出産育児一時金
  • 育児休業給付

産前産後休業及び育児休業中の雇用保険・社会保険や税金の扱い

企業独自の福利厚生が利用可能な場合記載する

例えば育休中フォローアップ研修を受講できるなど

その他会社が必要と認めた項目

育児休業取得の意思確認

取得予定か予定なしかを確認する

相談窓口の連絡先を記載する ○○課担当者○○ 内線○○番 など

育児休業の取得意思を早めに把握する

育児休業を取得する予定がある従業員の場合、取得時期や期間などを早めに把握する必要があります。特に長期で育児休業をする場合は、その間の業務方法を決める必要があります。担当の仕方としては職場内の他の社員が行う、職場全体で分担する、代替要員を他の部署から受け入れる、派遣会社から派遣スタッフを派遣してもらう、企業で正社員やパート・アルバイトなどを雇用するなど職場の事情や企業の考えなどを勘案して決めますが、特に代替要員を確保する場合は前もって準備が必要になります。

法改定により新しく必要になるフォーマットを作成する

従業員が産前産後休業・育児休業など諸制度を利用する際には会社に申請しますが、ほとんどの企業は会社所定の申請書の提出を求めています。例えば育休を取得、終了する場合や延長する場合は「育児休業開始届」「終了届」「延長届」などその都度必要な申請書類を提出します。今回の改定で新たに産後パパ育休制度ができたことにより「出生時育児休業開始届」や「終了届」など、申請に必要な書式の作成を行います。
その他、今回の改定には関連しませんが、下記の項目に留意すると手続き業務が簡易になります。

従業員ごとの手続き手順フォーマットを作成する

従業員から妊娠・出産の報告を受けると、産前産後休業、育児休業の取得から職場復帰まで、従業員から各種書類の提出を求めたり、企業内で各種届出書を作成し、決められた期限内に日本年金機構・健康保険組合・ハローワークなどに提出したりする必要があります。書類の種類が多く煩雑な上、提出期限を過ぎると手続きができない場合があります。従業員の出産予定日を基準にして産休・育休の取得開始日と終了日、各種書類の種類と提出先、提出期限日などのスケジュールを立てましょう。一連の日程を記入できるフォーマットを作成し、記載内容に沿って確認しながら作業をすすめると書類の提出漏れ、従業員への確認漏れなどのミスを防ぐことができます。

事務取扱マニュアルを作成する

従業員への制度周知から妊娠・出産、職場復帰後の子育てに関する配慮内容や、人事・総務部署が取り扱う事務手続きなど一連の取扱についての流れや業務内容がわかるようなマニュアルを作成しましょう。

従業員ごとの職場復帰プランを作成する

長期で育休を取得する従業員に対して職場復帰するためのプランを作成すると、育休中のフォローがしやすくなります。育休中の従業員が所属している部署との連携が必要で、フォローの方法としては社内会議への参加、WEBでのブランシュアップ研修などがあります。

育児介護休業法が改定されたことによる労務管理の変化と人事・総務担当の役割

今回の法改正で最も大きな注目点は、10月から施行される産後パパ育休制度の新設です。
この制度を作った目的は、男性従業員が育休を取りやすいよう、職場環境を整えることを国が企業に求め、2025年までに男性の育休取得率を30%に引き上げることです。 厚生労働省の調査によると 、2020(令和2)年度の育休取得率は女性が81.6%、男性が12.7%で、女性に比べて男性の取得率がかなり低い状態です。しかし、2019年度調査の男性の育休取得率は7.5%で、1年間で5.2%上昇、男性の育休取得が企業内に浸透しつつあることを表しています。今回、産後パパ育休制度の運用が開始されることで、男性が育休を取るケースはさらに増加するでしょう。

企業としては、これから女性だけではなく男性も育休を取得することが当たり前となるような、職場環境を作る必要があります。まずは直属の上司が部下の業務内容を把握することから始め、部下が育休を取っても部署内の仕事が回っていくようなシステムを作ることが大切です。人事・総務部署はシステム構築の補助面(人事異動や新規採用などを行う)を支えていく役割を担うことになります。

まとめ

育児休業の取得UPを目指す前に見ておきたいのが、従業員に付与している年次有給休暇(有休)の消化率です。有休の取得率が低い企業は、業務が属人化している場合が多いため、改善しないと有休より取得日数が多い育児休暇の取得は難しくなります。これからは育児休業に限らず、家族の介護や従業員本人が病気を治療しながら働き続ける機会が増えます。法改定を契機にして従業員の働き方を真剣に考えることが必要です。

参考

  • Person 木村 政美

    木村 政美 社会保険労務士

    2004年社会保険労務士・行政書士・FP事務所きむらオフィス開業。
    企業の労務管理アドバイスを得意分野とし、顧問先や各種相談会での相談業務、セミナー講師、執筆活動等を幅広く行っている。2020年度より厚生労働省働き方改革推進支援センター派遣専門家受嘱。

  • 労務・制度 更新日:2022/09/06
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