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人事担当者必見!改正・高年齢者雇用安定法のポイントを解説【2021年4月施行】

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内閣府の調査によると、仕事をしている高齢者の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と考えているようです。実際に、就業者に占める65歳以上の割合は増加傾向にあります。
このような就業意欲がある高年齢者の活躍を後押しする法律が「高年齢者雇用安定法」です。
今回の改正により、企業は65歳から70歳までの方の就業機会を確保するよう努めなければならないことになりました。
今回は、2021年に施行された高年齢者雇用安定法の改正ポイントについて、旧法の内容とともに解説します。

高年齢者雇用安定法の概要

政府は、少子高齢化が進むなか、経済社会の活力を維持するために、就労を希望する高年齢者を含めて、年齢に関係なく誰もが能力を活かせるための法整備を進めています。その一つが、「高年齢者雇用安定法」です。

高年齢者雇用安定法の趣旨

この法律の趣旨は、少子高齢化が進むなかで、高年齢者が活躍できるように環境を作っていこうというもので、2013年から施行されています。高年齢者の雇用確保や、再就職の促進、退職した高年齢者に対する就業機会の確保など、様々な環境整備についての規定が盛り込まれています。

2004年から義務付けられていること(旧法の内容)

2021年に改正される前の高年齢者雇用安定法では、65歳までの就業機会を確保することを主眼に置いており、企業には「60歳未満の定年禁止」と、「65歳まで雇用の確保措置」が義務付けられていました。なお、これは個々の労働者の雇用義務ではありません。
「65歳までの雇用確保措置」では、企業には以下のいずれかの措置をとることが義務付けられていました。

  • 定年を廃止する
  • 定年を65歳以上にする
  • 定年を65歳未満にした場合は65歳までの継続雇用制度を導入する

※2013年からは、継続雇用制度については原則として希望者全員が対象となりました。

これらの義務を果たさない場合、行政指導を受ける可能性や、社名の公表、助成金の不支給といった対応がとられる可能性があります。
企業によって設定している定年年齢は異なりますが、60歳で定年を迎えた高年齢者を、65歳まで再雇用するといった「継続雇用制度」を導入する企業が多かったようです。実際に、厚生労働省の「令和2年 高年齢者の雇用状況」によると、企業が講じた雇用確保措置のうち、8割近くが「継続雇用制度の導入」でした。実態として、定年制の廃止や引き上げは少数派であったということです。

高年齢者雇用安定法を含め、社会全体として高年齢者が働きやすい環境をどのように作っていくのか、また企業の役割にはどのようなものがあるのかという点については、「高年齢者等職業安定対策基本方針」(厚生労働省告示第三百五十号)を参考にしてください。

【2021年4月施行】改正・高年齢者雇用安定法のポイント

改正前の雇用確保義務はそのまま継続されたうえで、65歳から70歳までの就業機会を確保するために、高年齢者就業確保措置を講じる努力義務が新設されました(高年齢者雇用安定法10条の2第1項)。
つまり、2021年4月に施行された改正法では、それまでの義務(65歳までの高年齢者雇用確保措置)に加えて、努力義務(65歳~70歳までの高年齢者就業確保措置)がプラスされたということです。

法律名 高年齢者雇用安定法 高年齢者雇用安定法
施行時期 2006年4月1日施行 2021年4月1日施行
措置 高年齢者雇用確保措置 高年齢者就業確保措置
重点となるポイント 65歳までの雇用を確保。雇用をしなければならない。 65歳から70歳までの就業機会の確保。雇用以外の方法でもよい
義務の種類 義務 努力義務
内容
  • ・65歳までの定年引上げ
  • ・定年制廃止
  • ・65歳までの継続雇用制度の導入
  • ・70歳までの定年引き上げ
  • ・定年制廃止
  • ・70歳までの継続雇用制度
  • ・70歳まで継続的に、業務委託契約を締結する制度の導入
  • ・70歳まで継続的に、自社または委託で行う社会貢献事業に従事できる制度の導入

改正された高年齢者雇用安定法の対象や、努力義務の内容について詳しく解説します。

対象となる事業主・高年齢者

2004年改正時に、「定年の廃止」以外で雇用確保措置を行ったすべての事業主が努力義務の対象となります。また、ここでいう「高年齢者」とは、厚生労働省令で定める55歳以上の者を指します。ただし、船員法に規定される船員と、国家公務員・地方公務員は高年齢者から除外されます。

努力義務(高年齢者就業確保措置)の内容

事業主は、以下の①から⑤のうち、いずれかの措置を講じるよう努力しなければなりません。

①70歳までの定年引き上げ

定年制のある会社の場合、70歳まで定年を引き上げます。

②定年制の廃止

定年制そのものをなくす方法です。

③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

例:定年は廃止せず、定年から70歳までの間は、継続雇用制度のもと、働くことのできる制度を導入する
希望する人は、70歳まで再雇用制度により働くことができる仕組みを作ります。

④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

例:雇用によらず、業務委託契約のもと、70歳まで継続して働ける制度を導入する
雇用ではありません。70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度を導入します。

⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業自社実施、もしくは委託で行う社会貢献事業で働いてもらうものです。

※④と⑤を合わせて「創業支援等措置」といいます。詳しくは次項で解説します。

「努力義務」の法的拘束力とは

努力義務は「努力すること」が義務です。努力そのものを測る基準がない以上、努力義務には法的拘束力がないともいえます。努力義務違反に罰則はありませんが、行政指導を受けるなどリスクはあります。

雇用によらない方法でも可能!「創業支援等措置」とは

2021年に施行された改正法により、紹介した①~⑤までの就業確保措置が企業の努力義務となりました。そのなかでも「④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」と、「⑤ 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入」は創業支援等措置と呼ばれ、雇用以外の選択肢となります。
ただし、創業支援等措置を実施するには、労使間での合意(過半数労働組合等の合意)が必要です。

70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

具体的には、高年齢者が起業するケースなどが想定されています。新しく起業した会社に、高年齢者がもともと働いていた会社から業務委託契約で仕事を発注するという仕組みです。

70歳まで継続的に事業主が実施する社会貢献事業に従事できる制度の導入

事業主が社会貢献事業を実施し、高年齢者は業務委託契約に基づいて、その事業に従事します。ここでいう社会貢献事業とは、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを目的とした事業」で、社会貢献事業に該当するかどうかは、事業の内容等を踏まえて個別に判断されることになります。
社会貢献事業は、他社に委託することも可能です。事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が、事業主の名義で行う社会貢献事業に、業務委託契約のもと従事することも、創業支援等措置になります。

高年齢者就業確保措置を整備する際に使える助成金

これまでにご紹介した「高年齢者就業確保措置」を導入するには、就業規則を変更したり専門家のアドバイスが必要になったりと、何かと企業に経済的な負担がかかることが多いと思われます。そこで注目したいのが、「65歳超雇用推進助成金」です。厚生労働省の助成金であり、以下の3コースがあります。

65歳超継続雇用促進コース(15万円~最大160万円)

65歳を超える高年齢者の就業を促進するために、①65歳以上への定年引上げ、②定年の定めの廃止、③希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、④他社による継続雇用制度の導入、のいずれかを実施した場合に受給することができます。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース(支給対象経費の最大75%)

高年齢者の雇用管理に関する措置を労働協約または就業規則に定め、定められた方法で実施した場合に受給することができます。

高年齢者無期雇用転換コース(労働者一人当たり最大60万円)

50歳以上かつ定年未満の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換させた場合に受給することができます。
助成金を計画的に活用することで、経済的負担を抑えながら高年齢者就業確保措置をとることができます。

人事担当者が押さえておくべきポイント

人事担当者は、高年齢者雇用安定法に対応するために、就業規則の変更がどの程度必要になるのか調べる必要があります。また、高年齢者に該当する人材がいない場合でも、措置を取ることが義務づけられています。高年齢者雇用安定法について、人事担当者が押さえておくべき実務上のポイントをいくつかご紹介します。

嘱託やパートなど従来の労働条件を変更する形での雇用は可能

継続雇用制度は、高年齢者雇用安定法の趣旨に則っているのであれば、これまでの労働条件を変更しても問題ありません。フルタイムやパートタイムなどの労働時間・賃金・待遇については、本人と十分相談のうえ対応してください。
また、契約の更新については注意が必要です。1年更新とすることも可能ですが、原則として65歳までは更新される形にする必要があります。これに関しては「高年齢者雇用安定法の趣旨に則っているか」を個別に判断されることになるため、「実質的に65歳まで継続的に働ける条件となっているかどうか」を考慮してください。

高年齢者が定年前とは異なる業務に就く場合は研修が必要

新しく就く業務については、研修や教育、訓練を行うことが望ましいとされています。特に、雇用による措置(定年引き上げ、定年制の廃止、継続雇用制度の導入)の場合は、安全または衛生のための教育を必ず行わなければなりません。「雇用によらない措置」の場合は、安全または衛生のための教育をすることが「望ましい」とされています。

高年齢者就業確保措置は希望する全員を対象としなくてもよい

高年齢者就業確保措置は努力義務とされているため、対象者を限定できます(定年の引き上げと定年の廃止を除く)。対象者の基準は、労使間で決めるものですが、恣意的に一部の高年齢者を排除するものであってはいけません。
不適切な例として、「会社が必要と認める場合」とするのはNGですが、以下の例のように具体的かつ客観的な基準であれば、対象者を限定することができるとされます。

  • 過去○年間の人事考課が○以上である者
  • 過去○年間の出勤率が○%以上である者
  • 過去○年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないこと

このように、労使間の合意を形成するとしても、客観的な基準となっているかどうかをチェックしてください。

経過措置(改正高年齢者雇用安定法施行以前に継続雇用制度の対象を限定していた場合)

改正高年齢者雇用安定法が施行されるまでに、労使協定で継続雇用制度の対象者を限定する基準を決めていた事業主の場合は経過措置を利用することができます。具体的には、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について、継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けてもよいこととされています。

高年齢者雇用のポイント

政府の方針としては、年齢を問わず働くことのできる環境を整備していこうという姿勢が見られます。一方で、実際の現場では、高年齢者によってはきつい作業が入っていたりすることもあるかもしれません。何歳までどのような仕事をしてもらったらいいのか困る企業もあるのではないでしょうか。
65歳までは雇用によって就業機会を確保する必要がありますが、65歳を超えたら雇用以外の方法でも就業機会を確保できます。そのため、企業としての方針や実情を考慮したうえで、本人が何を望んでいるかを丁寧に聞き取ることが必要です。雇用されたいと思う人もいれば、業務委託としてマイペースに働きたいという人もいるでしょう。
高年齢者就業確保措置に対応するときには、仕事内容と「高年齢になってもできること」を照らし合わせながら制度設計をすることが大事です。

まとめ

今回は、2021年に施行された高年齢者雇用安定法の改正について解説しました。これまでの高年齢者雇用確保措置に加えて、高年齢者就業確保措置が努力義務として新設された点が最大のポイントです。努力義務として設定されたものが今後義務化するパターンも考えられますので、早めに対応しておくことをおすすめします。

  • Person 井手 清香
    井手 清香

    井手 清香 行政書士

    かずきよ行政書士事務所所長。システムエンジニアとフリーライターを経験し、2019年から行政書士として活躍している。法律や制度など、わかりにくい内容をすっきりとご説明するために日々精進中。

    最近のモットーは「補助金申請を通じて、必要なところに必要なお金を届ける」。

  • 労務・制度 更新日:2022/08/03
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