未来の職場体験:従業員エンゲージメントを飛躍させる10のルール
未来の職場では、従業員の仕事に対する向き合い方が変わり、テクノロジーが職場の環境も変えます。また少子高齢化や雇用形態の変化などから、労働力の構成も今までとは大きく変わることでしょう。
そのような変化の中で、優秀な人材を採用し、従業員エンゲージメントを向上させるにはどうすればいいのでしょうか?
『The Future Workplace Experience 』の著者で、人事系のリサーチ&アドバイザリー企業Future Workplaceのパートナーであるジーン・C・マイスター氏と、ケヴィン・J・マルケイ氏は、職場の未来を成功に導く10のルールを提案します。
ルール#1 職場を体験の場にする
今日の私たちは、経験経済のなかで生きています。1988年にジョセフ・パインとジェームズ・ギルモアによって提唱された経験経済とは、商品・サービスを提供するだけではなく、顧客の心に残る体験を提供することでブランド力を強化することができるという考え方です。著者は、この経験経済が職場にも当てはまると述べます。
未来の職場では、企業が従業員体験の向上を目指すことで、組織への熱意や幸福、ロイヤルティが維持されます。例えば、すでにAirbnbは、「Make the Workplace an Experience(職場を体験にしよう)」という言葉を掲げ従業員体験の向上に取り組んでいます。
従業員体験をつくるもの
従業員体験を向上させる職場には次のような条件が揃っています。
- 文化:透明性や敏速さ
- 感情:柔軟性や目指すべき理想
- 技術:スマートテクノロジーやコラボレーションのツール
- 物質:十分な空間やコミュニティ
- 知性:学習環境やキャリア開発の機会
ルール#2 空間を利用して文化を促進する
職場は文化をつくります。Appleや大手家具メーカーのLa-Z-Boyは、従業員が働きやすく、社内でセレンディピティ(偶然な出会い)が生まれるようワークスペースを再設計しています。
また、MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボから生まれたHumanyzeという職場環境を分析する企業が行った実験では、これからの職場には対面の交流とコミュニティ感覚がますます重要になることが実証されました。
未来の職場に必要な新しいワークスペースのポイントを挙げてみましょう。
組織文化を促進できる
価値観や使命など、組織の文化を上手に共有できるワークスペースをつくります。簡単な予約で、すぐに必要なメンバーが集まってコラボレーションできる部屋や、一人で集中できる部屋が役立ちます。
働き方を選択できる
集中できる場所や時間は人によって異なります。誰もが自分の力を最も発揮できる場所や時間を選ぶことができるといいでしょう。
健康的に働ける
十分な広さがあり換気ができる、飲料水やスナックが用意されている、適度な明るさがあるなど、身体や精神にとって良い環境が整っていること。さらに休憩中に運動する機会があり、心身ともに心地よいと感じる職場であることが理想的です。
上記のようなワークスペースを設置することで、主に以下の二つの効果を期待できます。
エンゲージメントが上がる
ワークスペースを整えることで、従業員のエンゲージメントが上がり、やる気につながります。
コミュニティが生まれる
ギグエコノミーから始まったコワーキングスペースという考え方や、コミュニティマネージャーという役割が注目され、一般企業がそのアイデアを取り入れ始めています。
ルール#3 リーダーシップのアジャイル化
アジャイルとは、柔軟で素早く、かつ効率的という意味で使われる言葉です。これからのリーダーは、それらの性質を持つアジャイルリーダーになる必要があります。アジャイルリーダーシップスキルを向上させることは、能力のある人を採用し維持するためにも必須です。アジャイルリーダーの特徴を挙げてみましょう。
透明性がある
定期的にチームメンバーとコミュニケーションをとり情報を共有します。
説明責任を果たす
良いことでも悪いことでもメンバーに説明をし、そこから学びを得ます。
起業家精神がある
新しい機会を求め、大胆で進取の気性に富んだ方法で考え、想像し、行動するよう、他の人々を動機づけます。
未来志向である
安定した場所で落ち着くことなく、常に新しい機会を探します。
ルール#4 テクノロジーをイネーブラーとディスラプターとして捉える
テクノロジーがビジネスの成功に欠かせない時代です。従業員は仕事をするために新しいテクノロジーを学ばなければなりません。
例えば、Dropbox、Slack、Google ハングアウトなど、クラウドベースのサービスが使えないと日常業務ができないという状況になりつつあります。企業間のデジタルスキルの差は深刻です。
イネーブラーとは、職場のワークフローを支援する技術やそれを提供する企業を指します。例えば、人工知能(AI)、クラウド、5G(第5世代移動通信システム)などです。
一方、ディスラプターとは、オートメーション化や技術革新により、今まで必要だった仕事を奪う技術やそれを提供する企業のことを指します。例えばカメラがデジタル化することでフィルムの需要がなくなったり、今まで経験や勘で決めていた取引をデータ分析で決めるようになり、必要な人材が変わったりすることです。
これからの職場では、どの年代、どの役職の人もテクノロジーを使いこなせるようにするトレーニングが必要です。そしてイネーブラーとディスラプターが私たちの職場体験にどのような影響を与えるか考えます。例えば、組織の中で次のようなことを考えてみましょう。
- テクノロジーを使ってビジネスの意思決定をもっと上手にできるか?
- この先の2、3年に技術的失業になりそうな役割が組織内にあるか?
- 組織に導入する新しいテクノロジーのために、どのような役割を強化したり作ったりする必要があるか?
- テクノロジーが、業界のなかにどのような新しい仕事を生み出すか?
ルール#5 データドリブンの採用エコシステムを構築する
仕事の探し方も以前とは大きく変わりました。現在の求職者は、アプリやWEBサイト、求人用のSNSを巧みに使いジョブホッピングをしていきます。求人募集をする側も、数年前まで実験的だったTwitterやFacebookを使った求人が当たり前になってきました。
しかし、従業員からの紹介やインターンシップをきっかけにした採用は、信頼関係を築きやすいことから引き続き有効であるようです。
本書では次のような採用エコシステムの構築を提案しています。
広報力を上げる
求職者はSNSを使って企業を比較し就職先を探しています。企業が職場の文化を伝える強力な雇用主ブランドを構築することは、ますます透明性が高くなる求職活動において必須となります。
雇用の前にトレーニングをする
採用試験の前に求職者にトレーニングを提供するリクルートエージェンシーが出てきています。求職者はオンライントレーニングを修了することで、そのスキルを求めている企業に紹介される機会を得ることができます。
スマートソーシングの利用
LinkedInやJetBlueが採用している、データ分析によって適材を探すスマートソーシングは、企業が人材を見つけ仕事の成功を予測するための重要な方法になりつつあります。
従業員からの紹介
従業員からの紹介も採用エコシステムには欠かせません。現在働いている従業員や、元従業員がブランドアンバサダーとして紹介してくれる人材の採用は信頼関係を築きやすく成功する可能性が高くなります。
透明性のある採用活動をする
企業に透明性のある文化を求める人が増え、求職者も採用プロセスについて透明性を望んでいます。給与、福利厚生、昇進、キャリア開発、企業文化などの条件についてオープンなコミュニケーションが必要です。
ルール#6 オンデマンド学習の導入
従業員が仕事を続けるために、継続して学べる場が必要です。Deloitteの調査では、技術の急速な変化により、スキルの寿命が今までの半分の2.5年になっているといいます。
またIBMでは知識の有効期限が13ケ月ほどしかないと考えられています。未来の職場や組織を維持するためには学び続けるしかないのです。内部と外部の両方で、様々な方法を使った学習機会を考える必要があります。
オンデマンドの学習プログラムが、これまでのフォーマルな学習方法を超えることは今すぐには起こりませんが、予算やリソースについて調べ、導入を考えるべき時期にきているといえるでしょう。
ルール#7 多世代の力を引き出す
年齢の高い人が仕事を長く続けるようになり、違う年代の人が隣り合って働くことが増えました。この状況には創造的思考を促進できる可能性もあれば、世代間の対立を生む可能性もあります。
IT業界や専門性の高い業界では、若い世代が年齢の高い人の上司になるケースもめずらしくありません。その関係が上手くいくかどうかは個人の性格にもよりますが、世代を超えて一緒に働くことのメリットを考えられる能力開発がもっと必要になるでしょう。
また、家族を養う年代では収入が重視され、高齢になると仕事を長く続けられることが重視されるなど、年代や人生の局面によって職場に望むことが変わってきます。人材マネージメントでは、その違いに目を向けることも大切です。
ルール#8 ジェンダー平等の実現
マッキンゼーの調査によると、ジェンダー平等のランキングで業界のトップ4分の1に位置する企業は、利益が業界の中央値よりも高くなる可能性が15%アップします。ジェンダー平等が組織に与えるメリットは明らかですが、無意識のバイアスにより実現されていないのが現状です。
今後10年で無意識のバイアスを変えるトレーニングを提供し、人材マネージメントのあらゆる側面にジェンダー平等を組み込む必要があります。組織のなかの無意識のバイアスをなくすためには、次のようなことを意識するといいでしょう。
- プロジェクトメンバー役員の数など、あらゆる場面で男女の比率を測り均等に近づける
- 会議や採用イベント、企業の講演会に呼ばれるゲストなど、出席者に性別のアンバランスがないかチェックする
- 組織の中で無意識のバイアスに気づいたときに、誰でも報告できる体制をつくる
- 無意識のバイアスをなくすトレーニングを補完するために、ジェンダーバランスのとれた従業員リソースグループを作る
- チーム全員で、自分と違ったジェンダーの人を採用し昇進させる方法について話し合う
- バイアスが起こらない採用プロセスをあらかじめ考えておく
ルール#9 ギグエコノミー労働者の平等化
派遣社員、フリーランサー、請負業者などのギグエコノミーで働く人材がビジネスに欠かせなくなっています。
しかしギグエコノミー労働者の雇用には問題点もあります。ボストンにあるリサーチ会社のArdent Partnersが行った調査によれば、企業の経営企画、予算、未来予測のなかに正式に含まれているギグエコノミー労働者は約半数です。
そして正社員とギグエコノミー労働者が総合的に管理されておらず、ギグエコノミー労働者へのトレーニングや、総合的な人材マネージメントのアプローチが不足しています。未来の職場では、雇用形態にかかわらず一つのチームとして、誰が何を担当しているか可視化して正しく管理するシームレスな人材マネージメントが必要です。
ルール#10 変化を止めない
「生き残るのは最強の種でも、最も知的な種でもなく、変化に最も対応する種である。」とは、自然科学者ダーウィンの言葉です。自分の企業のビジネスと業界を知り、将来の変化を予測しましょう。
ただし、そこで止まってはいけません。企業は未来の展開を予測できているにもかかわらず、動けずに失敗することがあります。そうならないためには、変化に合わせて動くことです。変化を恐れない職場の活動家になりましょう。
未来の職場体験に向け、起こりつつある変化に対応する
この本で挙げられている未来予想は、どれも現在起きている変化の先にあり単なる想像ではありません。まずは、どのような変化が起きているのかをよく知り、未来に向けてビジネスや社会の変化に対応していくことが必要になりそうです。
The Future Workplace Experience: 10 Rules for Mastering Disruption in Recruiting and Engaging Employees
著者 Jeanne C. Meister , Kevin J. Mulcahy
出版社McGraw-Hill (2016/11/2)
ISBN-10 : 1259589382
ISBN-13 : 978-1259589386
- 経営・組織づくり 更新日:2022/04/27
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