企業文化と透明性の確保による組織強化 ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~
新型コロナウイルスや変異株の断続的な感染拡大により、組織文化の弱体化が進んでいます。在宅勤務が続き対面でのコミュニケーションをとることが難しくなり、共通の価値観を強化できない状態になりつつあるためです。
先行き不透明な環境で組織が成長を続けるには、「変化にリアルタイムで適応する組織文化」を育む必要があります。
多くのビジネスリーダーが、これまで何年もの歳月を費やして、成果に結びつく組織文化を育もうとしてきました。
具体的には、「ビジネスを成功させるために欠かせない行動を最優先する」という点において、「戦略面で適切」で、しかも社員がそれを額面通りに受け取り、重要視するという点において「強力」な文化を築くことを目指してきたのです。
このような文化を持つことは、傑出した人材を獲得してつなぎとめ、高い財務成績を上げるうえで効果がある、とされてきたことは周知の事実です。
しかし、2020年以降は組織文化が弱体化しています。
経営者や人事の皆さんには、以下の視点で振り返ってみていただきたいと思います。
- 企業の中では、社員同士が直接対面できず、共通の価値観を強化できないために、組織文化が損なわれるリスクが見つかってはいないでしょうか?
- 現在の厳しい環境下で適切な判断を下すために、組織文化をリードすることが難しくなっていないでしょうか?
- 主にリモート勤務方式で仕事をしている時期に、組織文化を築き、そこから好ましい影響を生み出し続けるためには、どうすれば良いでしょうか?
戦略面において適切で、多くの社員がその戦略と文化を共有していて、大きな価値を認めているような企業文化を築いたとしても、それだけでは成功を長続きさせられないことは、コロナ禍前後の企業の栄枯盛衰をみれば明らかでしょう。
「変化にリアルタイムで適応する組織文化」も並行して育まなくてはならない時代に突入しているのです。
「戦略面で適切で、強力で、しかも激しく変化し続ける環境に素早く適応できる組織文化を持った企業は、適応力に劣る同業種の企業に比べて年間の売上高が15%多い」という研究結果も出ています。
コロナ禍のように歴史的に特別な時期には、適応力の高い組織文化が必要になります。そして、その土台を成すには、イノベーションとトライ&エラーによる実験に前向きで、新しい機会を素早くものにする組織能力が特に重要という結論が出ています。
企業のリーダーは、社員が最も重要な活動に集中することを後押しする組織文化を育み続ける必要があります。コロナ禍により前例のない試練と変化に直面している今この時こそ、これを怠ってはならないことを示しているのです。
組織の透明性の価値を知る
「秘密にしておこう」。日本だけではなく、欧米においても伝統的な組織ではこれがデフォルトの選択肢となっているようです。官僚的な組織は、一部のリーダーに貴重な情報へのアクセスを限定します。
そして、これらの情報支配者層がすべての重要な情報をもとに指示をしなければ、組織が動かないように設計されていきます。その結果、背景にある情報は、実際に仕事をしている現場の人々にはほとんど共有されなくなるのです。
「何も知らない社員」の弊害
最前線の社員が迅速かつ正確な意思決定を行うためには、情報へのアクセスが必要です。
しかし、大半の社員は、自分が所属する組織が実際にどのように機能しているのか、どのような戦略を取るべきなのか、全く知らないものです。秘密主義の結果、不信感や無知、ゴシップ(噂話)などが生まれていきます。
重要な情報が隠されているために、自分の行動がどのように組織に影響を与えるのか分からないのであれば、社員は本当の意味で組織活動に参加することができると言えるのでしょうか? 企業はその点を考える必要があります。
「透明性」が組織にもたらす効果
GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)といったグローバルで先進的な企業の多くが、透明性に基づいた組織文化とすることを選択していることに驚きはありません。
それらの企業は、「情報は可能な限り多くの人がアクセスできるものでなければならない」と考えています。
そして、「デフォルトでオープン」であることで成功し、「何でも聞く」というメンタリティを奨励しており、雇用契約の形態にかかわらず、適切な情報を適切なタイミングで提供します。
そうでなくとも、365日24時間の時差なくシームレスにつながっているグローバルな組織においては、環境の変化の量とスピードが指数関数的に膨れ上がっている現状に対して、最前線の社員が機動的にキャッチアップする必要があるからです。
透明性は、先進的な組織には不可欠な要素であり、歓迎すべき変化です。徹底的な透明性によって、社員がより深く企業活動に関わり、より良いパフォーマンスを発揮し、組織とそのリーダーに対してより多くの信頼を寄せていく、といった循環を作っていく必要があります。
透明性のある企業文化をつくる5つの方法
しかし、我々は根本的な透明性の文化をどのようにして作っていくのでしょうか?
そもそも、組織のやり方を変えるにはどうすればいいのでしょうか?
先進的な組織といえども、組織の官僚化の罠にはまり、タコツボのように深く入り込んでしまうこともあります。企業が根本的な透明性で差別化を図るための5つの方法を紹介します。
コミュニケーションの透明性
まず非常に重要なステップは、透明なコミュニケーションを奨励することです。シンプルな方法で、誰もが何が起きているのかを知ることができるようにすることが重要なのです。
例えば、以下のような方法が考えられます。
- 目標、活動、チームの進捗状況を壁に表示する。
- 毎日短いミーティング(スタンドアップ)を行い、チームメンバーが何をしているのか、どこで助けが必要なのかを共有する。
- 定期的にコミットメント・ミーティングを開催し、各チームで何が起こるのか、どのような成果にコミットするのかを全員が合意する。
- 情報を簡単に共有するために、ソーシャルメディアのようなコミュニケーション・チャンネルを使うことを社員に奨励する。
- タウンホールミーティングなどを通じて、リーダーが組織全体とのコミュニケーションやQ&Aセッションで透明性を高める。
このように、初歩的なアクションから始めてみましょう。
デフォルトでオープンにする
2つ目のステップとしては、公開しない正当な理由がない限り、全ての情報を公開することです。このポリシーにより、できるだけ多くの人が情報にアクセスできるようになります。これによって、より良い意思決定をサポートし、より高いレベルで関与することができます。
クラウド上でデータを共有するサービスを利用してみましょう。そうすれば、誰もがあらゆる種類の有用な文書にアクセスできるようになります。
透明なパフォーマンスと目標
そして、チームおよびそのメンバーが、自分のパフォーマンスデータにアクセスできるようにすることです。チームメンバーが他のメンバーと自分を比較できるようにすることが重要なのです。
例えば、全員のパフォーマンスをオンラインの表で共有します。そうすることで、健全な競争心が生まれます。財務パフォーマンスを透明化するだけではありません。また、そのデータが組織のミッションの方向に向かって、関係者を動機づけるようにしていきましょう。
財務データの透明性
次のステップは、透明性のある財務データを導入することです。真の起業家精神(Entrepreneurship)を持った社員を育てるには、企業の仕組み(お金の部分も含む)を理解してもらう必要があります。
そこで、ホワイトカラーには、財務の基本を教え、社員が前週の財務結果(売上、収入、コスト、顧客満足度など)を議論する機会を与え、ブルーカラーの従業員にもオールハンズ・ミーティング(全社会議)を開催して、個々人の仕事の積み上げがどれだけ企業全体に貢献したのかを見せていくことも有効です。
給与の透明性
おそらく、最も進んだ透明性は、役員も含めた組織全体の給与を共有することです。
企業規模の大小を問わず、このレベルに到達した組織も増えてきています。これは、社員に何も隠し事をしないという姿勢の表れです。特に人事制度が、恣意的な運用ではなく、公平に運用されていることを証明することにもなるでしょう。
企業はどのようにそれを行うのでしょうか? 単に公開して様子を見る企業もあれば、もっと慎重に、公開してくれる人を募る企業もあります。また、自分の給与を公開するように人々に呼びかけ、同じように公開することを選択した他の人々の給与にもアクセスできるようにする企業もあります。
いずれにしても、公正で透明性のある方法で行うことが大切です。
透明性が企業文化を担保する
組織に透明性のある企業文化が必要な理由としては、
- 社員の生産性向上
- 社員のエンゲージメントとイノベーションの向上
- 優秀な社員の採用と定着率向上
- 顧客満足度の向上
が挙げられます。
しかし、それは副次的な効果でしかありません。本質的な目的は異なるはずです。
資本主義下における企業は、社員が一定の循環率で組織構造や資本が入れ替わることを前提にしつつも、ビジネス環境の変化に応じて持続発展的にステークホルダーに需要のある価値を提供し続けることが本来の目的であるはずです。
昨今ではその変化のスピードが速まり、さらに市場がグローバル化するに伴い、社内外のステークホルダーが多様化し、物理的・心理的な距離感が拡大する中で、「組織文化の構築」という厳格な規律が不可欠になっているのです。そして、それを企業の軸として言語化しているのが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)であるはずです。
その軸を担保するための「透明性」とは、企業がその計画や運営についてオープンで正直であることを意味し、社員もまたお互いに、そして顧客に対してオープンで正直であることを意味します。
透明性が欠如していると、秘密主義的な環境と信頼できない社員を生み出します。そのような企業で働くことや、そのような企業の商品を買うことを顧客が好まなくなってきていることも、昨今の潮流になっています。
日本では、まだこの潮流を目にすることが少ないでしょう。しかし、ベンチャー企業を中心に、透明性を高めて企業文化を構築し、「強固な組織」ではなく、「強靭な組織づくり」に着手しているという話が聞かれるようになってきました。
官僚組織を変革することは、新規に立ち上げるよりも、抵抗勢力が大きく非常にパワーが要ります。そして、ベンチャー企業であっても成功してしまえば、あっという間に官僚化の罠が押し寄せてくるのです。
日本の経営や人事にかかわる方々には、組織の状態をモニタリングし、官僚化の罠に抵抗しつつ、目指したい企業文化をつくりあげていってほしいと願っています。
参考
- Paradigm lost: Reinvigorating the study of organizational culture
- Parsing organizational culture
- 参考書籍:The End of Bureaucracy/ハイアール:組織の官僚化を打破する仕組み。
- 労務・制度 更新日:2022/04/21
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