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深刻な人材不足にある「AI人材」を育てるためには?

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すでにAIは、私たちの生活になくてはならないものとして当たり前に存在しています。読者の皆さまも、生活の上でも、業務の上でも「気付かずに」AIを利用していると思います。

最近の採用市場に目を向けると、「高度AI人材」や「高度IT人材」という言葉も目立ち始め、AI開発ができる人材を求める動きもありますが、非常に希少性が高く、また比例して高報酬の人材です。

しかし、今回のJAPAN HR TV 2021で講演していただいた野口竜司さんによると、近年はAIの進歩によってほとんどの企業にとっては「AIを開発する」人材よりも、「AIを使える」人材の重要性が高まっていると言います。

AIを取り巻く環境から社員のAIスキル不足の解消、AI人材の育て方に至るまで、JAPAN HR TV 2021で行われた講演を記事にまとめました。
まずは、現在われわれが触れることのできるAIについて、いまどの程度のレベルまで進化しているのかをご紹介しましょう。

実はすでに、スタンフォード大学をはじめとした海外の研究機関による検証で、「画像認識」「文字読解」「レポート作成」など、AIは各分野で人間のパフォーマンスを超えていることが分かっています。
特に「レポート作成」においては、人間では3日間かかった大学のレポートをAIは20分で終わらせ、さらに4科目中3科目では人間と同じ評価基準において合格したという事例もあります。
改めて、AIはもう無視できない存在になっていることが分かっていただけるかと思います。

こうしたAIの進化を受けて、AI研究・開発の世界的権威である李開復氏(※)は「いまは、AI実用化の時代。この時期に利益を得たい企業は有能な起業家、エンジニア、プロダクトマネージャーを用意した方がいいだろう」と語っています。AIを適切に使える人材の確保こそが、これからの時代の企業にとって重要だといえるでしょう。

※ 李開復:カイフ・リー。台湾生まれ、米国人。計算機科学者、起業家、投資家。1988年にカーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスの博士号を取得後、アップル、シリコングラフィックス、マイクロソフト、グーグルなど世界的企業でAI研究と開発に従事してきたAI研究の第一人者。

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AIを活用できる人材を知るためには、まず「AIで何ができるか」を知る必要があります。
基本的には「識別系」「予測系」「会話系」「実行系」と4つの類型に分けることができ、さらに人間ができることを代わりにAIが行う「人間代行型」、人間ができないことをAIが行う「人間拡張型」に分けることができます。
その掛け合わせを表にして活用例を上図に示しました。

さらに、これら複数の要素を同時に持ったAIというのも存在しています。例えば、コールセンター業務を代行するLINE社のサービスは、会話型・予測系・実行系を組み合わせたものです。
このように、単機能でなく複数のAIタイプを掛け合わせることでAIが実行可能な仕事の領域はさらに広がっていきます。

このようなAIの特性を理解し、事業に取り込むことで、業務の効率化がかない、結果として強い組織になっていくのです。
今はプログラミングコードを書かずとも、GoogleやAmazon、LINEといった企業が用意している構築済みのAIサービスを組み合わせることで自社向けにカスタマイズすることが可能になっています。つまり、PCについての一定のスキルに加えて、「AIに関する基礎知識」さえあれば誰でも必要なAIを作り、使うことができる時代になっているのです。

さらに、すでに社員が持っている個別のビジネススキルと組み合わせることでより活用の幅が広がるため、より幅広い社員にAIの基礎知識を身に付けてもらうことで、企業のさらなる成長が見込めるといえるでしょう。
冒頭でも触れたとおり、今の採用市場では「AIを作る人材」に注目が集まりがちです。が、ここまでお読みになっていただいた方は、自社がいま求めるべき人材は「AIを使いこなす人材」であるとお気付きではないでしょうか。

事業理解を出発点として、既存AIサービスの選定、検証、施策、プロジェクトマネジメントができる人材こそが求められているのです。しかし、この領域もまた、深刻な人材不足に陥っています。

とはいえ、なんとか確保することができないとAIの存在が前提となった現在の経営環境において競争優位性を失いかねません。

そこでお勧めなのが、新規採用ではなく「社員教育」です。
繰り返しているように、いま私たちが利用できるAIはすでに構築済みのものが多く、AIやコンピュータサイエンスの専門的な教育を受けていなくても十分に対応可能なため、社員教育によって得られる成果は小さなものではありません。
とはいえ、実際の現場では不要なプログラミング教育や、実力の付きにくい動画教材だけではなかなか成果を上げられないという現状もあります。

それよりも、より実践的な環境で体系的に「AIの心技体知」を底上げしていく方が効果的です。

これは私が提唱しているAI人材に必要なマインド・スキル・知識の体系的な枠組みです。
心: AIを使いこなし、学び続けようと思えるマインド
技: 企画、選定、マネジメントといった現場での実用性が高いスキル
体: AIを使いこなすためのベースとなる知識
知: AI事例を知り、アップデートし続けてチーム内で形成する集合知


のことを指します。

座学で学べるのは、このうち「体」にあたるAIの基礎用語くらいですが、実践しながらの教育であれば全てを網羅した人材の育成が可能になるのです。
では、具体的に「AIの心技体知」を高めるには何をすればいいのかを解説します。
まずはAIの重要性について理解し、自分(自社)にとっても必要なスキルであると納得させることで「AI人材マインド」を育てることが重要です。この基礎が、自発的な学習と効果のあるAI施策を生み出します。
マインドの次は、AI基礎用語力を鍛えます。AIに関する学習書籍は多く出ていますので、そういったものから引用して丸暗記するだけで、当面はOKです。
基礎用語力が高まれば、実際に触れることのできるAIを試すことで「何が起こっているのか」「これを使って何ができるのか」を自分自身の頭で理解することができるようになります。
AIの基礎用語と構造を理解できるようになると、自社に必要なAIの方向性が見えてきますので、後は積極的な事例収集です。
事例収集だけを先に始めようとすると、自社で生かせる生きたナレッジは集めることができませんので、基礎用語と構造理解を先に進めることがポイントとなります。
マインド、基礎用語、構造理解、そして多様な事例を吸収した人材は、すでに自社で使えるAI企画を考えることのできる素地ができています。
ここまでにインプットしてきた知識や事例を具体的なアウトプットとしてどんどん出していくことで「AIの心技体知」がさらに磨かれていきます。

企画100本ノックでどんどんアイデアを出し合うことで、その精度を高めていきましょう。
この5つのステップを踏むことで、実践的な知識とマインド、スキルを身に付けた「AIの心技体知」がそろった人材を育成することができます。

しかし、AIを活用したいが上層部の理解が得られないという方もいるでしょう。その場合は、最後のステップとして紹介した「企画の100本ノック」です。

営業、経理、カスタマーサクセスなど社内のさまざまな職種のメンバーを集めて100本ノックをすれば、必ず輝きのあるアイデアが隠れています。
その具体的な企画案を持って上層部に掛け合うことが、なにより強いメッセージになるはずです。
ここまでに、自社にとって必要な「AIを使いこなす人材」の育て方はご理解いただけたと思います。

ですが、現実的に全社員へ同時に教育を施すことは難しいものです。優先順位付けに苦慮される方もいらっしゃるでしょう。しかし結論から言うと、全方向から実施してOKです。

社内でAI利用を推進しようと「横断AIプロジェクト」を組む場合は、まずそのメンバーの平均点を上げることが必要になります。もちろん、新規で入る方の教育も迅速に行うべきです。

また、DX/AI推進やIT部門が企業にある場合は、デジタルにもともと強い方たちがその能力をさらにアップデートすることで社内全体のAI力を上げることができるでしょう。
さらに、AIが効果を発揮しやすいデジタルマーケティングの分野でパフォーマンスが向上すると、その成果が実感しやすいのでお勧めです。

こうして、成果が見えやすいところから着手し、最終的に人事や経営企画、社長室などが教育を主導して年間を通じた全社員向けのAI教育計画を仕組み化していくことが良いでしょう。
ここからは、人材・教育業界で実際にAIを活用した事例をご紹介します。

<ユニ・チャーム>(大手消費財メーカー)

新卒採用にAIシステムを活用

応募者による自己PR動画をAIが分析し、対話能力などの評価を合否の参考に。不合格となった学生に対しても、理由を伝えて今後の採用活動に役立ててもらえるようにしたそうです。
AIが対話能力や思考力などを100点満点で評価し、上位1割 については採用担当者が面接をせずに合格もしたケースもありました。AIの評価を参考にすることで、応募者一人ひとりの審査にかかる時間を2割ほど減らせるそうです。

<地方自治体>

配属先移動案をAIによって作成

異動候補者の抽出や、個人の属性に合わせた配置を提案し、人事異動事務にかかる時間を削減しました。
2020年に福島市で行われた実証実験では、候補者の選出にかかる時間25%、異動案の作成にかかる時間を17%、条件に沿った配置になっているかを確認する時間を92%削減できたそうです。

<データグリッド>(AIコンサルティングファーム)

日本初の「AIを活用したMOOC講座」

NTTテクノクロスの音声合成技術と人物動画生成技術の組み合わせで、まるで講師本人が話しているような講義動画の生成に成功しています。
数分程度の講義動画があれば、テキストからAIが講師の動きと音声を自動生成することができるAIで、まるで人間が話しているような⻑尺の講義動画も、テキストを用意するだけで動画として出力することができます。
上図は、講演の中で紹介された「AIに強い組織の作り方」です。

企業の競争優位性確保のためには必要不可欠な「AIを使いこなす人材」は、深刻な需要過多に陥っています。
新規採用よりも社員教育に力を入れ、上図を参考にしながら組織の変革も併せて行うことで、これからの世の中で生き残っていける企業になることができます。

マイナビのオンラインイベント「JAPAN HR TV」では、現場で今すぐ使える採用・経営の知識や事例紹介から未来への投資の参考になる最先端の情報まで幅広くお届けしました。
  • 人材採用・育成 更新日:2021/10/18
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