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マタハラ対策が企業の義務に!実際の判例や防止策について解説

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「マタニティハラスメント(以下、マタハラ)」という言葉。誰しも1度は聞いたことがあると思います。2014年10月に最高裁が初めて「妊娠を理由にした降格は、男女雇用機会均等法に違反する」と判断したことをきっかけに、マタハラ問題への意識が高まっています。その後、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が改正されたことで、2017年からはマタハラを防止するための措置を講ずることが新たに企業の義務となりました。

マタハラとは何かを確認しながら、マタハラを防ぐための企業のあり方を探っていきます。 なお、マタハラ以外のハラスメントである「パワハラ」や「セクハラ」については、『パワハラ・セクハラをなくすために人事がすべき7つの施策』の記事をご参考にしてください。

マタニティハラスメント(マタハラ)とは?

マタニティとは、「母であること/妊婦・出産の」という意味で、ハラスメントは「いじめ、嫌がらせ」を意味します。 働く女性が「妊娠や出産、育児休業(以下、育休)等を理由に」解雇・雇い止めや自主退職の勧告を受けたり、精神的・肉体的な嫌がらせを受けたりする場合など、不当な扱いを総称して「マタハラ」と言います。

「マタハラ」は、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法に違反するものです。2014年10月の最高裁の判断を受けて2015年1月に厚生労働省が出した通達により、それまで定義が分かりにくかったマタハラの判断基準が明確になりました。

その後、「改正男女雇用機会均等法」および「改正育児 ・ 介護休業法」が2017年1月1日に施行されたことで、以前から事業主に義務付けられていた以下の①と②に追加される形で、③と④が新たに事業主の義務となりました。

  • 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(男女雇用機会均等法)
  • 育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止(育児・介護休業法)
  • 上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産等をした女性労働者の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること(男女雇用機会均等法)
  • 上司・同僚からの育児・介護休業等に関する言動により育児・介護休業者等の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること(育児・介護休業法)

「妊娠や出産、育休等を理由にしている」と判断するポイントは?

「妊娠や出産、育休等を理由としているかどうか」の判断は難しいところですが、原則としてその不当な扱いが妊娠・出産、育休等の事由の終了から1年以内に行われた場合は「理由としている」と判断されます。また1年を超えている場合でも、人事異動や人事考課、契約更新といった、ある程度定期的になされる措置などについては、事由の終了後の最初のタイミングで不利益な取扱いが行われれば、妊娠・出産等を「理由としている」と判断されます。

法違反とならない2つの例外

ただし、上記の場合でも、以下の例外①または②に該当する場合は、法違反にはならないと考えられています。

★例外①

業務上の必要性から不利益取扱いをせざるをえず、業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情があるとき

【具体例】

妊娠等の事由が発生する以前から、本人の能力不足などが問題とされている場合で、なおかつ改善の機会を十分に与えたが、改善の見込みがないケースなど。 ※ただし実際には、不利益取扱いの内容が妥当かどうか、個別のケースを確認したうえで違法性が判断されます。

★例外②

労働者が当該取扱いに同意している場合で、有利な影響が不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

マタハラの種類

ハラスメントの予防・解決に向けた厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」によると、マタハラは大きく2つに分類されます。

マタハラtype1 制度等の利用への嫌がらせ型

このタイプのマタハラは、出産・育児に関する制度の利用を、あきらめざるを得ないような言動(嫌がらせなど)を指します。 「妊娠・出産しても働き続けることのできる制度自体はあるが、実質的に使えない」という話は聞いたことがあるのではないでしょうか。実質的に使えないことの原因は様々ですが、以下の3パターンが考えられます。

  • 制度を利用することを理由に「解雇」や「減給」といった不利益な取り扱いをほのめかされる
  • 制度の利用を阻害するような言動をされる
  • 制度の利用を理由に、嫌がらせなどを受ける

具体的には、以下のようなケースが当てはまります。

  • 産休を取りたいと上司に相談したところ「産休を取るのはよいが、次回の契約の更新はないかもしれない」と言われた
  • 妊娠により立ち仕事を免除してもらっているが、同僚から「座り仕事ばかりでずるい」と言われた
  • 育休を取ろうとした男性社員が「男のくせに育休を取るなんてあり得ない」と言われた
  • 妊婦健診を受けるために休暇の取得を相談したところ、上司から「病院なら休みの日に行けばいいのでは」と言われた

マタハラtype2 状態への嫌がらせ型

妊娠、出産、育児をしている状態そのものへの嫌がらせも、当然マタハラです。

例えば、妊娠・出産を理由に雇用契約の解除をほのめかしたり、妊娠による体調不良によって仕事の能率が下がったことに対して、不利益な扱いや嫌がらせをしたりすることが含まれます。

具体的には、以下のようなケースが当てはまります。

  • 妊娠を報告したところ、上司に「今後、昇進はないかも」と言われた
  • 妊婦健診や、つわりを理由に仕事を休んだところ「忙しい時期なのにありえない」と繰り返し言われた
  • 上司から「妊娠している人はいつ休むかわからないので大事な仕事を任せることはできない」と、雑務ばかり任せられている

実際にあった判決事例

日本各地でマタハラをめぐる訴訟が起こっていますが、ここでは労働者側が勝訴した事例をご紹介します。企業側としては、万が一訴訟が起こってしまった場合に、どのポイントが問われるのかを知っておくことで、防止策が見えてくるでしょう。

判例1. 2021年 保育士マタハラ訴訟

神奈川県の保育士の30代女性が、育休が明ける直前に解雇されたケースで、女性側が、保育園を運営する社会福祉法人に、雇用関係の確認と未払い賃金、慰謝料などを求めました。訴訟の控訴審判決で東京高裁が下した判決は「解雇は違法無効」であり、慰謝料30万円と未払い賃金を女性に支払うことを命じました。

判例のポイント

判決では、解雇の有効性が問われ、「妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があるとはいえない」と判断されました。男女雇用機会均等法9条4項では、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性の解雇を禁止しています。判決では、本件の解雇は同法に違反するものであると判断されました。

判例2. 2017年 TRUST事件

ある企業に勤める女性が妊娠をきっかけに、妊娠前から働いている企業の代表者の勧めで派遣会社に登録したことが、退職合意に当たるかどうかが争われた事件です。

判例では、妊娠前から働いている企業の代表者が派遣会社への登録を勧め、その通りに登録して派遣の勤務を行ったからといって、退職合意が形成されたとは扱われませんでした。なぜならば、この女性から退職届を出したことはなく、社会保険へ加入したいなどの意思を伝えていたためです(現実には社会保険には入れる状態ではありませんでした)。こういった要素から、退職合意は形成されていないと判断されました。

判例のポイント

企業側として押さえておきたいポイントは、退職合意の形成はものすごく厳格なものであるという点です。妊娠のタイミングで女性が退職することになる場合については社員への十分な説明や、意思の確認、合意確認の書面が必要になります。

万が一マタハラが発生してしまったら

もしも自社でマタハラが発生した場合、企業にとってどのようなリスクがあるのでしょうか。あわせて、マタハラが発生した場合に企業がすべき事後対応についても見ていきましょう。

マタハラが発生した場合のリスク

マタハラは「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」などに違反する行為です。上記で紹介した判例からもわかるように、実際に訴訟された事例も少なくありません。

訴訟されれば、その事実が公になり、企業のイメージに傷がつくでしょう。売り上げ低下に影響したり、新しく人材を採用するのが困難になる可能性があります。

また、訴訟されないとしても、マタハラが起こった職場では、妊娠・出産を希望する女性社員や、育休を取得したいと考える男性など、様々な社員が働きづらさを感じるでしょう。モチベーション低下につながり、生産性の低下など仕事への悪影響も出てくると考えられます。場合によっては、優秀な社員が離職してしまう恐れもあります。

企業がすべき事後対応は?

厚生労働大臣の指針では、企業内でマタハラが起こったときには、必ず以下の対応を迅速かつ適切に実施しなければならないと定めています。

  • 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
  • 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
  • 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
  • 再発防止に向けた措置を講ずること。

万が一、マタハラが発生してしまったら迅速に関係者への聞き取りを行い、対策を講じる必要があります。被害者、加害者に必要な措置をとることのほか、制度(就業規則など)そのものがマタハラの温床となっているならば、まずは制度から変えなければなりません。降格などの措置を取ってしまった場合は、撤回することも必要となります。

マタハラが起こってしまった場合、なるべく早い段階で「訴訟を起こされる可能性」も視野に入れて、弁護士に相談しましょう。自社の制度を変えたい場合は、就業規則の作成に詳しい社会保険労務士に相談するのも一案です。

実態を知って、最善の対策を

マタハラの実態を見ていきながら、これらの問題が起こる原因と、対策について考えてみましょう。

マタハラの実態

実際の被害者は4人に1人

厚生労働省が公表した「2020年度 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書」によると、過去5年間で妊娠・出産した女性社員のなかで、「マタハラを受けた」と回答した人の割合は26.3%でした。およそ4人に1人がマタハラの被害を受けていることがわかります。

また、過去5年間に、育児に関わる制度を利用しようとした男性社員への質問では、「制度等の利用への嫌がらせ型」のマタハラを受けたと回答した人の割合は26.2%にも上りました。

泣き寝入りしてしまったケースも多い

嫌がらせを受けた社員としては、個人で、あるいは組合などを通じて企業と交渉することで、何とか休暇を取得したり、職場環境を改善するよう働きかけることも不可能ではありません。

ですが、実際には泣き寝入りせざるをえないケースも多いと考えられます。妊娠・出産・子育てという、ただでさえ大変な時期にストレスを抱えながら企業と交渉するというのは現実的に困難ですし、問題の性質上、周囲に相談しにくい現状があるからだと考えられます。

マタハラ防止のための対策とは

マタハラが起こる原因としては、以下が考えられるでしょう。

  • 休暇取得等をしづらい企業風土の存在
  • 周囲の社員や上司の理解・協力不足
  • 社員同士のコミュニケーション不足
  • フォローする周囲の社員へのケア不足

周囲の社員、特に男性社員の場合は、身近に妊娠・出産・子育てを経験している人がいないと理解できないことも多々あります。また年齢層が高めの役員や管理職の中には、古い価値観を押しつける形でのマタハラ発言をする者もいるかもしれません。

こういった職場のメンバー全体に理解が得られなければ、なかなか協力を仰ぐこともできないというもの。

妊娠・出産・子育てを経験する社員が、これからどのようなキャリアパスを描いていくのか、そのためにはどのようなサポートが必要なのかを、人事が中心となって情報提供するのも一案です。周囲の協力を得るためには、まずは正しい知識と情報の共有が第一歩といえるでしょう。

マタハラを防止するための具体的な対策について、義務化された「企業が講ずべき措置」とあわせて紹介します。

社内周知の徹底と啓発を行う

「2020年度 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書」では、マタハラを受けた後の行動として、「何もしなかった」と答えた人の割合が25.5%でした。「何もしなかった」理由については、「何をしても解決にならないと思ったから」という回答が53.7%と最も多くなっており、相談する前からすでにあきらめている人が多いことがわかります。

この背景には、制度を利用しづらい企業風土があったり、周囲の社員や上司の理解不足があったりするでしょう。

企業としては、まずは「マタハラをしてはいけない」ということを明文化し、妊娠・出産・育児休業などに関わる制度を、対象者の誰もが利用できるということを、管理職を含めた全従業員に周知していく必要があります。

また、「どんな言動がマタハラに当てはまるのか」「マタハラを行った従業員に対してどのような処分があるのか」を周知し、マタハラを許さない企業風土を作っていきましょう。

企業が講ずべき措置

厚生労働大臣の指針では、企業はマタハラを防止するために、以下の内容の明確化・周知・啓発を必ず実施しなければならないと定めています。

  • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの内容
  • 妊娠・出産等、育児休業等に関する否定的な言動が職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景となり得ること
  • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントがあってはならない旨の方針
  • 制度等の利用ができることを明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
  • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理 ・ 監督者を含む労働者に周知・啓発すること

また、併せて企業が講ずべき措置として、以下の2点にも取り組む必要があります。

  • 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
  • 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

発生させないための体制づくり

マタハラに関する制度や防止するための体制を整え、社員全員に周知することで、「育休を取ることにためらいがある」という環境そのものを変えていきましょう。さらに、マタハラが疑われるときに、相談できる窓口や責任者を事前に決めておきましょう。

企業が講ずべき措置

厚生労働大臣の指針では、企業がマタハラを防止するために、社員の相談や苦情に応じ、適切に対応するために、以下に取り組むことが定めています。

  • 相談窓口をあらかじめ定めること。
  • 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応すること。

企業人事の相談窓口の活用

企業側から相談したいことがある時は、都道府県雇用環境・均等部(室)に相談してみてください。 一般的な内容であれば「女性にやさしい職場づくりナビ」(厚生労働省委託事業)から問い合わせることもできますが、個別具体的な相談に乗ってもらったり、判断を仰いだりする場合は、都道府県雇用環境・均等部(室)への相談が必要です。

周囲への配慮も必要

出産・育児に限らず、病気・ケガや身内の介護で休んだりする場合にも当てはまることですが、誰かが休めば、周囲が業務量を調整して対応する必要があります。

妊娠の場合、妊娠が判明した時点で、産休・育休に入るタイミング等はある程度わかるものです。企業としては、休業直前になってからバタバタと慌てて全体の業務量の調整を始めるのではなく、ある程度スケジュールに余裕をもって、「業務量の配分は適切か」「人員確保およびその配置は適切か」を確認しましょう。

また、業務をフォローしてくれた周囲の社員がきちんと評価されているかどうかも含めて、事後に改めてチェックすることも必要です。

参考

  • Person 井手 清香
    井手 清香

    井手 清香 行政書士

    かずきよ行政書士事務所所長。システムエンジニアとフリーライターを経験し、2019年から行政書士として活躍している。法律や制度など、わかりにくい内容をすっきりとご説明するために日々精進中。

    最近のモットーは「補助金申請を通じて、必要なところに必要なお金を届ける」。

  • 労務・制度 更新日:2023/04/13
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