「退職証明書」、「離職票」、「離職証明書」とは、退職時に必要な事務書類の役割と発行方法を解説
これまでの日本型雇用システムとして定着していた終身雇用制度が崩壊し、人材の流動化が加速する昨今。厚生労働省が発表した令和元年上半期の離職者数は461万5700人に上ります。企業にとって従業員が離職することは決して喜ばしいことではありませんが、新たなチャレンジへと進むことを目的としたポジティブな転職理由も増えているため、良好な関係のまま送り出すことが重要です。そのため、人事をはじめ、企業側が退職時の対応に関する知識やノウハウを蓄えることは必須といえます。そこで、従業員が退職する際に発行する書類である「退職証明書」と「離職票」、「離職証明書」について詳しく解説していきます。
社員退職後に必要な、各種事務手続き
必要な手続き | 転職先 | タイミング | 提出先 | |
---|---|---|---|---|
決まっている | 決まっていない | |||
社会保険の資格喪失届の提出 | ○ | ○ | 退職日の翌日から5日以内に | 年金事務所 |
雇用保険の資格喪失届の提出 | 不要 | ○ | 退職日の翌日から10日以内 | ハローワーク |
雇用保険の離職証明書の提出 | 不要 | ○ | 退職日の翌日から10日以内 | ハローワーク |
離職票の送付 | 不要 | ○ | ハローワークから到着しだい速やかに | 退職者 |
退職証明書の発行 | 要望により | 要望により | 退職者の依頼にもとづき速やかに | 退職者 |
住民税の変更手続き | ○ | ○ | 自治体により異なる | 退職者の住民表がある自治体 |
源泉徴収票の発行 | ○ | ○ | 最後の給与を支払後 | 退職者 |
上記は、人事総務担当が、退職者が退職した後に行う一般的な手続きをまとめた表です。企業側のルールや、退職者の要望、状況により、異なるケースがあります。
「雇用保険の離職証明書の提出」や「離職票の送付」の手続きが不要なケース
「離職票」とは
離職票(雇用保険被保険者離職票)とは、退職者が失業給付金を申請する際に必要な書類です。失業手当の申請を退職者が希望した場合に、会社側がハローワークに離職票の交付手続きを行う必要があります。ただし、離職以前の2年間で雇用保険の加入期間が1年以上あるなどの要件があるため、退職者によっては対象にならないケースがあることを覚えておきましょう。
「離職証明書」とは
「離職証明書」とは、「離職票」を発行するために、企業がハローワークに提出する書類になります。 この離職証明書は、ハローワークから離職票の交付を受けるために必要な書類で、ハローワークへの提出用・企業側の控え・退職者に渡す離職票の3枚複写式となっています。
退職証明書とは
「退職証明書」とは、離職票と同様に、退職者が希望する場合にのみ企業側が発行する書類です。そのため、全ての退職者に対して発行する義務はありません。しかし、退職者から求められた際は即座に発行しなければならず、理由なく拒否するなどの対応をしてしまうと労働基準法違反として罰せられるため注意が必要です。
「退職証明書」は、「離職証明書」と言葉は似ていますが、全く別の証明書になります。
「離職証明書」は「離職票」発行のために会社からハローワークに提出する書類です。「退職証明書」は会社から退職者に発行する書類です。混同しないように注意しましょう。
退職証明書発行の目的とタイミング
退職証明書が必要となるタイミングは、国民健康保険と国民年金の加入手続きを行うシーンが挙げられます。これら国民健康保険と国民年金の加入手続きは、公文書である離職票があれば対応可能なのですが、ハローワークを経由する離職票の発行に時間がかかる場合に、退職証明書を提示するというケースが多いです。
また、退職者の転職先がすでに決まっている場合などは、新しく入社する会社に退職証明書の提出を求められるケースもあります。理由は、履歴書に嘘偽りがなく確実に入社できる状況であるかどうかの確認や退職理由を確認するためです。その場合も、退職者から書類作成を求められたタイミングで速やかに発行しましょう。ただし、退職から2年以上経過すると退職者から発行を要求されても、企業側が発行する義務はなくなります。
退職証明書の書き方と注意点(テンプレート付)
「退職証明書」に定められたルールはなく、企業が自由に定めることができます。 一般的な項目は、「雇用期間」「業務の種類」「その事業における地位」「賃金又は退職の事由(解雇の場合はその理由も含む)」などが挙げられます。
また、大前提として、「退職者が望まない記載をしてはならない」というルールがあります。退職者としっかり話し合った上で作成する必要があります。
厚生労働省のホームページには「退職証明書」のテンプレートが用意されています。参照に自社独自のフォーマットを用意しておくとよいでしょう。
離職票を発行するには
離職票は、大前提として退職者が必要である場合のみ発行する書類になるため、まずは退職する前にしっかりと必要であるかどうかのヒアリングをすることが重要です。こうした事前確認を行っておくことで、発行までの手続きをスムーズに進めることができるので、企業側にも退職者にも良いことしかありません。では、離職票を発行するにあたって、具体的にどのような流れがあるのかを説明していきましょう。
離職票はいつ渡すのか
まずは、退職者から企業側に離職票発行の依頼が来ます。タイミングとしては、退職が決まったらすぐに発行手続きを進めることが後々のやり取りをスムーズに行うためのポイントといえるので、退職者にも事前にアナウンスしておくと良いでしょう。その後、企業側で離職票の発行に必要な離職証明書の書類を準備し、各項目の必要事項を企業側が記載したうえで退職者に渡します。その後、必要事項の記入と捺印を経て再度企業側にバックしてもらいます。
次に、退職日の翌日から10日以内に企業からハローワークに離職証明書を送り、手続きが完了すると「離職票-1」「離職票-2」のそれぞれが発行されて企業宛に送られてきます。
ハローワークから送られてきた「離職票-1」「離職票-2」を退職者に送付しましょう。
また、期日までに離職証明書の提出を怠ると雇用保険法違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が科せられます。これらのトラブルを起こさないためにも、企業側は担当者の手続きに関する知識やスケジュール管理を徹底することが重要です。
離職証明書の書き方
ハローワークから発行される「離職票-1」「離職票-2」の中で、「離職票-2」が企業側で記入する「離職証明書」になります。離職証明書は左右で記載内容が分けられており、左側には企業側が従業員に支払った賃金、右側には退職理由を記載します。企業側で記入したあとに、退職者に記載内容を確認してもらい署名と捺印をしてもらいましょう。
退職後は、雇用契約書や就業規則の影響が及びません。自社の事業を防御するためにも、退職者に誓約書の提出を求めましょう。誓約書の提出は退職者の任意になります。退職者に提出を強要することはできません。一般的に誓約書に記載すべき内容は以下になります。
守秘義務
退職者が、業務上知り得た自社の機密を第三者に漏えいすることを防止するための誓約です。
競業禁止
退職者が、自社の業務で得た知見や情報を持って、ライバル企業に転職する、もしくは、同じ内容の事業で起業することを防止するための誓約です。
損害賠償規定
「守秘義務」「競業禁止」の誓約に違反した場合、損害賠償を求めることを記載しましょう。
退職時の対応は企業の評判を左右する重要なポイント
従業員の退職は、企業にとって大きなダメージといえますが、終身雇用が崩壊しつつある今、人材の流動化に備えて退職時の必要な手続きや書類関連の知識を高めることは重要なことです。新たな人材を確保する際も、退職者による口コミなどが大きく影響する時代でもあるため、退職者に対する対応にも気が抜けません。
「退職証明書」や「離職票」の発行にあたって企業側がスピーディーに対応することは、退職者が次に進むための大切な一歩を支えることにもなり、ゆくゆくは企業側の評価にも繋がります。適切に処理を行いましょう。
参照
- 出典:厚生労働省「令和元年上半期雇用動向調査結果」
- 書式例:厚生労働省のホームページ 「労働基準法関係主要様式」「退職事由に係るモデル退職証明書」
- 参考:ハローワークインターネットサービス 「記入例:雇用保険被保険者離職票−2」(様式第6号)
- 労務・制度 更新日:2022/10/25
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