“女性活躍推進”に数値目標は必要か
こんにちは。若林です。以前に、なでしこ銘柄に焦点を当て、どういう状態を目指せば投資家達から“今後の成長が見込まれる企業体質・人事体制となっている”と評価されるかを確認していきました。なでしこ銘柄の女性活躍度調査内容には「管理職の女性比率」があり、数値を元に選定を行っていくことが定められていましたが、数値目標を掲げることへの現場の反対論が多く存在するのも事実です。はたして数値目標を掲げることは必要なのかどうか、掲げる意義について、考えていきたいと思います。
以前の記事はここから ⇒【女性活躍推進の指標“なでしこ銘柄”を知る】
先進国の中で、残念ながら日本ほど女性リーダーが少ない国はありません。1980年代まではOECD(経済協力開発機構)の中でも日本の女性就業率は中間に位置していましたが、2019年現在は多くの国に取り残される状況となってしまいました。特に管理職に占める女性の割合は、アメリカ・イギリス・フランスなどの欧米諸国だけでなく、フィリピン・シンガポールなどのアジア各国からも大きく後れをとっています。
2013年安倍総理が国連総会の場で女性活躍推進をテーマに演説をしたことは、こうした状況を鑑み、国際公約として女性リーダーの輩出を進めることを宣言したとみられています。
(参考 http://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/2020_30/pdf/2020_30_r.pdf)
政府は「日本再興戦略」の中で、“指導的地位に占める女性割合を、2020年までに30%程度にする”というKPI(成果目標)を掲げました。それにより2012年6.9%だった女性管理職の割合は、2017年には13.2%に上昇し、2020年に30%という目標に到達するには遠いものの、緩やかに上昇カーブを描いていっています。
(参考 http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/pdf/h30_gaiyou.pdf 35ページ目)
女性活躍推進を見える化しKPIを掲げる手法については、非常に大きな効果があると考えられています。例えば韓国では、2006年に民間部門に対して積極的雇用改善措置制度を導入し、雇用改善の目標値や実績、雇用の変動状況を雇用労働部に毎年報告をすることを義務付けました。優秀企業は表彰される一方で、平均値に満たない企業には改善勧告を行う措置が取られ、その結果女性管理職比率は2006年の10.2%から2013年には17.0%まで改善効果が得られました。日本と同じように後れをとっていた韓国の取り組みや改善成果は、日本政府がますます危機感を募らせる要因となりました。
(参考 https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/14j030.pdf 22ページ目参照)
女性活躍推進の数値化で成功を治める韓国と同様に、日本政府も日本再興戦略の中で“2020年までに指導的地位に占める女性割合を30%にする”という目標を掲げました。この目標に影響されてか、日本の民間企業も同様の目標設定をする企業が増加してきました。
民間企業の指導的地位に占める女性割合は、2012年段階で6.9%というデータがありますが、上場企業はさらに低い数値だといわれています。上場企業には採用力があるため、男性の中でも優秀な人財を獲得出来ることが背景になっていたのでしょう。
そのような傾向がある中で、2014年、日本経団連が女性登用の自主行動計画を公表依頼しました。それにより、全国で約600社以上の企業が自主行動計画を公表し、女性管理職比率の低かった上場企業も女性採用数の目標・管理職比率の目標などを設定していく動きが多くみられるようになりました。しかし、実際の現場では、女性にだけ管理職比率や採用数の目標設定を行うことについて、多くの反対論が噴出しました。
目標設定を行うことは簡単でも、目標を達成するためのプロセスにおいて、多くの反対意見が噴出しました。一部の上場企業では、数値目標を一度は設定したが、社内での反対意見や抵抗が強くみられ、現在は取りやめているという企業もあるそうです。
現場の反対論として多いのが「男性への逆差別ではないか」「無理に女性管理職を増やしても、本人が無理をして潰れてしまえば不幸せであり、現場も混乱する」などです。
まず「逆差別ではないか」という意見について。この数値目標の設定は、「積極的改善措置」ポジティブアクションと呼ばれる手法の一環として捉えることが必要だと考えます。ポジティブアクションとは、「差別などが存在する場合に、実質的な機会均等を実現するために暫定的に講じる措置」のことです。「性別や人種などを理由とした差別を撤廃するためには差別を禁止するだけでは不十分で、本当の意味で対等な競争が実現するまでの間は、それまでに失われた機会を補填すべきだ」というアメリカの公民憲法の考え方がベースとなっています。
ポジティブアクションの是非については、世界中で激しい議論がなされてきましたが、日本では“ポジティブアクションが、実質的な機会の平等を実現する合理的なものであれば、憲法上の【平等原則】に反しない”という判断が確定しています。事実、男女共同参画社会基本法の第二条に、ポジティブアクションについての規定が設けられているため、「逆差別」にはならないという結論に至っています。
次に、「無理に女性管理職を増やしても、本人が無理をして潰れてしまえば不幸せであり、現場も混乱する」という意見についてです。が、この意見の中には「能力や経験で女性のほうが劣っている場合でも、男性ではなく女性を管理職にする」ということまで行ってしまうと求めすぎだと思います。「近しい能力で男性と女性両方の候補者がいる場合、女性を優先して昇格させる」という内容でいけば、上記意見を軽減できるのではないでしょうか。
反対意見に対して論理的に説明したとしても、心情的な部分で納得してもらうのは容易ではないと思います。しかし、ポジティブアクションが必要な理由も多くあります。
現時点での女性は経営的判断を行ううえでマイノリティであり、幅広い経験を得る機会においてハンデを背負っています。さらに、育児や介護などへの対応は、家庭内で女性が担うケースも多く、そういうことも踏まえると「男女は平等に。公平にするべきだ」という考え方だけでは不十分なのです。これらのハンデを補うためにも、ポジティブアクションによって、男性女性悩んだ際には女性を優先して昇進させるというような対応を行う必要があると考えらえています。
今回は、数値設定の是非について考えてみました。世界から後れをとった日本政府の結論としては、数値設定を行いポジティブアクションを推進することで、女性活躍をサポートしていくという考え方でした。ですが、どんな理由を付けても、現場からの反発はなかなか治まるものではありません。ですが上記のような背景を元に議論を重ねることで、理解を深めていくことに繋がると思いますので、どのような状態が男女平等と捉えるかを、改めて皆さんの会社内で議論していただくことが大切なのかもしれません。
- 労務・制度 更新日:2020/04/14
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