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短時間勤務なのに生産性アップ!?6時間労働がもたらすメリット・デメリット

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日本では労働基準法により、1日の労働時間が8時間を超えないように取り決められています。しかし、残業でどうしても8時間以上の労働になってしまっている……という企業が後を絶たないのも事実です。

一方で、世界では6時間労働を検討する企業があります。しかし、労働時間が短くなっても、同様の成果はあげられるのでしょうか。今回は6時間労働のメリットやデメリット、6時間労働を実施している海外の事例などを紹介します。

8時間労働のルーツとは

8時間労働のはじまりはイギリス産業革命

そもそも、なぜ労働時間は8時間となっているのでしょうか。そのルーツは、18世紀半ば〜19世紀にかけてイギリスで起こった産業革命当時まで遡ります。

当時、平均的な労働時間は1日10~16時間にも上り、休日は週に1日しかなかったといいます。それは、雇用主が「労働時間は長ければ長いほど、生産力が上がる」と考えていたからに他なりません。

当然ながら、労働者の負担は大きく健康問題や生産性の低下は避けられませんでした。そこで劣悪な労働条件を改善しようと、立ち上がったのがイギリスの実業家・社会活動家であるロバート・オーウェンだったと言われています。

オーウェンは幼い子どもでさえも長時間働いていた状況を憂い、自分の工場において「仕事に8時間を、休息に8時間を、やりたいことに8時間を」(Eight hours labor, Eight hours recreation, Eight hours rest)というスローガンを作り出しました。その成果として、イギリス政府は9歳未満の児童の労働を禁止したほか、「全労働者の月曜日から金曜日までの労働時間は1日最大10時間」と定められるようになったのです。

また、アメリカでは1886年5月1日にアメリカ全土で労働者が8時間労働制を求め、大規模なストライキが行われました。これがメーデー(労働者の日)の起源と言われています。その参加人数が35万人だったという数字からも、非常に大きな運動であったことがうかがえるでしょう。

日本では、1919年に川崎造船所がはじめて就業規則化

日本では、1919年に川崎造船所(現:川崎重工業船舶海洋カンパニー)の神戸工場が日本で最初に8時間労働を就業規則として定めています。工場に勤務する労働者たちが労働条件の改善を求めた結果、労働時間は10時間から8時間に短縮されることとなりました。

さらに1947年には、労働基準法の施行により日本で8時間労働が法制化。終戦直後により、どの企業も労働環境を整える余裕がない状況ではあるものの、労働者を保護する目的から1日の労働時間が8時間に定められたのです。

日本ではその後、高度経済成長期を経た今もなお、8時間労働がそのまま行われるようになりました。つまり、8時間労働は劣悪な労働環境に反対するべく、立ち上がった人々の運動により獲得した権利ともいえるでしょう。

このような経緯から8時間労働が一般化しましたが、最適な労働時間は明確にわかっていません。しかし、近年では生産性の向上を目指し、最適な労働時間を模索する企業も増加しています。

法律で定められた休憩時間とは

労働時間の短縮を行ううえで重要視されているのが、休憩時間です。労働基準法34条では、「労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならない」と定めています。つまり、労働時間が6時間に満たない、もしくはぴったり6時間の場合は「休憩なし」となるのです。実際に労働時間を短縮している企業は、休憩時間を設けていないことも珍しくありません。

6時間労働のメリット、デメリット

続いて、6時間労働のメリットとデメリットを比較してみましょう。

メリット

1.新たな人材を発掘できる

子育てや介護などの家庭の事情、本人の健康上の理由などで、キャリアはあるのにフルタイム勤務ができない優秀な人材はたくさんいます。これらの人材を発掘し戦力として活用することができます。

2.仕事の効率が向上する

労働時間が短くなると、体力が残っているうちに仕事を終えることができます。いわば集中力が維持できるため、効率良く業務を進められます。さらに労働時間が短いと、疲労を回復するための時間も確保できるため、社員の健康状態も良好に保たれます。

特に長時間労働は、うつ病をはじめとする精神面での不調や、十分な休息時間を得られないことから発症する体調不良を招きます。睡眠不足が慢性的に続いた状態では、ささいな出来事から仕事でミスを犯し、一気にバランスを崩してしまうことでしょう。集中力や判断力を維持し、健康的に働くためには労働時間の短縮が有効です。

3.ワーク・ライフ・バランスの両立

労働時間が長いことは、社員の離職にもつながります。社員が離職する理由の中には、「育児や介護と仕事が両立できない」 といったものもあるかもしれません。しかし、6 時間労働であればある程度の時間が確保できるため、育児や介護との両立もできます。

仕事とそれ以外の生活のバランスが取れ、双方に良い影響がもたらされる「ワーク・ライフ・バランス」の実現は、社員にとってプラスとなるでしょう。

メリット4.企業のイメージアップ

6時間労働制の導入は、企業のイメージアップにつながります。多様な働き方ができる企業として注目を集め、広報効果が期待できます。

5.残業のコストが減る可能性

6時間労働でも残業代が発生するのは法定労働時間の8時間を超えた場合になります。社員が6時間労働を意識して、集中して業務を行うことで8時間以内に業務が終わり、今まで、発生していた残業代を減らせる可能性があります。

デメリット

1.社員同士のコミュニケーションにかける時間が短くなる

労働時間が少なくなると、 時間内に業務を終わらせるために社員が業務に集中するようになります。その分、社員間のコミュニケーションが減り、社内の雰囲気が変化するかもしれません。また、雑談からアイデアが生まれる機会を失ってしまうかもしれません。

短時間であっても社員間のコミュニケーションを豊かにするためには、チャットなどのツールをうまく活用する方法を検討すると良いでしょう。

2.仕事が雑になるリスク

短時間で仕事を終えるには、重要な業務とそうでない業務の取捨選択が必要です。その選択を誤って、重要な業務が雑になってしまう可能性があります。マネージャーは、業務の優先順位を明確に指示する必要があります。

6時間労働の海外事例

海外では、6時間労働制へのチャレンジが始まっています。実際に導入した国々では、どのような成果をあげることができたのでしょうか。

スウェーデンの事例

国際的に「ワーク・ライフ・バランス先進国」というイメージが強いスウェーデンでは、2015年2月から2年間、1日6時間労働が試験的に行われていました。

試験的に1日6時間労働が導入されたのは、ヨーデボリの養護老人ホームでした。調査によれば、初年度には欠勤が大幅に減り、生産性と労働者の健康が改善されたという結果が出ています。

一見すると良い効果にも思えますが、政府は労働時間の削減とシフトのカバーを両立させるためには追加で人員を雇う必要が生じたことも事実であると述べています。税金により厚い福祉や社会の保障を成立させているスウェーデンでは、追加で雇う人材への賃金が経済的な負担になる批判も見られましたが、現在も試験的に短時間労働の試験が進んでいます。

アメリカの事例

2014年にアメリカのサンディエゴで開催された「その年に最も急成長した企業」を選ぶコンテストで大賞を受賞した企業「Tower Paddle Boards」では、なんと1日の労働時間を5時間に定めていました。もともと8時間労働だったこの企業が思い切って労働時間を大幅にカットしたところ、生産性が2倍にも上がったそうです。

労働時間を削減した背景には、「8時間の中には、仕事ではなく仕事の準備に費やしている時間もある」「仕事をする時間のため、無駄な時間が発生している」という社長の気づきがあったとされています。たしかに、私たちは集中力を8時間にわたって維持することは困難であり、休憩をして脳を休める必要があります。

「Tower Paddle Boards」の取り組みは大胆に見えて、実際は集中力を持続させ、高いパフォーマンスを出すための施策だったのです。

6時間勤務制を始めとした短時間 勤務制度の導入の仕方

ここでは、就業規則の作成が義務付けられている常時10人以上の労働者を雇用する企業が、既に労働契約を結んでいる労働者に対して、短時間勤務制を導入する際の一例を紹介します。

なお、企業によって条件はさまざまです。原則として、就業規則の変更や労働条件の変更は、企業側の都合で変更できません。導入の際は、法令に違反しないように社会保険労務士、弁護士などの専門家と協力して進めましょう。

1.就業規則変更の原案を作成する

短時間勤務制度を取り入れた就業規則の原案を作成しましょう。なお、労働者の不利益になる就業規則の変更は原則できません。その旨を確認の上で作成しましょう。

2.専門家に相談する

原案を社会保険労務士、弁護士などの専門家に相談し、法的な問題などを確認し修正します。

3.労働者への周知

就業規則の変更を労働者に周知します。

4.話し合い

就業規則の変更に際し、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者と話し合い合意を得ます。

5.労働者と新しい雇用契約を結ぶ

新しい就業規則を周知し、労働者ひとりひとりと新しい雇用契約を締結します。

法律で義務づけられた短時間勤務制度

これまで、企業が独自に定める短時間勤務制度を紹介してきました。ここでは、法律によって定められた、特定の労働者向けの短時間勤務制度を紹介します。

法制化の歴史

1992年施行の「育児休業等に関する法律」に端を発し、2012年には、3歳未満の子を養育する労働者と要介護状態の家族を介護する労働者に対して、1日の労働時間を原則6時間とする短時間勤務制度が義務化されました。

最近では、2021年「育児・介護休業法」が改正され、育児休業を取得しやすい環境を整備することも企業の義務とされました。この改正で、企業は、「就業規則の改定」 「研修や相談窓口等の整備」、「社会保険料の免除の条件、給付金の案内」などを労働者に周知し、意思の確認を行う必要があります。

さらに、育児休業の回数や期日の管理や、常時千名以上の従業員を抱える企業は、育児休業などの取得状況を公表することも義務付けられています。

また、父親の育児休業取得を後押しする「出生時育児休業制度(産後パパ育休)」が設けられました。この制度は、労働者の申し出により、子の出生後8週間以内に4週間までの休業を取得できる制度です。

短期時間勤務制度の対象者

育児にまつわる時短勤務対象者

育児にまつわる時短勤務の対象者は以下、全てを満たす労働者になります。

  • 3歳未満の子を養育する労働者
  • 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
  • 日雇いで契約している労働者でないこと (日雇い契約でなければ、非正規、パートも時短勤務が適用される)
  • 同時期に育児休業をしていないこと。

育児にまつわる時短勤務対象から外れるケース

以下は、労使協定により適用除外とされる場合があります。つまり労使協定によっては時短勤務が認められます。

  • 雇用期間が1年未満
  • 勤務日数が週2日以内
  • 時短勤務に適さない業務 (企業は、就業規則に具体的に明記の上、代替え措置を設ける必要がある)

介護にまつわる時短勤務対象

要介護状態の家族を介護する男女労働者を対象とします。 また、介護にまつわる時短勤務は、育児とは異なり 時短勤務以外の選択をすることもできます。

  • フレックスタイム制度
  • 始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ
  • 介護サービス費用の助成や、それに準ずる制度

・要介護の定義

負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態を指します。そのため、介護保険法の要介護認定を受けていなくても対象となりますが、介護保険法で定める要介護2以上の状態を判断基準としています。

基準に満たなくても、労働者が仕事と家族の健康が両立できるように、申し出があった場合は、事情を考慮した柔軟な対応が求められます。また、企業は、労働者から申し出を受けた場合、証明書などの提出を求めることができますが、医師の診断書の提出を義務付けることはできません。

・家族の定義

配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹および孫。子については、法律上の親子関係がある子(養子を含む)。

介護にまつわる時短勤務対象からはずれるケース

以下は、労使協定により適用除外とされる場合があります。つまり労使協定によっては時短勤務が認められます。

  • 雇用期間が1年未満
  • 勤務日数が週2日以内

フルタイム勤務に戻すときの注意点

時短勤務からフルタイム勤務にもどるときには以下の注意が必要です。

不利益な扱いの禁止

時短勤務申請者に対して、法律で不利益な扱いを禁止しています。フルタイム勤務に戻ったあとも、以前と変更のない条件で扱うようにしましょう。

  • 減給や賞与などにおいて、不利益な算定を行うこと
  • 労働条件の変更、解雇など
  • 人事考課で不利益に査定すること

異動・転勤に対する配慮義務

フルタイムに戻ったあとの異動・転勤に関して労働者の意思や家庭環境を考慮した上で、命令を出さなければなりません。

例えば、子どもが保育園に通っている状態で、何らかの措置なしに、通勤時間がかかる遠方への転勤を命令するなどは、配慮がなされてないとみなされます。

フルタイム勤務への移行は断れない

労働者からフルタイムへの復帰希望があった場合は、速やかに処理する必要があります。また、企業側がフルタイムへの復帰を断ることはできません。

「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」制度を案内する

育児休業の短時間勤務による収入の減少に伴い標準報酬月額が低下した場合、この低下が将来の年金額の減少に影響しないように、養育をする前の標準報酬月額を適用する措置です。

これにより、育児目的の時短勤務で一時的に収入が減っても、変わらない年金を得ることができます。なおこの手続は被保険者による申請が必要です。会社側から制度を説明し、手続きを促しましょう。

6時間労働制導入で新たな人材を獲得しよう

労働人口の減少で人材獲得競争が激化する中、求職者に選ばれる企業になるためには、柔軟な働き方に対応する制度が必要です。

6時間労働制の導入は、他社との差別化を生み、離職率を下げ、また、何らかの事情でフルタイム労働ができない優秀な人材の発掘も期待できます。新しい働き方として導入を検討してみてはいかがでしょう。

  • 労務・制度 更新日:2023/09/26
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