大学生は働くことに何を求めるのか:その特徴と変化
企業だけが従業員のキャリア形成を担うのではなく、働く人々も自身も積極的に関わり形成されるキャリアを「自律的なキャリア」と言う。個人がキャリア形成に関わることは、働く上での価値観・目標といった内的キャリアが、キャリア形成に大きく影響を与えるようになることを意味する。
ここでは、関東圏にある大学の2年生を対象として、2004年より継続的に実施している調査結果から、大学生の内的キャリアの特徴ならびに変化について示す。大学生のキャリア・オリエンテーションは就職活動時の企業選びや初期キャリア形成に影響を与えるだろう。彼らのキャリア・オリエンテーションを理解することは採用活動だけでなく、初期キャリア形成のあり方をより良いものとする。
この調査では内的キャリアの測定に、Derr(1986)が提唱したキャリア・オリエンテーションを用いている。キャリア・オリエンテーションとは「個人が自らの価値観・態度・動機に沿って、仕事を通じた成功を認識する志向性」のことであり、「上昇」「保証」「挑戦」「自由」「バランス」という5つの類型で構成される。
「上昇」とは、組織内部での昇進、ならびにそれに伴う影響力・地位・金銭的報酬の増大を志向するものである。「保証」とは、長期的な雇用の安定性と、そのために会社への忠誠心・愛着を何よりも重視する志向するものである。「挑戦」とは、多少リスクを伴っても、自分が夢中になることができるような仕事に従事できることを志向するものであり、「自由」とは、自律性が尊重され、管理が厳しくないこと、結果に対する責任を負うことを志向するものである。「バランス」とは、仕事により仕事以外の生活領域が侵食されることは好まないとする志向性のことである。
キャリア・オリエンテーションには性差が認められていることから、性別ごとにグラフを作成した。図1・図2を参照して特徴ならびに変化をみていこう。なお、回答はいずれも「重要である=2」「どちらともいえない=1」「重要ではない=0」の 3 件法である。
「バランス」を志向する程度は、2004年度から2016年度まで男子学生・女子学生とも5類型の中で最も高い水準にあり、かつ男子学生と女子学生との間にほとんど差異はなかった。大学生は仕事以外の生活時間を大事にしたいと強く考えている。
女子学生が「上昇」を志向する程度は5類型の中で最も低く、同時に男子学生よりも一貫して低い水準にとどまった。また、男女間での平均点の差異は5類型の中で最も大きい。女性社員の管理職登用など女性活躍を推進しようとするなら、入社前から存在するこの違いを踏まえたアプローチが求められる。
「挑戦」は5類型の中で最も変化が大きかった。「挑戦」を志向する程度は、男子学生・女子学生とも5類型の中で比較的高い水準にあるものの、男子学生・女子学生とも2004年度から緩やかではあるが低下傾向にある。低下傾向は特に男子学生において顕著である。雇用の安定という面での不透明さが増す昨今、大学生にとって、仕事で「挑戦」することのデメリットの方がメリットに勝るのではないだろうか。企業には働き手から「挑戦」を引き出す仕組みづくりが求められている。
「保証」を志向する程度は、男子学生・女子学生とも2011年度まで高まったが、その後2004年度よりは高い水準にあるものの緩やかに低下する傾向が認められる。この傾向が意味するものを理解すべく、「保証」尺度を構成する項目での比較を行った。取り上げた項目は長期的な雇用の安定性を意味する「1つの会社でできるだけ長く働くこと」と、会社への忠誠心を意味する「自分を犠牲にしてでも、上司や会社のために目標を変更すること」である。
図3・図4から、大学生が1つの会社で長期的に働きたいという志向性は2004年度以降高まり、その水準を維持しているものの、自分を曲げてまで会社や上司に合わせようという志向性は低下しており、後者の動きが2011年度以降の「保証」を志向する程度を低下させている可能性が指摘できる。大学生の「保証」は「長期的に1つの会社で働き続けたいという意向を持ち、会社する忠誠心も重視する」という方向で高まったのちに、「長期的に働きたいが、会社に対する忠誠心は重視しない」という方向へと質的に変化していると言える。
<参考文献>
Derr, C. B. (1986). Managing the new careerists: the diverse career success orientations of today’s workers, San Francisco, CA: Jossey-Bass. 坂爪洋美(2017)「大学生のキャリア・オリエンテーションの継時的変化― 2004年から2016年までを対象に―」慶應経営論集34(1), 11-38.

法政大学 キャリアデザイン学部 坂爪 洋美 教授
慶應大学文学部卒業後、㈱リクルート人材センター(現:リクルート・キャリア)での勤務を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科にて2003年博士(経営学)を取得。和光大学を経て、2015年4月より現職。専門は組織行動論。主たる研究テーマは、キャリア・オリエンテーションの形成ならびに育児や介護を理由とした働き方の多様化における管理職のマネジメントのあり方。
- 人材採用・育成 更新日:2017/07/10
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