書類に「顔写真不要」「性別不要」の流れも 応募者の真のスキルを知るために大切なこと
企業が採用にあたって求める履歴書やエントリーシートなどで、顔写真の添付や性別の記載を不要とするケースが出てきています。
写真や性別から受ける第一印象や想像を排除して応募者と向き合うのが目的ですが、こうした取り組みを通じて、応募者のスキルを書類の段階でどのように評価すれば良いのか考えてみたいと思います。
なかでも今回は、ダイバーシティとインクルージョンがどう採用活動を変えるかについてです。
44%の担当者「写真が合否に影響」
ウェブサイトで「#性別知ってどうするの」のハッシュタグでキャンペーンを展開しているのがユニリーバ・ジャパン・ホールディングスです。
ユニリーバは2020年から採用試験で提出する履歴書から顔写真の添付、性別、ファーストネームの記載を不要とし、オリジナルの履歴書フォーマットを提供しています。
ユニリーバが調査したところ、採用における男女平等について、4割以上が「映り方の印象が採用の有無に影響すると思う」と回答したことがわかりました*1。
そして顔写真についも、4割以上が「映り方の印象が採用の有無に影響すると思う」と回答していました*2。
東京海上日動火災保険も2022年秋の採用で、性別、大学名の記入欄を消し、名前は姓のみでよく、顔写真の添付も不要にしました*3。
過去には顔写真を見て書類選考で落としたケースもあったといいます。顔そのものだけでなく服装や写真の型式がきちんとしているかなどを考慮していましたが、それも含めて多様な人材である、という考え方に舵を切ったのです。
三菱ケミカルもキャリア採用などのスタンスとして、「性別を問うことはない」としています*4
なお、厚生労働省は、令和2年7月に、履歴書の性別欄について、性別を任意記載とする様式令を作成しています*5。
また、これは企業組織の話ではありませんが、アメリカではこのようなことも起きています。
陸軍が大隊長の選抜方法を2018年に抜本改革していますが、背景には、従来のやり方では現場に適したリーダーが選ばれていなかったことがあります。2009年から10年間にかけて22000人の兵士を対象に調査を実施したところ、回答者の20%が上司について「能力不足」16%について「有害なリーダー」としていたのです*6。そこで陸軍が新しく導入した大隊長選抜面接のステップのうちのひとつが、「ダブルブラインド面接」というものでした*7。
ボストン交響楽団が発明したもので、面接官と候補者の間を黒いカーテンで仕切るというものです。こうすることによって人種や外見、制服につけた徽章に関係なく面接ができることになります。
これらの手法を導入することで、結果、候補者全体の96%、女性では98%、マイノリティでは96%が新しい選抜方法が以前のものより優れていると回答しています*8。
見た目などの情報に捉われないことは、採用の場だけでなく組織づくりにも大切なようです。
顔写真提出をやめ応募者が2倍に、生年月日も不要にする?
また三菱ケミカルは2021年の春採用から性別の記入欄や顔写真の提出をなくしています*2。その結果、新卒総合職の選考への応募者は前年の約2倍に増加したうえ、内定者のうち女性が占める比率は4~5ポイント高い20%台後半になったといいます。
また三菱ケミカルは、生年月日の記入欄をなくすことも検討しています。
「年齢の壁」は強く感じられていることの意識は採用側にも必要
実際、転職活動者の中には「年齢の壁」を感じている人が多いようです。
マイナビの調査によれば、35歳あたりから年齢の壁を感じる人が急増しています。「転職活動をする際に年齢の壁を感じたか」という質問に対しての回答は、年齢ごとに下のようになっています。
しかし人材不足の中、特に専門スキルを持つ人材は年齢によらず募集したいというのもひとつの考え方かもしれません。
生年月日も不要とする、とは大胆な発想ですが、転職検討者が抱いている不安を把握し、最初のハードルをひとつでも多く取り除くことは、応募者の数を伸ばすためにも大切なことになりそうです。
スキル要件なのかポテンシャルなのか
さて、企業が中途採用を実施するのには、いくつかの理由があることでしょう。主なものとしては、
- 純粋な人材量の不足を解消してくれる即戦力
- 離職者のポジションの穴埋め
- 将来に備えた幹部候補の獲得
といったことが考えられます。
そして、これらの違いによって、必要な条件は当然変わってくるはずです。
どの企業だって「感じのいい人を採用したい」と考えることでしょう。感じが良くてスキルがあり、将来リーダーになれそうな人。もちろん欲しいことだと思います。
しかし物事はそう簡単ではありません。そんな人ばかりを探していたのでは、いつまでたっても誰も採用できなくなってしまいます。
採用にあたって、いずれ面接はするわけです。その時、少なくとも上記1)2)に関しては「写真が与える第一印象」はどこまで大切か?と考えてみる必要があるでしょう。
どれだけ感じが良くても、スキル要件を優先に考える場合、写真が「余計な情報」になることは十分に考えられます。
3)の場合は、少し事情は異なるかもしれません。即リーダー格のポジションで働いてくれる人を求める場合、人を束ねることができそうな印象があるかどうかは、まったく不必要とは言えないからです。
明瞭でない求人には応募者も戸惑う
最近筆者は、中途採用の求人票に多く目を通す機会がありました。
すると、「応募要件」として、種類の異なるスキルが同列に並んでいるものが多いのです。特に多く見受けられるのが、
「◯◯の実務経験が何年あって、かつリーダーやマネジャー経験者」
というものです。
さらに「歓迎」要件となると、多すぎる項目が提示されています。
そうなると、応募者は「これら全てを満たしていない自分には応募資格がない」と考えてしまい、及び腰になってしまいます。
あるいは逆に、「そんな経験はないけれどとりあえず数打てば当たるだろう」という考え方の応募者も出てきてしまいます。
そして、見た目などバイアスがかかった状態で書類を通過させてみたものの、会って話してみたら全く違った、となることは少なくありません。
絞った採用を効率的に進めるということ
そのような意味では、純粋なスキル要件を知るために「余計な情報」を排除して書類選考を進めることには意義があると筆者は考えます。
今欲しいのはどんな種類の人材なのか?
そこを明確に、粒度の高い情報を求人票に表記しなければ、「いまいち」あるいはどこかで妥協した採用となってしまいます。
もちろん、「オープンポジション」という考え方もあります。その場合は「オープンポジション」と明記したほうが、チャレンジ精神ある応募者が集まりやすいことでしょう。
書類は、多く目を通し過ぎれば通しすぎるほど、「あれも良いこれも良い」となってしまいがちです。
そのようなふんわりとした状態のまま採用を進めてしまうことが効率的かどうか、筆者には少し疑問が残ります。
また、「全てにおいてできあがった状態」の人材を求めすぎるのも機会損失を生んでしまう可能性があります。
中途採用の人材と言えども、受け入れた後に企業の中で足りない部分を補っていく手間を惜しんでいては、中途半端さが残ることでしょう。
参考
- *1、2「採用における、無意識に生じる性別への先入観の調査」ユニリーバ より
- *3「エントリーシートに顔写真不要 「門前払い」を排除、広がる人物本位」朝日新聞デジタル
- *4「ライフスタイルとの両立支援」三菱ケミカル株式会社
- *5「新たな履歴書の様式例の作成について」厚生労働省
- *6、7、8「ハーバード・ビジネス・レビュー」2021年3月号 p103、p107、p112
- 人材採用・育成 更新日:2024/04/17
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