【弁護士が解説】中途採用面接に関する法律上の注意点|聞いてはいけない質問とは?
企業は中途採用面接において、候補者の適性・能力とは関係ない事柄について質問すべきではありません。
不適切な質問をした場合には、厚生労働大臣による行政指導・行政処分などを受ける可能性があります。各企業は、面接担当者に対して十分な周知・教育を行い、不適切な質問がなされることがないように努めましょう。
今回は、中途採用面接で不適切な質問をした企業がどのようなリスクを負うのか、法律・コンプライアンスの観点から解説します。
中途採用面接では、差別に繋がる質問はNG
中途採用面接では、候補者の適性・能力とは無関係な要素については、極力質問を控えるべきです。
特に性別・出自・思想などに関する質問は、差別的な採用選考に繋がり得るものとして、職業安定法や男女雇用機会均等法の違反に該当する可能性があります。
候補者の採否に関する差別的な取り扱いは禁止|職業安定法
中途採用面接の候補者を、企業が以下の事項を理由として差別的に取り扱うことは、職業安定法3条によって原則禁止とされています。
- 人種
- 国籍
- 信条
- 性別
- 社会的身分
- 門地
- 従前の職業
- 労働組合の組合員であること
職業安定法に違反して、中途採用面接の候補者を差別的に取り扱った企業は、厚生労働大臣による指導・助言や改善命令を受ける可能性があります(同法48条の2、48条の3第1項)。
改善命令に従わなかった場合は、厚生労働大臣による公表措置の対象となるほか(同法48条の3第3項)、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されます(同法65条8号)。
性別を理由とする差別的な取り扱いは禁止|男女雇用機会均等法
事業主は、労働者の募集および採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(男女雇用機会均等法5条)。 中途採用面接で性別に関する差別的な質問を行った場合は、男女雇用機会均等法違反に当たる可能性があります。
男女雇用機会均等法に違反した事業者は、厚生労働大臣(または都道府県労働局長)による指導・助言や勧告の対象です(同法29条)。さらに、勧告に違反した事業者は公表措置の対象となります(同法30条)。
中途採用面接における不適切な質問の具体例
たとえば以下のような質問は、候補者の適性・能力と関係がなく、差別に繋がり得る不適切な質問の可能性が高いでしょう。
- (1)出身地・居住地・家族・資産状況に関する質問
- (2)思想・信条・宗教・支持政党に関する質問
- (3)恋愛・交際関係・結婚・出産に関する質問
出身地・居住地・家族・資産状況に関する質問
- 本籍地は?
- どのような地域に住んでいますか?
- ご両親の出身地は?
- ご両親の職業は?
- ご家庭の収入はどのくらい?
- ご家庭の雰囲気は?
- 預貯金はどのくらいありますか?
- ご両親は地主なのですか?
出身地・居住地・家族・資産状況などに関する質問に関する質問をした場合、回答内容からいわゆる「育ち」や経済状況などを推測できる場合があります。
「育ち」や経済状況などは、中途採用において考慮すべき候補者の適性・能力とは無関係であり、むしろ偏見に基づく選考に繋がり得るため、不適切な質問といえます。
思想・信条・宗教・支持政党に関する質問
- 尊敬する人物は?
- 信仰している宗教は?
- プライベートで加入している団体はありますか?
- 新聞を購読していますか?どこの新聞社?
- ○○政策について意見はありますか?
- ○○党政権を支持しますか?
思想・良心の自由や信教の自由は、すべての人に保障された自由権(人権)です。その一方で、候補者の思想・信条・宗教・支持政党に関する情報を面接官が知った場合、偏向的な選考に繋がる可能性があります。
候補者の思想等を最大限尊重しつつ、偏見に基づく選考が行われることを避ける観点から、上記のような質問は不適切であり避けるべきです。
恋愛・交際関係・結婚・出産に関する質問
- どのようなタイプの異性が好きですか?
- 恋人はいますか?どのくらい付き合っていますか?
- 恋人と結婚する予定はありますか?
- 結婚したら仕事はどうするつもりですか?
- 将来子どもは欲しいですか?
日本では伝統的に(比較的最近まで)、結婚や出産を機に退職する女性が多数見られました。そのような背景を念頭に置いているのか、中途採用面接の際に、特に女性に対して上記のような質問をする会社があるようです。
また、面接官が候補者と打ち解けようとして、軽率に上記のような質問をしてしまうケースもあるかもしれません。
恋愛・交際関係・結婚・出産に関する質問は、中途採用の基準とすべき候補者の適性や能力とは無関係です。それどころか性差別的な選考に繋がる懸念が強いため、中途採用面接における不適切な質問の典型例といえます。
不適切な質問を避けるためのポイント
中途採用の面接官に対する周知・教育
中途採用の面接において不適切な質問がなされる事態を避けるには、面接官に対する周知・教育を徹底することが大切です。
不適切な質問に関する正しい認識を面接官にインプットするためには、たとえば以下の方法が効果的と考えられます。
- (1)採用面接マニュアルの策定|不適切な質問の具体例を明示
- (2)ロールプレイ形式の実践研修|フィードバックを活かして改善
採用面接マニュアルの策定|不適切な質問の具体例を明示
中途採用の面接において、面接官が注意すべきポイントについては、採用面接マニュアルを作成してまとめておくとよいでしょう。
特に不適切な質問については、マニュアル内でできる限り豊富に具体例を明示しておけば、面接官の有用な行動指針となります。
ロールプレイ形式の実践研修|フィードバックを活かして改善
実際の中途採用面接を想定して、ロールプレイ形式の実践研修を行うことも効果的です。
たとえば従業員を候補者役として、中途採用の面接と同様の形式で面接官に質問をさせます。
候補者役の従業員は、面接官の質問の中に不適切なものがないかどうかをチェックし、もしあればフィードバックします。面接官の意識向上のため、少しでも不適切ではないかと疑いを持ったら指摘させるのがよいでしょう。
中途採用面接の実地へ向かう前に、何度かロールプレイ形式の実践研修を経験させれば、軽率に不適切な質問をしてしまうリスクは減ると思われます。
まとめ
中途採用の面接官は、候補者の適性や能力に絞って選考すべきであることを強く意識しなければなりません。そうすれば必然的に、適性や能力とは無関係な差別的・不適切な質問をするリスクは減ります。
加えて、実際の中途採用面接に臨む前に、不適切な質問に関する知識・認識を向上させることも大切です。会社は面接官用のマニュアルを作り込み、面接官はそれを熟読してから中途採用面接に臨みましょう。
ロールプレイ形式の実践研修などを通じて、実際の中途採用面接を想定した訓練を積むことも有用です。
中途採用面接で不適切な質問をしたことが世間に広まると、企業イメージが大きく失墜するおそれがあります。中途採用を行う企業は、候補者への質問内容について特に細心の注意を払ってください。
- 人材採用・育成 更新日:2023/07/27
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