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後継者視点の事業承継のポイント〜20年後の事業継続・成長をめざして

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事業を長く続けていくために後継者へと引き継ぐ「事業承継」。帝国データバンクの調査によると、2021年に休廃業・解散した会社は5.4万社でそのうち、黒字なのに後継者がいないため「あきらめ休廃業」した会社は6割近くもあります。休廃業・解散企業の代表者の6割近くは、70歳を超えています。「経営者の高齢化」「後継者不足」といった課題を乗り越え、もし事業承継ができていたら休廃業しなくて済んだかもしれません。

今回は、後継者の立場で20年後も継続し成長し続ける事業とするための事業の引継ぎ方を解説します。

事業承継の現実と課題

2020年時点で4割以上の中小企業経営者は65歳以上です。事業承継は喫緊の課題ですが、後継者不足で事業承継をしたくてもできないのが現実です。事業承継の現実と課題について解説します。

事業承継の準備期間

事業承継には、事業の承継と資産の承継の2つの側面があります。株式会社の原則は「所有と経営の分離」です。中小企業では、出資者である株主と経営する執行者が同じ場合が多いため、事業承継を行うときは、経営権だけでなく資産も一緒に引き継ぐことになります。

事業承継には5年から10年かかると言われていますが、後継者不足の現在、親族内承継だけでなく、従業員承継やM&A承継も増えています。事業承継の準備期間としては、後継方法と後継者を決めるまでの時間も十分取っておく必要があります。

後継者育成の期間と方法

後継者育成については、育成方法や期間が決まっているわけではありません。 社員として社内の各部署を経験後、役員としてキャリアを積み、経営者の右腕として経営に携わった後に社長に就任するのが一般的です。社内での育成だけでなく、他社に武者修行に出したり、関連会社の経営を任せたりすることもあります。公的な後継者育成機関については最後に紹介します。

承継方法の3つのタイプ

事業承継の3つのタイプについて、特徴とメリット・デメリットを見ていきましょう。タイプごとの成功事例と注意点についても解説します。

帝国データバンクの統計によると、後継者不足が原因で親族内承継の割合が減り続けています。2020年には親族内承継と内部の従業員に承継する割合が事業承継全体の約3割ずつで、外部M&Aはまだ2割以下です。

親族からの承継

親族からの承継は、現経営者である親や叔父・叔母、親戚から事業を承継するケースです。企業規模や業種に関わらず一般的な方法で、従来は一番多い承継方法でした。

メリットは、従業員や取引先から後継者として受け入れてもらいやすいことと、親族から経営理念や経営に対する考え方を既に聞いているケースが多く、比較的スムーズに経営を引継ぎやすい点が挙げられます。また、株式や事業資産の承継についても、他の相続人への対策と合わせて検討できるため、後のトラブルが少なくなります。デメリットは身内同士ということで、会社の現状把握や後継者としての能力の判断が甘くなりやすい点です。

従業員等としての承継

従業員として承継するには主に3つの方法があります。1つ目は現経営者から株式を買い取る方法、2つ目は株式を贈与してもらう方法、3つ目は現経営者や親族が株式を所有したまま、経営だけを引き継ぐ方法などです。

株式購入や贈与税支払いにはお金がかかります。融資を受けるにしても従業員が受け継ぐのは経済的・精神的な負担が大きくなります。ですが、比較的小規模な企業の場合や特殊技術や人脈があり、後継者が事業を引き継ぐことで事業の成長の可能性が見込める場合に有効です。

メリットは、既に従業員や取引先の信頼を得ているのでスムーズに経営の引き継ぎが可能な点と、自分の経験を生かして経営できることです。

反対にデメリットは、自社株購入に多大な借り入れが必要となること、もしくは現経営者や親族が株式を所有し続ける際は経営にも口出しをされる場合があることです。相続が発生した時に新たな株主と経営権をめぐってトラブルになったりするリスクもあります。

外部M&Aでの承継

M&Aは調剤薬局やドラッグストア・IT業界・製造業・建設業など、大手企業や地域の企業の間で活発に行われています。中小企業のM&A承継も増えていますが、まだまだ少なく全体の1%以下です。高齢の経営者がM&Aでの事業継続を望んでいても適切なマッチング先が見つからないまま時間が過ぎて、廃業せざるをえないケースが増えています。

最近では、小さな規模のM&Aを扱う仲介会社も増え、数百万円で後継者のいない飲食店やネイルサロンなどを創業希望者が購入し、オーナーとして独立する例もあります。

外部M&Aで事業承継するポイントは、スムーズに経営者交代ができるように価値観や組織文化が近い企業を探すことです。お客様や従業員を大事にしてきた企業なのか、それとも企業の利益を優先してきたのかは、承継する組織運営にも大きく影響します。時間をかけてしっかり確認しましょう。

この承継方法のメリットは、買収する事業の経験がなくても顧客や従業員ごと事業を買い取り、短期間で新規事業を軌道にのせられる点です。またデメリットは案件が少なく希望の承継案件を見つけるのが難しいこと、M&Aの手数料が高額なケースがあることなどが挙げられます。

経営形態による事業承継の違い

事業承継と一言で言っても、個人事業主からの承継と、法人からの承継では手続きが大きく異なります。

個人事業主からの承継

個人事業主からの事業承継はできません。店舗などを引き継いで同じ顧客に同じ商品やサービスを提供する場合でも、税制上は現経営者が廃業し、後継者が新規開業する手続きを取ります。

個人事業主が生存中に事業承継する流れは次の通りです。

  • 先代の廃業手続き
  • 後継者の開業手続き

許認可の必要な事業は、改めて後継者が許認可を取得し直す必要があります。また、事業用の資産や在庫・設備などの譲り受けは、生前贈与となるため贈与税の対象です。先代が亡くなった場合に事業承継をする際は、相続手続きとなります。事業用資産は個人の財産なので、遺産分割協議でトラブルにならないように、事業用資産を後継者が相続できるように遺言書を残してもらいましょう。

法人や第三者からの承継

法人や第三者からの承継は、次項以降の一般的な事業承継の流れになります。

事業承継で引き継ぐ3つの資源

事業承継で引き継ぐ資産は、経営権と有形資産だけではありません。資産には、財務諸表に記載されている「有形資産」だけでなく、目に見えにくい「無形資産」もあります。

経営権

経営権は、企業のあらゆる事柄を決定できる権利です。経営権を持つ経営者は会社を代表して経営資源の管理や人事・財務について決定することができます。

有形資産

企業の株式や設備、建物、資金などの事業に不可欠な有形資産も引き継ぎます。経営権を持つには、自社株式の過半数の承継が必要です。自社株式の承継には、贈与・売買・相続の3つの方法があります。

無形資産(知的資産)

事業承継で大事なのは目に見えにくい「無形資産」を正しく承継することです。経営理念や社長の人脈、社員の能力・スキルや社内風土など、人や組織、外部との関係性から蓄積された資産は「知的資産」とも言われます。

この資産は、外部から見えにくく模倣されにくいものです。中小企業では、知的資産が競争力の根源となっていることが多く、これを正しく評価して引き継がないと長年培ってきた強みを失う恐れがあります。

事業承継の手続き 5つのステップ

ここからは、事業承継の手続きを5つのステップで解説します。

図表:筆者作成

STEP1:現状を把握し分析する

事業承継の第一歩は、現経営者と一緒に現状把握から始めます。事業承継後も10年・20年持続する企業であるために改めて会社の現状を客観的に把握し、経営環境、業界、経営全般、財務状況の分析などが大切です。事業の現状把握には、SWOT分析や3C分析などのフレームワークをつかいましょう。また、事業の概要をまとめるのに便利な「事業承継ノート」を下記に示します。

STEP2:事業承継の基本方針を決める

現経営者と一緒に現状把握し承継後のあるべき姿を共有した上で、いつどのように事業承継を行うのか基本方針を決めます。後継者育成についても受け身ではなく主体的に社内外でどのように進めるか、資産の承継はいつ頃どのように行うのかの概要を決めていきましょう。

STEP3:企業価値を「磨き上げる」

次は、今後の後継者育成と経営体制を整備し、企業価値の「磨き上げ」を行います。不良債権や経営リスクを洗い出し、改善できるところは改善します。

STEP4:事業承継計画書を策定する

承継後のビジョンを共有し、企業価値を磨き上げながら、改めて事業承継計画を策定します。今後の経営戦略や後継者以外の社員や組織の育成を踏まえた、中長期事業計画と整合性を持たせた計画にすることがポイントです。具体的な資産の承継時期や方法を検討し、税務や事業承継の専門家に相談しながら、相続対策と合わせて事業承継計画を作りましょう。

STEP 5 事業承継の実行

事業承継計画を策定し、計画に合わせて後継者の教育や組織づくり、株式の移転などを行ったら次は、いよいよ経営者交代です。経営者と同年代の役員や、ベテラン社員も同時期に勇退する場合もあります。経営体制の変化に社員が混乱することのないように、経営者交代後も経営者には一定期間、会長や相談役として残ってもらう場合もあります。その期間や役割についても計画に盛り込んでおくと良いでしょう。

今から始める“磨き上げ”

事業承継の全体の流れは以上です。承継後もより魅力的な事業として持続していくために、現経営者や社員と取り組む事業の「磨き上げ」について解説します。

自社の強みをさらなる魅力へ

「磨き上げ」とは、会社の現状を調査・分析した上で、今後の戦略に合わせて会社の強みを明確にし、さらに伸ばしていくべきところに選択と集中で経営資源の再配分を行うことです。今後のターゲットの顧客に対してより魅力的な商品・サービスを提供できるようにします。

自社の弱みを克服する

承継時は今後の戦略に合わせて弱みを克服するチャンスになります。承継後を見据えて新規の設備投資や人材開発を行う一方で、経営資源を有効活用するため、やらないことを決めるのも大事です。

会社をさらに成長させるために、承継後にすべきこと

事業承継ができたらそれで終わりではありません。さらに10年20年と持続できる会社として成長させるには2つの大事なポイントがあります。

一つは、経営者自身が成長を続けること、もう一つは、経営者としてリーダーシップを発揮して組織を成長させること。創業社長のようなカリスマリーダーシップはなくても、経営者自身が下記の能力を伸ばしていくことで、組織を育て持続的な企業として成長し続けることができます。

  • 専門能力:経営及び実務の専門的知識
  • 人間力:社内外から信頼される人格、人を信頼する力
  • マネジメント力:組織をまとめ目標を達成させる管理能力

後継者育成の公的支援

事業承継を円滑に進めるため、全国の公的機関で後継者を育成する支援が提供されています。後継者として支援を受けることもできるので積極的な活用をお勧めします。

都道府県・商工会議所

全国の中小企業支援機関では、事業承継の進め方や後継者育成を目的とした短期・中期の事業承継セミナーを開催しています。

経営後継者研修

国の機関である中小企業大学校が実施する後継者育成専門コースです。後継者に必要な基本的能力や知識・経験が得られる10カ月間の全日制の研修です。座学と企業実習を組み合わせた実践的な研修のため、全国からさまざまな中小企業の後継者が集まります。研修後も交流できる後継者仲間ができるのもメリットです。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置する事業承継に関する公的な相談窓口です。全国の都道府県に設置されており、親族内・親族外承継だけでなく、外部M&A企業と連携し、第三者承継のサポートも提供しています。

まとめ

今回は、後継者の立場で事業承継の準備や進め方を解説しました。事業承継といっても、従来の親族内承継は少なくなっています。従業員承継や第3者承継で急に後継者候補と指定されることもあるかもしれません。

ほとんどの経営者にとって事業承継は初めての体験です。後継者として受け身ではなく主体的に経営者と一緒に承継後の持続的な成長を描きながら、具体的な事業承継計画を作り、実践することが成功の近道です。事業承継には時間もかかり、専門的な支援も必要です。先送りせずに公的な支援機関を利用し、情報収集から始めることをおすすめします。

  • Person 奥野 美代子

    奥野 美代子 FP、中小企業診断士、経営コンサルタント

    北欧の映像音響ブランドの日本支社で26年間、PRやマーケティングを統括。
    2011年独立に独立し、医療・サービス業の戦略策定、顧客満足・従業員満足向上、財務コンサルティングや経営者・社員向け研修を行う。

  • 経営・組織づくり 更新日:2023/05/16
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