経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
0 ty_saiyo_t06_t20_evaluator-training_230327 column_saiyo c_keywordc_keieisenryakuauthor_ogasawara

評価制度運用に不可欠な評価者研修の目的と効果、実施にあたってのポイント

/news/news_file/file/t-20230327103505_top.png 1

人事評価制度は、社員の適切な処遇、モチベーションアップ、人材育成など企業において重要な取り組みです。適切で効果的な評価制度運用のためには、評価者がその目的や手法などを十分に理解し、スキルを身に着けていることが必須といえます。そのための主な手段として、多くの企業で実施されているのが評価者研修です。この記事では評価者研修の目的や内容、実施にあたってのポイントなどを解説します。

評価者研修とは

「評価者研修」とは、人事評価を行う評価者を教育、指導するための研修のことです。評価者が評価制度や評価方法、評価基準などに対する理解を深めて、評価スキルを向上させるために行うトレーニングや演習をいいます。これが不十分なままでは、評価制度を運用すること自体が逆効果となってしまう懸念があり、評価者研修はこれを防ぐ手段の一つとして、多くの企業で実施されています。

仕事ぶりの観察と把握、評価項目に対する評価段階の選択、被評価者へのフィードバックなど、評価制度を円滑に運用するために必要なポイントを中心としたプログラムで構成されます。

評価者研修を実施する目的

評価者研修を実施する主な目的として、以下3つの項目を挙げることができます。

評価者の評価スキルを高め、客観的で公正な評価を行えるようにするため

評価者研修の最も重要な目的は、評価者が評価スキルを高めて正しい評価能力を身につけ、先入観や偏見を排除して、客観的で公正な評価が行えるようにすることです。 人事評価においては、一部の目立った特徴だけで全体を評価してしまう「ハロー効果」、人間関係を気にしたり反発を恐れたりして評価が甘くなってしまう「寛大化傾向」、メンバー同士の軋轢を生まないように差をつけることを避けようとする「中心化傾向」などのエラーが生じることがあります。

先入観や思い込みで合理的な判断ができなくなる「認知バイアス」と呼ばれる心理現象の一種で、自分と似た属性の相手を好意的に感じて判断が歪む「類似性バイアス」なども、公正な評価を阻害する要素の一つです。これらが評価結果に対する被評価者の納得感に悪影響を及ぼして、評価制度全体への信頼も失ってしまうことが懸念されます。こういったことが起こらないように、評価を実施する際に必要な知識やスキルを学ぶことが、評価者研修を実施する際の最も主要な目的となります。

評価者が評価制度を正しく理解するため

評価の仕組みは、その企業によってさまざまで、どのような意図で策定したのか、何を目的として何を重視しているのかといった制度の内容は、その企業によって大きく異なります。 自社の評価制度を適切に運用していくためには、その制度に対する理解を深めることが重要です。制度の仕組みに関することだけでなく、今の形に至るまでの検討の経緯を知ることも、制度理解を深めることにつながります。評価制度の目的や意図していること、その他制度内容の正しい理解を促進することも、評価者研修の目的の一つと言えます。

評価結果を人材育成や成長に活かすフィードバック方法や面談手法を学ぶため

評価制度では、その結果を処遇に反映するだけでなく、評価結果を被評価者の育成や成長につなげるため、適切なフィードバックを行っていくことが必要となります。 ただ結果を伝えるだけでなく、目標の達成度や成果の度合い、そのための行動の状況などを評価し、新たな目標設定や取り組み方法の助言が必要です。また、被評価者との信頼関係を築きながら、本人の成長を促していくことも求められます。

適切なフィードバックを行うための方法や、被評価者との面談を通じたコミュニケーション手法などを学ぶことも、評価者研修の目的の一つとなります。

評価者研修の導入状況

民間シンクタンクの産労総合研究所が2016年に行った調査によれば、評価力の向上策として、評価者研修を導入、実施している企業の割合は71.4%という結果になっています。 ここから見ると、多くの企業が評価制度における評価者の能力向上を課題としており、この対応の一環として、積極的に評価者研修を実施している様子がうかがえます。潜在的なニーズまで含めれば、さらに多くの企業で問題意識を持って実施を検討していることも予想され、評価制度を運用する上ではほぼ必須の取り組みとなっているといえるでしょう。

評価者研修で得られる効果

評価者研修の実施によって得られる効果としては、以下の項目を挙げることができます。 評価者が知識を持たないままで評価制度を運用しようとすると、これらの効果が得られないだけでなく、逆にデメリットが発生してしまう懸念もあるので、十分な注意が必要です。

評価制度が効果的に機能する

まず、評価者が制度の実施目的や内容、評価実施にあたっての手法や注意点などを理解することが大切です。その上で評価制度が意図している運用を正しく行うことができ、制度そのものの機能が高まります。機能の向上によって、他に挙げる項目を含めた評価制度運用の効果も増します。 また評価制度への社内理解が進むことで、社員への浸透を期待できるでしょう。

被評価者の人材育成や成長につながる

評価制度で決められた仕組みと、所定の評価項目に基づいて被評価者を適切に評価することによって、本人の長所短所や業務適性を把握、判断することができます。その状況に応じた業務配置や指導を行うことができるのです。 被評価者の持つ適性や能力、保有スキルなどを評価、発見する方法を学ぶことによって、人材の育成や成長につなげることができます。

モチベーション向上や成果につながる

評価者研修を通じて面談やコミュニケーションの手法などを学ぶことで、被評価者に対して評価結果を適切にフィードバックできるようになります。被評価者は評価に対する納得感を持つことができるようになり、モチベーション向上や成果につながりやすくなるでしょう。 適切なフィードバックで評価結果への納得性が増すことによって、会社に対する社員のエンゲージメントが向上する効果を期待することもできます。

評価者研修の実施内容

評価者研修の主な実施内容として、一般的には以下の内容が想定されます。

人事評価制度についての理解

人事評価を行うにあたっては、評価制度について十分な理解をすることが重要になります。 人事評価制度の目的や評価を行うことの意味、評価結果がもたらす効果や影響など、制度全体の位置づけを理解したうえで、評価者である自分自身の責任や心構え、役割などを学んでいきます。

さらに、実際に評価を行う際の評価基準の理解、日常観察の重要性の理解、評価エラーの問題など、具体的な評価手法を学んで、客観的で公正な評価ができるようなスキルを身に着けていきます。 特に評価基準については、実際の制度運用の中で評価を行いながら、評価結果の精査や調整などの実務を通じて学んでいくことも重要です。評価基準の理解は、時間をかけた継続的な取り組みが必要になってくるでしょう。

人材育成に活かすためのポイント

人事評価は、被評価者の能力開発やスキルアップなど、人材育成で活用することも大きな目的の一つです。評価制度で組織が求める人物像や人材要件などを明示し、それに紐づいた評価項目によって評価を行って、結果を参考にしながら被評価者の指導や育成方法を検討していきます。評価を通じて業務適性や特徴などを把握することができるので、評価結果に関する本人とのコミュニケーションを十分にとりながら、今後の能力開発や育成に向けた指導を行うことが重要となります。

フィードバック面談のやり方

評価結果への納得性を高めて、人材育成などにも活用していくためには、評価者と被評価者の間での信頼関係が重要であり、日頃から適切なコミュニケーションが行われている必要があります。その中でも評価結果を適切にフィードバックする面談方法は、特に重要な要素となります。

フィードバック面談では、単に評価結果を伝達するだけではなく、今後に向けてどのような役割や行動を期待しているのか、そのためにはどんな意識を持つことが必要か、身につけなければならない能力にはどのようなものがあるのかなどを話し合い、被評価者のモチベーションを高めてスキルアップにつながっていくような働きかけが必要です。

相手の心情や価値観を理解しながら、伝えるべきことは毅然と伝える必要があるため、これらの面談を適切に行うスキルを学ぶことは重要なポイントとなります。

研修内容の例

評価者研修の具体的なカリキュラム例を以下に提示します。

  • 人事評価制度の理解:講義
    -評価制度の目的
    -評価項目、評価基準について
    -評価者の役割と心構え
    -評価エラーとその対策
    -評価の手順と方法、注意点について
  • ケーススタディによる評価:演習
    -個別での評価演習
    -評価結果に関するグループディスカッション
  • フィードバック面接演習:ロールプレイ

評価者研修のカリキュラムは、社内で内製する場合もあれば、研修サービス会社など外部機関から提供されているものを利用する場合もあります。自社の人事評価における課題によって、制度理解など自社独自の問題が大きければ社内で、評価スキルなど一般的な問題であれば社外機関を利用するなど、状況に応じて検討することが望ましいでしょう。

評価者研修での人事の役割

人事評価制度の主管は、人事部門の担当となることが多いです。ですが、その運用は現場の評価者に委ねられる部分が多いため、評価者のスキル向上は人事としても重要な取り組みと言えます。 その一環として、多くの企業で実施されている評価者研修ですが、必ずしもうまくいっているとは言えないケースもあります。考えられる理由と人事が行うべき対応策としては、以下が挙げられます。

研修の必要性があまり理解されていない

評価者が自分の評価スキルに対して問題意識を持っていなければ、研修自体が自分にとって無駄なものという意識になってしまいます。 この原因としては、評価制度の運用の中で、自身が評価した結果が適切かどうかを検証するような機会がなく、自身の評価スキルを自覚できないことに一因があります。

例えば評価者同士がお互いの評価結果を突き合わせたり、評価調整会議など各評価者の評価結果を検証する機会を設けたりすることで、それぞれの評価スキルの向上につなげることができます。また、評価者研修を実施することの必要性についても理解を得ることができるでしょう。

内容が実務からかい離している

例えば、社外の公開講座などを利用した場合、一般論に偏りすぎて自社の制度からかけ離れた内容になってしまう場合があり、研修を受講する意義が薄れてしまうことがあります。 こういったことを防ぐには、受講者の評価スキルに応じて、研修内容を使い分ける必要があります。まだ経験が浅い評価者であれば、一般的な知識導入が必要になることから公開講座などを利用し、一定以上の経験がある評価者の場合は、自社の制度による演習やケーススタディを社内で行うことが効果的と考えられます。

研修がマンネリ化している

いくら継続が大事だからと言って、似たような内容の研修で回数ばかりを重ねても、受講者にとって研修の意味は薄れてしまいます。 このあたりは、研修内容の見直しを随時行うこと、テーマごとに切り分けて実施すること、対象者の受講頻度に配慮することなどを意識し、実施していくことが必要です。

評価者研修を実施する際のポイント

評価者研修を実施する際のポイントとして、単に評価の仕方を理解するだけでなく、運用ノウハウやフィードバックにあたっての面談方法、それに関連するコミュニケーションスキルなど、必要な要素は多岐に渡ります。このため、あくまで時間的に可能な範囲とはなりますが、それぞれのテーマごとに別々で時間を設けて研修を実施することが望ましいと考えられます。

また、研修内容によって、演習などが必要なテーマであれば集合形式、知識導入中心であればeラーニング などを活用するなど、実施方法にメリハリをつけて、開催者と受講者双方の時間的制約や負担に配慮することが必要でしょう。

研修対象者を選定する際の 注意点

評価者研修において、一般的な受講対象者は評価者であるマネージャーですが、これまで評価に関わってきた経験が人によってまちまちである場合、実施内容については、各人の経験度合いに合わせた配慮が必要になります。 比較的経験が浅い受講者の場合は、評価制度への理解をはじめとした総合的な知識習得がメインとなり、これまでの評価者としての経験が豊かな場合は、具体的な事例や評価者間の認識擦り合わせなど、より実務に即した内容が必要となります。自身がこれまで行ってきた評価方法に関する誤りや偏りを認識して見直してもらうことも重要です。

人事評価に関する研修は、これを被評価者に対して行うことも有効です。どんな目的で評価が行われるのか、何が評価ポイントになるのかなどを理解することによって、評価者と被評価者との認識ギャップを減らすことができ、評価結果に対する不満が出るケースを減らすことができます。 このほかにも、経営者や役員クラスを対象に、経営戦略上の施策として評価制度の活用方法を学ぶことや、人事担当者に向けて専門性向上を目的とした研修を実施することもあります。

まとめ

ここまで見てきたように、評価者研修を実施することによって、評価者が評価スキルを身につけることができれば、評価制度の機能が向上して、人材の適正配置や人材育成、成長につなげることができます。最終的には企業業績や全社的な生産性の向上も期待できます。

評価者研修については、多くの研修サービス会社でもカリキュラムが提供されているので、それらの中から自社に合うものを選んで実施しても良いでしょう。マイナビで実施している研修サービスでも、評価者研修のプログラムを提供しています。 自社の評価制度の実施状況に合わせて、評価者研修の実施を検討してみることが望ましいでしょう。

  • Person 小笠原 隆夫

    小笠原 隆夫 経営コンサルタント・人事労務コンサルタント・組織コンサルタント・採用コンサルタント

    IT企業でエンジニア職、人事部門長として関連業務に携わる。
    2007年より「ユニティ・サポート」代表として人事・組織コンサルティングに従事。
    著書に「リーダーは空気を作れ!」(アルファポリス)。
    ほかウェブのコラム執筆多数。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/04/04
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事