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“アルムナイ採用”とは?その具体的な手法やコスト、効果をひも解く

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中途採用の手法として最近耳にするようになってきた「アルムナイ採用」。その詳細と効果について、株式会社マイナビ 新領域開発室 Business Creation部 部長の松井 徹哉さんにお話を伺いました。

採用手法として注目される“アルムナイ採用”とは

Q求人媒体の掲載や紹介などに変わる新しい採用手法 の「アルムナイ採用」について教えてください。

松井:近年注目されている”アルムナイ採用”という手法は、一度退職した人を再び雇用することです。アルムナイとは、同窓生という意味の言葉で、企業では「退職者、OB・OG」といった意味合いで使われています。人手不足が叫ばれる昨今において、新人教育にかかるコストの削減、即戦力人材の確保などにつながることから 、注目を集めています。

Qアルムナイ採用に対する日本での認知度や傾向について教えてください。

松井:外資系企業の中ではポピュラーになりつつある採用手法ですが、日本企業全体で見ると、まだそこまで浸透しているわけではありません。 最近は「人的資本の活用」に関する議論が始まっており、経産省が出したレポーティング ※の中でも「アルムナイを活用したほうがいい」という明確な記述がされました。それらの動きを受けて、近年はニュースや人的資本系のセミナーで、アルムナイ採用という言葉の露出が少しずつ増えている傾向にあります。

Q「出戻り採用」や「カムバック採用」とは異なるものなのでしょうか。

松井:退職者を採用するという点では基本的には同じですが、アルムナイと“関わり続ける”という文化は近年 浸透し始めた考え方ではないかと思います。いわゆる出戻り採用は個人的なつながりをきっかけとして、退職者から相談があって採用するなど、意図せず発生するシーンが多く見られます。一方で外資系企業が持つアルムナイネットワークでは、退職者の現状を把握できる状態が保たれています。時間が経っても復職の声かけがスムーズにできる仕組みを整えるのが、アルムナイ採用の特長です。

Qどのような業界や企業だと導入しやすいのでしょうか。

松井:すでに大手企業の一部では取り組みが始まっています。また、ポジションに対する役割が明確な専門的な職種を従業員として抱えているような業種だと比較的導入がスムーズです。つまり、資格が必要になる専門職ほど取り組みやすいと考えられます。

例えば医療・福祉業界で、看護師や薬剤師、介護士が不足した際に、退職者とのつながりを保てていれば 、スポットで働いてもらう、生活に合わせてパートから始める、業務委託でお願いするという選択が可能です。

Q国内の企業において導入事例があれば教えてください。

松井:経産省が行っている人的資本経営の実現に向けた検討会で発表された、各社がどのように人的資本経営に向き合っているかをまとめた報告書 からいくつか紹介します。

株式会社荏原製作所

自社の退職者を「エバルムナイ」(荏原製作所のアルムナイ)として、ネットワークを形成。アクセス可能な人的資本の範囲を拡大し、多様な人材の獲得や協業・オープンイノベーションの促進を企図している。

双日株式会社

2021年4月にビジネスネットワークを構築するプラットフォームとして「双日アルムナイ」を設立し、退職後も経済・社会活動を続ける双日OB/OG(ニチメン・日商岩井を含む)と双日役職員との人的ネットワークの形成・拡大により、ビジネス領域の拡大を促進。

三菱ケミカル株式会社

「ウェルカムバック」の掛け声で、 アルムナイを戦略的に採用。社外でスキルアップした後、を養成した上で 自社で成果を上げようという、目的意識の明確な人材としてアルムナイのカムバックを歓迎している。

一般的な採用手法との違い

Q一般的な採用手法、求人広告の出稿や紹介と比較してデメリットはありますか。

松井:媒体への出稿や人材紹介は、転職意欲の高い方 を採用するため、勤務開始までがスピーディーであることが多いです。アルムナイに関しては、相手の状態さえ検知できていれば、その後はスムーズに進むのですが、いつ、誰が、どのタイミングで復職を希望する状態になるかわからないデメリットがあります。求職者側の温度感を企業側が探るという、通常の採用にはない工数が発生します。

Qコストがかかるということでしょうか。

松井:一概にそうとは言い切れません。アルムナイ採用は、時間と工数がかかっても、費用面でのコストはかかりません。また入社後の教育コストの低さも大きなメリットです。

仕事に慣れるまでの時間に関しても、アルムナイは会社や業務のことを理解しているため、戦力になるまでにかかる期間が非常に短く済みます。オンボーディングコストまで考慮するとアルムナイ採用は有益な採用手法と言えます。

Qコストを抑えるポイントについてお聞かせください。

松井:アルムナイがいつ復帰の意思を持つかはわからないので、1人ひとりに対する継続的なコミュニケーションの取り方がポイントになります。数カ月に1度、定期的に情報を与え続けるだけでも入社の意思を示す人が出る可能性は高まります。

例えばテレワークを導入した、あるいは育休・産休制度が整ったという情報を知らせることで、「それが嫌で辞めたけど、改善されたのであれば戻りたい」と思う人がいるかもしれません。情報発信を長期的に継続すること、その前提として情報発信できる関係性の構築がカギになります。

採用手法としての効果

Qアルムナイで採用できる人材の質や人数はいかがでしょうか。

松井: 2021年1月~12月で利用したサービス、手法について1400社にアンケート を実施した結果、15.3%の企業が「アルムナイ採用を行っている」と回答しています。また「効果があった」という回答が7.6%あり、折込求人誌の7.0%より高い数値 が出ています。実際に採用につながった割合は、36.0%という数値になっており、採用管理ツールの33.2 %、ヘッドハンティングの33.9%、縁故採用の35.5%と、すでに一般的になっている手法と比べて遜色のない結果が出ています。応募数は少なくとも、採用につながる割合は高いのがアルムナイ採用の特徴です。

Qアルムナイ採用はこれから導入すべき手法といえますね。

松井: はい。もちろん、退職者をゼロにすることはできません。退職とは、採用と育成にかけたコストがマイナスになる出来事です。そうしたなかで、一度マイナスになったコストを回収できる唯一の手法が、退職者の再雇用。

仮に3年後に復帰した場合、3年分の空白はあるものの、その期間でリスキリングしていたと考えれば、育成コストはほぼ回収できたといえます。また、業務委託等で関係を継続し会社に貢献してくれた場合も、コストの回収につながります。 退職者をゼロにできない前提の中で、発想を転換し、退職した人材をどのように自社の価値に変えていくかを 考えなければいけない時代に来ています。

Q若手ではなく、アルムナイを採用するメリットについてはどうお考えですか。

松井: 組織の若返りを図るために、若手を求める企業は非常に多いです。しかし、未経験から時間をかけて育成しても、退職してしまうリスクは常に存在します。そうしたリスクと、即戦力人材を確保できるメリットを考慮したうえで、本当に若手が必要なのかを必要があります。

近年の20代、30代の退職理由は、別の業界や職種を経験してみたいというポジティブなものが多いです。そのため退職後は、新たな分野でスキル、経験値を得ていると考えられます。そうした人材を呼び戻すことで、自社への新たな価値提供や従業員へのノウハウの還元といった効果が期待できます 。キャリアアップのために退職した人を呼び戻したら、退職時100だったスキルが、130ぐらいになって帰ってくるというイメージです。

Qアルムナイ採用を導入しようとする企業にとって、既存の社員の理解も欠かせませんよね。

松井: 戻ってきた社員が以前にも増して活躍している姿を目の当たりにすれば「カムバックという選択肢もありだな」とアルムナイに対する理解が広がる きっかけになります。そういった 事例が増えれば会社の雰囲気も変わっていくでしょう。まずは既存のリファラル採用の延長として、従業員にアルムナイのカムバックを斡旋してもらうなど、取り組みやすい方法からスタートするといいのではないでしょうか。

時代の変化に対応するためのひとつの手法

退職者に対して好意的な感情を持つ企業はまだ まだ少ないです。特に終身雇用制度の下で 育ってきた40代以上の世代の価値観が、制度導入の大きな壁でもあります。すでに20代30代の転職における価値観は変わってきており、1社で働き続けようとは考えていません。

そうした価値観に合わせるのも、企業が生き残るためには必要です。男性が育休や産休を取得できるようになったことや、多くの女性が働くようになった社会変化と同じように、「転職は当たり前」という価値観を持って従業員と向き合っていかなければ、会社としての成長は難しいです。中小企業にとっては、馴染みの薄い取り組みではありますが、すでに名だたる企業が取り組み始めています。

人的資本の1つとしてアルムナイを活用するという流れも、まずは大手企業へ義務化され、中小企業へと取り組みが広がっていくと予測されます。そのため、先手を打ってアルムナイ活用の知見を深めることは、採用面における競争優位性の構築にも効果的といえるでしょう。

  • Person 松井 徹哉

    松井 徹哉 株式会社マイナビ 新領域開発室 BusinessCreation部 部長

    2013年中途入社。就職情報事業部の営業職を経て、2016年より事業企画部門へ異動し、新卒採用領域サービスの開発に従事。2021年4月に同部門内に新規事業開発部署を立ち上げ、第1号案件としてYELLoopの開発をスタート。2022年7月に単独事業室化し、YELLoopの成長とともに新たな事業開発もミッションとしている。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/02/10
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