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2021年以降の仕事のあり方に影響を与える9つのトレンド ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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2020年の中心トピックスであった新型コロナウイルス感染拡大は、世界中の人々の生活、仕事、経済に影響を与え、収束まで数年かかる可能性があります。日本の企業においては、経営マネジメントの在り方が問われる転換期になったといえるでしょう。
今回は2021年以降のHRのトレンドについて、米国ガートナー社のHRプラクティス部門のリサーチ・チーフが論文として発表した「2021年以降の仕事のあり方に影響を与える9つのトレンド」から読み解きます。あくまでも自社の状況と比較し、経営者やHR担当者の認識を新たにする機会となれば幸いです。

2020年に起きた「仕事のあり方」の変化

2020年は、ビジネスリーダーたちが環境の急変への対応に追われている中、多くの企業のビジネスモデルが転換を迫られました。これに伴い、経営における攻め(新規事業への仕込みや注力する部分)と守り(コストカットする部分)の優先順位を変更したり、BCPや経営計画を見直さざるを得なくなったのです。
具体的には、社会的正義を求める声への呼応、全面的なリモート勤務への移行、従業員の幸福度を高める方法の検討、オフィス勤務の従業員とリモート勤務の従業員が混ざり合ったチームのマネジメントなどが挙げられます。

また、新型コロナウイルスワクチン関連の法的な問題に対処する必要に迫られる企業も増えました。
新型コロナウイルスによる「仕事のあり方」への変化としては、リモートワークが増えることに注目が集まりがちです。
しかし、予想される「仕事のあり方」への変化はそれだけではありません。リモートワーク、在宅勤務、フレックス勤務などの勤務形態だけでなく、勤務時間自体の柔軟性が高まり、従業員のメンタルヘルス支援が当たり前になるっていくでしょう。
このように、企業の人的資産の利活用と保守に対する概念に大きな影響を及ぼす変化がいくつも起きると考えられています。
ここからは、2021年以降に予想されている「仕事のあり方」への変化をお伝えしていきます。

(人材マネジメント編)2021年の「仕事のあり方」の予測

まずは、新型コロナウイルスが加速する2021年以降の仕事のあり方を左右する9つのトレンドのうち、人材マネジメントに関する3つの予測を紹介していきます。

1.「企業内従業員体験(EX)」から「従業員の人生経験全般」を意識したマネジメントへ

新型コロナウイルス感染症の流行を機に、マネジメント層は以前に比べて、従業員の私生活がよく見えるようになっています。そこで分かってきたのは、コロナ禍が始まってからの1年間、企業経営だけではなく、働く人たちも、私生活や仕事において過去に経験したことがないような困難に直面しているということだったのです。

このような状況のなかで、企業が従業員の私生活への支援を充実させることにより、従業員の生活の質が向上するだけでなく、仕事上のパフォーマンスも改善することが考えられます。
ガートナー社が2021年に行った調査によると、従業員の人生経験を支援している企業は、同等の支援を提供していない企業に比べて、以下のような結果が出たのです。

  • 精神の健康が良好だと回答する従業員が23%多い
  • 肉体の健康が良好だと回答する従業員が17%多い
  • 良好な成績を上げている従業員が21%多い

こうした点を踏まえると、2021年には企業が従業員に対して、メンタルヘルスや健全な経営状態、そして、これまでは企業が関わらない領域と思われていた睡眠などのテーマについて支援することが、当たり前になる可能性もあると考えられます。

2.従業員に対する労働監視が規制される

コロナ禍で、従業員の仕事ぶりを監視できるテクノロジーを導入した企業は、なんと4社に1社以上と言われています。しかし、そうした企業の多くは、従業員のプライバシーとのバランスについて悩んでいるのです。
また、このような企業による労働監視に対しては、従業員の反発も高まっています。ガートナー社の調査でも以下のような結果が出ています。

  • 自社が従業員のパーソナルデータを適切に扱っていると信じている従業員は、50%に満たない
  • 企業がどのようなパーソナルデータを収集しているかについて、情報を全く受け取っていないという人は、44%に上る

欧州では個人情報保護に対する規制が行き届いていますが、米国においては、2021年に「企業が従業員を監視することを制限する規制」が導入されると予測されています。
ただし、州と自治体によって規制の内容やレベルが変わってくるため、企業としては、最も厳しい地域の基準を全従業員に対して適用していくことになるでしょう。

3.自社に欠けているスキルを補うために人材を「レンタル」

企業が事業活動で必要とするスキルの種類は、劇的に増加しています。ガートナー社の分析によれば、2020年に企業が求人広告で志望者に求めていたスキルの種類は、2017年より約33%も多いことがわかっています。
実際に、企業は既存の従業員に素早く新しいスキルを学ばせることができておらず、ニーズの変化に追いつけていないのが現実です。

そのような中で、一部の企業は、予測のつかない未来に向けて従業員のスキルを育もうとするのではなく、「実際にニーズが生じた時に、必要なスキルの持ち主を高給で雇う」という考え方にシフトし始める可能性があります。
一方で、臨時社員や契約社員の活用を増やしたり、事業のリストラクチャリングと並行して、他の企業とパートナーシップを結んで人材を短期間「レンタル」することを選ぶ企業が増えていくことも考えられます。

(労務管理編)2021年の「仕事のあり方」の予測

次に、新型コロナウイルスが加速する2021年以降の仕事のあり方を左右する9つのトレンドのうち、労務管理に関する4つの予測を紹介していきます。

1.オフィス勤務の再開が男女の賃金格差拡大へ

多くの企業は、すでに「オフィス勤務」と「リモートワーク」の利点を掛け合わせた「ハイブリッド型の勤務体系」を採用しているか、もしくは2021年にそうした勤務体系への転換を計画しているとされています。オフィスでも自宅でも、あるいはカフェやコワーキングスペースなどそれ以外の場所でも、好きな場所で働けるようになりつつあるのです。
企業の人事部門責任者たちの話によれば、そうした「ハイブリッド型の勤務体系」を採用した場合、女性従業員は引き続き在宅勤務を望む傾向があるといわれています。それに対し、男性従業員はオフィス勤務を再開したがる傾向があるようです。
2020年3~5月のガートナー社の調査によると、次のような結果が出ています。

  • マネジャーの64%は、リモートワークで働く部下よりもオフィスで働く部下のほうが高いパフォーマンスを発揮できると思っている。そして、オフィスに出勤する部下の昇給幅のほうが大きい傾向がある
  • しかし、2019年(コロナ禍以前)と2020年(コロナ禍中)のデータでは、マネジャーたちの評価とは以下のように正反対だった
  • 現実では、リモート勤務で働いている従業員は、オフィス勤務の従業員よりも、良好な成績を上げている人の割合が5%多かった

つまり、男性の方がオフィス勤務を選択する割合が多く、しかもマネジャーがオフィス勤務の部下をより高く評価するバイアスを持ち続けるとすれば、男性従業員が過度に高い給料を受け取り、女性従業員が貧乏くじを引く可能性が高くなってしまうのです。
その結果、男女の賃金格差が一層拡大してしまうリスクが予測されます。

2.勤務場所の柔軟性に加えて、勤務時間の柔軟性も高める

2020年には、従業員がオフィスに出社せずに働けることが当たり前になりました。そして、この傾向は、2021年以降も続くでしょう。このような勤務場所の柔軟性に加えて、「勤務時間」についても柔軟性を高める必要が出てくると予想されています。
ガートナー社の2020年の調査によれば、次のような結果が出ています。

  • 一般的な週40時間勤務を採用している企業では、良好な成績を上げている従業員の割合は全体の36%に留まっている
  • 勤務する場所と時間帯、そして勤務時間に関して柔軟性を認めている企業では、従業員の55%が良好な成績を上げている

この結果を受けて、2021年には、あらかじめ決められた勤務時間数ではなく、勤務時間の柔軟性を高め、仕事の成果で従業員を評価する職が増えることが予測されます。

3.従業員へのワクチンの接種を義務づけて裁判へ発展

大企業を中心に、従業員にワクチンを提供し、それを材料に他社との差別化を図り、優秀な人材を獲得し、つなぎとめようとする企業が現れるでしょう。
その一方で、従業員が職場に復帰する条件としてワクチン接種証明を要求した結果、従業員から裁判に訴えられる企業も出てきそうです。そうした訴訟に伴い、社会でワクチン接種が進んでも、出勤再開のペースはそれほど加速しないということも考えられます。

4.メンタルヘルス関連の支援を行うことが当たり前に

ここ数年、育児休業制度の期間延長など、企業が従業員に提供する福利厚生制度が拡大してきました。
ガートナー社は、コロナ禍の前後のメンタルヘルスに係る福利厚生について調査し、以下のように結論付けています。

  • コロナ禍以前:福利厚生予算の増加分の45%は、従業員の精神面・情緒面の幸福度を高めるための取り組みに費やされていた
  • コロナ禍以後:従業員の幸福度がより一層重視されるようになり、メンタルヘルスが従業員と職場に及ぼす影響の大きさに、企業が気づき始めた
  • 2020年3月末の時点:68%の企業は、コロナ禍で従業員を支援するために少なくとも1つのウェルネス関連の福利厚生制度を新設していた

2021年以降は、このトレンドに一層拍車がかかる可能性があります。企業は、メンタルヘルス関連のプログラムを拡充し、メンタルヘルスの問題を抱える従業員への偏見を取り除こうとするかもしれません。
例えば、事業活動を1日停止して「全社メンタルヘルス・デー」とし、メンタルヘルスという極めて重要なテーマについて、全従業員の理解を深めようとする企業も出てくる可能性があります。

(US編)2021年の「仕事のあり方」の予測

最後に、新型コロナウイルスによって2021年以降の仕事のあり方を左右する9つのトレンドのうち、米国特有の2つの予測を参考までに紹介します。

1.「社会的・政治的」論争で鮮明な立場を打ち出す企業が増加

「価値観を共有できる企業で仕事をしたい」という人々の思いは、以前からグローバル企業やベンチャー企業を中心に高まっており、2020年には、そうした欲求が一層高まりを見せました。
ガートナー社の調査によると、働く人の74%は、価値観に関わる最新の政治的・社会的論争に、勤務先の企業がもっと積極的に参加することを望んでいます。
今後、企業が質の高い人材を獲得し、自社につなぎとめるためには、このような従業員の希望に応じる必要性がより高まっていくでしょう。

こうした問題にしっかりと資源を投じることには、「従業員エンゲージメントが高くなる」といった明確なメリットがあることも分かっています。
ガートナー社の調査によれば、企業が最新の社会問題に関して行動を起こすと、きわめてエンゲージメントが高い従業員の割合は、40%から60%へと大幅に上昇すると言われています。

自治体が、企業の誘致よりも、優秀な人材を引き寄せることをめざす

これは日本においても同様ですが、州政府や自治体政府はこれまで、さまざまなインセンティブ制度を設けて大企業を地元に誘致しようとしてきました。企業を誘致できれば、雇用が生まれると期待されていたからです。
しかし、リモートワークとオフィス勤務の「ハイブリッド型の勤務体系」が一般的になると、この戦略は変化することになるでしょう。なぜなら、従業員の居住地と勤務先企業の所在地の結びつきが、これまでになく弱まるからです。

そのような変化の結果、州政府と自治体政府は、企業誘致するための税制優遇措置を設けるだけでなく、個人を呼び込むための税制を設けるようになっていくでしょう。カンザス州トピカやオクラホマ州タルサなどは、すでにそうした趣旨の制度を設けており、移住してくるリモートワーカーに最大1万5,000ドルを支給しています。
州政府や自治体政府は、雇用主である企業だけでなく、個々の働き手とその職を呼び込むために競争するようになっていくと考えられます。

【まとめ】変化へ対応するために

ここまで、2021年以降に予想される「仕事のあり方」の変化について、米国特有のテーマも踏まえた予測を紹介してきました。
「従業員に対する労働監視」などは、日本企業特有の問題と思っていた方もいるのではないでしょうか? しかし、実際には日本に限らず世界中で起きている課題なのです。
また、データ収集によってより一層効率化されていく世界において、個人情報への対応については、欧州から米国へ、そのトレンドが来つつあることがお分かりいただけたと思います。

2020年の段階では、「2021年には状況が安定して以前の状態に戻れる……」と希望的観測(Wishful Thinking)を持っている人が多かったと思います。しかし、今回ご紹介したように、2021年も相次いで本格的な変化に見舞われる1年になりそうです。
2020年は近年の歴史で最も激動の1年とも言えますが、この激動が終わったと考えるのは間違いです。2020年に起きた変化に対する影響は、今後数年にかけて、よりはっきりと見えてくるといっても過言ではないでしょう。
改めて、企業内での重要性がますます高まっているHR部門は、現実を直視(Face up the reality)して、行動に移す年にしてもらえると幸いです。

参考

  • Gartner:9 Trends That Will Shape Work in 2021 and Beyond
  • Gartner:Reimagine HR Employee Reseach
  • Gartner:Strategies to Address Skill Gaps
  • Gartner:Managing Remote and On-Site Workers
  • Gartner:Reimagine HR Employee Reseach
  • Gartner:Improve the Employee Experience -Create and deliver a high-ROI employee experience-
  • Person 鈴木 秀匡
    鈴木 秀匡

    鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2021/04/01
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