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中途社員の早期離職はなぜ発生するのか?その原因と解決策を聞く

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短期間で効率良く人材を確保できる中途採用は多くの企業で導入されている手法です。しかし、せっかく入社した中途社員が早期に離職してしまうケースも少なくありません。その原因と対策について、株式会社 人材研究所代表取締役社長の曽和利光さんにお話を伺いました。

中途社員の早期離職はなぜ発生するのか

Q中途社員の早期離職が発生する要因は、どのようなことが挙げられるのでしょうか。

曽和利光様(以下、曽和):まず大きく分けて2つあると考えられます。ひとつは、そもそもの採用基準が現状にあっていないというミスマッチです。新卒でも中途でも、自社の仕事や社風に求職者の能力、性格、価値観が合っているかという観点で採用基準を作り、採用活動の礎となるものです。しかしその基準が間違っている、あるいは面接精度が低い、選考手法がそぐわないといったように根本が間違っていると、いわゆるミスマッチが起きてしまいます。
そして、もうひとつがオンボーディングの不足です。このオンボーディングに関しては、「リアリティショック」「パーソナリティの相性」「インフォーマルネットワーク」の3つのキーワードごとに細分化して考える必要があります。

Q細分化された3つのキーワードについて詳しく教えてください。

リアリティショックについて

曽和:入社前の期待、理想が高すぎるがゆえに生じる、現実に接したときのギャップがリアリティショックと呼ばれるものです。リアリティショックを経験すると離職率が高まるというのは、古くから研究によって明らかにされています。本来はミスマッチではないけれど、理想と現実のギャップがあまりにも大きすぎることによって、会社に対する不信感を生み、定着の阻害となってしまうのです。

パーソナリティの相性について

曽和:中途入社の場合には、本来であれば配属部署やどの上司の下で働くかがあらかじめわかっている場合がほとんどです。しかし、実際の求人情報ではそういった情報は一般化され、一緒に働くメンバーとの性格の相性は置き去りにされてしまいます。たしかに中途社員はキャリアがある分、何をどれだけ経験してきたかという能力で計りやすい一面があります。そのため選考の過程で性格の要素が抜けてしまい、入社後の人間関係でのミスマッチを引き起こしてしまうのです。

インフォーマルネットワークについて

曽和:インフォーマルネットワークとは、組織上のネットワークとは関係のない人間関係を指します。同期というのはその最たる例であり、他にも趣味仲間や飲み仲間といったものがあります。人が組織に適応するための第一ステップは「受容感」です。「受け入れられている」という感覚が、会社へのコミットメントを生み、貢献したいという欲求へと変化。メンバーとのコミュニケーションの増加へとつながり、業務に必要なノウハウや知識にアクセスできるようになります。ここでようやく「この会社でやっていけそうだ」という確信を持つことができ、「有能感」というステップに到達するのです。早期離職する中途社員の多くは、部外者のまま受容感を持てずに時間だけが過ぎ、有能感に到達しないため、会社に貢献しようというモチベーションを感じることなく離職してしまうわけです。

Qこれらの要因について、新卒と中途での違いはあるのでしょうか。

曽和:リアリティショックでいうと、新卒の場合には10月1日の内定式から翌年4月1日の入社日まで、半年かけてRJP(現実的な仕事情報の事前開示「Realistic Job Preview」の略)を手厚く行い、リアリティショックを和らげることが多くあります。一方で中途は、採用情報で期待を高めたところから1カ月、早ければ2週間ほどで入社するため、現実的にはRJPを行うことができないのが実情です。

パーソナリティの相性では、新卒の場合、みなさんが一様に経験もスキルもないので能力での選考がしにくいというのが前提にあるため、企業文化と採用者の性格が合っているかが焦点となりやすい傾向があります。一方で中途はキャリアがあり、なおかつ配属部署が決まっているがゆえに能力での選考がされ、性格の相性が見逃されがちです。

インフォーマルネットワークの核は同期であることが多いため、新卒は放っておいても自然とインフォーマルネットワークに接続できるのです。その点、中途社員は1人で入ってくることが多く、サポートがなければ一向にインフォーマルネットワークには接続できない状態が続いてしまいます。

以上のことからもわかるように、すぐに離職する可能性というのは中途社員なら誰もが持っているものであり、もっと意識的に向き合わなければ早期離職を食い止めることはできないのです。

  • 早期離職が発生する原因

    • 採用基準が間違っている、面接制度が低い、等根本が間違っていることによるミスマッチ
    • 理想と現実のギャップによるリアリティショック、パーソナリティの相性、同期や趣味仲間のようなインフォーマルネットワークの3つのオンボーディングの不足
    • 中途採用は新卒採用と比較して、RJPの不足や、能力重視の選考によりパーソナリティの相性が見逃される、同期がいないことによるインフォーマルネットワークに接続できないなど、早期離職の可能性は誰もが持っている

中途社員が離職するリスクについて

Q中途社員が離職してしまうことのリスクについて、改めてどの点に注目すべきでしょうか。

曽和:オンボーディング不足については、本来であればマッチングしているにもかかわらず、企業側がやるべきことをやらなかったがゆえに惜しい人をみすみす逃しているという状況をまずは認識すべきですね。そのうえで「採用力の低下」や「レピュテーションリスク」といったリスクにも目を向けていきましょう。

採用力の低下

曽和:本来企業とマッチしているような人までが居着かない会社になってしまうと、採用がさらに難しくなるという悪循環をたどります。ただでさえ少子化を背景とした恒常的な売り手市場、労働力不足によって、「企業が採用力をつけていこう」とする動きの中で、相当なサバイバル能力を持った人間でないと採用できない、相当狭いターゲットしか採れない企業になってしまいます。単純に言うなれば「採用力の低下」です。企業の拡大を見据えても適した人材がいないという事態に陥り、企業自体の成長も危機感に晒されてしまいます。

レピュテーションリスク

曽和:人材紹介やエージェントを利用している場合、当然ながら早期離職の情報は蓄積されていきます。本来マッチしていたはずの人材でも「あの人は合わなかった」と認定されてしまい、間違った採用基準情報がエージェントに伝わってしまうのです。早期離職はエージェントにとっても死活問題なので、極端な話、「もう紹介はやめておこう」となりかねないわけです。紹介先だけでなく、求人広告も同じです。最近では口コミサイトも多く、退職者が投稿するケースも多く見られます。世間からも「あの会社はブラックだ」と認識されるリスクがあるのです。

Q既存社員へのリスクについても考える必要がありそうですね。

曽和:採用コストは戦力になって初めて黒字化していくものです。ところが戦力化する前に辞めてしまうものだから、採用、育成、引継ぎにかけたコストが一向に黒字化しないというリスクがあります。育成や引継ぎに毎回携わる社員の士気低下も危惧すべきですね。

  • 早期離職発生のリスク

    • 相当なサバイバル能力を持った人間、相当狭いターゲットしか採用できない企業になり、採用力が低下してしまう
    • 間違った採用基準が伝わり、エージェントからの紹介が無くなる。口コミサイトの投稿によりブラック企業と認識されてしまう

離職者数の明暗を分ける要因とは

Q離職者が多い、あるいは少ない企業には特徴があるのでしょうか。

曽和:離職者の多い企業は、上記の3つの要因への対策ができていない場合がほとんどです。彼らの共通認識を1つ挙げるとすれば「中途社員は即戦力である」という誤った考えです。中途=即戦力だから、新卒と同じように手取り足取りオンボーディングしていくのは失礼にあたると考えてしまうのです。結果、放置する、何もしないという状況を生み、早期離職が多いように感じています。逆に、中途社員がきちんと定着している会社というのは、新卒採用と変わらないオンボーディングを行っている場合が多いです。例えば企業側が機械的に入社時期を区切り、強制的に同期と認識させる企業もあります。職位も職種も年齢もばらばらですが、意外と同期感が出るもの。また、社内を連れて回ったり、キーマンに紹介したりすることも、新卒だけを対象とする企業が多くあります。新卒に比べればたしかに戦力化するのは早いものの、受容感を得て有能感を形成するまでには、一般的に半年かかると言われています。認識の改善が必要ですね。

Q企業の規模が、離職者の数に影響することは考えられますか。

曽和:大企業だから、というわけではないのですが、大企業には人事専業社員が存在することが多いので、早期退職のリスクを目の前の課題として捉え、原因分析と対策をしているケースが多く見受けられます。一方中小企業の場合には人事専業が難しく、「なんか辞めていくね」「またミスマッチか」くらいで原因分析できていない場合がほとんどです。本来であれば、中小企業の方がインフォーマルネットワークに接続しやすいし、性格の相性も把握しやすいはず。現場をよく知っているからこそ、リアリティショックについても緩和しやすいはずなのですが、原因分析ができていないがゆえに対応できていない中小企業が多くあるのが現状です。

離職者を減らすために心がけるべきポイントとは

Q中途社員の早期離職を克服するために、何をすべきでしょうか。

曽和:繰り返しになりますが、「中途社員が即戦力である」という考え方は捨てましょう。どれだけキャリアを持っている人であっても、一定のサポートがない限りその能力を発揮するのは難しいことです。前職の会社、業務、職場に最適化していた人が一度リセットし、新たな組織に再最適化すると考えると、新卒よりむしろ戦力化に手間がかかるとまで考えるべきです。また、採用担当だけでなく受け入れ側でも共通認識を持つことが重要。中途社員に対して「お手並み拝見」といった文化を作らせないことが重要です。

Qマンパワー的に取り組むのが難しいという企業はどうすればよいでしょうか。

曽和:「中途社員が定着しない→沢山採用しなければならない→バタバタする」という負の連鎖をどこかで断ち切らなければいけません。そのためには当然、人的リソースを割かなければいけない時期があります。社内での配分が難しければ、RPO(「Recruitment Process Outsourcing」の略、採用をアウトソーシング化すること)を活用する方法もあります。悪循環を断ち切るために一時的にRPOを活用するのも1つの方法です。「状況を変えたいけど忙しいから無理」と言っては、永遠に負のループから抜け出すことはできません。一度離職率を下げてしまえば採用する人数も減らせるので、面接、書類、連絡にかかる工数が減る、導入研修の数も減る。時間差でこれらが訪れることを考えれば、最初が頑張りどころだときっと経営者も理解するはずです。

  • 離職者を減らすためのポイント

    • 前職の会社に最適化していた人が一度リセットをすることになるため、「中途社員が即戦力である」という考え方は捨てる
    • 社内のリソースが割けない場合はRPOを活用して離職率を下げる

中途社員の早期離脱を克服するポイントは“誤解に気づく”こと

曽和:キャリアもしっかりしていて、鳴り物入りで入社してくる中途社員に対する期待値は新卒に比べてもはるかに大きいのは確かです。猫の手も借りたいような職場で「やっと中途社員が入ってくれた」という期待が高まるという点は理解できますが、そこが早期離職の元凶でもあることを忘れてはいけません。オンボーディングの失敗に直結してしまいます。せっかく苦労して採用した中途社員が早々に去ってしまう原因は企業側にあるのかもしれない…ということを疑い、自分事化できるかどうかが鍵になります。まずは組織内の意識改革からスタートし、これを機に負の連鎖を断ち切っていきましょう。

  • Person 曽和 利光
    曽和 利光

    曽和 利光 株式会社人材研究所 代表取締役社長

    1971年、愛知県豊田市出身。1995年、京都大学教育学部教育心理学科を卒業。株式会社リクルートで人事採用部門を担当、ゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を確立し、2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。企業の人事部へ指南すると同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

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