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中小企業でガバナンスが求められる理由と、強化させるポイント

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日々多くのメディアにおいて、「ガバナンス」という言葉に接する機会が多くなっています。「ガバナンス」は企業だけでなく、政府、自治体、行政機関、病院、学校、その他多くの組織において使われています。
ここではガバナンスが意味するもの、ガバナンスがこれほど求められるようになった理由、どのようにしたらガバナンスを強化できるのか、強化することによりどのような効果が期待できるのかなどについて説明します。

ガバナンスとは?なぜ必要なのか?

「ガバナンス」とはどういう意味で使用されているのでしょうか。またなぜ「ガバナンス」が強く求められているのでしょうか。 まずはガバナンスの定義について解説していきます。

ガバナンスとは?(定義、その意味するところは)

「ガバナンス」(Governance)とは、統治・統制すること、またその能力(統治・統制力)を意味しています。
ある特定の目的をもった組織が存在するところにおいては「ガバナンス」という言葉が使われています。それは法人組織のみならず、政府、自治体、公的機関、病院、学校、各種組合等において、人により構成される組織が適切に統治されているか、また組織が有効に管理・運営され適切に機能しているかといった意味で使われています。
ただ、漠然と「ガバナンス」と言っても分かりにくいため、ここでは、企業組織に係る「コーポレートガバナンス」(企業統治)を中心に説明していきます。

なぜガバナンスが求められているのか

近年、公的機関や上場・大企業等における不祥事等について頻繁に報道されていますが、その原因はさまざまではあるものの、最終的には当該機関・企業におけるガバナンスの欠如に起因していると指摘されています。
ガバナンスの欠如とは、組織としての統制、管理・運営体制が、法的にまたは自らの組織が決めた社内規程・ルール等に従って管理されていないことが原因だと言われています。これは、中小企業のような小さな組織でも同様であり、それらの問題を解消・解決するために「ガバナンス」の強化が求められるようになってきています。

例えば、「コーポレートガバナンス」については、その強化の目的・理由として、次のような点が挙げられます。

  • 健全な経営を推進し、経営・業績の改善につなげることができる。
  • 経営陣による経営の暴走、不祥事発生等を抑止できる。
  • ステークホルダー(利害関係者)の利益を守るとともに、企業としての信頼性の確保を通じて企業としての社会的イメージを向上させ、結果、長期的に企業価値を向上させることができる。
  • 情報化社会の急速な進展に伴い、管理体制不備による重要情報の外部流出・漏洩等による企業としての信頼性喪失を抑止できる。

これらのことは上場・大企業だけに限った話ではなく、中小企業においても同様に求められるものだと言えます。
例えば情報の管理体制もなく、重要情報、取引情報、個人情報等が簡単に漏洩してしまう企業は、企業としての信用力を失うことになり、企業としての存続自体が危ぶまれることにもなります。反対に、上場していなくても企業としての統制がとれ(ガバナンスが効いており)、適切な業績を継続的に達成できていれば、社会的には優良な企業として認められます。社会的に認められることで従業員の意欲が高まり、生産性も向上し、結果、企業としての評価(価値)が上がることが期待できるでしょう。このような企業としての好循環を生み出すためにも、あらゆる企業でガバナンスを重視した姿勢が求められるようになっています。

中小企業におけるガバナンス強化の課題は

中小企業においても、ガバナンスの必要性・有効性等を理解しガバナンスの運営体制の確立や強化に励まれている企業もあります。ただ一般的には、次のような理由から多くの中小企業においてガバナンス強化が進んでいないのが実情です。

  • オーナー経営者の判断・意思決定が全てであり、他の役員及び従業員の意見等はほとんど経営の意思決定に反映されない。
  • 形式的には統治・管理体制は作っているものの、意思決定に反映されるプロセスが明確ではなく、結局オーナー経営者に委ねられてしまっている。
  • オーナー経営者及び役員がガバナンスの必要性・重要性・その効果等を理解していない。
  • 社外人材(社外取締役、監査役、他)を導入する意思・許容度がない。
  • ガバナンス体制を構築するための、または構築できるような人材(役員、従業員)がいない。
  • 体制の見直し、人材の確保等のためのコストを負担する余裕がない。

2021年の中小企業白書によると、日本の企業数の99.7% 、従業者数の70%、付加価値の53% を中小企業が占めると言われ、日本経済を支えています。しかし、中小企業経営においては2017年時点で、外部株主のいないオーナー経営企業29.9%、外部株主のいるオーナー経営企業42.6%、オーナー経営でない企業27.5%で、全体の70%以上はオーナー経営企業 となっています。

ガバナンスと似たような用語との違い・関係は?

多くのメディアで「ガバナンス」と似た用語が使われることがあります。それらの用語は何を意味するのか、また「ガバナンス」とどのような関係にあるのでしょうか。

ガバナンスと内部統制の違い

  • 内部統制:経営者が従業員、業務の適切性・効率性などを管理する制度
  • コーポレートガバナンス:株主、取締役会等が経営者を管理し不正・暴走等を防ぐ制度

内部統制とは、企業におけるさまざまな業務が適正に行われ、コントロールされているかを経営者がチェックする仕組みです。内部統制もコーポレートガバナンスも健全な企業経営を営むためにつくられたルール・仕組みであり、不祥事の防止や適切な情報開示等の共通目的を持っています。ただ、適切な内部統制の確立なくしてコーポレートガバナンスの構築は難しいともいえます。
上場企業の場合、内部統制の整備状況や運用状況の有効性を評価した「内部統制報告書」を経営者が作成し、公認会計士がそれを監査する仕組みとなっています。これは下記ガバナンスコードの基本原則3を担保することにもなりますが、この仕組みはガバナンスの要です。このように、内部統制が出来ていることがガバナンス構築の基礎といえるでしょう。

ガバナンスとコンプライアンスの違い

コンプラアンスとは「法令遵守」のことですが、その意味するところは多様になりつつあります。最近では、社会規範や社会道徳、会社のステークホルダー(株主、経営者、従業員、顧客、取引先など)の利益や要求にかなうことも、コンプライアンスの意味に含まれるようになってきています。

企業におけるコンプライアンスが重視されるようになったのは、バブル経済崩壊後に相次いだ大規模な企業不祥事の発生と、近年の情報化の進展が背景にあると考えられます。経済の長期低迷等で企業が経営に苦しむなか、粉飾決算や不正融資などが秘密裏に行われ、業績が外見的に取り繕われる一方で、実態としては腐敗している企業が相次ぎました。このようななか、コンプライアンス強化により、会社の全ての役職員が業務遂行にあたって、関連する法令、会社の定款・規程等諸規則、その他社会一般に求められる社会的倫理規範を遵守することが強く求められるようになりました。このように、コンプライアンスの強化は、内部統制やコーポレートガバナンスの根底にあり、それらを支えるものであると言えます。

ガバナンスコードとは

コーポレートガバナンスを実現するうえで、一般的に役立つ原則を金融庁や東京証券取引所がまとめたものが「コーポレートガバナンス・コード」です。コーポレートガバナンス・コードは、持続的な企業の成長と企業価値を中長期的に高める目的で策定されています。2015年6月1日に施行が開始 され、2018年6月1日及び2021年6月1日に改訂されています。なお、コーポレートガバナンス・コードは、東京証券取引所の各市場に株式を上場する企業に適用されています。ガバナンスコード自体は「コンプライ・オア・エクスプレイン」となっており、実施は必須ではありません。実施しない場合は「ガバナンス報告書」においてその理由を説明することが上場規則で求められています。(ガバナンス報告書で適切に説明しない場合、適切開示の問題として取引所より指摘されます。)
したがって、上場時に要求項目を全て満たしていないと上場できないわけではありませんが、満たせない場合(例えば社外役員が少ない等)、その理由を説明する必要があります。

コーポレートガバナンス・コードは、基本原則、原則、補充原則の3段階で構成されていますが、基本原則としては、次の5点が挙げられています。

  • 株主の権利・平等性の確保
  • 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  • 適切な情報開示と透明性の確保
  • 取締役会等の責務
  • 株主との対話

ガバナンスはどのように強化するのか、強化するプロセスや強化することで何が得られるのか解説

ガバナンス強化の必要性は理解できても、具体的にどのようにしたら強化できるのか、また強化することで企業はどのようなメリットが得られるのでしょうか。

ガバナンスはどのようにして強化できるのか

「ガバナンスが効いている」という言葉が使われることがありますが、これは「組織の管理体制がしっかりしている」「内部統制がとれている」という意味です。そのため、ガバナンスを強化する、またガバナンスを効かせるためには次のようなことが求められます。

  • 社長及び経営陣の意識改革:社長・役員の独断専行、不祥事発生等を抑制するための相互監視機能が必要。社外取締役又は監査役、執行役員制の導入等による牽制機能の導入
  • 法務・内部監査等含めたバック体制の充実:ガバナンス強化にはコンプライアンスの徹底、リスクマネジメント、内部監査実施等を含めたうえで内部統制の構築が求められる。
  • 実行可能な人材の確保・育成:②の仕組みを構築するためには対応可能な人材の確保が必要
  • 従業員向け社内教育体制の構築:仕組み・ルールを作っても、それが全従業員に周知徹底され、全社的な実践に至らなければ、ガバナンス強化にはつながらない。

どんな規模の企業であっても、トップ・経営陣の意識を改革し具体的対応策を実践できれば、規模に応じたガバナンスの効いた会社になることは可能です。

ガバナンスを強化することによって得られるメリットとは

ガバナンスを強化することで、次のようなメリットが期待できます。

①企業の不正防止

企業で不正や不祥事が発生した場合、株主、顧客、社員などに大きな損失をもたらします。本来求められている企業としてのガバナンスができ、管理体制が徹底されていれば、企業の私物化、組織内部の腐敗、不正会計などさまざまな問題を未然に防ぐことができます。このような企業としての失態等を避け、過ちを繰り返さないためにも、ガバナンスの強化は必須と言えるでしょう。

②企業の持続的な成長力や競争力の向上

ガバナンスを強化することで、企業経営が円滑に進めば、中長期的に成長力を向上させることができます。また、新規事業投資や優秀な人材獲得もしやすくなるため、より競争力を高めることができるでしょう。結果的に雇用も安定し、従業員は能力を発揮しやすくなるため、生産性の向上にもつなげることができます。ガバナンスの強化により、このような好循環を作り上げることも可能です。

③財務・経営体質の強化

企業として規模を拡大していくためには、株主(含む投資家)からの出資、金融機関からの融資等により投資資金を獲得してゆく必要があります。その点、企業としてのガバナンスが効いているとみなされることで金融機関等からの信用度は高くなるでしょう。また企業価値を高めることができると判断されれば、出資や融資等を受けやすくなります。このことにより、財務内容の改善及び経営体質の強化にもつながるでしょう。

④企業価値の向上

ガバナンスを強化することで、上記のように対外的な信用力・評価を高めることも可能となり、企業の社会的価値(企業価値)を向上させることができます。このことは、株主やステークホルダーの利益を守るとともに、企業の中長期的な成長・発展につなげることができます。

⑤事業承継 を多面的に推進

近年問題となっている中小企業の事業承継に関し、ガバナンスができていれば上記で述べたような諸問題の解決にもつながります。現オーナー経営者が退いた後の経営移行(事業承継)にも多面的な可能性が期待できるでしょう。

ガバナンスが効いていないと、どうなるのか

もし企業においてガバナンスが効いていない場合、どのようなことが起こるのでしょうか。

①社会的信用の喪失

ガバナンスが効いていないと、企業内の監視体制は不十分という状態です。そのため、経営や業務のプロセスにおいて不正や不祥事が発生するリスクが高まります。万一不祥事が発生した場合、企業としての社会的信用を大きく失墜せざるを得なくなり、最悪の場合、取引先・消費者・投資家等からの批判が経営不振につながり倒産に至る危険性もあります。また、これらの不備は、中小企業の事業承継において、企業の消滅含め極めて厳しい結果となることが想定されます。

②海外市場展開対応の遅れ

長期的に低迷する経済成長(自国通貨ベースの2020年度名目GDPは2000年度の名目GDPに対し0.5%の増加 ※)の影響もあり、消費者の購買力は低下しています。多くの業種において国内市場は既に飽和状態に陥り、同業のみならず周辺業界含めた価格競争も激化しています。従って、既にグローバル展開している上場・大企業のみならず、中小企業においても、まだ市場(需要)の拡大が期待出来る海外市場への進出・事業展開が加速しているのです。しかし、海外市場の変化は目覚ましいです。ガバナンスが効かない状態のまま進出したとしても、経営の健全性や透明性、業務執行の効率性を確保することは極めて厳しいでしょう。また、海外市場は政治・経済・為替等のリスクに加え、社会制度、文化、価値観の違い等によるリスクも高く、場合によっては企業経営自体に大きく悪影響を及ぼす危険性もあります。

ガバナンスを強化するに際し、注意すべき点はなにか

ガバナンス強化を推進するに際し、企業としては次のような点について注意する必要があります。

①企業としての意思決定、業務遂行の遅れ

仕組みの構築を重視するあまり、規模の割に厳格な組織、意思決定構造に陥り、本来求められる企業(特に中小企業)としての意思決定の迅速さ、業務執行のスピード感が失われる懸念があります。

②オーナー社長及び経営陣が強化されるガバナンス体制の機能、有効性、収益性への影響等をよく理解したうえで実施

中途半端な理解・判断で意思決定・実施に及んだ場合、本来求められる効果が得られないばかりか、組織が形骸化してしまい運営が混乱に陥る可能性があります。

③トップダウンでなく、組織としての積み上げ

トップの命令だけでガバナンスは出来るものではありません。組織としてのルール、規程、コンプライアンス等に基づいた統制の積み上げがなければ機能しないのです。

ガバナンスと人材

中小企業において、有能な人材を確保するのは容易ではありません。活躍できる職場を求める人材は、企業に何を求め、また企業のどのような点をチェックし、選択しようとしているのでしょうか。

ガバナンスの強化は人材市場において何か強みを発揮できるのか

上記で説明したように、ガバナンスが効いていることは企業経営にとって大きなプラス効果をもたらします。企業としての信用度、社会的信頼性、企業イメージの向上等を通じて多くの求職者にアピールすることが可能となります。引いては、企業が求めるガバナンス構築等への対応が可能な人材の確保につながると期待できるのです。

企業が求めるような人材は、企業の何をみているのか、また企業に何を求めているのか

求職者サイドからは、企業としてのガバナンス含めたイメージ、職務内容、採用条件等が判断基準になるでしょう。ガバナンスが効いており、組織としての運営管理が適切に行われているか、従業員が活き活きと働いているかといったポイントも、優秀な人材による選択の対象になるものと想定されます。

ガバナンスにおいて人事・採用はどのような貢献が出来るのか

人事・採用部門の役割

中小企業の人事・採用部門は、企業のガバナンス強化にどのように貢献できるのか、また必要とする人材をどのように確保できるのでしょうか。
上場企業を対象としたコーポレートガバナンス・コードは2021年6月に改訂されていますが、人事労務に与える影響、人事として対応すべき事項として次のような点が指摘されています。

「社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題」:従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇」が追加されており、今後は、上場企業に限らず、中小企業でも同一労働・同一賃金について、積極的に取り組んでいく必要があります。

「女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保」:会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得るとの考えに基づき、多様性の確保を推進すべきであるとされています。具体的には、上場企業は女性・外国人・中途採用者の管理職への登用など、多様性を意識した基本的な考え方と目標や状況開示が求められています。
今後は中小企業においても上記事項を意識せざるを得なくなり、また既に施行されている「働き方改革」への対応も求められます。人事・採用部門は関連事項を社内的に整備したうえで、必要な人材の確保・育成に臨む必要があるでしょう。

ガバナンス(強化)により成功した事例

経営環境が激変するなか、中小企業社長の意識改革がガバナンス強化に結びついた例があります。
ある中小運輸会社は中間卸業者を通して大手企業から多くの業務を受託していました。ですが、中間業者が大手企業に買収されたことにより大手企業が一定の業務を委託する直接取引先(一定の範囲ではかなりの取引シェア)となりました。結果、大手企業のサプライチェーンマネジメント、SDGsの推進等、健全な経営やガバナンスの強化が求められるようになりました。

それまでの一般的な中小企業経営では対応が難しく、社長は取引の継続自体に不安を感じていました。企業経営を取り巻く環境の大きな変化を実感した社長は、全社一丸となった意識改革と社内体制変革なくしては、企業としての存続は厳しいと判断し、経営改革への着手を決断しています。結果、外部からの経営人材の投入、外部アドバイスの採用等により、管理体制の抜本的見直しと体制構築含めガバナンス強化に必死で取り組んでいます。そのような努力から、金融機関からの信頼性は向上し、大手企業からも企業経営としての一定の評価を得ることができるようになり、新規投資のための資金調達を含め取引拡大に向けた次のステップに進むことが出来るようになりました。

まとめ

「ガバナンス」は、よく使われる割には分かりにくい言葉かもしれません。今なお日々虚偽報告等含めた不祥事が報道されており、企業規模を問わず、ガバナンスの強化の目的・効果、求められる事項等を良く理解したうえでの対応が必須になっています。特に中小企業においては、経営トップから社員まで理解を周知徹底したうえで対応することが求められます。「ガバナンス」は、企業活動、社員の行動を縛るためのものではなく、自らが決めた、又は社会的に求められるルールを順守するとともに、企業または個人(経営者、社員)として企業の成長・発展を促進し、企業価値の向上等を通じて株主含めステークホルダーにメリットをもたらすためのものだと言えるでしょう。

  • Person 木下 忠夫

    木下 忠夫 株式会社クリエイティブ 代表取締役

    中堅の各種業種において経営管理体制・内部統制の構築、IPOの準備、資金調達、助成金申請、海外事業展開等の業務支援をしています。経営環境の変化が速くなるなか、今後成長が見込まれる会社の支援に取組んでまいります。

  • 経営・組織づくり 更新日:2023/01/24
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