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CSRとは?注目の理由や具体的な取り組み、メリット・デメリットについて解説。

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「CSR」を行い、持続可能な企業に生まれ変わろうとする中小企業が増えています。企業が持続的な成長を遂げるためには、どういったことが必要なのでしょうか。
本記事ではCSRの意味やCSRが注目されている理由、具体的な取り組みなどについて解説していきます。

CSRとは

CSRとはCorporate Social Responsibilityという言葉の略語であり、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。
この言葉の背景には、「企業が自社の利益だけを追求するのではなく、従業員や取引先、金融機関、株主、地域社会などのステークホルダー(利害関係者)に対して与える影響に関しても責任を持つべきだ」という考え方があります。
企業は、その存在や事業を通じた取り組みが世の中に受け入れられ、評価され続ける必要があるのです。

サステナビリティとの違い

サステナビリティ(Sustainability)とは「持続可能性」を意味します。ビジネスの場で「サステナビリティ」を使う場合、「環境・社会・経済」という三つの観点から、自社と社会全体とが共存し双方が持続可能な状態を築いていこうという考えを表します。
CSRも、「自社と社会全体とで持続可能な世の中を作るために貢献しよう」という考え方に関してはサステナビリティと同様ですが、切り口となる分野に関しては、環境・社会・経済以外にも存在します。

SDGsとの違い

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、より良い世界にしていくために、直面している世界の課題を2030年までに解決することを目指す趣旨で国連が定めた「持続可能な開発目標」のことであり、17のゴールが設定されています。
CSRも、国際社会の持続可能性を意識する考え方に関してはSDGsと同様ですが、CSRは企業がゴールの内容を任意に決定します。

ボランティアとの違い

ボランティアとは、自らの考えで、社会のためになることを、無償で行う活動のことです。すなわち、見返りを求めていません。
CSRも「企業自身の考えで、社会のためになることを行う」部分に関してはボランティアと同様ですが、一切見返りを求めないというわけではありません。
CSRによって企業イメージをアップし、その効果を通じた収益向上の実現などを視野に入れています。

パーパス経営との違い

パーパス(Purpose)経営とは、企業として存在する目的や意図を明らかにした経営を行う経営上の考え方です。
社会における自社の存在意義を問うた上で、それを基軸にした経営を行うことを目指しています。
CSRも、社会における自社の存在意義を問うという部分ではパーパス経営と同様の考え方があります。ですが、CSRの目指しているアウトプットは「従業員や取引先、金融機関、株主、地域社会などのステークホルダーに対して与える影響に関しても責任を持つこと」で統一されています。

中小企業の経営にCSRが必要な理由

中小企業は大企業とは異なり、経営資源に限りがあり事業基盤も脆弱です。
そのような中で、ステークホルダーからの評価を高めることが企業として成長することのカギを握っています。なぜCSRに取り組むことで、ステークホルダーからの評価が高まるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

経営の目的は企業を存続させること

そもそも経営の目的は、企業を存続させ、その過程で成長を遂げることです。
そうすることで適正な利潤を獲得し、雇用や納税などを通じた社会貢献を行うことが経営目的の根底にあります。

企業経営に影響を与えるステークホルダーの存在

企業を経営するにあたり、従業員や取引先、金融機関、株主、地域社会などのステークホルダー(利害関係者)が存在します。
従業員との関係が良好であれば人材定着化が実現し、金融機関との関係が良好であれば財務の安定化が実現します。各ステークホルダーとの関係性を良好に保つことが、企業経営を安定化させると言っても過言ではないのです。
そのため、ステークホルダーからの評価を高めることが企業の成長につながると言えます。

CSRが注目されている理由

モノが豊富な時代となり経済のグローバル化の進展も相まって、企業価値を形成する大きな要因のひとつに「企業の経営姿勢」が注目されつつあります。 労働問題や情報の改ざん、産地偽装など企業としての不祥事や環境への影響などに対する世の中からの監視の目が強まっています。
そのような経営環境下で企業としての生き残りを図るためにも、CSRが注目されています。

CSRの取り組み分野

CSRには、以下のような取り組み分野があります。

コンプライアンスに関する取り組み

法令遵守に関する社内教育や研修は、コンプライアンスに関する取り組みといえるでしょう。こうした取り組みを徹底することで、世の中の秩序を保つための一端を担い、ステークホルダー全般の利益に対して責任を持つ経営姿勢を示します。

コーポレート・ガバナンスに関する取り組み

コーポレート・ガバナンスは「企業統治」と訳され、企業の不祥事の防止や企業価値向上に欠かせないものです。このような不正や不祥事を防ぐために、経営を監視することを目的とした独立委員会や社外取締役など、外部からのチェック機能を強化する取り組みが該当します。執行役員制度を導入することにより経営における監督と執行機能を分離する取り組みも企業によってはあるでしょう。 企業経営を監視する仕組みを構築し、オープンにすることで、不祥事の発生を抑制することが期待できます。それによりステークホルダー全般の利益に対して責任を持つ経営姿勢を示すことができます。

顧客や消費者に対する取り組み

顧客や消費者に対する取り組みとして、取引の健全化や安全で良質なモノやサービスの供給、販売後のフォローの充実化などが該当します。具体的な取り組みとして、顧客満足度や消費者のニーズ、声などを積極的にアンケート等で収集し、その結果を商品開発、取引改善につなげたりすることや、企業側から消費者へ、サービスの情報提供を充実させたりすることなどが挙げられます。こうした取り組みを積み重ねていくことで、顧客や消費者の利益に対して責任を持つ経営姿勢を打ち出します。

従業員に対する取り組み

労働環境の改善やボトムアップの推進など、従業員満足度の向上につながる取り組みが該当します。企業によって異なりますが、具体的に挙げると各種福利厚生制度や手当の充実、やりがいを感じ安心して働き続けることができる人事評価制度などが当てはまるでしょう。こうした取り組みを推進、そして外部にも発信することで、従業員の利益に対して責任を持つという経営姿勢を明示できます。

環境保全に関する取り組み

地球規模で起こっている環境問題に対して、中長期的に取り組む企業が増えています。環境へ配慮した商品やサービスの開発はもちろん、CO2排出量を削減するための設備に変更したり、営業車に低排出ガス車を導入したりするなどの取り組みが該当します。環境にやさしい経営を推進していくことで、環境を守りながら、地域社会や世の中全体の利益に対して責任を持つことができます。

社会貢献に関する取り組み

経営活動の一環として、社会に対する貢献活動を積極的に行うことで、地域社会や世の中全体の利益に対して責任を持つ経営姿勢を示すことができます。例えば、子どもたちに向けた体験講座・ワークショップの開催や、商品やサービスの寄贈、地域活性化のためのイベント開催などが社会貢献の一部として挙げられるでしょう。

CSRを実施することによるメリット

CSRを中小企業が実施することで、以下のメリットが期待できます。

企業イメージが向上する

経営姿勢に着目して企業を評価する人、あるいは環境に対して関心の高いユーザーは、世の中に多数存在します。
CSRに対して積極的な経営を行うことで、そのようなユーザーからの評価が高まります。
それにより、ステークホルダーの利益に対しても責任を持とうとしている企業というイメージが確立され、競合企業と差別化できる要因ともなります。

ステークホルダーからの信頼が向上する

前述した通り、企業としてCSRへの取り組み姿勢を明らかにすることで、従業員や取引先、金融機関、株主、地域社会などからの信用が高まります。
その信頼感が、経営の安定化に対して良い効果を与えるでしょう。

従業員の定着率向上が期待できる

従業員に関する取り組み(CSR)を推進することで、労働条件や労働環境の改善が期待できます。
それにより、従業員の満足度が向上し、従業員の定着率向上が期待できるようになります。
中小企業にとって、スキルの習熟度の高い人材の定着化は、事業存続へのカギを握る一つです。
従業員の定着率が向上することで、企業として成長していく姿を描くことができるようになります。

優秀な人材を獲得できる

CSRを推進することで企業イメージが向上し、それにより優秀な人材を獲得できるチャンスが生まれます。
中小企業は、大企業と比べて知名度や各種労働条件などで劣る部分がありますが、CSRの推進がそれ以外の部分での差別化要因となり、働きやすさや働きがいを重視する人材の目に留まることがあります。

CSRを実施することによるデメリット

CSRを推進することで、以下のようなデメリットが発生することがあります。

事業コストが増加することがある

本業の遂行とは別に、CSRの推進で生まれるコストの発生です。
従業員が働きやすい環境を作るための人件費増加や、取引先や消費者が安心できる経営を目指す上での流通や販売コストの増加、また環境に配慮した経営を行うことによって材料費などの製造コストが増加することなどが考えられます。
これにより業績が悪化するリスクを防止するために、あらかじめCSRの推進によるコストを想定した収益計画を立て、適正な支出となるようにCSR推進のコストを管理する体制を併せ持つことが望ましいです。

本業での人材不足が生じることがある

CSRを継続して推進し結果を管理するためには、マンパワーが必要になります。
中小企業は限られた人的資源で経営を行っているため、CSRの推進に人手が割かれることで、本業で人材不足が生じてしまう可能性があります。
このことを防止するために、CSRの推進と併せて、生産性の向上や業務フローの見直し、個人の業務棚卸による業務適正化などへの取り組みを行うことが望ましいです。

CSRへの取り組み方

CSRの推進は、企業としての経営方針を実践することと等しいです。 そのため、明確な目的のもとで計画的に取り組み、効果検証と改善を継続的に行う必要があります。

経営層が取り組むべきこと

経営層が主体となって、CSRにおいて以下の取り組みをマネジメントする必要があります。

目的を明確にする

どのような目的でCSRを推進するのか、CSRを推進することで自社はどのように変化していきたいのかを明確にする必要があります。
CSRは、本業の遂行に対して必然的なこととは限りません。 そうではなく、今後の経営を見据えて本業の遂行に付随して行うものです。 そのため、CSRが浸透するまでの間は、企業内で現場の負担が増加します。 目的が曖昧な状態でスタートしてしまうと、その後の取り組みが形骸化してしまう可能性があります。

実施計画を立てる

CSRは本業の遂行に付随して行うものであるため、計画的に行えない場合は本業に支障をきたす可能性があります。
支障をきたさないために、本来の業務に無理が生じない範囲で、取り組む順序やスケジュール、方法、体制などを明確にした実施計画を立てる必要があります。

計画に沿った実行を行う

実施計画を立てた後は、計画に沿ってCSRを実行していきます。
CSRは会社を上げての取り組みであるため、実行を開始する前に、CSRを推進する目的や実施計画を従業員に周知しましょう。従業員の理解を得ることや、本業に支障が生じないことを確認する必要があります。

効果を検証し評価を行う

CSRの推進がスタートした後は、定期的に計画に基づいた活動が行えているか、目標としていた結果が得られているのかの評価を経営層が行います。
CSRには社会に対してアピールを行うという側面もあるため、目標が達成されたものは積極的に社内外への報告を行うことが効果的です。
良い結果や影響を知ることで従業員のやる気が向上し、ステークホルダーからの評価も高まります。

必要に応じて実施計画の見直しを行う

企業の経営を取り巻く環境は、常に変化しています。
CSRの推進に関しても、環境変化に応じた取り組みが求められています。
最初に立てた実施計画に対して大きな影響を与える環境変化が生じた場合は、適時計画の見直しを行いましょう。CSRの推進を継続していける体制を維持できるかも、見直しのポイントです。

人事が取り組むべきこと

人事は、「CSRの推進に対して、全社一丸となって行動する」ことができるよう、意識した後押しを行いましょう。
CSRに関する行動の指針となるものを策定するなどのやり方でCSRの推進に関して望ましい行動とはどのような内容なのかを明らかにした上で 、従業員に周知します。またその行動を評価する仕組みを構築することによって、全社一丸となってCSRを推進することが可能な環境を整えます。

中小企業がCSRに取り組むときのポイント

中小企業がCSRに取り組む場合、以下のことに留意する必要があります。

範囲を広げすぎない

中小企業は、大企業とは異なり経営資源に限りがあります。
そのため、取り組みの範囲を広げすぎてしまうと、ヒトやカネを中心とした経営資源の多くをCSRに割かなくてはなりません。本来の業務に支障をきたすリスクを抑えるためにも中小企業の場合は、まずは小さい範囲での取り組みを心がけることが重要です。

事業の差別化を図れる分野で行う

CSRに取り組むことで、市場での競争優位を獲得できるといった事業の差別化につながる分野で行うことを意識しましょう。
CSRへの取り組みが付加価値となることで、競合他社との競争に打ち勝つ可能性があります。

自社単独での取り組みにこだわらない

CSRに取り組むためには、ヒトやカネを投資する必要があります。 中小企業は経営資源に限りがあります。そのため、自社単独での取り組みにこだわる必要はありません。
他社とコラボレーションしてCSRに取り組むことで、事業の差別化や新規顧客の獲得、企業イメージの向上などが実現可能な場合があります。

中小企業におけるCSRへの取り組み事例

中小企業の経営において、以下のようなCSRの取り組みが行われています。

環境経営の推進によるCSRへの取り組み

ビジネス・一般消費者向けの印刷を行う野崎工業 株式会社(大阪府大東市、従業員82名)は、環境経営の先端を走る以下のようなCSRの取り組みを行っています。

エコ生産

印刷の際はロール紙を使用しているのですが、ロール紙が中途半端に余ることで、もしくは不足分を新たなロール紙から補うことで、別の印刷に使えなくなるロール紙が多数出てしまっていました。この廃棄を削減するため、顧客に紙の廃棄ロスを最小化するための発注量調整を依頼。実現された発注物の梱包材に自社で作成したエコシールを張り付けることで、顧客を巻き込んだ環境への貢献を行っています。

省エネ対応

夏場に電力消費量が大幅に増加することを受けて、夏場の電力消費量を抑えるために、「2パターンの時差出勤の実施」「照明のLED化」「ガラス窓への遮熱フイルムの貼り付け」などを実施し、ピーク時の電力消費量を2/3に削減することに成功しました。

労働環境の改善によるCSRへの取り組み

工業用ゴム製品の製造を行う株式会社精工化学 工業所(大阪府富田林市、従業員38名)は、ボトムアップ経営を徹底することで従業員のモチベーションを喚起する以下のCSRへの取り組みを行っています。

ボトムアップ式の生産会議

あらかじめ従業員に対して売上高、不良率、不良金額などの情報を開示した上で、毎月1回、3~4時間かけたグループ責任者全員が集まる生産会議を実施し、参加者全員で今後の改善策を議論した上で方針を決定する取り組みを行っています。

従業員の声への対応

随時、書面を通じて、従業員の声(意見や要望など)を吸い上げ、それに対して必ず回答することを徹底しています。

地域住民への配慮によるCSRへの取り組み

金属製品の製造を行う和泉チエン株式会社(大阪府阪南市、従業員182名)は、地域住民への配慮を徹底することで、地域社会からの信頼向上を実現する以下のようなCSRへの取り組みを行っています。

近隣の事業者や住民からの訴えへの対応

近隣の事業者や住民からの訴えに対して、地域社会への配慮を最重要視するという視点で、以下のような対応を行っています。

  • 排水を巡る海洋汚染に対する地元漁業組合からの訴えに対して、水質基準を満たした浄水設備を導入する
  • 排ガスを巡る農作物への影響に対する地元農家からの訴えに対して、排ガスを抑制する工程を導入する
  • 騒音や振動を巡る地元住民からの訴えに対して、設備の導入や工事の実施によって騒音や振動を抑制する

地域社会との関係強化

地元の人材の積極的な雇用や、地域のお祭りへの継続的な協賛などにより、地域社会との関係強化に努めています。

まとめ

世の中における存在価値を高め、従業員や取引先、金融機関、株主、地域社会などのステークホルダーからの評価を高めることが、企業の持続的な成長を後押しします。
それに対する取り組みの一環としてCSRがあるのですが、CSRは、事業の差別化戦略ともなりうるものなのです。

  • Person 大庭 真一郎

    大庭 真一郎 中小企業診断士・社会保険労務士 大庭経営労務相談所 代表

    東京生まれ。東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。
    「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。

  • 経営・組織づくり 更新日:2023/01/10
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