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雇用情勢の「先」を読む経済統計 人手不足はコロナ禍後も続く?〜人口統計

この連載では、主に足元から2~3カ月先までの雇用情勢を見極めるための統計について紹介してきました。しかし、長期的な雇用戦略を立てる際には、景気変動に伴う短期的な労働力需給とは別に、「5~10年後の新卒者は今より減るのか増えるのか」といった情報が必要になります。また、育児や介護を抱える人向けの制度を設計する際にも、社会の年齢構成がどう変化していくのかを見極める必要があるでしょう。最終回は、そうした長期的な判断に役立つ人口統計を取り上げます。
*専門用語については最後にまとめて解説しています。

国力を測るうえで最も重要な統計

昔から、国を運営していくうえで「住民が何人いるか」という情報は極めて重要でした。税をどれだけ集められるか、兵士にできる男性が何人いるか、といった国力を測るうえで基礎となるデータだったからです。このため、人口に関する統計(記録)は古い歴史を持っています。日本でも、すでに7世紀の飛鳥時代には全国規模の調査が行われていました。
現在の日本では、全世帯を対象にした国勢調査が5年ごとに実施されます。直近では2020年秋に郵送やオンラインで回答したのを覚えているのではないでしょうか。この調査の結果を基礎として、日々の出生と死亡、出入国などの記録と組み合わせることで「今」の人口を算出しているのです。

日本の直近の人口は総務省の「人口推計」で知ることができます。それによると、2021年3月1日現在の日本の総人口は1億2548万人。同省のホームページでは、毎年10月1日時点の都道府県別人口や、年齢構成なども見ることができます。一方、月ごとの出生・死亡数や、出生数に影響を与える婚姻・離婚件数は、厚生労働省の「人口動態統計」を見ると分かります。
ただ、中長期の雇用情勢を考える際には、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所がホームページにまとめている「人口統計資料」を利用するといいでしょう。なかでも重要なのが、同研究所が算出する「将来推計人口」です。これは、国勢調査の結果を受けて長期的な人口の変化を予測したもので、現在は2015年調査を基に2017年に算出したデータが最新です。

人手不足が起きた背景

コロナ禍で景気が急速に落ち込むまで、日本では飲食業などを中心に空前の人手不足が生じていました。企業関係者からは、新卒採用が「売り手市場」で、欲しい人材が思うように集まらないというボヤキを聞いたものです。理由の第一は戦後最長レベルだった景気拡大。一方で、今回の人手不足は好景気による一時的な現象ではなく、少子高齢化による構造的な変化によるものではないか、という観測も広がっていました。
日本の人口構成にどんな変化が起きていたのか、グラフを作って確認しておきましょう。こうした分析をする際は、0~14歳、15~64歳、65歳以上に分けた「年齢3区分」のデータを用います。

全体を見ると、1970年代前半の第二次ベビーブームから1990年代にかけては総人口が増えていたことが分かります。しかし、2000年代に入ると伸びは鈍化し、少子高齢化が始まります。
具体的には1980年に2700万人を超えていた14歳以下人口が、2000年には約1800万人にまで減りました。20年間で東京都の人口に匹敵する規模で子どもが減ってしまったわけです。一方で1980年に約1000万人だった65歳以上の高齢者は、2000年には倍増して2200万人を超えています。年金や医療など社会保障制度への不安が高まったのはこのためです。

この間、労働力はどう変化したのでしょう。人口に占める潜在的な働き手の割合を考える際には、15~65歳の「生産年齢人口」を見ます。グラフでは子どもと高齢者に挟まれて分かりにくくなっていますが、1980年からの20年間で約7900万人から約8600万人へと9%(約700万人)増えています。これは愛知県の人口に近い規模です。
つまり、少子高齢化が急速に進んだものの、2000年ごろまで働き手は増えていたわけです。これが、少子高齢化が進んでも人手不足が顕在化しにくかった理由です。むしろ、バブル崩壊の後遺症による景気の低迷もあり、2000年代の初めまで企業の間で「過剰な人員」をどう減らすかが課題になったほどです。

しかし2000年ごろをピークに生産年齢人口は減少に転じ、2000〜2015年の間に12%(約1000万人)も減りました。こうして、2005~2008年にかけて人手不足が顕在化します。2009年以降は、米リーマン・ショックの影響で労働需要が落ち込んだことにより、一旦は緩和しました。しかし景気が回復するに連れ、2013年ごろから再び人手不足が問題になり、コロナ禍の前まで続いたのです。こうして見ると、近年の人手不足の背景に、人口構成の変化があることが分かります。

実績値は「中位推計」より低め

今後の雇用環境はどうなっていくのでしょう。将来推計人口から予測してみましょう。ただ、このデータには「クセ」があるので要注意です。この推計では、最も実現性が高い「中位推計」に加え、人口の増加を高めに見積もった「高位推計」と低めに見積もった「低位推計」の3つが示されます。しかし、過去のデータを見ると、実績値が中位推計を下回る傾向があるのです。このことが、公的年金の設計にも混乱をもたらしてきました。

予想が外れる最大の原因は、推計に使われる「合計特殊出生率(以下、出生率)」の予想がいつも実際より高めだったからです。出生率とは、1人の女性が生涯に産む子どもの数の理論値。つまり、研究所の予想より生まれてくる子どもの数がいつも少なかったわけです。例えばコロナ禍前の2019年の予想は中位1.43、高位1.57、低位1.30でした。しかし、実際は1.36。ちょうど中位推計と低位推計の中間くらいです。2020年の数値はまだ発表されていませんが、コロナ禍の影響でさらに下がるとみられています。

中位推計(出生・死亡とも中位)に基づくと、今後の年齢3区分の推移は以下のようになります。

一目見て、これから何が起きようとしているかが分かります。生産年齢人口が急速に減っていくのです。しかも、中位推計がいつも高めであることを考慮すると、実際にはもっと減少幅は大きくなる可能性があります。これから長期の雇用戦略を考える際には、こうした厳しい見通しを踏まえ、人材の争奪戦に備える必要があるでしょう。

ただ、私自身は悲観しすぎるのも問題だと考えています。例えば、一般に生産年齢人口は65歳までですが、元気に過ごすことができる期間を意味する「健康寿命」は伸びる傾向にあり、現在では70歳で現役という人は珍しくありません。そもそも1970年代まで定年は55歳が一般的でした。1960年の平均寿命は男性65歳、女性70歳だったからです。

例えば「初老」という言葉は本来、40代を指していました。しかし、40歳の男性を「初老の紳士」などと表現する人は、今ではいないでしょう。平均寿命が男性81歳、女性87歳程度まで伸び、40歳でも若々しい人が増えたからです。戦後、日本人の健康寿命はそれくらい劇的に変化したのです。長期的な計画を立てる際には、女性や(現在の基準での)高齢者の労働参加率が高まることを考慮する必要があるでしょう。

「胴上げから肩車へ」の虚実

少子高齢化の結果として社会が崩壊する、といった極端な説にも注意が必要です。よく聞くのが、「第二次ベビーブームの頃は、現役世代10人で高齢者1人を支える『胴上げ型』だった。しかし今は2人で1人を支える『騎馬戦型』になっており、やがて1人で1人を支える『肩車型』になる」という例え話です。しかし、グラフをもう一度見てください。現役世代が支えているのは高齢者だけではありません。子どもたちも、支える必要があるのです。

「少子」高齢化ということは、高齢者を支える負担が増える反面、支える子どもの数は減ります。そこで、高齢者と子どもの両方を「被扶養者」として計算し直すと、実は50年前も現役世代は2人で1人を支えていたのだと分かります。

もちろん、現在ではそれが1.4人になっており、40年後には1人になります。ただ、「胴上げから肩車へ」というほど極端な変化でないことも事実でしょう。女性や高齢者の労働参加率が高まり、人工知能(AI)やロボットなどを活用した省力化が進めば、補えないレベルではありません。

また、忘れがちですが、人口が減るということはお金やインフラといったこれまで蓄積してきた資産の1人当たりの取り分は大きくなります。確かに少子高齢化は大変な試練ですが、お先真っ暗というわけでもないのです。

このように、人口の変化を長期で見ると、未来について具体的なイメージが見えてきます。また、人口の増え方・減り方(つまり出生・死亡)は戦争などがない限り安定しているので、景気予測などに比べると的中率が高いと言われています。確かに出生率の予測が外れ続けているなどの問題はありますが、そうした傾向だけ頭に入れておけば役に立つのです。過度な悲観に陥らないためにも、若い人にはぜひ人口統計を自分で分析し、未来についての正しい姿を知ってほしいと思います。

用語解説

  • 表2-5 年齢(3区分)別人口および増加率:1884~2019年|-人口統計資料集(2021)-
  • 表2-7 年齢(3区分)別人口および増加率の将来推計:2015~65年|-人口統計資料集(2021)-
  • 【国勢調査】国が国内の人や世帯の数、就業状況などを把握するため1920(大正9)年から実施している全住民を対象とした全国調査。ただし、集計に時間がかかるため現在は主に2015年調査のデータが使われている。
  • 【人口推計】総務省が、国勢調査の結果に住民基本台帳などのデータを加味し、毎月1日現在の数値を算出している。全国の他、都道府県別、年齢別、男女別などのデータが公開されている。
  • 【人口動態統計】厚生労働省が出生、死亡、婚姻、離婚などの届出を集計した統計。出生数と死亡数の差から、人口の増減の傾向が分かる。
  • 【将来推計人口】厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が発表する人口動態の見通し。将来の出生・死亡、国境を越えた人の移動などについて仮定を設け、将来の人口規模や男女・年齢構成などの推移を予測する。仮定の違いにより中位推計、高位推計、低位推計の3つが算出されるが、公的年金などの制度設計では中位推計が重視される。
  • 【生産年齢人口】経済活動を担う中核的な年齢層の人口のことで、一般に15歳以上65歳未満を指す。社会が発展すると進学率が高まり就学期間が延びるため、この年齢層が全て働いているわけではないが、潜在的な労働力の指標として使われている。
  • 【合計特殊出生率】一人の女性が生涯に産む子どもの数を理論的に算出した指標。15~49 歳の女子の年齢別出生率を合計して計算する。一般にこの数値が2を超えなければ人口減少が起こる。
  • 【第二次ベビーブーム】一般に、1970~1975年の出生数が年190万人を超えていた時期を指す。なお、第一次ベビーブームは終戦直後の1947~1949年に起きており、この時期に生まれた人々は「団塊の世代」と呼ばれる。第二次ベビーブーム世代は、概ねその子ども世代にあたることから、「団塊ジュニア」と呼ばれることがある。
  • 【健康寿命】平均寿命から、寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間。生涯のうち、健康的な生活が送れる期間を指す。
  • 【平均寿命】一般に、生まれた子どもが平均的に生きられる長さ(平均余命)を指す。日本人の平均寿命はこれまで伸び続けており、世界でもトップクラスとなっている。
  • Person 松林 薫
    松林 薫

    松林 薫

    1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部卒、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。経済学、金融・証券、社会保障、エネルギー、財界などを担当。2014年退社し株式会社報道イノベーション研究所を設立。2019年より社会情報大学院大学客員教授。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)、『「ポスト真実」時代のネットニュースの読み方』(晶文社)、『迷わず書ける記者式文章術』(慶應義塾大学出版会)。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/12/21
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