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海外文献から読み解くVUCA時代のHRトレンド ~「ハイブリッドワークからエニウェアワークへ」働き方はどう変わっていくのか?どのように変えていくべきか?~

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我々の働き方は、パンデミックを契機に短期間で目まぐるしく変化してきました。働き方が変わったというよりも、選択肢が増えてきたといってもよいでしょう。
グローバルにどこでも仕事ができる今の環境において、企業の競争力を維持するために、対応力のあるIT戦略や、強化されたバーチャル・コラボレーション・ツールへの投資が進んでいます。加えて、コラボレーション型のワークスペースやバーチャルオフィススペースなど、SaaS企業の成長によりビジネス環境の分散も可能になり、働く環境もさらに変化を遂げています。
リモートワーク からハイブリッドワークへ、そして、その先のエニウェアワーク(いつでも好きな場所で働けるスタイル)へと、グローバル企業も最適解を探すべく動き出しています。

今回は、ハイブリッドワークを含めた働き方に関するトレンドについて紹介していくとともに、ハイブリッドワークの課題と対処方法、ハイブリッドワークを推進するHRの役割について見ていきます。
経営者やHR担当者にとって、より厳しくなる人材獲得とその定着に向けて、自社の状況と比較して認識を新たにして対応すべきことが明らかになる機会となれば幸いです。

働き方に関するトレンド

パンデミック以前から、欧米ではPCを自宅に持ち帰って業務を行うなど、一部リモートワークを行うオフィスワーカーたちが存在していました。そして、パンデミック直後の2020年4月に、米Gartner社が317人のCFO(最高財務責任者)を対象に行った調査では、74%が「何らかのレベルで半永久的にリモートワークの従業員がいる状況を続けていく」と返答しました。
これは、リモートワークが継続可能で、かつコスト削減に役立つことを示した結果ともいえます。

ハイブリッドワーク・エニウェアワークへの移行

しかし、パンデミックが収まりを見せてきた2022年に入ってきた頃から、企業の対応にバラつきが出はじめました。オフィスや現場への出社を要請・義務化する「オフィスワーク回帰」のような揺り戻し現象が起きている一方で、新たな「ハイブリッドワーク」という働き方が登場しました。 ハイブリッドワークは、出社型のオフィスワークと、リモートワーク(外出先や外部のコワーキングスペース、自社専用のサテライトオフィスといったサードプレイスを含む)を組み合わせた働き方です。

TwitterやShopifyのように物理的なオフィスは維持しつつもリモートワークファーストとする企業をはじめとして、Googleのようにオフィスや自宅に限定されずに自分の好きな場所で働くことができる柔軟な勤務形態(エニウェアワーク)を選択できるようにする企業が出てくるなど、働き方の選択肢にグラデーションが生まれています。
ハイブリッドワークのスタイルは、企業全体や部署内での取り決めや仕事内容、ポジションなど個々によって異なっています。例えば、「週3日自宅、週2日オフィス」、「毎週金曜日にオフィス出社、他の曜日は自宅」などのスタイルも出てきています。
このように、リモートワークを活用すれば、リゾート地や好きな地域に滞在することもできるため、仕事(Work)と休暇(Vacation)を兼ねた「ワーケーション(Workation)」という働き方も選択肢として出現しました。

「デジタルノマド」にも注目が集まる

特に、国境を越えてワーケーションできるような高いITスキルとコミュニケーションスキルを持ち合わせ、生産性の高い働き方のできる国際的な知識労働者は、「デジタルノマド(Digital Nomad)」と呼ばれます。

いま、デジタルノマドを獲得するために、世界各国が競い合う状況が生まれています。デジタルノマドは、地域間の知識やリソースの流れを促進し、デジタルノマド自身や所属組織に利益をもたらす可能性があるためです。加えて、不足しているIT人材のニーズを満たすデジタルノマドは、現地の雇用を奪うことなく、地域経済に時間とお金を投下することから、受け入れ国にとっても貴重な存在として認識されつつあります。
また、世界的な旅行者数の減少に見舞われた国々が、デジタルノマドを対象とした特別なビザを提供し始めるといった潮流も生まれています。

より柔軟性のある働き方を望む人が増加

いまやオンラインミーティングの数は圧倒的に増え、世界で新型コロナが深刻化した2020年2月と比べて2022年2月には、2.5倍にも増えたという調査もあります。
欧米での働き方の企業側のニーズは、フルオフィスワークが34%、ハイブリッドワークが49%、フルリモートワークが18%と言われています。一方で、従業員側のニーズを確認すると、フルオフィスワークを自ら希望しているのは20%に留まっています。この結果からわかるように、ますますハイブリッドワークやフルリモートで働くことを望む人が増えているのです。

さらに、「柔軟な働き方ができないのであれば、新しい仕事を探す可能性もある」と考えている人が70%と、より柔軟性のあるライフスタイルを維持していく方向にあるといえます。
多くの企業にとって新しい常識として「いつでも、どこでも働ける」モデル(エニウェアワーク)が急速に定着しつつあることを象徴しているのが、NatwestやHSBCのようなロンドンの大手銀行、JP Morganがハイブリッド型勤務体系に移行し、可能な限り在宅勤務を奨励するようになっている点です。
人々は、パンデミックからもたらされた数少ないポジティブなこと、つまり「働き方と働く時間の改善」を維持することに熱心になっているのです。

米国だけでなく、欧州における英国オフィスワーカーでさえも、その83%は、フレックスタイム制の導入に同意しており、多くの人がキッチンのテーブルから家族の別荘まで、いつでもどこでも自分の都合のよい場所で仕事ができることを期待しているという調査もあります。
もし、フレックスタイム制が主流になれば、時間指定の勤務体制は終わりを迎え、従業員は自分のスケジュールに合わせて働き、仕事をすることができるようになります。もちろん、一部の否定的な意見や懐疑的な意見もあるでしょう。しかし、ハイブリッドワークは、企業にとって競争上の優位性を確立する可能性を秘めているのです。
このような流動性の高い労働をサポートすることは、企業にこれまでにない全く新しい課題を生み出します。では、企業はどのようにしてそれらの課題に対処し、サポートしていけばよいのでしょうか?

ハイブリッドワーク・エニウェアワークの課題と企業の対処方法

ハイブリッドワーク・エニウェアワークで重要なのは、それを実現するための正しいインフラの導入や、規律と企業文化の構築です。また、世界中の従業員がリモートワーク下においても生産性を維持するために、束縛や監視をされないことも重要な要素になります。
では、この新しい働き方を企業がサポートするための課題は何でしょうか? 

新たなコミュニケーション手段の構築

従来の対面コミュニケーションが定着している企業が多いなか、新しい意思疎通パターンへの対応が求められています。特に、ハイブリットワークにおいては出社頻度が従業員によって異なることも多く、出社頻度の低い従業員は企業のリアルな情報を得づらくなるなど、情報格差が生じる問題があります。
それを回避するには、下記のような対策が必須です。

IT上の対策

コミュニケーションインフラの整備専門チームを作る、コミュニケーションに関する現状を把握し課題を共有する、チャットツールを導入して運用ルールを決める、コミュニケーションの質と量のモニタリングをするなど

プロジェクトマネジメント上の対策

定期的な目標進捗を確認するためのミーティングを実施するなど

ナレッジマネジメント上の対策

必要な情報を社内共有して、ノウハウの蓄積をサポートする環境づくりなど

情報漏洩リスクへの対策

eメールやSNSを媒介として感染を拡大させるマルウェアや、サイバー攻撃を受けることもあります。企業側は情報が漏洩するリスクを避ける対策も重要になりますし、IT機器への投資も必要です。

従業員の健康面への配慮

リモートワークの環境下では、集中できる環境を自分で整えることで、生産性を高めながら業務をすることができる分、仕事量が増大してストレスを抱えてしまったり、バーンアウト(燃え尽き症候群)を経験してしまったりするリスクがあります。また、個人の裁量に任せる範囲が大きい分、従業員の健康状態を把握しきれずに、健康問題を放置してしまうといった問題も起こり得ます。
企業側は、「従業員が健康面でセルフコントロールできているか」といったチェックを、業務の習熟度に合わせて心がけていく必要があります。

リーダーの新たな役割

リモートワークのみだった働き方から、ハイブリッドワークに移行するにあたり、「誰が、どこで、なぜ対面で集まるのか」に関して、リーダーが意図を持って行動する必要性が出てきています。誰もが「同じテーブルについている」という実感を得るためには、以下のように新たなルールが必要です。

バーチャルオフィスの導入

全員が出社することで、「同じ空間で働いている」という実感を生み出し、孤独感や組織の断絶が生まれることを最小限に留める

朝礼や夕礼、ランチ、雑談場所の設定

公私の切り替えを意図的に作り、オンラインで失った雑談を取り戻す

「社内wiki」や日報の活用

職場のナレッジや社内ルール、日々の活動状況など、基本的なことはすべてわかる状態を目指すことで、追体験の実現やマネジメント上の貴重な情報源をマネジメントする

短時間のミーティングや1on1の定期化

マネジメントの基本だが、チーム内の一人ひとりが、自分のやるべきことは何か、自分が行うことで最大の効果を生み出せることは何かを確認する時間の優先度を上げて、細かなミスコミュニケーションをなくす

ハイブリッドワーク、エニウェアワークを推進するHRの役割とは

テレワークとオフィスワークの良さを兼ねそろえたハイブリッドワーク、そして、いつでもどこでも仕事ができるエニウェアワークは、すでにさまざまな規模の企業によって受け入れられており、多くの企業が早期導入による利益を享受しようとしています。
Spotifyは「フレキシブルな働き方の追求は大きな利点であり、当社の人材獲得の最優先事項だ」と認め、PwCは「The Deal」と呼ぶ、すべての従業員にエニウェアワークを選択する機会を提供することを発表しています。

しかし、戦略を立てなければ、ハイブリッドで柔軟な働き方のメリットは失われ、古い習慣に逆戻りしてしまう危険性があります。改めて、私たちHRが注力すべき2つの戦略について、以下解説していきます。

組織文化の設計と組織開発への注力

これまで出社が当たり前とされていた企業では、ハイブリッドワークにいかに移行するのかが問われています。移行時には多くの課題が発生します。オンラインを前提にした組織開発の取り組みを行い、リモートワーク環境に合わせた「組織文化を再定義」し、「組織文化の浸透」を行う必要があります。

当然ながら、これに並行して、勤怠ルールや労働ルール、就業規則の変更、健康やマネジメントに対する日常的な就業生活サポート、Pay for performance(成果に応じて支払う)の啓発や、タイムマネジメントスキルの教育などパフォーマンスを高めるためのサポート支援、ハイブリッドワークやエニウェアワークに対応した評価の運用なども、組織文化を変革し維持するためには必要な手段です。
このように、目の前のリモートワーク化を乗り越えるだけでなく、中長期的にはハイブリッドワークやエニウェアワークを見据えて計画を立てることが求められます。

ウェルビーイングの設計

2020年1月の米国の大手求人情報サイトのIndeedの調査では、過去3カ月間に”頻繁に”または”非常に頻繁に”バーンアウト(燃え尽き症候群)を経験したと回答した人は62%にも上ります。さらに2021年の調査では、「コロナ禍以降、ストレスを感じたり、バーンアウトを経験したりすることが増えた」と回答した人は67%にも上っています。

リモートワークやハイブリッドワークをはじめ、週休3日制や無制限の有給休暇、つながらない権利(※)といった取り組みが注目されているなか、経営者・HR側は「いつ、どこで働くか?」という点に注目するあまり、「どのように、どれだけ働いているか」という点を見失わないよう注意しなければなりません。

経営者やHR部門、マネジメントチームは、ある人の働き方の柔軟性が別の人の働き方を制限することにならないよう、一定の境界線を定めたルールを新たに確立する必要があります。また、各チームのエンゲージメントの動向や生産性のパターン(1日の平均労働時間、時間外勤務と休日勤務、会議時間、チャット発信、休暇取得、アドホックコール、カレンダー上”オフィス不在”とブロックする頻度など)を分析することも必要です。そして、この分析を通じて、個々の従業員が自分の時間に関してより強い意識を持ち、自ら仕事における時間の使い方を見直すなどの努力していることを把握する必要があります。
これらの取り組みは、ハイブリッドワークを持続可能なものにするために不可欠です。

【まとめ】持続可能な働き方を実現するために

多くの企業は引き続き、従業員にリモートワークの選択を認めざるを得ないと気づいています。従業員はこのような困難な時期には、適応力があり、安定性を生み出せる企業で働きたいと考えていますし、企業側は外部の人材を惹きつけ、定着させることができると考えているからです。特に、日本においては、パンデミックだけではなく自然災害が常態化している国であることを忘れてはなりません。だからこそ、東日本大震災以降BCPが国・行政単位から企業に至るまで設計されてきたはずです。しかしながら、そのBCPもアップデートしていく必要があります。
実際に、企業はこれまでの経験から、ハイブリッドワークやリモートワークであっても、従業員の間にコミュニティを築き、コミュニケーションを促す方法をいくつも見出しています。例えば、週の決まった日を出社日に決めて、全従業員が一斉にオフィスに集まる会議を開催したりするなど、コミュニティを構築する努力も見受けられます。

不確実な世界においては、このフレキシブルに働ける環境を築くことは、不可逆の流れなのです。HRは、従業員一人ひとりの勤務内容やライフステージをイメージし、「選択肢」を用意するための従業員体験(EX)の設計に組み入れる際に、働き方だけでなく働く環境面をIT部門や設備管理部門と協働して社内外に整備していくことが必要になります。
多くの経営者やHR部門はこれまで、賃金や福利厚生といった報酬面が中心の個別の施策で労働の対価を設計していました。ハイブリッドワークやエニウェアワークは、企業の競争力を高めるための一要素でしかありませんが、今後はこれらを考慮してEXをデザインすることが、より重要になっていくでしょう。

参考

  • Gartner:CFO Survey Reveals 74% Intend to Shift Some Employees to Remote Work Permanently
  • Country visa information compiled by Prithwiraj Choudhury
  • Work Trend Index 2022
  • Future Forum 202207
  • Velocity Smart Technology; Market Research Report 2021
  • Indeed Study Shows That Worker Burnout Is At Frighteningly High Levels: Here Is What You Need To Do Now
  • つながらない権利(right to disconnect)……業務終了後や休日などの勤務時間外に業務上のメールや電話連絡が来た場合に、従業員がその応答を拒否できる権利のこと
  • Microsoft - Great Expectations: Making Hybrid Work Work
  • Person 鈴木 秀匡
    鈴木 秀匡

    鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/12/08
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