女性・LGBTQ+活躍推進のポイントと実践方法
LGBTQとは、レズビアン(L)・ゲイ(G)・バイセクシュアル(B)・トランスジェンダー(T)・クエスチョニング/クィア(Q)の頭文字を取った、性的マイノリティの総称の一つです。また、これ以外にも多様な性があることを意味して「+(プラス)」を追加した「LGBTQ+」と表記されることもあります。
L(レズビアン):性自認が女性/恋愛・性愛の対象が女性の人
G(ゲイ):性自認が男性/恋愛・性愛の対象が男性の人
B(バイセクシュアル):性的指向が男性・女性の両方の人
T(トランスジェンダー):出生届・戸籍上の性別とは違う性別で生きる人、生きたい人
Q(クエスチョニング・クィア):性的指向・性自認が定まっていない、あえて定めていない人
日本国内におけるLGBTQ+の割合とその認知度
調査によって若干のばらつきはありますが、日本国内では人口の約5〜8%がLGBTQを含む性的マイノリティであるとされています。
しかし、日々の生活のなかで「自分の周りには、LGBTQの方はいない」と思っている方もいるかもしれません。実際に、厚生労働省の調査※1では、「社内に性的マイノリティ当事者がいることを認知していますか?」という質問に対して、「いない/わからない」という回答が約70%を占めています。
また、当事者の方に対して「いま職場の誰か1人にでも、自身が性的マイノリティであることを伝えていますか?」と質問したところ、L・G・Bの方々の約80%が「伝えていない」と回答しました。トイレや更衣室といった施設利用などで伝えざるを得ない状況に置かれがちなT(トランスジェンダー)の方に関しても、約70%の方が「伝えていない」と回答しています。
LGBTQという言葉が浸透しつつある現代においても、当事者にとっては「伝えることで変な目で見られるのではないか」「職場において差別的な空気があり言いづらい」といった悩みを抱えている方が多くいることがわかります。
企業活動を取り巻くLGBTQ・SOGIに関する法律
企業活動と関係が深いLGBTQ・SOGI※に関する法律を見てみると、まず、性差別に関連する法律として、「男女雇用機会均等法」があります。
※SOGI(ソジ、ソギ)……Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の英語の頭文字をとった頭字語です。
男女雇用機会均等法のセクハラ指針の中では、SOGIに関する性的な発言はセクハラ(セクシュアルハラスメント)の対象になることや、異性だけでなく同性に対する行為も含まれることが明文化されています。
また、2020年6月には「パワハラ防止法」が施行されました。同法律では、SOGIに関するハラスメントや、アウティング(性的指向・性自認を本人の同意なく第三者に暴露してしまうこと)に関してもパワハラの対象になると定めています。ここで重要になる点が、LGBTQの当事者が社内にいる・いないに関わらず、SOGIハラスメントを防止するための企業としての取り組みが求められているという点です。
先ほどのLGBTQに関する調査では、性的マイノリティに関する理解度・認識度は低かったものの、国としてはこのように徐々に法整備を進めている状況があります。そして、これらの法律は大手企業のみならず、社員数の少ない中小企業にも適用されています。
世界におけるLGBTQの状況
その一方で、世界には「LGBTQ当事者であるだけで罪に問われてしまう」という国や地域も存在します。実はこの問題は、日本企業にも大きく影響する可能性があります。
海外への配属がトラブルになる可能性も
というのも、社員がとある国へ配属になった段階で、「実は自分は同性愛者で、その国に行くとトラブルに巻き込まれる可能性があります」という相談が持ち込まれるケースが、企業の労務相談窓口であるとのことです。
性の多様性に関する理解や認知が進んでいる企業であれば、このような問題は未然に防げる可能性もありますが、先ほど紹介したように、当事者が「打ち明けられない」と悩むケースは少なくありません。
社員を守るための企業の姿勢としても、LGBTQ・SOGIに関する理解や取り組みは欠かせないといえるでしょう。
LGBTQ活躍推進に取り組む企業の事例
愛知県にある、自動車部品を取り扱う加藤精工株式会社では、役員・管理職向けのLGBTQ研修に取り組んでいます。研修を1回実施して終わらせるのではなく、定期的に研修を実施することで、社員の理解促進につなげています。
他にも、同性パートナーがいる社員に対して、パートナーを配偶者として扱い、慶弔金・慶弔休暇などの手当を出したり、社員が性別適合手術※・ホルモン治療を希望して行う際に、使っていない有給休暇を使用できる制度を整えたりしています。
※性別適合手術……性自認に身体の性別に近づける為に行う外科的治療のこと
また、多様な家族のかたちも大切にしており、特別養子縁組で子供を授かった社員に対してもお祝い金を出すといった制度を導入することで互いの多様性を認め合い、全ての人が働きやすい環境づくりを推進しています。
株式会社山田メッキ工業所
愛知県にある自動車部品の加工会社である株式会社山田メッキ工業所でも、先ほどの企業と同様に定期的なLGBTQ研修の実施や、同性パートナーを配偶者として扱い、手当や休暇制度を支給する制度を整えています。
また、同社では男性トイレにもサニタリーボックスを設置しています。病気や性別適合手術後に伴う尿漏れパッドの使用などを考慮し、誰にとっても使いやすいトイレ環境を整備しています。
他にも、当事者(トランスジェンダー、ゲイ)を交えた意見交換会を実施し、そこで出た意見を踏まえて、元々男女で別れていたロッカールームを分けずに、更衣室を完全個室に変更する取り組みを実施しました。
実際に当事者を交えて意見交換をすることで、当事者目線で考えるきっかけとなり、社内におけるLGBTQへの理解促進につながりました。
その他の取り組み事例
取り組みの一つとして挙げられるのが、採用面接時のエントリーシートにおいて「性別の記入欄」をなくすこと。もちろん、入社が決定した段階で、健康保険の手続きなどのための求職者の戸籍上の姓を知る必要はありますが、「個々の能力や特性を見て仕事を割り振っているため、採用の段階で性別を聞く必要はない」という考えのもと、このような形をとっている企業もあるのです。
実は、トランスジェンダーの方の中には、「戸籍上の性別を記入すればいいのか、それとも性自認に合わせて記入をすればいいのか」と悩む方が一定数存在します。そのため、最近ではこのように採用者向けのエントリーシートの「性別の記入欄」を削除する企業が増えています。
地方の中小企業であるにも関わらず、このような取り組みによって「ダイバーシティの先進企業」として全国各地から応募者が集まっているケースもあります。
企業における女性の活躍推進を目指すための取り組みのポイント
性別に関わらずすべての社員が活躍できる土壌をつくることが、より一層企業に求められているなか、ここでは女性活躍を推進するために企業ができる取り組みをお伝えします。
女性の活躍の手本となるロールモデルをつくる
LGBTQの方のみならず、多くの女性の方々は、働き方・活躍の仕方の手本となる「ロールモデル」が少ないことが原因で、働いている企業で自分自身が活躍する姿をイメージできず「活躍したい」と思うことが難しい場合があります。
これは、現代の日本企業では経営トップ層に年配の男性陣が多く在籍しているため、女性自身が活躍できるイメージを掴みにくいことも理由の一つといえるでしょう。
企業としては、まずは自社で活躍する女性のロールモデルを作ることが、女性の活躍推進における大きなポイントです。例えば「子供がいるのにこんなに活躍している」といったロールモデルを社内で確立することで、女性社員が働き方や出世のイメージを掴みやすくなり、活躍の道筋を作ることにつながります。
クォーター制度の導入
女性の働き方のロールモデルを作り上げることと同時に、社内で新しい制度を導入することも一つの方法です。
現状、経営トップ層に年配の男性陣が多く在籍しているのであれば、「クォーター制」と呼ばれる制度の導入も検討してみましょう。クォーター制とは、人種や性別などで社会的地位が不利になる人たちに対し、最初から「席(ポジション)」を用意する制度です。企業経営でいうと、数が決められているような管理職のポジションなどがこれに該当します。
意思決定を行うトップ層や管理職の層に、最初から女性社員のポジションを確保することで、女性が活躍できる場を作り出すことにつながります。特に、長年社員、男性を中心に活動してきた企業や組織においては、意思決定の層に女性を入れることで、企業経営や女性の活躍推進を加速させることにつながります。
プライベートに関わる話題に注意する
日本では何気ない発言や質問であったとしても、海外ではタブーとなるようなケースはいくつもあります。
例えば、外資系企業のなかには、採用面接の際に「今後、結婚するかどうか」はもちろん「年齢」や「性別」などに至るまで、プライベートに関する質問をしてはいけないというルールがあります。
日本企業では、職場での日々の何気ない会話の中で「結婚予定はあるのか?」「恋人はいるのか?」「出産予定は?」といった質問を、悪気なく尋ねている人は少なくありません。
もちろん外資系企業の例のように「今後一切、プライベートの話はするな」という企業文化を作り上げることは難しいでしょう。しかし、「その質問は、仕事を進める上では関係ないのでは?」と考える人もいる、ということを知っておく必要があります。
「仕事は仕事」「プライベートはプライベート」と、公私を明確に分けることを希望している社員に対する配慮を忘れてはいけません。
女性自らが企業や組織に対して問題提起して動くことが大切
女性の活躍を推進していくうえで、女性自らが企業や組織に対して問題提起を行い、解決に向けたアクションを起こすことは大切です。そういったアクションは、場合によっては周りから「女性というだけで優遇されている」といった誤解を生むこともあるかもしれません。しかし、それでも当事者である女性自身が率先してアクションを起こすことで、少しずつでも企業や組織の体制が変わる可能性があります。
たとえば、子育てが未経験の男性や子育てに関わる機会が少なかった人に、子育てをしながら仕事を続ける大変さを正確にイメージすることはなかなか難しい場合もあるでしょう。当事者以外の理解を得るのは決して簡単ではありませんが、女性一人ひとりが自分たちの今後の立ち位置や将来をより良くするためにも、日々アクションを起こすことが何よりも大切です。
企業が女性・LGBTQの活躍推進を目指すには
企業が女性・LGBTQの活躍推進を目指すには、どのような取り組みが求められるのでしょうか?
研修を活用して組織全体の意識を変える
まずは、企業や組織全体の認識を変えることが重要です。特に、組織上層部(管理職など)には、いまだに女性やLGBTQの活躍に対する理解が進んでいない方々もいます。若い世代の人たちにとっては抵抗がなくても、上の世代からの理解が得られないために女性・LGBTQの活躍推進が進まないこともあるでしょう。
組織全体の認識を変えるにはいくつかの方法がありますが、さまざまな企業において「研修」が取り入れられているケースが多くあります。例えば、管理職と若い世代に一緒に研修を受けてもらうことは、グループワークを通して性別やLGBTQに対する認識の違いや、何気ない発言がハラスメントにつながることを理解してもらうことに効果的です。
異なる世代や立場の人達が一緒に研修へ参加して勉強をすることで、組織全体における女性やLGBTQの活躍推進に対する認識を変えることにつながります。
多様な人材を受け入れる社風を作る
これからの社会において、企業が成長していくには多様な人材の採用が不可欠です。しかし、中には学生などの就職希望者が「LGBTQの活動をしています」「ダイバーシティに興味があります」といった話をすると、「面倒な応募者が来た」と感じる担当者も少なからず存在するようです。
本来、企業や組織は、多種多様な価値観や能力を持った人材を集めることで強みが生まれ、さらなる成長を目指すことができます。女性視点やLGBTQ当事者だからこそ見える視点は、企業や組織にとっての強みの一つになるでしょう。
そのような多様な価値観や視点を持った人材を受け入れられず、「面倒だ」として一掃してしまうことは、企業や組織にとっての大きな損失となります。自社の今後の成長や発展を目指すためにも、まずは組織上層部や採用担当者が、女性やLGBTQに関する認識を変え、多様な人材を受け入れる社風を作り上げることが必要です。
まとめ
女性やLGBTQ当事者の方々が活躍する社会を作るには、企業が主導して、性別に関わらずさまざまな方が意見を出し合える場をつくることが大切です。
最近では、LGBTQやダイバーシティに関するイベント、催しなどが全国各地で行われています。さまざまな企業や団体が積極的に協賛したり、参加したりするようになっているため、そういった社会全体の動きを社内で共有し、働きかけていくことも効果的といえるでしょう。
それぞれの立場の人達が声を上げられる土壌をつくり、さまざまな視点を取り入れていくことが、これからの企業には求められています。
参照
- ※1 三菱UFJリサーチ & コンサルティング「令和元年度 職場におけるダイバーシティ推進事業(厚生労働省委託事業)」
- 経営・組織づくり 更新日:2022/11/24
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