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ESGへの取り組みを採用活動に生かすポイントと注意点

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ESG経営を進める企業が増えるなか、人事担当者として、採用活動にESGが及ぼす影響について理解しておく必要があります。ESGへの取り組みには、再生可能エネルギーの利用や職場環境の改善など、さまざまあり、取り組みを行うこと自体が企業ブランディングにつながるものです。
また、採用活動時の企業イメージに直結するだけでなく、今後の離職率低下などにもつながります。多くの企業が実践するなかで後れを取ると、将来の採用活動において、大きなマイナス要因になる可能性もあるでしょう。
今回は、人事担当者が理解しておきたいESGのポイントとともに、ESGへの取り組みをアピールする際の注意点について解説します。

ESGが採用活動に直結する背景

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの企業課題の頭文字をとった造語です。それぞれに該当する課題解決を進めると同時に、長期的な利益を生み出し、持続可能な企業成長につなげるための取り組みを指します。
近年では、ESGに取り組む企業を評価し、ESGの視点から投資先を選定する「ESG投資」も拡大し、注目を集めています。ESGは、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)で掲げられた17目標の達成に向け、企業として社会問題の解決・実現を目指す動きともいえます。

ESGとSDGsは、考え方において本質的な違いはあるものの、環境問題や社会問題の解決といった目的は同じです。ESGやSDGsといった言葉は目新しいものと思われるかもしれませんが、新卒の就活生から見ると義務教育の一環として学んだ分野であり、すでに新しい常識として認識されつつあります。

ESG・SDGsネイティブへの対応

2002年8月に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議」において、日本政府が打ち出したのが「ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)」です。
その後2005年よりユネスコを主導機関として、「持続可能な社会」の実現に向けた次世代の担い手を育成するための教育が推進されています。ESDを実践する学校は年々増加し、2020年の「新学習指導要領」の改定によって、ESDはすべての小中学校・高校に対象を広げました。

2005年以降に学校教育を受けた年代の多くは、SDGsへの理解が進み、次世代の担い手としての考え方として学んでいます。結果として、自身の思考や行動指針の一つとして定着していると考えられます。
2005年度に小学校に入学した1998年生まれは、2022年時点で24歳。当時、中学生や高校生だった世代も含めると、32歳以下の若い生産年齢層に該当します。こうした「SDGsネイティブ」の世代は、ESGの考え方も理解でき、就職時にもSDGsを重視して企業を選ぶ傾向にあります。

実際に、マイナビが行った2022年卒 学生就職モニター調査(8月度)によると、就活の軸として最も重視したポイントとして、「社会貢献」が前年度を大きく上回る結果でした。
また、前年度と比較して、安定性を重視する傾向も見られます。これは、社会貢献の面に加えて、安定した利益を評価するというESG投資家の視点と同様といえるでしょう。
持続可能な企業の成長を考えるうえでも、若手の人材確保は欠かせないものです。これからの新卒に対する採用活動では、ESGへの取り組みが就職先として選ばれるための条件の一つとして大きな意味を持つと考えられます。

転職希望者も関心を抱く「SDGs」のキーワード

SDGsに関心を持つのは新卒の就活生だけではありません。近年、転職市場においてもSDGsのキーワードが注目を集めています。ある調査によると、社会人として働いた経験がある対象の多くが、SDGsへの理解があり、「SDGsの推進に力を入れている企業に転職したい」と回答しています。

その理由として、SDGsの推進を掲げる企業であれば、ジェンダー平等や労働環境の改善などが進み、働きやすいのではないかと考えていることなどが挙げられています。
さらに、グローバル人材の転職活動にも同様の傾向が見られます。海外と比べて、ジェンダー平等への対応が遅れている日本では、より働きやすい環境を求めてSDGsへの取り組みを掲げる企業への評価が高くなっていると考えられます。

こうした転職希望者の動向から、今後はESG評価の高い企業への人材流出が起きる可能性もあるでしょう。企業がESGに取り組んでいるかどうかは、将来的な人材確保だけでなく、定着率にも大きな影響を及ぼすかもしれません。

採用活動においてアピールポイントとなるESGの取り組みとは

冒頭でもお伝えしたとおり、ESGへの取り組みは企業ブランディングになる要素であり、採用活動におけるアピールポイントにもなります。では、実際にどのようなポイントをアピールすればよいのでしょうか。多くの項目があるなかで、就活生や転職希望者が注目しやすいポイントをいくつか紹介します。

ジェンダー平等、ダイバーシティ経営への取り組み

グローバル人材が、現在勤務している企業、または、直近まで勤務していた企業においてSDGsの17目標のうち、最も取り組まれていた目標について調査が行われています。結果、最も多かったのが「5.ジェンダー平等を実現しよう」でした。
日本のジェンダーギャップ指数は先進国の中でも低く、多くの企業で対応が遅れています。女性が活躍しやすい環境整備や多様な働き方ができる選択肢、産休・育休等制度の拡充などについて、SDGsやESGに絡めたキャッチコピーを考えてみましょう。

ただし、こうした項目のアピールはすでに行っている企業も多いかもしれません。差別化できる要素を検討し、自社ならではの実例を交えたメッセージを考えてみてはいかがでしょうか。
また、多様な人材を生かし、その能力を最大限発揮できる機会を提供する「ダイバーシティ経営」への取り組みもアピールポイントとなります。
次に紹介する「人材育成への取り組み」にもつながりますが、柔軟な人材活用の取り組み例や、透明性の高い人事評価制度などを他社との差別化ポイントとして取り上げるのも良いでしょう。

社員個々が成長できる環境づくり、人材育成への取り組み

SDGsの17目標の一つである「8.働きがいも経済成長も」では、すべての人が働きがいと十分な収入のある仕事につくことが掲げられています。SDGsネイティブの世代にとって、働きがいのある環境や、能力開発の機会が提供されていることは、価値ある条件として重視されるでしょう。

近年では、社会情勢の変化もあり、働く環境の多様化が進んでいます。テレワークを希望する人が増えたり、在宅勤務の求人に注目が集まったりと、中途採用市場においても大きな変化が見られます。
ただし、求人情報として「働きがいのある職場づくりに努めている」というアピールポイントでは、他社との差別化が図れず、ほかに埋もれてしまうかもしれません。内部研修はもちろん、企業間留学の機会を設けるなど、他社との差別化になる施策を導入・紹介するなど、今後活用できる実例を増やしてみてはいかがでしょうか。

企業の社会的役割を明確にする

ある調査で、企業のSDGsへの取り組みを重視する就活生にその理由を聞いたところ、「企業の社会的役割を重視したい」という回答がトップでした。求職者は、その企業が行っている事業が社会問題の解決に向けてどのような役割を持ち、企業がどのような形で実践しているのかを評価していると考えられます。
こうした就活生は、いずれ転職を検討する層です。現時点での中途採用活動に反映できなくても、これからの求職者がどのような意識を持っているかを理解しているかどうかで、5年後、10年後の成果に大きく影響することでしょう。人事担当者としてノウハウを蓄積するためにも、早いうちから取り組む必要があります。

具体的な例を挙げると、ヘルスケア事業であれば、SDGsの17目標のうち「3.すべての人に健康と福祉を」の実現を目指していることを明確に伝える必要があります。
ただし、自社事業との関連性を表面的にアピールするのではなく、企業全体のパーパス(存在意義)として、どれだけインパクトを与えられるかが重要です。企業として社会にどのような価値を提供できるのかを明示したうえで、企業が一丸となって取り組んでいる姿をアピールできるのが理想でしょう。そのためには、経営陣が意識的にESG経営に取り組み、企業内で方針が共有されている必要があります。

ESGへの取り組みをアピールする際の注意点

採用活動における他社との差別化として、ESGへの取り組みは大きな強みとなります。ただし、ESGをより深く理解する求職者は、表面的な情報を見抜いてしまいます。より効果的な採用活動ができるよう、以下の点に注意しましょう。

メイン事業との関連性が薄い社会貢献事業をアピールしていないか

SDGsネイティブの世代をはじめ、SDGsやESGに関心の高い求職者は、多くの求人情報から、企業の取り組みの本質的な部分を探っています。そこで注意したいのが、メイン事業との関連性が薄い取り組みをアピールしているケースです。
上述したように、求職者は企業の社会貢献度を評価している一方で、安定を求めています。そのため、事業そのものにどれだけの社会的な価値があるのかを考慮する傾向があります。

たとえば、社内の労働環境改善については、おおむねどの企業にも当てはまるESGの項目でしょう。しかし、メイン事業との関連性が薄い環境問題への取り組みの場合、利益を生まない社会貢献活動となるケースがほとんどで、企業成長につなげるESGの概念とは異なります。

つまり、社会問題の解決に取り組んでいるものの、その事業が利益を上げていなければ、「将来性や安定性が見込めない」と評価されてしまう可能性があるのです。そうした意味で、求職者はESG投資家と同じ視点を持っているといえます。
これからの求職者の多くが、こうした視点や判断基準を持っている可能性があることを理解したうえで、アピールポイントにズレがないか確認しておきましょう。

取り組みに対する社内での周知・共有は十分か

採用戦略として、どれだけESGへの取り組みをアピールできたとしても、実際の現場に浸透していないケースもあります。さまざまな施策を実施しているにもかかわらず、ESGへの理解が浅い社員にとっては、関連性を見出せないかもしれません。
そのような社員がいるチームや組織に、SDGsネイティブの世代が配置されると、現場の考え方や取り組みとミスマッチが起こる可能性があります。場合によっては、早期離職につながることでしょう。
求職者に向けて情報発信する前に、まずは社内での周知と情報共有を進め、とくに幹部層や役職者への理解を促しておく必要があります。

採用戦略と経営戦略が一致しているか

人事担当者が打ち出したいポイントと、経営戦略が一致しているかどうかも、事前に確認しておく必要があるでしょう。企業の経営戦略とは異なるイメージを発信してしまうと、採用においてミスマッチが生じてしまいます。
加えて、ESG経営を前提としたアピールポイントである以上、長期的な企業価値の向上を考慮した採用戦略を検討しなければいけません。目先の利益につながるだけの制度をアピールしていると、SDGsネイティブの世代に見透かされ、かえって企業イメージを下げてしまう可能性もあります。

採用活動にも持続可能性の視点が求められる

少子高齢化が進むなか、人手不足の解消と同時に、生産性を高めるための施策が求められています。ESGへの取り組みを掲げても、そもそも目先の人材確保が大きな課題となっている企業も多いのではないでしょうか。
実際のところ、長期的な視点で取り組むESG経営と、短期的な成果が求められる採用活動の状況は矛盾します。とはいえ、世界的にESGが新しい常識として広がっているなか、人事は目先の人材確保だけでなく、採用活動においても長期目線での「持続可能性」を意識する必要があるでしょう。
経営戦略を踏まえ、どこで折り合いをつけるのかを検討しながら、人事としてESGへの取り組みを広げてみてはいかがでしょうか。

  • Person 美濃佳奈子

    美濃佳奈子 一般社団法人国際SDGs推進協会認定SDGsスーパーバイザー

    フリーライター&編集者。サステナブル商材を取り扱うクライアントへの商品開発サポートやコンテンツ制作に携わる。その他、健康経営アドバイザー、薬事法管理者として適切なプロモーション手法を提案するほか、LYIU認定笑いヨガティーチャー、iACP認定もしバナマイスターとして企業や自治体におけるSDGs活動にも参画。一児の母。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/09/13
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