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グローバルで進む雇用・労働のトレンドとギグワーカー ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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先進国を中心とした労働市場では、歴史的な高成長にもかかわらず高失業率という事態となり、深刻な人手不足である企業が少なくない状態です。さらに業務形態はリモートワークへと大きなシフトを余儀なくされています。
今回は、新型コロナウイルス感染拡大の影響が続くなか、労働市場の最も重要なトレンドを紹介するとともに、新しいワークスタイルとなりつつある「ギグワーカー」や、それを取り巻く「ギグエコノミー」に関する動向をみていきます。経営者やHR担当者にとって、自社の状況と比較して認識を新たにする機会となれば幸いです。

世界における労働市場のトレンド

国際労働機関(ILO)は、2022年の報告書(WESOトレンドレポート)において、次のようなメッセージを発信しています。

  • 広範な労働市場の回復なくして、このパンデミックからの真の復興はあり得ない。そして、持続可能であるためには、この回復は、健康と安全、公平性、社会保護、社会対話を含むディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の原則に基づくものでなければならない。
  • この危機から2年、回復への見通しは依然として脆弱で、道筋は遅く、不確実である。
  • 貧困と不平等が拡大し、労働市場が長期的なダメージを受ける可能性があることがすでに明らかになっている。例えば、海外旅行や観光業の長期的な低迷に対応するために、多くの労働者が新しいタイプの仕事への転換を求めている。

このメッセージの背景には、次のような労働市場の変化があります。

労働市場の回復予測を下方修正

国際労働機関(ILO)は、デルタ株やオミクロン株といった新型コロナウイルスの最近の亜種が雇用の世界に与えている影響と、パンデミック後の将来に対する不確実性の大きさなどを反映し、2022年の労働市場の回復予測を下方修正しました。
具体的には、2019年第4四半期と比較して、世界全体でフルタイム雇用5,200万人に相当する労働時間の赤字を予測しています。この最新の予測は2021年の状況より改善されているものの、パンデミック前の世界の労働時間数をほぼ2%下回っていることに変わりはない状況です。

また、世界の失業率においても、少なくとも2023年までパンデミック前の水準を上回ると予想されています。具体的には、2019年の離職者1億8,600万人に対し、2022年の水準は2億700万人と上回る推定されています。2022年の世界の労働力率は2019年を1.2%ポイント下回って推移すると予測されているのです。

パンデミックの影響・回復パターンは国によって大きな差がある

WESOトレンドレポートは、パンデミックが労働者のグループや国によって与えている影響に大きな差があることを警告しています。こうした違いは、地域間および国家間の不平等を深め、開発状況に関わらず、ほとんどすべての国の経済や財政、社会基盤を弱体化させています。しかも、このダメージの修復には何年もかかると想定されており、労働力人口や世帯収入、ひいては社会的・政治的な人類の結束に長期的な影響を及ぼす可能性があるともいえるでしょう。

パンデミックの影響は世界のすべての地域の労働市場に及んでいますが、回復のパターンには大きなばらつきもみられるようです。欧州と北米の地域はポジティブな回復の兆しをみせていますが、東南アジアとラテンアメリカ・カリブ海地域は最もネガティブな見通しとなっています。国レベルでみてみると、労働市場の回復は高所得国で最も強く、低中所得国では最も悪い状況であることも明らかになっています。

米国における労働市場のトレンド

米国の労働市場は、歴史的な高成長にもかかわらず高失業率で、さらにリモートワークへの大きなシフトや、深刻な人手不足といった事態に直面しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響が続くなか、米国の雇用市場の最も重要なトレンドについて、全米独立企業連盟(The Conference Board)の分析報告書から紹介します。

リモートワークは今後も続く

ほとんどの雇用主は、リモートワークが労働者の生産性に悪影響を与えることはなく、おそらく生産性を向上させると考えているようです。その結果、「リモートワークへの移行が恒久的に続く」と予想する企業の割合が増加しています。

また、リモートワークに言及しているオフィスワークの求人広告の割合も、パンデミック以前から大幅に増えています。これは特にコンピューター関連や金融・保険関係の職種に顕著です。また、パンデミック以前にはほとんどリモートで行われていなかったオフィスサポートや事務職でも増加しています。

リモートワークへのシフトにより、雇用主は、国をまたいだ潜在的な従業員候補者にアプローチすることが可能になりました。雇用主はより安価な労働市場で労働者を雇用し、人件費を節約しています。
2018年、シリコンバレーのテック企業の求人広告のうち、企業立地の地域外に掲載されたものは30%未満でしたが、2021年では管理職や専門職を中心とした職種において30%を超えています。

日本ではギグワーカーがどのように広がっていくか

近年、日本でもフリーランスや副業・兼業をする人が増加傾向にありますが、単発の仕事は「日雇い労働」というイメージの強い日本では、世界と比べて普及率が低いのが実情です。
また、ギグエコノミーを形成するスタートアップ企業や外資系企業が日本に進出しているのは、規模の経済と市場シェア競争の観点から、インフラが整備され人口が集積している、地方都市を含めた都市圏です。

見方を変えれば、日本ではまだ普及するポテンシャルは高いとも言えますが、そのためには個人のキャリア観と法整備、企業側の請負社員のマネジメントがキーポイントになると考えられます。

個人のキャリア観を変化させる

まずは、個人が「企業に自分自身のキャリアを任せる」というマインドから脱却し、自分自身でどのような働き方をしたいのかを考えることが必要になります。自ら情報収集をしながら、働き方の選択肢の中から自ら選択する、というマインドセットに変化し、努力することが必要です。
技術などの発展により、キャリアの選択肢が多様になってきいていることを理解して行動する労働者が増えれば、ギグエコノミーの供給力となります。

法整備などでセーフティネットを構築する

ギグワーカーやフリーランスなど請負形態の労働者には、労働基準法など一般の労働者を守る法律が適用されず、法定労働時間や時間外労働の割増賃金、年次有給休暇、労働保険の保障などを受けられずにいるのが現状です。
しかし、ギグワーカーやフリーランスなどにも、これら労働関連法を適用すべきという意見が強まっていることから、法整備が進むことが予想されます。これまで個人事業主には最低報酬額というものがありませんでしたが、2020年の4月から「同一労働同一賃金」制度が始まっている流れで、最低報酬額の設置も検討され始めています。
疑似雇用や偽装請負の問題など、働き手を保護する施策はまだ十分ではないものの、これら問題を解決してセーフティネットを築いていくことで、一つの場所や仕事にとらわれずに、自分の選択した仕事をする働き方は今まで以上に広がりを見せるかもしれません。

発注側(企業)のマネジメント力向上が課題

日本の大手企業は主に法人取引が中心で、個人との取引はデザイナーやソフトウェア開発など専門業務に限られている傾向があります。例えば、専門性の高い人材に仕事を依頼したい場合でも、マッチング面や契約で課題があり、人材の獲得面における阻害要因となっています。

なお、受託側であるフリーランスやギグワーカーからすると、仕事の受注は「前の勤務先の紹介」や「職業訓練先からの紹介」などが多いのが現状です。雇用以外の人材調達方法があまり認知されていない点は課題です。
また、品質の見極めがし難く、違約や損賠賠償が生じたときに個人には高額発注がし難い、マネジメントの仕方が分からない等、企業側がギグワーカーと契約を躊躇する理由がいくつかあります。
こういった企業側の課題を解決するためには、ギグエコノミーのプラットフォームを運用している仲介業者が、人材調達、契約の在り方、ルールの在り方、情報の透明性、サポート体制などを構築することで、フェアな労働市場の整備ができていくでしょう。

人生100年時代となり、日本は高齢化社会のトップランナーです。就業規則に合わせた固定的な働き方よりも、健康状態に合わせて、働く場所や時間などを自分で選択できるフリーランスやギグワーカーが活躍する余地は大きいはずです。
先行している欧米のプラットフォーマーも日本市場に入ってきているので、上記のような課題を解決していくと、ギグワーカーの選択肢が都会だけでなく地方でもが増えていく可能性は十分にあるでしょう。

雇用の回復が見込まれる産業と、回復に時間がかかる産業

雇用の回復と呼ぶにはまだ程遠い状況ですが、2021年の6月から7月にかけて、サービス業が再開したことにより、雇用の伸びが急増しています。
レジャー・サービス業、鉱業、パーソナルケア、教育(公立・私立とも)などの産業はいまだ制約を受けていますが、他のほとんどの業種は、ほぼパンデミック前の成長率の推移に戻りつつあります。他のほとんどの先進国と比べて、米国ではパンデミックからの経済回復がはるかに速かったことを示しています。

一方で、いくつかの産業は、2023年までにパンデミック以前の雇用水準に回復する可能性は低いとされています。これには、非住宅建設、小売業の一部、業務・作業関連輸送、商業銀行、業務・施設支援サービス、看護・介護が含まれます。また、他国での急速な感染拡大から、国際観光業の回復には非常に時間がかかることが予想されます。

人材不足への対応

高い失業率にもかかわらず、深刻な労働力不足が続いています。パンデミックの拡大により労働市場がひっ迫しただけでなく、「需要の急増」と「労働供給の停滞」が重なったのです。実際に2021年の4月から7月にかけて歴史的な採用難が発生し、空きポジションをかかえる雇用主の割合は過去最高となりました。
同時に、自発的に仕事を辞める労働者の割合や、ポジションが空いている期間も上昇していました。このような採用・定着の難しさは、低賃金職、特にブルーカラーやマニュアル・サービス職で顕著です。

オンライン求人広告のデータによると、深刻な労働力不足を受けて、雇用主は求人広告の条件を下げ、サインオン・ボーナスや高い初任給、入社後のオンボーディングの充実やOJTをより多く提供するようになってきています。
また、今後学校が通常の対面式に戻れば、より多くの女性が労働力に復帰することになり、結果的に労働力不足が多少緩和されるかもしれないとの見方もあります。

ドーナツ効果(地域格差)

パンデミックの影響を受けて、オフィスへ出勤する人や都心でお金を使う人が減り、安価な住宅を求めて移動する人が増えています。米国の大都市内では、世帯、企業、不動産の需要が、密集した中心部のビジネス街から、低密度の郊外へと移動しています。

ギグエコノミーの動向

紹介してきたような労働・雇用環境の大幅な変化を背景に、Uber、Lyft、Postmates、DoorDash、Amazon Mechanical Turk、Fiverr、TaskRabbit、Upwork、Freelancerなどのプラットフォーマーが成長しています。彼らが開発したアプリを通じて短期的な仕事やタスクをする働き手は「ギグワーカー」と呼ばれ、ギグワーカーを中心とした「ギグエコノミー」は日に日に拡大しています。
以下のグローバル統計は、ギグエコノミーの規模がいかに大きいかを示しています。

  • 世界のギグエコノミーに関して、米国は44%も貢献している。
  • 米国のギグエコノミーは、2023年までに4,552億ドルの総量に到達する。
  • 米国における男性フリーランサーの57%は、学士号を持っている。
  • フィリピンのフリーランスワーク市場の62%は、女性労働者で構成されている。(成長率も世界第6位)
  • ギグエコノミーの大手企業であるPeoplePerHourの調査では、新型コロナウイルス感染症が拡大しはじめて以降、新規ギグワーカーが前年比で日本(513%)、スペイン(329%)、英国(300%)に増加していると報告されている。

グローバル統計にもある通り、ギグエコノミーの市場の大半を占め、先導している米国の事情を紐解いていきましょう。

米国で急拡大するギグエコノミー

米国におけるギグエコノミーの統計では、お金を稼ぐ手段としてギグエコノミーを利用する米国人は、すでに少なくとも5,730万人いるといわれています。2023年までには米国の労働人口の半分以上(52%)がギグエコノミーを選択するか、キャリアのある時点で独立して働くと予測されています。

2027年には労働人口の50%に相当する8,650万人がフリーランサーになるという試算もあります。これは、より多くの企業や職場が正社員の代わりにフリーランサーに頼るようになり、経済のサブセクターになるほどの成長トレンドとみることができるでしょう。

ギグエコノミーが拡大する背景

米国においてこのギグエコノミーは、特にミレニアル世代が副収入を得るための手法として認知されています。ミレニアル世代は大学卒業とともにキャンパスを離れ、実社会に出ていきますが、米国においては賃金が低迷しているため、自分が修得した大学の専攻や学位では十分な収入を得ることができません。
起業に興味を持つミレニアル世代は、スマートフォンなどを使いこなすようになり、それがギグエコノミーで稼ぐ力を増大させているようです。今では、これまで以上にギグエコノミーの仕事にはチャンスがあると多くのミレニアル世代が感じるようになっています。

ギグワーカーは多くの人にとって「副次的」な手段

一方で、ギグワーカーの過半数(55%)が、フルタイムまたは通常の仕事も続けているという調査もあります。この調査結果は、ギグワーカーはギグジョブで得た収入だけでは生活できないこと、つまり、彼らは依然として「従来」の労働時間もこなさなければならないことを示しています。また、雇用主にとっては、資格のある応募者が増えることを意味しています。
特に、サービス業に従事する人の多くは、本業と一時的な雇用を兼業しています。最近人気の副業である「Uber」や「Task Rabbit」のような、自分で時間を決められる仕事を本業の時間外に行います。

また、回答者の19%がギグワーカーとして働く主な理由として、「臨時収入や日々の出費をカバーするため」だと答えています。収入が少ない時期や、臨時的な経済的支援が必要なときに、手持ちの現金を増やしておきたいと考えているようです。

これらの統計や調査を通じていえることは、ギグエコノミー拡大の要因には、ギグエコノミーの魅力である柔軟性や、労働者が常に追加収入を増やすための方法を探しているということです。
柔軟なスケジュールで在宅勤務ができることで、多くの労働者が副業アプリで副収入を得る機会を得ているのです。2つの仕事をこなすのは簡単ではありませんが、ギグワークなら自分の好きなときに働くことができます。時間管理もしやすく、プラットフォームやアプリを活用し、特定の仕事に必要なスキルセットを持っていれば、副収入を得る方法を簡単にみつけることができるという魅力が、この潮流を生み出しているのです。

また、このパンデミックによって解雇された従業員や、無給休暇を余儀なくされた人々は、オンデマンドの仕事やギグワークによって収入を得る方法を探しています。このような状況がギグエコノミーの拡大に拍車をかけているのです。

ギグエコノミーへの懸念と対応策

ギグエコノミーに参加する労働者の大半は、それが可能にする柔軟性、独立性、仕事の多様性を享受しています。一方で、この拡大傾向にストップをかける声も上がっており、職場の福利厚生の低下、税金への影響、ギグワーカーの孤立など、長期的な影響への懸念があるのも事実です。

実際に、欧州でもEUの欧州委員会が、ギグワーカーの労働環境を改善することを目的とした法案を公開しており、「デジタル労働プラットフォームで創出される雇用機会がますます増えるなか、まっとうな労働条件を確実にすることが必要だ」という趣旨のメッセージを出しています。他にも、世界各国でギグワーカーを保護する政策が検討されています。

【まとめ】テクノロジーの変化に人事部門はどう対応すべきか

日本においては、テレワークやリモートワークも世界と比べて普及率が低く、「ギグワーク=日雇い労働」のイメージがまだ強いようです。ギグエコノミーの主軸であるフリーランスと比べて、正社員の方が立場的にも高い傾向がいまだに残っているなど、労働法を含めてまだ社会に定着しているとはいい難い状況があります。

日本に上陸しているギグエコノミーのプラットフォームもまだ多くはありませんが、この働き方への注目度が高まれば、日本へ進出するプラットフォームも増えていくでしょう。各個人がどう働きたいのか、個々人のキャリアについてしっかり考えることで、今後日本でもギグエコノミーがさらに拡大する可能性が十分にあるといえます。

日本がかかえる労働人口減少といった問題を踏まえて今後の経営を考えると、新たな働き方の実践が重要になるはずであり、採用戦略の重要性がより高まっていくことは必然です。
このパンデミック下でヤフーがギグワーカーを募集して話題になったように、兼業や副業が一般的になると、労働マーケットにおける労働供給量が単純計算で2倍になると考えることができます。もちろん、その母数を増やすためには、兼業・副業が認められることが前提になりますが、優秀なのにも関わらず仕事が面白くなくて燃焼しきれていない人材を、ギグワーカーとして獲得できるチャンスが生まれつつあるのかもしれません。

労働力の「量の側面」と、マッチングにおける「質の側面」の両方を担保し、日本の労働市場が健全に機能していくためには、国のバックアップも必要です。
雇用に関しては、経営者や人事担当者それぞれが、他人事ではなく、自分事として関わっていって欲しいと切に願います。

  • Person 鈴木 秀匡
    鈴木 秀匡

    鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/09/08
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