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人事担当者が関わるESGの「S(社会)」とは?ポイントを押さえた取り組みで持続可能な組織づくりを

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近年、企業にはESGを考慮した経営が求められています。しかし、ESGに関連する課題は幅広く、どのような取り組みから始めればよいのか迷うこともあるでしょう。さまざまな課題があるなかで、多くの企業が取り入れやすいのが従業員の働き方に影響する「S(社会)」の項目です。
今回は、人事担当者が考えたいESGの取り組みとそのポイントについて解説します。

人事がESGを考慮するために理解しておきたい背景

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの頭文字をとった造語であり、それぞれに該当する社会課題の解決に努めながら、同時に企業の長期的な成長を目指す取り組みを指します。ESGに取り組む企業を評価する「ESG投資」が近年拡大しており、グローバル市場ではもはやスタンダードな手法となりつつあります。

例えば、「E(環境)」の課題には、温室効果ガスによる気候変動問題などが挙げられます。こうした課題を解決するための取り組みを考える際、製造業分野などでは事業内容に関連付けて取り組みやすいでしょう。一方、その他の分野では「エアコンの温度設定を変える」といった比較的小規模な対策になりがちなのが現状です。
一方、どのような業態の企業であっても、取り組むことで大きな効果を生みやすいのが「S(社会)」の項目です。
とはいえ、「S(社会)」に該当する課題にはどのようなものがあるのか、よくわからないという人も多いのではないでしょうか。まずは、ESGのうち、「S(社会)」に関する課題について理解を深めましょう。

ESGのS(社会)とは

ESGにおけるS(社会)は、一般的に、社会全体で解決しなければならないとされる課題を指します。国連が提唱した「PRI(責任投資原則)」によると、労働条件(強制労働、児童労働などを含む)や、健康および安全、従業員関係および多様性、地域コミュニティに関連する課題が挙げられています。
強制労働や児童労働のような人権問題は、国内では起こりにくいものの、海外にサプライチェーンを持つ企業にとっては注意すべき問題です。2020年には、世界的な大企業のサプライチェーンで深刻な強制労働が発生している可能性があったことが、大きな問題となっています。これにより国内外での不買運動に発展しているケースもあります。

多くの企業にとって身近なところでは、過重労働やジェンダー不平等、セクハラ、パワハラ、コンプライアンス違反などの問題が挙げられます。働き方改革が進むなか、非正規労働者への待遇格差やワークライフバランスの欠如、ダイバーシティの欠如など、多くの課題が山積しています。
また、日本は国際的にみても、ジェンダー平等への取り組みが遅れているとされている点も考慮すべきでしょう。こうした「働き方」に関わる課題の多くが、S(社会)に該当します。

人材採用に関わるESG

近年、ライフスタイルが多様化し、働きやすい環境を求める求職者が増えています。また、昨今の新卒就活生には「人のためになる仕事をしたい」、「安定している会社に就職したい」といったニーズも見られます。表現を変えると「社会貢献したい」、「長期的な利益が見込める企業に就職したい」といった希望があると考えられ、実際に、2020年8月に就職活動中の学生を対象として行われたある調査によると、就職先企業を選んだ理由として「社会貢献度」が1位となっています。
こうした考え方は、まさにESGを重視する経営観に合致するものです。とくに、Z世代(1990年半ばから2010年代に誕生した若い世代)は、学校教育を通じてSDGsに関する情報を得ており、「SDGsネイティブ」とも呼ばれています。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、国や企業などが持続可能な世界を実現するための目標であり、ESGはSDGsをふまえて企業として取り組むべき社会的課題ともいえます。SDGsへの関心・理解がある若年層にとっては、働き方の多様化はもちろん、企業の姿勢も大きな判断材料となります。
これから就活を予定している学生のうち7割弱が、「企業がSDGsに取り組んでいることを知ると、志望度が上がる」と回答したという調査結果もあり、具体的には「ESG投資が増えているので、SDGsに取り組む企業のほうが成長力が高そう」、「SDGsの達成に向けて取り組むことは、企業として当たり前だと思う」といった回答者の声も見られました。

このように、次世代の人材採用においては、「ESGへの取り組みは当たり前」と受け止められるかもしれません。逆に言えば、今後、ESGに取り組んでいない企業は、採用活動における大きなマイナス要因となる可能性が高いでしょう。
こうした学生達も、いずれは転職を考える機会もあるでしょう。その時には、さらに少子高齢化が進んで、今以上に企業は人材不足に悩まされているかもしれません。持続可能な企業の成長を考えるうえでも、早い段階からESGへの理解を深め、求職者から「選ばれる企業」になるための土台を作る必要があるのではないでしょうか。

人事分野で取り組みたいESGのポイント

企業広報戦略研究所が行った「2020年度ESG/SDGsに関する意識調査」において、対象となる約1万人の生活者が「魅力を感じるESGの項目」のうち、最も魅力度が高いとされているのが、S(社会)に該当する「働きやすい職場環境づくり」(45.8%)でした。年代別に見てみると、労働力の中心となる20代~40代のいずれも、「働きやすい環境づくり」を最も魅力あるESG項目としています。
上記のような背景もあり、企業がESGに取り組む項目として「働きやすい環境づくり」は1つの指標となります。では、実際にどのような点に着目して、取り組みを検討すればよいのでしょうか。ポイントとなるのは「多様性」、「労働安全衛生」、「人材育成」、「雇用の確保」の4つです。

1.多様性を受け入れるダイバーシティの推進

ダイバーシティ(Diversity)は、日本語に直訳すると「多様性」を意味する単語で、性別や年齢、学歴、職歴、ワークスタイル、障がいの有無などを問わず、個々への理解を深め、広く働きやすい環境を整える取り組みを指します。
具体的には、女性の管理職登用や、育児中の男女や外国人、高齢者、障がい者の雇用、テレワークやフレックス制の拡充、休暇制度の整備などがあります。また、セクシュアルハラスメントへの対応も、ジェンダー問題として考慮すべき課題です。

ダイバーシティ推進を実施するうえでは、明確な目標を設定する必要があります。例えば、女性の管理職登用においては、「いつまでに、どのくらいの割合まで増やすのか」を決めておく必要があるでしょう。同様に、高齢者や障がい者の雇用を、全体の何パーセントまで高めるのかなど、具体的なKPIを設定することが大切です。
加えて、人事評価制度を見直し、組織として、マイノリティの意見をどの程度、反映できるのかを検討しておくとよいでしょう。相談窓口を設置するといった細やかな対応を行うのも一案です。さらに、ダイバーシティ推進に関わる施策は必ずステークホルダーに周知し、内外に取り組みの姿勢を示すことも重要です。
社員にとって働きやすい環境となるだけでなく、ダイバーシティを推進している企業は、前年比で市場シェアが拡大する可能性が45%高くなるという報告もあります。

2.労働者の安全衛生を確保する

国際労働組合ネットワークのワーカーズキャピタル委員会(CWC)は、2017年にESG投資におけるS(社会)の指標の1つとして「労働者の人権と労働基準の評価ガイドライン」を発表しています。評価対象となる10項目の1つとして挙げられているのが、Occupational Health and Safety(労働安全衛生)です。

ガイドラインには、安全に関する研修の実施や、職場のメンタルヘルス対策の方針や実践に関する表明、安全衛生委員会に参加している従業員の割合、労働災害の発生率などが指標として挙げられています。
多くの企業において、すでに健康診断の実施や、設備投資、教育訓練などの取り組みが行われていることでしょう。そうした労働安全衛生法の遵守はもちろん、社員のさらなるヘルスリテラシー向上を目指した健康経営へのシフトが求められます。
また、今後、ESG投資における投資家の指標として、国際基準となるISO45001(労働安全衛生マネジメントシステムに関する規格)の取得が、1つの判断基準となる可能性が考えられます。長期的な視点で考えて、ISO45001の取得を目指すのもよいでしょう。

3.雇用形態を問わない人材育成

持続可能な企業体制を構築するためには、中長期目線での人材育成が求められます。正規雇用、非正規雇用などの雇用形態を問わず、適切な育成カリキュラムの整備が必要です。
一般的に、現場での実践を通して業務知識を身につけるOJT(On-the-Job Training)が、人材育成のベースとなります。研修やマニュアルだけではわかりにくい点も、先輩や上司のサポートを得て、スキルを身につけられる手法であり、適切なフィードバックによって社内コミュニケーションも向上するといったメリットもあります。

一方で、OJTは体系的に学びにくく、教える側に負担がかかるといったデメリットもあります。そのため、持続可能性という点において、OJTだけに頼るのは難しい面もあるでしょう。海外投資家のなかには、研修や社外教育などのOff-JT(Off-The-Job Training)研修への投資総額・総時間に注目するケースもあるようです。
近年では、人材育成の一環として他社留学を実施する企業もあります。企業間で留学を行うことで、経験の場を共有し、互いに高めあう施策です。人材育成と同時に、社員のモチベーションアップや新たな知識の獲得につながります。

4.非正規雇用を含む雇用の確保

先にも紹介したワーカーズキャピタル委員会の「労働者の人権と労働基準の評価ガイドライン」には、従業員の構成に関する項目があります。
指標として、正社員、契約社員、派遣社員などのフルタイム勤務とパート勤務の人数やその構成比、それぞれの離職率などが挙げられています。海外投資家のなかには、こうした社員の構成比や、雇用形態ごとの待遇格差を評価基準とするケースもあるようです。

雇用の維持に努めるだけでなく、どのような雇用形態であっても最適な労働環境を整える必要があるでしょう。上述した「ダイバーシティの推進」を同時に実施することで、働く環境の整備とともに、雇用の確保と定着率向上にもつながります。
また、雇用の拡大として、今後、ESG課題に取り組む担当者を募るのもよいでしょう。専門的なESG対策チームを作り、持続可能な人事分野の取り組みを推進するのも一案です。

ESGにおいて人事担当者の役割は大きい

以前より、CSR(corporate social responsibility/企業の社会的責任)を重視する企業は多かったものの、実際のところ、「社会問題への取り組みは利益を生まないもの」、「プラスαの事業として実施するもの」といったイメージが強かったのではないでしょうか。
しかし、ESGは、企業の利益拡大と社会貢献を両立することを前提としています。今後は、どれだけ社会貢献をしていても利益を生み出さない事業は、投資家にとってリターンの少ない投資先として評価されてしまうでしょう。ESGに対応しない企業は、今後、生き残っていくのが難しいかもしれません。

ESGにおいて人事分野で注目されるポイントは少なくありません。さまざまな施策により、人事の働きが企業価値の向上に直結します。ESGを踏まえた新たな人事の取り組みで、持続可能な組織づくりに貢献してはいかがでしょうか。

  • Person 美濃佳奈子

    美濃佳奈子 一般社団法人国際SDGs推進協会認定SDGsスーパーバイザー

    フリーライター&編集者。サステナブル商材を取り扱うクライアントへの商品開発サポートやコンテンツ制作に携わる。その他、健康経営アドバイザー、薬事法管理者として適切なプロモーション手法を提案するほか、LYIU認定笑いヨガティーチャー、iACP認定もしバナマイスターとして企業や自治体におけるSDGs活動にも参画。一児の母。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/08/25
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