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ギグエコノミーの拡大と女性のキャリア ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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2020年以降、世界中の人々の生活、仕事、経済が転換期を迎え、日本企業においても経営マネジメントの在り方が問われています。特に、日本においては人手不足が加速し、終身雇用制度から脱却していく流れがより強く意識されるようになりました。
また、企業に所属せずに”一定期間で案件単位”の契約で働くフリーランスが普及し、インターネットを活用した仕事受注が可能になりました。
さらに、“単発・短期”で、働く時間や場所に縛られずに働くことができる請負型の仕事であるギグワーカーが注目を集めています。

このような働き方が生む経済は「ギグエコノミー」と呼ばれ、実際に、在宅ワーク、リモートワーク、クラウド、スキルシェア、複業・兼業、パラレルワークなど様々な働き方の選択肢が出てきています。
一方で、2016年4月に施行された『女性の職業生活における活躍の推進に関する法律』(女性活躍推進法)や、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が2021年3月に公表した『ジェンダー・ギャップ指数2021』で示されたように、女性の就業環境にはいまだ課題があると言わざるを得ない状況です。

世界的潮流であるギグエコノミーの拡大は、これまで以上に自由で柔軟な働き方を推し進めているようにも見えますが、実際に、女性の就業環境の改善に良い影響を与えているのでしょうか。
今回は、ギグエコノミーの拡大による女性のキャリアへの影響を、ギグエコノミーが発達している米国を中心とした世界の潮流と合わせて読み解いていきます。経営者やHR担当者にとって、より厳しくなる人材獲得と定着に向けて、自社の状況と比較して認識を新たにする機会となれば幸いです。

日本と諸外国における女性の労働参加率

女性の労働参加率はどのように変化しているのでしょうか。欧米主要国における15~64歳の女性の労働参加率の推移をみると、以下の特徴があります。

  • スウェーデン:一貫して高い水準で推移している(40歳代では90%前後)
  • 英国:1980年以降徐々に上昇し、2010年頃には米国を超え、その後上回って推移(80%前後)
  • ドイツ:1980年以降徐々に上昇し、最近では英国と同程度(80%前後)
  • 米国:1980年以降徐々に上昇してきたものの、2000年以降は停滞が続いている(70%を超えない)

日本は1980年以降、緩やかな上昇が続いてきましたが、2013年頃から上昇の勢いを増しています。その水準はスウェーデンと比較すると依然として差がみられるものの80%前後の水準となっています。
また、日本においては、女性が出産や育児によって職を離れ、30代を中心に働く人が減る「M字カーブ」が、様々なメディアや国際比較などで長らく問題視されてきましたが、近年はM字カーブが改善されつつあり、M字の底(30~34歳)でも75%程度にまで上がっています。

日本のM字カーブが改善されつつある背景には、社会の変化はもちろん、女性自身のワークスタイルやライフスタイルなどにおける価値観の変化があります。また、国の支援策の推進や企業の地道な取り組みなども関係しているでしょう。
その結果、30~40歳代の部分が顕著に落ち込む「M字カーブ」がここ数十年で改善されつつあります。また、米国や欧州各国のように「台形」に近づいてきており、労働参加率としてはOECD諸国と比して遜色ないレベルまで上がってきているのです。

なお、欧米諸国の一部には日本と同様のM字カーブの現象が見られましたが、そちらも解消傾向にあります。また、ドイツやスウェーデン、米国においてはM字カーブとして現れる一定の年齢層での労働参加率低下は見られず、「逆U字型」と呼ばれる曲線を示しています。
この要因としては、女性の働き方に対しての柔軟性が高いことや、地域の子育て支援が徹底していることなどが考えられます。

大黒柱思考のヨーロッパ諸国や、家族主義の強い南欧(スペイン、イタリア、ギリシャ、ポルトガル)でも、女性の就業率は近年上昇しています。女性の労働参加率は世界でも日本においても向上してきており、年々男女差は縮まってきているといってよいでしょう。

ギグエコノミーを担う女性の現状

この10年でギグエコノミーが飛躍的に発展していますが、そもそも女性は長い間、ギグエコノミーの中心にいました。米国公共ラジオ「NPR」によれば、2019年時点で、買い物代行サービスInstacartの働き手の50%以上が女性です。
また、食品他配達サービスのDoorDashでは、農村部や郊外では50%以上、都市部では60%以上のドライバーが女性です。ギグエコノミーによるフレキシブルな働き方が、女性の労働参加率を向上させていると考えられます。
一方で、その女性たちは、働きに応じた対価を男性ほど得てはいない点も指摘されています。最近の研究によると、性差の区別がないオンラインの職場でも、女性と男性の間には賃金格差が根強く残っていることがわかっています。

この研究では柔軟に均質な仕事を提供する匿名の市場、オンラインのマイクロタスク(※)・プラットフォームであるCloudResearch上における男女間の賃金格差を調査しており、約500万のマイクロタスクを選んで働いた2万2271人の働き手の中で、女性の時給は男性より10.5%低いことが明らかになっています。
また、女性自身が「男性よりも少ない賃金が支払われるだろう」と考えていることが、女性が低賃金のギグを選ぶことにつながっていることも関係しているという研究結果もあります。

ギグエコノミーの雇用モデルにおける変化

現在、女性が雇用主に最も求めているのは「柔軟に働ける環境」でしょう。多くのギグワーカーにとって、プラットフォームが提供する柔軟性の高さは一番の魅力です。
しかしその一方で、社会保険や労働保険、福利厚生などの安全・安心面における欠陥に加え、単発・短期で請負を実施する環境では「待ち」の姿勢となり、キャリアアップのチャンスはほとんどありません。

ただし、ギグワーカーが「短期の請負」としてではなく、プラットフォームの従業員として「直接雇用契約」を締結した場合、このギグワーカーを受け入れるほとんどのベンダーパートナーは、社内でフルタイムの機会を提供し、適切な人材には積極的に福利厚生や社会保険や労働保険なども提供するなど、安心や安全を確保する動きも出ています。

このように、従来のUber、Airbnb、TaskRabbitなどのようなギグエコノミーのプラットフォームを提供する企業にはないキャリアアップの道を組み込むことにより、女性がギグワークの柔軟性を享受しながら、より高給でやりがいのある職務に就く機会を得ることができる企業モデルも出てきているのです。 今後、どのような雇用形態が主流になっていくのか、注視していく必要がありそうです。

女性のキャリアにおける壁

①育児と介護に対するステレオタイプな役割分担

米国においても、母親が育児に費やす時間(週平均15時間)は、父親の育児時間(週平均7時間)の2倍以上です。また、育児だけでなく、親の介護などの何時間も付き添いを要する家族の世話も女性の担当という、ステレオタイプの役割分担が定着しています。
「いつ(あるいは何時間)仕事をすることになるのか」がわからなければ、育児や介護を頼む手はずを整えるのは難しいものです。また、突然仕事を頼まれたときに、代わりに家族の世話をできる程にパートナーが柔軟な働き方をしているケースも、ほとんどないのが現実です。

こうした現実が、女性のキャリアの過程で大きな壁となっているのは日本だけではありません。そして、この困難に直面しているのは、増加の一途をたどっているギグワーカーだけでなく、フリーランスやコンサルタントも同じなのです。
上記のように、女性のギグワーカーたちはいつでも仕事を受けられるように「オン」の状態でいることが期待されており、請け負った単発の仕事をこなしながら、将来の収入をいかに稼ぐかについて算段を立てなければならない状況にあります。

このように、予測不可能なスケジュールが原因で、必要なときに育児や介護におけるサポートを利用することができず、それがリーダーシップ・ポジションへの昇進の障害となっているのです。
ギグエコノミーの拡大は、一見すると、リーダー志願者たちが家族の世話に従事しながら、キャリアを維持するのに必要な柔軟性を約束しているように見えます。
しかしながら、ギグからギグへと単発・短期の仕事を次々に請け負うことは、女性のフリーランスやギグワーカーが昇進をめざす過程で、公平性を獲得する助けにはなっていないのです。

②ギグエコノミーで働くことの課題

金融サービス企業であるHyperwalletは、米国の女性ギグワーカー2,000人を対象に、彼女たちの行動を把握するための調査を行い、今日のギグエコノミーで働く女性としての課題を明らかにしました。
ギグエコノミーで働くことの課題としては、以下が挙げられました。

  • 収入の不安定さ92%
  • 福利厚生の欠如88%
  • 組織・キャリアパスの欠如46%
  • 同僚との交流が少ない31%
  • 決まったスケジュールがない20%
  • 家族/出産/育児休暇の欠如16%
  • チャイルドケアの不足8%

働く女性がぶつかる壁の背景には、ジェンダーギャップが開いたままの社会構造や慣習、男性中心の雇用環境や企業風土、男性を基準とした働き方、ステレオタイプに引きずられた価値観があります。その点は、程度の差はあれども欧米も日本も変わりません。
ギグエコノミ―が就業の選択肢を広げていることは事実ですが、従来の雇用のあり方や働き方と同じ課題が残ったままでは、ギグエコノミーは女性のキャリアにおける打開策には成り得ない、というのが現実でしょう。

ギグエコノミーの拡大が女性のキャリアに与えた影響

ギグエコノミーの台頭により、これまで男性が中心であった仕事に、女性が就くことができるようになりました。また、経済的な自由を得るために、副業・兼業に取り組む人もいます。女性のギグワーカーはこのように、労働力の中で重要な位置づけとなっており、今後ますます増加する可能性を秘めています。
ギグエコノミーの拡大で、これまで以上に自由な働き方ができているようにも見えますが、それが必ずしも、女性のキャリアにプラスの影響をもたらしているとは言えない現実もあります。

ギグワーカーやフリーランスだからこそ柔軟な対応を要求されますが、女性は育児や介護などを一手に任されることが多く、このステレオタイプの役割分担は世界中に根強く残っています。そのため、女性がキャリアアップの願望や周囲の期待に応えられない現状があるのです。
企業の視点からみれば、将来の経営陣候補として、経営陣や部門長のパートナーとなることができる知的人材は喉から手が出るほど欲しいはずですし、それは正規社員であってもギグワーカーであっても人材調達の観点では関係ないはずです。

男女問わず従業員が生活上と仕事上の要求をさばきながら、どうすればキャリアアップを図る余裕を生む環境を整備できるのか、またそもそものバイアスとして生活上の要求を一方的に女性に押し付けていないか、といった問題について社会の風潮や政治任せにするのではなく、経営者も人事部門も自問し共に解決すべき段階に来ています。
また、個人においても男女関係なくキャリアは自分の人生の物語の一部です。世界中でLGBTQ+やSDGsなど、社会一般のあり方の概念も変わりつつあるだけでなく、ギグエコノミーなどの働き方の選択肢も増えていっている中、個人のキャリアを紡ぐ機会は拡大しているといっても良いでしょう。

今回は女性を切り口にしましたが、前述の様に企業や社会が多様な人材が働きやすい環境を整備していくことと同時に、自分自身の手で様々な選択肢の中で自分自身のキャリアストーリーを描いていく個人の努力も益々必要になってきている時代でもあります。
技術だけでなく価値観の変化のスピードも速く、価値観のロールモデルがない非常に難易度の高い時代を生きています。このことを自覚し、社会、企業、個人が共に考えながら一つ一つ課題解決を図っていきましょう。

  • Person 鈴木 秀匡
    鈴木 秀匡

    鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/08/24
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