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People Operations 従業員体験に焦点を当てた新しい人事戦略

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『People Operations: Automate HR, Design a Great Employee Experience, and Unleash Your Workforce』は、特に従業員数500人以下の中規模、小規模のビジネスを対象に、これからのHR業務や人事戦略をどのように変化させていくべきか解説し、変えるための方法を紹介する書籍です。
著者のジェイ・ファルチャー氏は米国で人事や給与計算のサービスを提供するZenefitsのCEOとして、また2人の共著者もZenefitsのメンバーとして企業のピープルオペレーションをサポートしています。

ピープルオペレーションとは

職場環境の変化から従来のHRが機能しなくなってきています。例えば、働き方が変わり終身雇用が減りました。現在、多くのオフィスではパートタイムや派遣スタッフなど、流動的な雇用形態の従業員が働いています。
さらに、テクノロジーの進化や感染症の拡大により「オフィス」という存在自体も希薄になりデジタルワークスペースを構築する必要が出てきました。そして、上下関係があった組織はフラットになり、指示通りに働く人材よりも、円滑な協同作業やコミュニケーションができる人材が望まれるようになってきています。

このような変化に合わせてHRも変わらなければなりません。著者は、従来のHR(人事部)がテクノロジー、データ、従業員体験を重視するピープルオペレーション(POP)にならなければいけないと説きます。
HRからピープルオペレーションに変化することはあらゆるビジネスにおいて差別化になりますが、特に少ないリソースで多くのことに取り組まなければならない中小企業には必須です。HRがピープルオペレーションになれば、担当者は時間や労力を、従業員やビジネス目標など、もっと大切なことに使えるようになります。
人材が企業の最大の資産であり、価値の源泉であるならば、その投資の管理者を立てることは不可欠です。それがピープルオペレーションの役目となります。

日常業務を効率化し、従業員のために使える時間を増やす

HRからピープルオペレーションに変化するには具体的に何をすればいいでしょうか。その第一は、テクノロジーを取り入れ書類のやり取りを減らし、仕事を効率化することです。そうすれば、雑務に追われず従業員体験を向上させるために使える時間が増えます。

日常業務を簡単にする(デジタル化)

例えば日常業務を簡単にするために何ができるか考えてみましょう。

  • HRオートメーションシステムを導入することで、人間の介入を少なくしヒューマンエラーをなくす
  • 給与支払い、管理事務、パフォーマンス管理、勤務時間や勤続年数のトラッキングなどをシステムで一括管理する
  • ソフトウェアの導入により、従業員がスマートフォンやパソコンからセルフサービスで直接必要なデータを入力できるようにする
  • クラウドを利用することで、いつでも、どこからでも、データやファイルにアクセスできるようにする
  • マニュアルをつくり業務の流れを自動化し、いつも同じ手順で業務を進める
  • メッセージアプリやプッシュ通知などの機能を使うことで、お知らせを発信する業務の負担を減らす
  • セキュリティとプライバシー保護を強化しトラブルをなくす
  • 勘に頼るのではなく、データの洞察と分析による状況把握によってリスクを管理する/span>

従業員記録をデータとしてクラウドに保存する

今までは従業員一人ひとりの記録の保存先が、紙やデジタルに混在していました。また、初歩的なシステムで、給与支払いの履歴や基本情報を追跡できましたが、職歴や人事評価などの360度ビューは提供されていませんでした。そして、情報にアクセスするための時間がかかりました。
クラウドベースの新しいHRテクノロジーを導入することで、全ての情報を一か所にまとめることができます。従業員一人ひとりの記録はデータとして保存され、本人が管理できます。
そのデータを使って組織図や従業員ディレクトリなどを構築することも可能です。信頼できるシステムを使えば、データのプライバシーや安全性も高まります。

従業員記録をデータとして保存するときのポイント

  • スプレッドシート、E-mail、Boxファイル、Googleドライブなど、セキュリティ対策ができないツールで個人情報を管理しない
  • 従業員情報は、いつでも、どこでもアクセスできるクラウドに電子署名つきで保存されることが理想
  • 信頼できるシステムを使う
  • 社員が個人情報を登録するタイプのシステムでは、企業のEメールではなく個人のEメールを使って登録してもらう(個人のEメールアドレスは予測しづらく、入社前や退職後に確認したいことがあるときに便利)
  • データの扱いに関する許可範囲を決める(以下は一例)
    ・管理者:HRリーダー、役員、経理担当者、監査役
    ・編集者:マネージャー
    ・ユーザー:従業員

採用と新入社員の受け入れを自動化する

採用活動の手順をマニュアル化し、毎回同じ流れで進めることにより無駄な動きをなくし効率化を目指します。募集から入社までのスケジュールを書き出し、毎回同じスケジュールに沿って実行すること。
また、必要な書類をすべて書き出し、テンプレートを用意することで、毎回同じ書類を使えるようにするなど、基本的なことが効率化につながります。
採用活動や新入社員を受け入れる手順を効率化することで、自動化できない大切な仕事に時間を使うことができます。例えば次のようなことは、手順のなかで自動化できず人間がしなければなりません。

  • 採用試験の選考
  • 他社と競争できて公正な、給与と福利厚生を決める
  • 企業の方針、ミッション、価値を、従業員ハンドブックに載せ、新入社員に周知する

採用を一括管理できる応募者追跡システムや、入社後に必要な研修が予定通り実施されているか確認できる学習管理システムを利用することもおすすめです。

魅力的な従業員体験を構築する

テクノロジーを利用することにより管理事務に費やす時間を減らすことができたら、従業員体験を向上するための時間を増やしましょう。

目標を立てる

従業員の能力を生かし、ビジネスの目標を達成するための目標を立てます。個人の仕事がチームの成果となり、チームの成果が部署の成果となり、その成果が組織全体の成果となるカスケード型の目標設定が理想です。
目標を立てるときにはSMART:Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(時間制約がある)を意識します。 明確な目標に向けて行動することは従業員のモチベーションを上げ、従業員体験の向上につながります。

シンプルな3コラムリスト

  • ビジネス目標(または、部署の目標)
  • その目標をチーム(や自分)がどのようにサポートできるかを考え目標を立てる
  • 各目標について、達成指標を追加する

例:ピープルオペレーションで目標を立てた場合

  • ビジネス目標:四半期ごとの収益性を5%向上させたい
  • ピープルオペレーションの目標:四半期ごとの従業員エンゲージメントスコアを10%増加させる
  • 達成指標:従業員エンゲージメントスコア

モチベーションモデル

人々のモチベーションを高めるのに万能なモデルはありませんが、活性化のためには、明確なコミュニケーション、期待値の共有、価値の理解、感情へのアピールの組み合わせが必要です。
行動科学者のニール・ドーシ氏とリンゼイ・マクレガー氏は、Play(遊びや楽しさ)、Purpose(目的)、Potential(自分の仕事が貢献している)の3つの要素が従業員のパフォーマンスを上げると提唱しています。逆に、感情的なプレッシャー、経済的なプレッシャー、無気力がパフォーマンスを下げるとしています。

また、人間の行動に関する複数のビジネス書を出版しているダニエル・ピンク氏は、モチベーションを上げる鍵をAutonomy(自分でやりたいという意思)、Mastery(継続的に向上したいという気持ち)、Purpose(企業全体の使命にインパクトを与えたいという思い)にあるとしています。

組織内のモチベーションを探るには

組織内のモチベーションが上手に保たれているかどうか、従業員と管理職を対象にアンケート調査や聞き取り調査を実施しましょう。結果は表にまとめ可視化します。それを元に、定期的に職場のモチベーションを上げるための改善を行います。

従業員一人ひとりに目を向ける

従業員一人ひとりに目を向けるとは、業績によるランク付けや、年一回の評価で次の年のポジションや報酬が決まってしまう伝統的な評価方法を止め、個々の努力がビジネスの包括的な目標の達成に直接役立つようなフィードバックを続けていくことです。日常的にマネージャーが従業員にフィードバックを行い、パフォーマンスを調整しながら目標達成まで導きます。

目標に向けたパフォーマンスの調整

Salesforce創業者のマーク・ベニオフ氏が提唱する「V2MOM」はカスケード方式の目標達成モデルです。このモデルを使ってリーダーシップチームで一度目標に向けたパフォーマンスを考えてみれば、ビジネス全体で使えるようになるはずです。チームのパフォーマンスを調整するほか、ビジネス目標に向けて個人が何をできるか考えてもらうときにも使えます。

  • Vision 何をしたいのか、何を達成したいのかを定義する
  • Value あなたのビジョンを追求するのに役立つ、企業の原則と信念
  • Methods 仕事を完了するために必要なアクション項目と戦略的な手順
  • Obstacles ビジョンを達成するために克服する必要があると予測される課題
  • Measures 達成度を測定する方法

エンゲージメントギャップの解消

従業員エンゲージメントの高い従業員と低い従業員の差を縮めることによって組織の生産性を向上させましょう。その方法は様々ですが、最も多いのがアンケート調査です。仕事に熱中できない原因が何であるか、また、どうすれば働きやすくなるのか聞き取ります。
よい提案があれば素早く取り入れ、アイデアを出した人に賞を出すといいでしょう。ほかにも次のようなことが従業員エンゲージメントのギャップを解消することに繋がります。

  • メンターシッププログラム
  • 従業員が主催するランチを食べながらの勉強会
  • 学習や学校へ通うための休暇
  • 教育を受けることに対する金銭的な手当て
  • OJT
  • よいパフォーマンスをした従業員を、みんなの前で褒める

従業員エンゲージメントの測定

従業員エンゲージメントの測定は、測定テストのほか、離職率、欠席率、3か月試用期間の成功率といったデータで確認します。測定のポイントは以下のとおりです。

あなたの部下には、どれくらいのエンゲージメントがありますか?

組織全体の何%の人が仕事に熱中できているか、エンゲージメント率を出します。また5ポイントから7ポイントの評価で各個人がどれくらい仕事に熱中できているかを測定します。

従業員エンゲージメントがビジネスの生産性を上げていますか?

組織全体のエンゲージメント率と、エンゲージメントの高い従業員の割合を長期に観察し、ビジネスのほかの目標達成度の向上と相関しているかどうかを確認します。

多様性、公平性、インクルーシブを考えた職場づくり

男性と女性、様々な世代、様々なバックグラウンドを持つ人たちが同じ職場で公平に働ける環境づくりが求められています。企業としての考え方を表した「DEIステートメント※」を企業WEBサイトや説明会などで発表する、現在の職場の男女比や年齢のバランスを確認し、公平になるよう企業文化を少しずつ変えていくなど、努力が必要です。
※「DEIステートメント」のDEIとはDiversity(多様性), Equity(公平性), Inclusion(包括・インクルーシブ)の略です。「DEIステートメント」は企業の多様性、公平性、インクルーシブについての考えを示すための声明文です。

ピープルオペレーションの未来

HRからピープルオペレーションに変化したあと、どうなるのでしょうか。著者は、管理に重点を置くことははるかに少なくなり、自動化とデータに焦点が当てられると述べます。直感ではなくデータを使い、洞察や行動を起こしたり、影響力を測定したりすることが日常業務となります。
よって、これからの担当者にはデータ分析やビジネス支援のためのプログラムを選ぶ方法を知っていることが必要となるでしょう。採用の分野では、才能のある人材が、人を大切にすることを最も重視にしている企業を重視して就職先を決めるようになります。

ピープルオペレーションが企業の競争力となる

従来のHRから未来型のピープルオペレーションに移行するためには「業務の自動化を受け入れること」「従業員体験を第一に考えること」「従業員一人ひとりに目を向ける」の3つが必要です。これまで管理事務が中心だったHRは、ピープルオペレーションになって戦略的に人材を生かすための部門となります。そして、働く人を第一に考える企業は、採用活動でも他社と差をつけることができるでしょう。

People Operations: Automate HR, Design a Great Employee Experience, and Unleash Your Workforce
著者 Jay Fulcher、Kevin Marasco、Tracy Cote
出版社Wiley; 第1版 (2021/6/22)
ISBN-10 : 1119785235
ISBN-13 : 978-1119785231

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/08/10
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