アンコンシャス・バイアスとは、採用選考や人材評価での対処法
「アンコンシャス・バイアス」とは、英単語の「unconscious」(無意識)の「bias」(偏見)から構成される言葉で、日本語では「無意識の偏ったモノの見方」、「無意識の思い込み」と表現され、自分の経験や知識から、自分自身が意識せずに持っている考え方を指します。
例えば、「子育ては女性が中心になって行う」、「人形遊びは女の子」、「黒いランドセルは男の子」、「力仕事は女性にさせない」など多岐にわたります。
「アンコンシャス・バイアス」は、誰にでもあるもので、それ自体は「悪」ではありません。「アンコンシャス・バイアス」が問題となるのは、知らずに第三者を傷つけたり、偏見によって判断が左右され、適切な行動や評価ができない場合です。
ステレオタイプとアンコンシャス・バイアス
似たような言葉で、モノや人を特定のグルーピングをして先入観で評価する「ステレオタイプ」があります。これも、「ステレオタイプバイアス」と呼ばれ、「アンコンシャス・バイアス」の一種です。
アンコンシャス・バイアスが注目される背景
「アンコンシャス・バイアス」は2000年代から知られるようになり、人材の多様性を認め活用していくダイバーシティ&インクルージョンの施策として、アメリカの大手IT企業で取り上げられ注目されるようになりました。
検索エンジン最大手の「Google」では、2013年より、従業員に対して「アンコンシャス・バイアス」に関する教育研修を行っています。これは、2010年~2013年の間で検索エンジンの日替わりロゴ(Doodle)に登場した著名人は、62%が白人男性、女性は17%。白人以外の男性が18%、白人以外の女性は4%であったことを民間の研究所から指摘を受けたことがきっかけです。
日本企業でも、少子高齢化による生産労働人口の減少により、今後は、女性や高齢者の活用は必須です。また、グローバル経済の進展に伴い、優秀な外国人労働者の確保も重要です。年齢や性別、人種、言語、文化の違う多様な人材を活用するためにも「アンコンシャス・バイアス」を知り、包容する組織を作る必要があります。
また、日本政府も「男女共同参画社会」の取り組みが充分でない要因の一つとして、社会全体において固定的な性別役割分担意識、つまり「アンコンシャス・バイアス」があるとし、啓蒙活動に力を入れています。
採用場面でのアンコンシャス・バイアスの事例
- 無名大学出身なので仕事ができないだろうと思いこむ。
- 海外出身なので、英語が堪能と思い込む。
評価時でのアンコンシャス・バイアスの事例
- 個人的なつきあいがあり、評価を高くつけてしまう。
- 部下によく思われたいため、甘く評価をつけてしまう。
- 女性だから、厳しい業務にはつかせない。
- 特定の学閥のみ、育成を優遇する。
人事異動・育成場面でのアンコンシャス・バイアスの事例
アンコンシャス・バイアスのパターン
「アンコンシャス・バイアス」には、いくつかのパターンがあります。ここでは、職場における「アンコンシャス・バイアス」のパターンと事例を紹介します。
確証バイアス
●あらかじめ抱いていた先入観を元にして、それに見合ったデータや特徴のみで評価を下し、否定的な情報を無視してしまう
例:A型は細かい仕事が得意だ
ステレオタイプバイアス
●特定のグループや属性の人たちに対して特定の特徴を決めつけて個人の違いを無視する
例:高齢者はパソコンが苦手
ハロー効果
●際立った特徴にひっぱられて、因果関係のない事項も印象で評価してしまう
例:難関大学出身者なので仕事ができる
慈悲的性差別
● 男女の性差によって、温情をかけてしまい、結果、偏見につながってしまう
例:子育て中の女性に負荷の高い業務を任せない。
アンコンシャス・バイアスがもたらす企業のリスク
企業ブランドを毀損する可能性
企業は、ホームページやSNSを始めとした、多くの手段で情報配信を行っています。個々の従業員が配信する情報の中に「アンコンシャス・バイアス」がひそんでおり、無意識に発信した情報が、特定の人たちを傷つけてしまう可能性があります。また、SNSで拡散され炎上し、企業ブランドが毀損する可能性があります。
人材採用のリスク
「アンコンシャス・バイアス」が働き、同じような人材ばかりを採用してしまう可能性があります。また、多様なバックボーンを持つ人材に対して門を閉ざせば、多様性を失い組織の変化を鈍らせ成長を妨げる要因になる可能性があります。
人材育成へのリスク
人材の評価時に「アンコンシャス・バイアス」が働き、適正な評価が行われない場合、従業員は不満を募らせ、退職してしまう可能性があります。
ハラスメントを生むリスク
「アンコンシャス・バイアス」は、「セクハラ」、「パワハラ」、「モラハラ」などのハラスメントを生み出す温床です。従業員間のトラブルにより、モチベーションやパフォーマンスの低下を招きます。
採用選考や人材評価でのアンコンシャス・バイアス対策
「アンコンシャス・バイアス」により企業のリスクを防止するためには、従業員への意識付けと、トラブルが起こりにくい制度や仕組みを導入していくことが大切です。
全社的な教育と研修
「アンコンシャス・バイアス」は誰もが持っているもので、これを消すことはできません。また、無意識にあるもので自覚も難しいです。しかし、「自分の考えが偏っていないか?」常に自問し「アンコンシャス・バイアス」に気づこうとする姿勢を持つことが大切です。
Googleが行っている「アンコンシャス・バイアス」の研修は、採用選考や人材評価の評価者だけではなく、従業員にも行っています。研修内容は、データを元に「アンコンシャス・バイアス」がどのように起こっているのか具体例を明示し、「アンコンシャス・バイアス」の理解を深め多様性が重要なことを説いていきます。
評価項目を細かく設定・定義
採用や人材の評価項目を細分化し、評価基準や方法を細かく定義することで、評価者の「アンコンシャス・バイアス」が介入する余地を減らすことができます。
例えば、営業の社員を評価するときに、「交渉力」でまとめずに、「営業資料が作成できる」、「一人でクロージングができる」、「アップセル・クロスセルができる」、「顧客心理を理解し対応できる」など細かく評価項目を定義し、「できる」「できない」を評価していきます。
定量による業績評価を軸とする
定量評価を軸とし、数字の達成のみで評価することで、評価者の「アンコンシャス・バイアス」が介入する余地を減らすことができます。
360度評価の導入
直属の上司だけでなく、同僚や部下、他部署の社員など、立場の違う複数の評価者が、対象者を評価する「360度評価」を導入することで、評価者の「アンコンシャス・バイアス」が介入する余地を減らし、客観性を高められます。
AIの導入
最近では、採用選考や人材評価にAI(人工知能)を導入する企業も増えてきています。人の介入を減らすことで、「アンコンシャス・バイアス」の発生を減らします。
例えば、採用時の書類審査や面接動画をAIで判定し評価するシステムや、評価者の評価のクセをAIが分析し、バイアスを修正するシステムがあります。
ブラインド採用の導入
採用選考時に、評価者に対して、学歴や写真、性別などの情報を非開示とする「ブラインド採用」を導入することで、評価者の「アンコンシャス・バイアス」で評価が左右されないように対策することができます。
「アンコンシャス・バイアス」を軽視すれば、企業にリスクをもたらします。経営者や評価者はもちろんのこと全従業員にもトレーニングを行い、個人が自由に能力の発揮できる多様性のある組織をつくりましょう。
- 人材採用・育成 更新日:2022/07/27
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