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HR Techが促すHRの役割の変化 ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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2020年の中心トピックスであった新型コロナウイルス感染拡大は、世界中の人々の生活、仕事、経済に影響を与え、収束まで数年かかる可能性があります。日本の企業においては、経営マネジメントの在り方が問われる転換期になったといえるでしょう。

そんななか、テクノロジーは世界中の人事領域においても変革をもたらしています。米国を中心にHR Tech(HR Technologyの略)の分野においてもさまざまなテクノロジーが進化するとともに、HR側のニーズも変化し、HR Techのアプリケーショント自体が戦国時代の様相で活況を呈しているのです。
われわれビジネスリーダーやHR部門は、日々、さまざまな人材に関する課題に直面しています。深刻な人材不足や優秀な人材の争奪戦など、HRは洞察に満ちたビジネス上の意思決定を行うために、常にトップレベルの知識を身につける必要があります。

今回は、『タレントリーダーが考慮すべきHRテックトレンド10選』から「HR Techの役割の変化」について読み解きます。経営者やHR担当者にとって、自社の状況と比較して認識を新たにする機会となれば幸いです。

SMACとAIがもたらすHR Techの進化

HR Techの進化には多くの節目がありますが、2012年以降、次々と開発される新興技術であるSMAC(ソーシャル(Social)、モバイル(Mobile)、分析(Analytics)、クラウド(Cloud)の総称)を取り込みながら進化してきたとされています。
特にこの10年で、さらに、新しい技術トレンドが、かつてないほどHR領域でイノベーションを促進しようとしています。

昨今においては、SMAC以外のインパクトのあるテクノロジーとしては、AI(人工知能)の実用化があげられるでしょう。ビジネス上においても実用化され始めていますが、HR領域においても従業員の体験(Employee Experience)や採用候補者の体験(Candidate Experience)を強化するなど、顧客の体験(Customer Experience)と共通した価値を創出し始めています。

これらの体験価値を向上させることの趣旨としては、企業間の差別化を図り、ビジネスパフォーマンスを高めようとしていることがわかります。
このような技術の導入を行う企業のなかには、遠隔地にいる従業員のリモートワークを効率化させるといった表面的な目的を掲げている場合もありますが、優れた企業は科学的なアプローチをとり、従業員の日常の仕事ぶりを実質的な方法で改善し、持続的な従業員エンゲージメントの基礎となる心理的安全性を高めることに注力し始めています。

実際に、高度なAIアルゴリズムとデータサイエンスは、リソース不足になりがちな採用部門で貢献している事例もでてきました。
米国においては18歳から52歳までの間におよそ12種類の仕事を経験するとされていますが、2020年以降さらに、転職者が増加しています。リクルーターに相談したいと思っている候補者や、転職に前向きな候補者をより効率的に見つけることができるように、AIを導入してチャットボットや候補者のスコアリングなどの技術が使用されています。リクルーターは採用候補者を適切なタイミングで積極的にターゲットにできる状態になってきているのです。

そして、AIを活用した採用マーケットプレイスが、企業と社外の優秀な専門リクルーターを結びつけ、優秀な人材をより早く採用することもできるようになりました。
また、AIはリーダーシップの交代、マクロ経済の発展、ニュースや社会的な感情など、重要な関連事項にまで注意を払い、採用担当者の働きかけを受け入れる可能性のある候補者を見つけるまでに進化しつつあります。
このように、人事に特化したアプリケーションがますます高度化していることが分かってきたと思います。

ESSとアクティブリスニングツールの浸透

AIによる体験価値の向上とは別に、HR部門はリモートワークを管理するためのオンラインプラットフォームを求め、より多様性を重視した採用方針を唱えています。また、アジャイルチームを構築するビジネスニーズにも応えるために、HR Techへの期待も高まっているのも事実です。

ESS(Employee Self Service)は、従業員や管理者が基本的な人事処理を自分で行えるようにすることで、事務効率を高めています。給与明細や従業員ハンドブックの閲覧はもちろん、免許や資格、銀行口座情報、住所や連絡先、学歴やスキル、プロの会員資格などの書類を従業員自ら更新することも可能になりました。

また、タイムシートや休暇申請もシステム上で行うことができます。ESSのテクノロジーは、従業員が自分の情報に責任を持つことを可能にします。
さらに、HR部門がこれらの基本的な取引を手作業で行う必要がなくなるため、エラーや時間、コストが大幅に削減され、結果的に企業の生産性が向上します。また、クラウド型システムやサブスク型ビジネスが浸透することにより、以前は大企業にしか提供されなかった従業員セルフサービス(ESS)が中小企業でも利用できるようになっているのです。

従業員は、職場でも自宅でも出張先でも、重要な情報にアクセスすることができており、リモートワークを管理するためのオンラインプラットフォームの一部としても機能し始めています。また、テクノロジーの進歩により、職場での業務はかつてないほど簡単かつ効率的になっていますが、HRや現場の職場関係において人間らしさを保つことも重要です。

そのため、パルスサーベイ(Pulse Survey)、チャットボット(Chatbot)、チェックイン(Check-in)などのテクノロジーツールは、現場チーム内におけるアクティブリスニングの重要性を促進し、強調するように設計されています。これらのアクティブリスニングツールは、従業員がシンプルでわかりやすい方法で自分の意見を述べる機会を提供することで、従業員のエンゲージメントを高める働きをします。

これにより、組織は一貫したリアルタイムのフィードバックを得ることができ、以前のような年1回の調査よりもはるかに有益なものとなります。さらに、組織はこれらのアクティブリスニングツールのフィードバックに基づいて行動することが促され、適切な提案が提供されるようにもなってきているのです。

HR Techに求められる課題事例

HR-Techの進化がもたらす恩恵が明らかになった一方で、ビジネス上の課題は尽きません。
特に昨今では、リモートワークで増える「オンライン・オンデマンド・プラットフォーム」に対する期待感が尽きません。多くの企業がリモートワークを選択肢の一つとして採用しています。従業員の働き方の柔軟性を高めていくにつれ、HR Techは分散したチームがよりアクセスしやすく、便利になることで、変化する労働力に適応することも求められるようになっています。

この課題を解決するためには、オンデマンドのオンラインプラットフォームはますます重要になり、過去から使われてきたレガシーソフトウェアはこれらの新しいニーズに適応しなければなりません。
また、「パフォーマンスマネジメントの透明性を高める」ことも併せて求められています。実際に、HR Techは、前述したアクティブリスニングツールのように、マネージャーと従業員の関係における透明性の必要性を著しく加速させています。ビジネスリーダーたちは、HR Techを活用して適切な会話を行い、マネージャーと従業員の間で焦点を絞った率直なフィードバックを提供し、行動に対する双方向の説明責任を強化していく必要があります。

パフォーマンスマネジメントは、よりリアルタイムで、よりシンプルに、自分自身を振り返ることに立脚したシステム設計になっていくことが予想されます。

経営者とHRが果たすべき変化するトレンドへの対応

ここまで見てきた通り、これらのHR Techを使うことで、仕事の簡素化や生産性の向上、プロセスや作業活動から「摩擦」を取り除き、反復的な手作業を減らすことができるようになります。より洞察力に優れ、インパクトのある仕事に時間を割くことができるようになるのです。

また、これまで大企業が享受してきたHR Techが技術の進化とともに中小企業やスタートアップのような高成長企業にも浸透してきている状況が見て取れます。特に短時間にビジネスをスケールしたい高成長企業向けにHR Techの導入が進んでいます。

そもそも高成長を達成している企業は、大企業やスタートアップなど組織の規模に関わらず、他の組織に比べて社外への離職率が高くなっています。また、それだけではなく新組織設立や昇進など組織内における役割転換の頻度も高いため、そのギャップを埋めるためにHR Techを活用する場面が増えているのです。

その結果、HR Techが管理面でも文化面でも、新入社員のオンボーディング等をサポートする緩衝材の役割を果たすことになることも多くなっています。

グローバル市場調査会社であるGrand View Research, Inc.社のレポートによると、人材マネジメントの市場全体は、2019年から2025年にかけて年平均成長率で11%相当の規模拡大がなされる予測が立てられています。HR Techへの需要が高まるにつれ、最先端の新製品が続々と市場に登場しています。

これらが意味するところは、最終的にこれらのテクノロジーのトレンドが、HR部門を反復的なマニュアル作業から解放し、代わりにHR領域のプロフェッショナルとして、より専門的、戦略的な知識を身に着け実行するとともに、ビジネスとの強いパートナーリングを築くことを促しているといえるでしょう。

HR Techはまだまだ進化していくなか、その動向を注視して、HR部門の価値を高めていく必要があります。自社の課題を解決するためのツールとして、最適なHR Techを選択する知識のアップデートおよび導入するためのプロジェクトマネジメント能力を高めていきましょう。

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  • 鈴木秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへの家族移住を果たし、中小企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外の邦人のためのコミュニティ作りなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/07/06
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