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採用プロセスへのAIおよびダイバーシティ&インクルージョンの組み込み ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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2020年の中心トピックスであった新型コロナウイルス感染拡大は、世界中の人々の生活、仕事、経済に影響を与え、収束まで数年かかる可能性があります。日本の企業においては、経営マネジメントの在り方が問われる転換期になったといえるでしょう。

米国ガートナー社の調査によると、ビジネスにおいては「平等」が必要不可欠な概念となり、多様なバックグラウンドを持つ求職者を具体的に探すための採用担当者(リクルーター)は、AIに取って代わられるだろうと発表しました。

今回は、『タレントリーダーが考慮すべきHRテックトレンド10選』から「採用プロセスへのAIおよびダイバーシティ&インクルージョンの組み込み」について読み解きます。経営者やHR担当者にとって、自社の状況と比較して認識を新たにする機会となれば幸いです。

米国におけるダイバーシティ&インクルージョンのトレンド

採用戦略のトレンドは、HR テック企業が勃興し続け、アップデートされ続けている米国が参考になるでしょう。ここでは、採用戦略に必要な視点として、米国の労働市場の現在地を確認していきます。

「ミレニアル世代」と「Z世代」におけるダイバーシティ

2000年代に登場した検索エンジンをはじめとしたITイノベーションの台頭を目の当たりにしてきたデジタルパイオニアであり、高いデジタルスキルを有してあらゆる分野で注目を集める花形的存在であるミレニアル世代(1981~1995年生まれ)は、2025年には世界の労働力の75%を占め、重要なリーダーとしての役割を担うようになります。

そして、米国のミレニアル世代の44%が自分たちを「非白人」であると認識しており、この世代は団塊の世代より16%もダイバーシティ比率が高くなっています。

また、生粋のデジタルネイティブである米国のZ世代(1996~2021年生まれ)は、さらにその傾向が強くなっています。

米国のZ世代は、2025年には労働力の27%を占め、最も多様性に富み、また多文化的な背景を持った世代であり、ダイバーシティに加えて、半数近く(48%)が自分たちのことを「非白人」であると認識しています。

旧来の常識や慣習を覆し、経済力を強力に推進する力のある若い世代、特にZ世代の特徴を理解するために、米国Awesomeness社とTrendara社のZ世代に関する調査を見てみましょう。

Z世代は、自らの世代を示す最も的確な表現は、「流動的なアイデンティティ」「グローバル市民」「既存のルールにとらわれない」「テックネイティブ」であるとしており、個々人や多様な社会とのコネクティビティを最大限に活かしながら、常に新しい情報を吸収していることが伺えます。

また、Awesomeness社の調査によると、Z世代の3分の1が「自分たちは人間の平等を最も強く信じている世代である」と回答し、さらにZ世代の半数以上は、「Black Lives Matter(80%)」、「トランスジェンダーの権利(74%)」、「フェミニズム(63%)」といった活動について、現代社会は受け入れるべきものだと主張しているのです。

ダイバーシティ&インクルージョンに関する法律の制定

また、2020年には米国の複数の州で、雇用主に対して、職場、給与および採用の公平性を促進するための新しい法律が制定されるなど、社会全体でダイバーシティ&インクルージョンを後押ししている状況が見て取れます。以下一部の州の議会法案を例に挙げます。

  • 応募者の過去の給与について尋ね、過去の収入に基づいてオファーすることを禁止(ニュージャージー州)
  • マリファナの陽性反応が出た候補者の採用を拒否することは禁止 ※消防士や運転手などの特定の職種を除いた職種(ネバダ州)
  • ワーキングマザーのための授乳スペースの職場設置を義務化(カリフォルニア州)
  • 妊娠・出産に関連した事情のある従業員に配慮の義務化(オレゴン州)
  • 最大18週間の家族有給休暇・医療休暇の義務化(ワシントン州、マサチューセッツ州、ワシントンD.C)

広がる「デジタル不平等」

新型コロナウイルス感染拡大は、Eコマースやオンラインによる会議、面接、教育、リモートワークなどの浸透拡大を加速させ、この変化は今後も続くと考えられます。しかし、急速な発展は「デジタル不平等」を拡大させる可能性があります。

実際に、世界経済フォーラムにおける『Global Risks Perception Survey』の回答者は、「デジタル不平等」を今後2年間に世界が直面する重大な脅威であり、長期的なリスクであるとみなしています。

このリスクを回避するには、労働者のスキルアップと再スキルアップのための公共投資が必要ですが、新型コロナウイルスのワクチンが行き渡りつつあるなかで、そのコストは縮小することが予想されます。

一方で、採用プロセスにおけるオンライン・ソリューションは、ますますその依存度を増しています。リモート・リクルーティングの登場により、採用担当者は世界中の情報が常時同期された人材プールにアクセスできるようになりました。

しかし、デジタル不平等の拡大は、多様な人材をプールすることを指針とした採用活動にも影響を与える可能性があります。

グローバルのインターネットの利用率が、高所得国では人口の87%以上、低所得国では17%以下である現状を見ると、低所得国の企業にとって、獲得したい人材を採用することや、グローバルな人材の状況を把握することは難しくなってしまうといえるでしょう。

AIによりダイバーシティ&インクルージョンを高める採用プロセス構築の事例

このように、ダイバーシティを促進するだけの外的環境と、技術的格差による困難があるなかで、IBMが取り組んでいるダイバーシティ&インクルージョンを高める多面的なアプローチを紹介します。

まず、IBMの採用戦略において「ダイバーシティを考慮すること」が最優先事項とされているのは特筆すべき点です。この指針にのっとり、テクノロジー(特にAI)と研修を組み合わせることから始めているのです。

また、IBM では、AIツールがバイアスを招くことのないようにするだけでなく、AIを採用プロセスに組み込み、人材パイプラインがダイバーシティ&インクルージョンを維持できるように配慮している点も注目すべきでしょう。

なお、これは2018年にアマゾンがAIを活用した人材採用システムで女性を差別するといった機械学習面の欠陥が判明したことによって運用を中止したことを踏まえ、アルゴリズムの作成段階で、女性や多様な人種が平等に参加できるようにすることも含まれています。

  • 募集(採用プロセスの開始時):IBM は自社製のAIや機械学習ツールを利用して、性別に対するバイアスのない職務記述書を作成。
  • ソーシング(母集団形成段階):IBMのAIツールは、主要な成功プロファイルに一致している応募者を、人材パイプラインから積極的に探し出す。人間の採用担当者が見逃した採用候補者をAIが抽出し、選定プロセスにおいて生じる可能性がある無意識のバイアスを取り除く。
  • スクリーニング:包括的な一連のAIアルゴリズムを利用して、性別、人種、民族性、年齢などのグループ特性を強制的に見えなくする。これにより、採用担当者が職務遂行時にバイアスを持たないようにする。
  • 面接:採用候補者に対する面接中に、当該採用候補者の業績予測に役立つ指標を、AIツールを利用して「聞き出す」。また、そのAI ツールは、アンコンシャス・バイアスを低減させる質問候補を面接官に提示。

このようなテクノロジーの強化と並行して、スクリーニング・プロセスにおいて履歴書を匿名化したり、面接官の顔ぶれを多様にすることを義務付けたりするなど、面接プロセスも改善し続けています。

また、これらのあらゆる取組は、アンコンシャス・バイアスをなくすためのトレーニング・プログラムによって補完されているのです。

経営者とHRが果たすべき変化するトレンドへの対応

このように、ダイバーシティを促進するだけの外的環境と、技術的格差による困難があるなかで、IBMが取り組んでいるダイバーシティ&インクルージョンを高める多面的なアプローチを紹介します。

まず、IBMの採用戦略において「ダイバーシティを考慮すること」が最優先事項とされているのは特筆すべき点です。この指針にのっとり、テクノロジー(特にAI)と研修を組み合わせることから始めているのです。

また、IBM では、AIツールがバイアスを招くことのないようにするだけでなく、AIを採用プロセスに組み込み、人材パイプラインがダイバーシティ&インクルージョンを維持できるように配慮している点も注目すべきでしょう。

なお、これは2018年にアマゾンがAIを活用した人材採用システムで女性を差別するといった機械学習面の欠陥が判明したことによって運用を中止したことを踏まえ、アルゴリズムの作成段階で、女性や多様な人種が平等に参加できるようにすることも含まれています。

  • 募集(採用プロセスの開始時):IBM は自社製のAIや機械学習ツールを利用して、性別に対するバイアスのない職務記述書を作成。
  • ソーシング(母集団形成段階):IBMのAIツールは、主要な成功プロファイルに一致している応募者を、人材パイプラインから積極的に探し出す。人間の採用担当者が見逃した採用候補者をAIが抽出し、選定プロセスにおいて生じる可能性がある無意識のバイアスを取り除く。
  • スクリーニング:包括的な一連のAIアルゴリズムを利用して、性別、人種、民族性、年齢などのグループ特性を強制的に見えなくする。これにより、採用担当者が職務遂行時にバイアスを持たないようにする。
  • 面接:採用候補者に対する面接中に、当該採用候補者の業績予測に役立つ指標を、AIツールを利用して「聞き出す」。また、そのAI ツールは、アンコンシャス・バイアスを低減させる質問候補を面接官に提示。

このようなテクノロジーの強化と並行して、スクリーニング・プロセスにおいて履歴書を匿名化したり、面接官の顔ぶれを多様にすることを義務付けたりするなど、面接プロセスも改善し続けています。

また、これらのあらゆる取組は、アンコンシャス・バイアスをなくすためのトレーニング・プログラムによって補完されているのです。

経営者とHRが果たすべき変化するトレンドへの対応

企業の組織戦略として「多様化(ダイバーシティ)」を推進すべき理由として、有名なデータがあります。多様性のある企業は、画一的な企業よりも革新性に優れ、19%高い収益を達成している、というものです。

ダイバーシティを組み込んだ組織戦略がもたらす効果は、大企業を中心に事実として浸透してきていると思われます。

一方で、2014年から年次のダイバーシティ・レポートを発表し始めている米国の大手ハイテク企業のうち、ほとんどの企業が大きな成果を上げているとはいい難い状況があります。

特に、黒人従業員の雇用に関していえば、Facebookを例に挙げると2014~2020年の6年間で黒人の従業員が3%から3.8%になった程度であり、その他企業も一桁台前半にとどまっているのが現状です。

これは非常に根深い倫理観に基づいた課題であり、一朝一夕では成しえることのできない「性別」や「障がい」、「LGBTQ」、「人種」など概念自体も広範であり、グローバルという物理的距離も含めた課題といえるでしょう。

採用担当者にとっては、「人材プールを拡大する」という組織上の命題とともに、リモート・リクルーティング・プロセスが合理化されることで、より多くの候補者にアクセスできるようになり、ローカルサーチの場合よりも多くの応募者が集まる可能性があります。

しかし、応募者が増えると採用プロセスが遅くなり、優秀な人材を見つけるのが難しくなるといったジレンマにも悩まされていることと思います。

しかしながら、ここ数年、多くの大手ハイテク企業がAIや機械学習、インテリジェント・オートメーションなどの類似ソリューションに手を出してきたことで、これまで過度に“人間の直感”に頼ることで生じてきた「バイアスにとらわれる」などの問題が解決されるようになってきました。

紹介したIBMの事例のように、プログラミングとデータ入力のプロセスを含めてAIを活用した採用プロセスを正しく実行すれば、人種や性的指向に関する応募者のデータ使用を回避し、不平等をなくし、ダイバーシティ&インクルージョンを促進することができるのです。

採用プロセスにおいてAIを活用することで、雇用までの期間を短縮し、さらには正確な雇用を実現もできます。

これは、求職者にとっても採用担当者にとってもメリットがあると認識することが必要です。そして、これこそが日本で叫ばれているDX(デジタル・トラスフォーメーション)にも通じる本質であるともいえるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョンは、あらゆるレベルで組織に組み込まれる必要がありますが、経営環境の変化をいち早く察知し、AIというツールを使って課題を解決するという点は、採用だけにとどまらないプロセスです。

採用は採用担当者だけの課題ではありません。VUCAで刻々と変わる経営環境のなか、「組織戦略としての課題を人事戦略の入り口からどう解決していくのか?」ということが経営者やHRにも問われているのです。

  • $タイトル$
  • 鈴木秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへの家族移住を果たし、中小企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外の邦人のためのコミュニティ作りなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 人材採用・育成 更新日:2022/06/08
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