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OJL(On-the-Job Learning:仕事を通じた学習)の廃止 ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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昨年から続くトピックスである新型コロナウイルスは、いまだ世界中で生活、仕事、経済に影響を与え続けています。変異株も発見されていることから、「After コロナ」ではなく「Withコロナ」について、真剣に考えるべき時代になっているともいえるでしょう。

日本企業においては、コロナ禍を機にこれまでの経営マネジメントの在り方が問われている転換期であり、過渡期と捉えるべきです。

さて、このような環境下で、皆さんはどのような方法で人事業務の情報を収集しているでしょうか? 

本コラムでは、海外のHR関連の各文献で2020年に想定されていた「コロナの世界におけるHRトレンド」が、現時点でどのような進捗となっているのか? 改めて、欧米のメディアの情報から読み解いていきます。バズワードに踊らされずに、あくまでも自社の環境と比較し、経営者やHR担当者の認識を新たにする機会となれば幸いです。

今回は、昨年米国ガートナー社が最高人事責任者(CHRO)に対して仕事の未来に影響を与えるトピックをヒアリングした結果、彼らが特定したトレンドの一つである「OJL(On-the-Job Learning:仕事を通じた学習)の廃止」について取り上げます。

社内学習機会は増えるのか?減るのか?

ガートナー社の調査によると、ほぼすべての組織が従業員のスキル開発のためにOJL(On-the-Job Learning:仕事を通じた学習)を活用しており、CHROの73%にとって最優先事項であることが明らかになっています。

しかし、2025年までには、67%の反復性の高いタスクに基づくOJLの機会がAIによって排除されることになると予測されています。

HRは、自動化によって間もなく失われるであろう職務やスキルを測定しながら(場合によってはこれらを測定することなく)、従業員の昇格基準、職務能力の成長度(習熟度)や会社への貢献度(成果)の評価について別の方法を見つける必要があるともいわれているのです。

この予測に基づいて、われわれ経営者やHRのリーダーがどのように準備すべきかを理解していく必要があります。場合によっては、従業員のスキルアップとトレーニングのために、クラスルームでのライブトレーニングなどの伝統的な学習方法に戻る必要が出てくるかもしれません。

「OJL」を定義する

ASTD(全米人材開発協会)で今、最も話題となっているのは、人材開発がスキル中心のTraining(トレーニング)から、コンピテンシー向上をめざしたLearning(ラーニング)へシフトしていることです。つまり、「職務記述スキル」から「成果達成能力」の向上へシフトしていく必要があるのです。

① 「社内教育=OJT」の課題

ビジネス環境が激しく変化してきたなかで、競争力のある製品やサービスを提供し、顧客から高い信頼を獲得するためには、現場第一線の組織や人材の能力向上が必須となっていることもいうまでもありません。

しかし、日本で発達してきた従来のOJT(On the Job Training)では、この変化に対応することは難しいでしょう。なぜならばOJTは「徒弟制度」に近いものであり、外部環境よりも内部環境に依拠して、ブラックボックスな社内的熟練度の昇華を目的としたものだからです。

OJTには次のような課題が指摘されています。

  • 「人」に「仕事」がつくように配置・育成しているため、学習モデルがデザインされていない・仕組み化できていない
  • 会社内のブラックボックスのなかで育成することが前提のため、「Off-JT」の学習による補完がない
  • 指導する側の技量に左右される
  • 技術の変化が激しく、トレーナーとトレーニーの関係が作りにくい(リストラクチャリングなどで技術の伝承ができない)

このように、人材育成策をシステマチックに計画し、統制し、実施するという面では、OJTは多くの課題を抱えているのです。

② グローバル企業におけるOJLの必要性

島国の日本と異なり、地政学的にクロスオーバーに事業を展開せざるを得ない海外においては、インフラが発達した今、常に変化というリスクに対応せざるを得ません。そのためには、継続的な学習が必要です。座学ではなく、「日々の経験」や「日々交わされる会話・対話」を通じて、毎日の仕事から「学ぶ」ことで、すぐに実践力につなげることが重要なのです。

従って、「チームや組織のメンバーとの対話やコミュニケーションを通して、教え合い、学び合う」という学習の文化を醸成する必要があります。これを可能にするプロセスが、OJL(On-the-Job Learning:仕事を通じた学習)なのです。

③ OJLの定義

OJLは座学ではなく、毎日の仕事をしながら「どうすればもっとうまくできるのか?」「もっと早くできるのか?」「もっとたくさんできるのか?」を学習し続けるものです。学習素材は、自分やメンバーの経験や、組織に蓄積された知識・ノウハウです。

具体的に、OJLを実践するためには、次のような方法で実践するのが一般的です。

【OJL実践方法】

  • 業務目標を同じくする10人前後のチームを編成して、スクラム的な仕事の進め方を基本とし、業務の進捗や対応が全員に見えるようにする
  • 毎日、毎週のミーティングでの「仕事の振り返り(Reflection)の場」が「学習の場」となるように設計する
  • 対話を通じて互いに学び合い、教え合う文化を醸成していく

上記の活動を主導するリーダーの役割の一つは、チーム内のコミュニケーションの活発化を促すことです。そのためには、調整や合意形成といったチームファシリテーションスキルが必要になります。また、日々の仕事のなかから発生する事象から学習すべきことを抽出し、メンバーの学びを支援する「ラーニングファシリテーション」のスキルも必要になるでしょう。こういったスキルを持つ人材を育成し、組織能力と人材の能力向上を図る活動がOJLなのです。

OJTからOJLへ

たとえ優れた戦略やリーダーシップがあっても、人材がいなければ持続的に発展することはあり得ません。これは、長い世界的な国家間闘争の歴史や、企業という概念が出来上がってからの変遷を見ても明らかです。では、経営をつかさどるわれわれHRには何が必要なのでしょうか。

これまでのOJTに代わる人材育成プランを経営の最優先課題の一つとして取り入れること、そして実行することが一つの解であり、ミッションだといえるはずです。それが、組織学習によるパフォーマンス向上策として、欧米で議論されているOJLなのです。

① リモートワーク下での社内教育

現在、リモートで仕事をすることが多くなり、誰のサポートもないなかで、自ら学び、自ら成長していくということが難しくなっています。にもかかわらず、そのための支援が現在の職場・現場では希薄です。人や組織の成長が停滞する要因となっている現実に、われわれは世界中で直面していると思います。

こうした課題にメスを入れたのがOJLでもあります。もともと、コロナ禍以前からリモートワークが前提となっているグローバル企業では、「自ら学ぶという視点」と、「組織全体で学習するという習慣」を形成することで、あらゆる能力の向上を図ることを模索してきました。

  • 日常の業務を通じて、まずは「業務を学ぶ」。
  • 次の段階では、「業務で学ぶ」ことで成長する。
  • 上司は部下に仕事を教えるのではなく、仕事を通じて学習する機会を提供して支援する。
  • 学習する習慣を根付かせることで、従業員や組織が変化への対応力をつける。

OJLによって目指すべきは、「人材と組織の同時並行的な成長」にあるのです。

② 組織文化の醸成のために

一方で、OJTもそうであった通り、当然ながらOJLは魔法のつえではありません。OJLを実践するためには、チームや個々の社員による経験学習をサポートするファシリテーターの存在が鍵です。ファシリテーターとは、職場における学びの文化を醸成する人材です。逆に考えれば、このファシリテーターによって、組織学習を活発に展開する仕組みがOJLであるともいえるのです。

③ これからの活動形態とファシリテーターの関係

これからの組織や企業は、「大規模な階層型組織」から「少ない人で構成されるチームの集合体」になっていくといわれています。そんなチームを率いるリーダーに求められる役割の一つが「ファシリテーター」であるといっても過言ではないでしょう。

仮に、業務のプロ同士がチームを組む場合でも、異質の価値観、異質の才能、異質の文化を持つ人材が、共通のビジョンを持って互いにサポートし合うチームを構成するためには、ファシリテーターの素養を備えた人材が必要です。

変化が激しく、不確実性が増している今日、ファシリテーターの素養を備えた人材がいない組織は、時代に取り残される可能性が大きいといえます。

社内教育とAIの関係性

さて、社内教育はOJTからOJLに移行し、タレントマネジメントの普及とともにさらに加速している現状を確認してきましたが、このコロナ禍を機にHR-TechおよびAIの急速な技術発達によって、さらにその先の世界を予測できそうです。

① 新型コロナは再教育の課題を悪化させた

今般のコロナ禍において、現場やHRは従来の視点から抜け出せておらず、必要なスキルを予測してきた従来の方法は機能していないといわれています。これは、変化のスピードが人の予測値よりも早くなってきていることを示しているのです。むしろ、業務上必要としているスキルは、どの仕事においてもその多くのスキルのうち、新しいスキルを習得していない従業員の方が多くなることは必然なのです。

実際に、一つの仕事に必要なスキルは、前年比で10%、2017年の平均的な求人情報にあったスキルのうち、2021年には33%が加速度的に必要とされなくなるといわれています。

つまり、OJTやOJLでは太刀打ちできないような、求められるニーズの変化が起きているということになります。

② 新たな使命:再教育へのダイナミックなアプローチ

この現状は、人材の再育成と再配置といった、全ての利害関係者に影響を与えるダイナミックなネットワークづくりの促進などのアプローチが必要になっていることを示しています。他にもニーズの変化を察知し、必要な時に必要なスキルを身につける方法を一緒に考えていく必要があります。

21%のHRリーダーが、将来のスキルニーズを判断するために、キャリアに関する説明責任を共有したり、キャリアパートナーになったりしていると回答しているのです。このようなダイナミックなアプローチを行うことにより、他のアプローチよりも従業員は学習した新しいスキルに75%とはるかに多く適応できます。

また、ニーズに合わせて学習を早期に開始し、新しいスキルソリューションをよりタイムリーかつ迅速に開発することができた、という調査結果も出てきています。

HRはより高いインテリジェンススキル(情報収集能力)を持って、必要な新しいスキルソリューションを迅速に開発するために、既存のリソースを認識し、適応させる「スキルアクセラレータ(加速装置)」としての役割も求められるようになっています。

③ 加速度的な新しいスキルの獲得に向けてできること

このように、変化し続ける環境下で、従業員に権限を与えるタイムリーなスキル決定を行うためにも、従業員にとっての利益となるスキルの獲得と組織的なニーズに関する情報交換を行えるような場を設計するなど、双方向のスキルの透明性を高めていくことも必要になっていくはずです。

社内教育の意味と人材育成の議論の深化へ

創業者やオーナー企業は別として、人材育成の重要性を否定する経営者はいないはずです。その一方で、「お金がかかる」「結果がはっきり分からない」「会社は仕事の場で教育機関じゃない」といった話をいたるところで聞きます。

もちろん、ある程度の規模になれば責任者や専任担当者を置いて人材育成に取り組む企業が多くなりますが、「育成や教育のための予算は経営状況次第」という会社も多いはずです。人材育成が、売上や利益を上げるのと同レベルの重要課題とはいえず、いまだに投資(Investment)ではなくて費用(Cost)と認識されているのも事実でしょう。

これは日本の国家予算でも同じことがいえます。日本の初等教育から高等教育に対する公的支出総額の比率(2017年)は7.8%で、OECD平均10.8%に比べて低く、最も比率の高いチリ17.4%の半分以下です。皆さんの企業の予算比は何%でしょうか?

改めて、原点に戻って考えると、全ての事業は人によって行われています。担当者や実務者の能力、つまりタレント次第で事業の成果が大きく異なります。事業目標を達成するには、相応のタレントを持った人材に事業を担ってもらわなければなりませんが、事業を遂行するスキルや能力があらかじめ備わっている人はいません。

特に、大学を出たばかりの新卒を一括採用するのが今でも主流の日本では、入社後の先輩の指導や関連する研修、自らの学習、業務経験などを通じて能力を磨かなくてはならないのです。

すでに欧米企業は、新しい戦いのためにOJLを開発し、組織開発と人材開発を同時に行うことで、人的資本を整えてきたのです。

今般の新型コロナウイルス感染症による事業環境の変化やAIの発達により業務の自動化がますます普及していくことが予測されるなか、人材育成に予算を投下せずそしてOJLを開発せずに戦ってきた日本企業はどうすべきか。今回の記事を参考にしていただき、改めて自社の組織戦略や人事戦略を見直すきっかけにしていただければ幸いです。

(参考:2020 Gartner Future of Work Hidden Trends)
(参考:2020 Future of Work Hidden Trends: Elimination of On-the-Job Learning、2020 Gartner Shifting Skills Survey for HR Executives; Gartner TalentNeuron™)
(参考:Education at a Glance 2020, OECD/UIS/Eurostat (2020), Table C4.1.)

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  • 鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 労務・制度 更新日:2022/04/13
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