エビデンスベースの採用:生産性の高い組織をつくる体系的で反復可能な採用活動
多くの採用担当者は、堅実に仕事ができる人を雇い、トレーニングすることでチームの生産性が上がると考えています。
エグゼクティブ専門の採用エージェントの役員で『Evidence-Based Recruiting: How to Build a Company of Star Performers Through Systematic and Repeatable Hiring Practices』の著者アーター・タルキ氏は、それが間違いであると指摘します。
生産性を上げるためには、トレーニングにコストをかけるよりも、その分を採用活動に使って、優秀な人材のなかでもトップレベルの人材を採用することに焦点を当てる優秀な人材を獲得するための手法を活用することが必要です。
そのためには体系的で反復可能な採用活動のプロセスを構築する必要があります。そのポイントについて、本書のなかから紹介します。
採用実績を改善する価値について理解する
優秀な人材を採用するためには、採用担当者が次のようなことを理解していなければなりません。タルキ氏は、この「勝つための採用活動」を、マイケル・ルイスの著作『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』になぞらえ、「採用活動のマネー・ボール」と呼んでいます。
- 勝つためには、才能を育てるよりも、才能がある人を見つけるほうがずっと重要である
- 才能のある人を見つけるには、直感的なアプローチよりデータ駆動型の採用活動のほうが、ずっと優れている
- データ駆動型の採用活動をするには、関連する問題を確実に測定できるように慎重な実行が必要。例えば、すべての職種のすべての候補者に同じ1つの質問をしてそれを評価することは、投手とキャッチャーを雇うときに同じ基準に頼るのと同じで逆効果。面倒でも特定のポジションごとに基準を作ってテストを繰り返し、各職種の基準を作る必要がある
- どの仕事も、本当に必要なことに集中し、候補者選考のプロセスにノイズを発生させる無駄な作業をなくす
体系的で反復可能な採用活動をするには
トップレベルの人材を獲得できる採用活動は一朝一夕にはできません。それは採用試験と面接の質問がうまく設計されていればいいという問題ではないのです。
候補者選考のプロセスを効果的なものにするには、採用した人材が、期待したパフォーマンスを発揮できているか追跡調査をすることで、採用試験と面接の効果を測定する必要があります。これが「フィードバックグループ」です。
そして、フィードバックグループの結果をもとに、候補者選考のプロセスを改善し続けなければなりません。これは非常に大切な仕事ですが、驚くべきことに採用の質を測定している組織はわずか23%であるとタルキ氏は述べます。
- フィードバックグループを作る
- サッカーでいえば「ボールのパス」「シュート」「ディフェンス」のように、技術ごとにテストを行える環境で、1つずつ改善していく
- 成功につながる活動を熱心に測定し追跡する
フィードバックグループ
採用の成功を測定するフィードバックグループを作成するために、組織は次の問題を全て克服しなければなりません。
成功を定義する
何を持って成功とするか決めておきます。
時間と労力を前もって投資する
構造化されたインタビューやテストを設計してデータを得られるようにします。
測定の困難を克服する
仕事上の成功に不可欠な資質をたくさん測定することは困難です。有意義な結果を得るには「候補者の知性のどこを測るのが最善か」と考えること。
候補者の面接にともなうテスト設計の課題を克服する
例えば、面接の間や入社したばかりのときに信頼できるようなふりをすることは簡単ですが、1年後には本音が出ます。それを面接でどう見抜けるでしょうか。
評価方法における課題の克服の仕方を十分に理解する
相関関係は因果関係ではないことを覚えておきます。また、評価方法をいくつも取り入れてしまうと結果が混乱し、それを正すのは一苦労となるので注意が必要です。
サンプルサイズを大きくする
テストする新しいアイデアごとに十分な数のサンプルを用意する必要があります。
規律を守る
このステップを数日、または数週間続けるのは簡単ですが、毎月、毎年となると大変です。
忍耐を維持する
成功した人と、成功しなかった人を特定するには長い時間がかかります。スクリーニング基準が有効かどうかを判断するには、数か月、さらには数年かかることもあります。
採用試験を改善する
体系的で反復可能な採用活動をするためには、採用試験と面接の内容を改善することも、もちろん必要です。ここでは本書のなかに登場する採用試験の改善方法について紹介します。
構造的な採用面接をする
構造化面接とは、あらかじめ評価基準や質問項目を決めておき、それに沿って質問をしていく面接手法です。今では多くの企業が取り入れていますが、タルキ氏は構造化面接について、次のようなアドバイスをしています。
- 候補者に聞きたい質問を書き出す
- 自分が作った質問に対して、良い答えと悪い答えを自分で書いてみる (その答えがはっきり思い浮かばない場合は、仕事ができるかどうかを判断する質問ではなく、その人に好意を持てるかどうかの質問になっている場合があり見直しが必要です)
- 5段階評価のように数字で評価する
- 質問を複雑にしすぎない。たくさん質問がある場合は4つか5つのカテゴリーに大きく分ける
- 面接中は、その人の印象に左右されないこと。あくまでも質問に対する答えを評価するよう意識すること
- 各カテゴリーのスコアを出し、最後にこれらのスコアを総合して候補者のスコアとする
目標設定を明確にする
採用試験で「良い」候補者を採用したいとは誰でも思うことですが、その「良い」の内容がはっきりしていない場合が多くあります。どのような人材が「良い」のか、採用する側がきちんと理解していなければ採用できません。
この職種の義務は何か? この役割の成功をどのように客観的に測定できるか? をあらかじめ設定することが必要です。まずは採用したい人物像を思い浮かべてみましょう。
- 今までその分野で成功した従業員は誰か。「このような人を採用したい」という人物をあげる
- その人物がどのような業績を残したか
- その業績を達成するために、どのような活動をしていたか
- ほかにどのような特徴があったか
特定の人物像や、その行動が思い浮かんだら、その人物にリーチするには、どのような面接が必要か、誰が何回面接をすればいいかなど細かく設定を考えます。
採用試験のバイアスをなくす
採用試験のなかの様々なバイアスをなくします。自分にバイアスがあることを認め、意識することが大切です。
例えば、イェール経営大学院のシェーン・フレデリック教授は、試験を採点する前に名前をテープで隠すアシスタントを雇っています。そうすることで、自分が良い印象を持っている生徒も、印象が悪い生徒も公平に採点ができるそうです。
またAmazonの調査では、5人の面接官が全員一致で採用した人材よりも、全員の意見が一致せず1人の面接官に反対されたにもかかわらず採用された人材のほうが、入社後のパフォーマンスが優れていたという結果があります。
全員一致の意見が必ずしもベストというわけではありません。これも一種のバイアスです。採用試験のバイアスをなくすために、ほかにもできることがあります。
- 候補者を多様性(性別、年齢、経歴など)のある集団から選ぶ
- 面接官の多様性(性別、年齢、経歴など)を高める
- 「~したときのことを教えてください」という状況インタビューの質問を増やす
- 面接官一人ひとりの見方を大切にする(グループで意見をまとめない)
- 面接官ではない人が面接官一人ひとりの意見を総合的に評価して採用を決定する(Googleでは、面接官と採用を決定する審査員を分けている)
広告を出して祈るだけの採用活動をやめる
求人広告を出して祈るだけの採用活動になってはいけません。体系的で反復が可能な拡張性がある採用プロセスを作ります。そして、そのプロセスで良い人材が採用できているか確認するために追跡調査をします。例えば、タルキ氏の組織では、試行錯誤を通じて次のようなことが分かりました。
- 一部の役職では、職務の説明を含まないEメールのほうが職務内容を含むEメールよりも27%効果がありました。これはリンクや添付ファイルのないEメールのほうが信頼を得やすいということかもしれません。または、仕事の説明が入ることで単純にメールが長くなり読まれにくいのかもしれません
- パーソナライズされたメールは、一斉メールより75%効果が高い
このように、採用活動に関わるすべてのアクションについて効果測定をし、体系的で反復可能なプロセスに改善していくことが大切です。
優秀な従業員を採用チームに入れる
タルキ氏は、採用の実績を大幅に伸ばしたいのであれば、組織の中で5本の指に入る優秀な人を1人、人材獲得を担当する採用チームに入れることが重要だと言います。「最高の選手がいるチームが勝つ」のは、当然のことです。特に採用活動のように、結果を最大化するために確立されたプロセスに頼ることができない分野では顕著です。
採用プロセスの改善は「言うは易く行うは難し」
堅実に仕事ができる人を雇いトレーニングして生産性を上げるよりも、もとから生産性の高い優秀な人材を獲得する方法を考えたほうが効果的でコストも節約できます。
トップレベルの優秀な人材を採用するには、体系的で反復可能な採用プロセスを構築し、効果測定による改善を続けることが欠かせません。それをもとに直感に頼らず、データをもとにした採用活動をすることが大切です。そのために必要な努力について、本書では「言うは易く行うは難し」と説明されています。
一つひとつの改善はそれほど目新しいものではないかもしれません。しかし、それを継続することができる組織は少ないのです。規律と忍耐力によって、採用プロセスの改善を続けることができれば、他社と差のつく採用活動ができるようになることでしょう。
- 人材採用・育成 更新日:2022/03/10
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