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裁量労働制とは?その他制度と違いや、メリット、導入方法について

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多様な働き方が求められている現代ビジネスにおいて、「裁量労働制」の導入を検討している企業は多いでしょう。裁量、つまりは従業員個々人の判断により就業時間等を決定する働き方であり、働き方改革の一環としても注目を集めています。
その一方で、裁量労働制が原因による労使間のトラブルも耳にすることが少なくありません。果たして裁量労働制の実態とは何なのか?本記事では厚生労働省が発表している概要を参考にしながら、裁量労働制の概要等について分かりやすく解説していきます。

裁量労働制の概要(意味や定義、注目される背景など)

如何なるビジネスにおいても、100%計画通りに事が運ぶのはあり得ないでしょう。1つのビジネスに対して様々な人が関わっている以上、そこには不確実性が多分に含まれています。ことさら「専門職」と呼ばれるような職種や、企業運営に深く関わるような職種ではイレギュラーな事態が発生することが多く、労働条件を明確に定義できないケースがあります。
そうした職種に対して政府が定めている働き方が裁量労働制です。平たく言えば「業務の進行方向や就業時間などにおいて、それらの大部分を労働者の裁量に委ねる」ことを意味します。これは「みなし労働時間制」の一種であり、労働者の業務遂行や就業時間に関わらず、一定の時間就業したものとみなして給与を計算するものとなります。

裁量労働制が注目される背景としては、多様化するライフスタイルが挙げられます。情報通信技術の発展により、毎朝オフィスに足を運んで仕事をするという光景は過去のものになろうとしています。もちろん、職種によって通勤は欠かせませんし、従業員同士のコミュニケーション円滑化を考えるとオフィスという空間には大きな価値が残っています。
しかしながら、自由な働き方によって新しいライフスタイルを確立し、公私共に充実させたいと考えているビジネスパーソンが増えていることも確かです。マイナビが実施した『2022年卒マイナビ大学生のライフスタイル調査 』によれば、子育てに対する考えについて、「育児休業を取得して積極的に子育てしたい」と回答した男性の割合は56年連続で増加し、初めて506.5%を超える結果となりました。多様な働き方を求める傾向は新卒者に限らず、前線で活躍しているビジネスパーソンでも同様だと考えられるでしょう。

裁量労働制の仕組み

裁量労働制の特徴は、勤務時間の制限がなくなることです。労働者の勤務時間は、「9時から5時まで」など予め企業が定めますが、裁量労働制の場合、何時から働き、何時まで働くのか、労働者の裁量に委ねられ、実際の勤務時間が少なくても、働いたとみなす「みなし労働時間性制」が採用されます。
一方で、労働時間には制限があります。労働基準法に従い1日8時間、週40時間が適用され、これを超過する場合は、時間外労働として扱われます。

その他制度との違い

企業とビジネスパーソンには、裁量労働制以外にもいくつかの労働制度が用意されています。よく耳にするのがフレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制、みなし残業ではないでしょうか。簡単に違いをご説明します。

フレックスタイム制との違い

フレックスタイム制は労使協定によって一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が法定時間を超えない範囲で始業・終業時刻を労働者が自主的に決定する制度です。一見すると類似した制度ですが、裁量労働制は労働時間の算定が困難な場合に適用するという点に大きな違いがあります。

事業場外みなし労働時間制との違い

事業場外みなし労働時間制(通称みなし労働制、みなし時間制)は事業場外で労働する場合において、労働時間の算定が難しい時に所定労働時間を労働したものとみなす制度です。こちらも類似する点が多いですが、対象とする職種が限定されていないのが裁量労働制との違いになります。

みなし残業との違い

みなし残業とは、実際の残業時間の多寡にかかわらず、会社が予め定めた時間を残業したものとみなす仕組みです。この言葉には「みなし残業時間」と「みなし残業制度」の2つ要素が含まれます。
「みなし残業時間」とは、1日8時間の法定労働時間を超えた時間を指します。
「みなし残業制度」とは、実際の残業時間にかかわらず、決まった残業代を支払う制度です。
みなし残業代の名称は、法的に決まっていないため「固定残業代」「定額残業代」「一律残業代」など、企業によって名称が異なる場合があります。

裁量労働制の種類

実は、裁量労働制には2つの種類があります。「専門業務型」と「企画業務型」です。裁量労働制を導入しようと検討している企業ではまず、これらの違いを明確に理解し、自社にはどのタイプが適合されるのかを知ることが大切です。それでは、それぞれの概要をご説明します。

専門業務型裁量労働制

専門業務型の特徴は、対象となる職種が明確に定まっている点です。多様なビジネスの中には、その性質上、業務遂行の手段や方法、労働時間配分などを労働者の裁量に委ねる必要がある職種が存在します。それらの職種の中から厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた以下19の職種において、専門業務型裁量労働制が認められています。

  • 新商品・新技術の研究開発、人文科学・自然科学に関する研究業務
  • 情報処理システムの分析・設計業務
  • 新聞・出版・記事取材・編集業務、番組放送・有線ラジオ放送業務の運用や制作等の業務
  • 衣服・室内宝飾・工業製品・広告等の新デザイン考案業務
  • 放送番組・映画等の制作事業におけるプロデューサー・ディレクター業務
  • コピーライター業務
  • システムコンサルタント業務
  • インテリアコーディネーター業務
  • ゲーム用ソフトウェア創作業務
  • 証券アナリスト業務
  • 金融工学等を用いた金融商品開発業務
  • 大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
  • 公認会計士業務
  • 弁護士業務
  • 建築士業務
  • 不動産鑑定士業務
  • 弁理士業務
  • 税理士業務
  • 中小企業診断士業務

上記の業種のうち、対象となる業務を労使間で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合に限り、裁量労働制によって規定の労働時間働いたものとみなします。

企画業務型裁量労働制

経済の構造的変化と、ビジネスパーソンの就業意識変化に追随し、事業活動を継続的かつ持続的に成長させていくためには、事業の中枢で活躍する従業員がクリエイティブな能力を存分に発揮する環境づくりが肝要です。また、そうした従業員自身もスキルとキャリアを十二分に生かしながら、主体性を持って働きたいという意識が強くあります。

それらの状況下において、新しい働き方のルールを設定するための枠組みとして2000年4月に施行されたのが企画業務型裁量労働制です。対象となる職種は、事業運営場の重要な意思決定が行われる本社や支社、支店などにおいて、企画・立案・調査・分析を行う労働者です。製造業等において作業や当該作業にかかわる工程管理のみを行なっている事業場、本社等の具体的な指示を受けて個別の営業活動のみを行なっている事業場などでは導入できません。

企業が裁量労働制度を導入する目的

企業が裁量労働制度を導入する目的は、業務効率化と生産性の向上にあります。業務の中には、9:00~17:00までなど、勤務時間の制限が設けられることによって採算性が低くなる業務があります。
極端な例では、ある日は2時間分の仕事しかなくても、決められた8時間分の労働時間が拘束されてしまいます。そして、ある日は、業務量が多く10時間以上の労働をしなければならない場合もあります。
こういった業務には、1日8時間一律固定の労働時間をあてはめ管理することは非効率的となります。
裁量労働制は、労働時間を労働量にあわせて 労働者が決められるため効率的な業務運用を行うことができます。

裁量労働制のメリット・デメリット

裁量労働制は、導入すれば必ずしもメリットばかりというわけにはいきません。むしろ企業によってはデメリットが際立ち、労使間のトラブルに発展するケースもあります。このため、裁量労働制を検討されている企業には必ずメリット・デメリットを等しく理解していただきたいと思います。

裁量労働制のメリット

専門業務型

先にご覧いただいたように、専門業務型の対象になっている職種は全てクリエイティブ性の高いものばかりです。これらの職種では企業が設ける就業規則通りに業務を遂行するとなると、労働者の能力を十分に発揮できない可能性があります。労働者個人は自身の能力を最大限発揮しながら、充実したビジネスを展開し、質の高い成果物を生み出せるのがメリットです。また、企業としては予測しづらい人件費を事前把握し、労務管理にかかる負担を軽減しながら効率性を追求できます。

企画業務型

企画・立案・調査・分析の現場では、労働者が発案したアイディアの企画化やタスクへの落とし込み、実施と調査、分析といったサイクルを如何にスピーディに行えるかが事業成功の鍵を握ります。労働者に最良の自由を与えることによりこれらのサイクルを迅速化し、継続的かつ持続的な事業成長を実現する企業体質へと変化できます。企画業務型の職種も専門業務型同様に高いクリエイティブ性が求められるので、ワークライフバランスを整えやすくなることも質の高い仕事への一助となります。

裁量労働制のデメリット

デメリットに関しては専門業務型と企画業務型で共通している点が多いでしょう。第一に、裁量労働制を導入するための手続きが必要であり、企業にとって負担になります。具体的な導入については後述しますが、労使委員会の設置や運営ルールの確立に負担が集中します。

裁量労働制の導入について

裁量労働制は政府によって定められた所定の手順により、労使協定を結んだり労使委員会を設置したりと、導入にはいくつかのステップを踏む必要があります。専門職型と企画業務型とで導入方法が異なる点に注意してください。

専門業務型の導入

専門業務型を導入する際はまず、労使間での協定を結びます。協定内で決定すべき内容は厚生労働省によって次のように説明されています。

  • 制度の対象とする業務(法令等により定められた19業務※上記「専門業務型裁量労働制」参照)
  • 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関して労働者に具体的な指示を出さないこと
  • 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間/対象業務に従事する労働者の労働時間として算定)
  • 対象となる労働者の労働時間に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的な内容(例/対象者の勤務状況や健康状態に応じた「代償休日・特別休暇の付与」など)
  • 対象となる労働者からの苦情の処理のために実施する措置の具体的な内容(例/対象者が苦情を申し出やすくなるよう相談窓口や人事以外の担当者などを配置する)
  • 協定の有効期間(3年以内が望ましい)
  • 4及び5に関し、労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間およびその期間満了後、3年間保存すること

これらの労使協定を決定した上で、様式第13号によって所轄の労働基準監督署長に届け出ます。とは言っても、初めて裁量労働制を導入する企業にとって労使協定の作成は難しいかもしれません。その際は厚生労働省が発表しているサンプルを活用してみると良いでしょう。
また、労働基準監督署長への届出が完了したら終わりではなく、労使協定の内容を就業規則へしっかりと反映させる必要があるのでお忘れなく。

企画業務型の導入

<本文>

企画業務型では労使委員会の設置が優先事項になります。労使委員会というのは、事業場内における企業側(使用者側)と従業員の代表者によって構成される委員会であり、次の要件を満たさなければなりません。

  • 労働者を代表とする委員と使用者を代表とする委員で構成され、労働者を代表する委員が半数以上を占めること
  • 労働者を代表する委員は、1過半数組合または過半数代表者に任期を定めて指定を受けていること

これらの要件を満たし、労使委員会を設置して初めてスタートラインに立てます。次に、労使委員会によって次の事項を協議し、委員の4/5以上の決議をとる必要があります。

  • 対象となる業務の範囲(次の4要件をすべて満たす業務「所属組織の事業運営に関する業務」「企画・ 立案・調査及び分析業務」「業務の遂行方法を従業員の裁量にゆだねる必要(客観的判断)がある業務」「企画・立案・調査・分析などのプランや実施方法などについて裁量が労働者に認められている業務)」
  • 対象労働者の範囲(原則、対象業務に対して常態的に従事していること)
  • 労働したとみなす時間(算定される労働時間)
  • 使用者が対象労働者に対して実施する健康・福祉の確保のための措置(対象労働者の勤怠把握や勤務状況に応じた代償休日や健康診断の実施など)
  • 苦情処理のための処置(苦情を申し出する窓口や担当者の配置、苦情の取り扱い範囲の明確化など)
  • 労働者本人の同意を得ること、及び不同意の労働者に対して不利益な扱いをしてはならないこと
  • 決議の有効期限(3年以内が望ましい)
  • 企画業務型裁量労働制の実施状況に関わる記録を、決議の有効期間中および満了後3年間保存すること

これらの決議が完了した後、所定の様式によって所轄の労働基準監督署長へ届出を行い、専門業務型同様に就業規則への反映を行います。

裁量労働制における“残業代”の考え方

1日8時間以上、週40時間以上をみなし労働時間とする場合に残業代が発生する

企業が裁量労働制を導入するにあたり留意しなければならないのが、業務遂行の手段や就労時間等を労働者の裁量に委ねるとは言えども、“残業代”が発生する可能性があることです。労働基準法によって定められている法廷労働時間は1日8時間、週40時間であり、裁量労働制においてもこの考え方が適用されます。このため裁量労働制において1日8時間以上、週40時間以上をみなし労働時間とする場合、残業代はしっかりと発生するのです。

割増賃金の考え方についても労働基準法で定められている一般的な基準が適用され、1時間あたりの賃金に25%を上乗せします。一般的な計算方法としては、1ヶ月の給与を平均所定労働時間で割り、1時間あたりの賃金を算出してから25%を上乗せします。また、残業時間が月間で60時間を超える場合は1時間あたり50%の上乗せになることも、一般的な基準と同様です。

この他にも深夜労働、休日労働についても労働基準法が定める割増賃金が適用されます。ただし、休日労働に関しては1時間あたり35%の上乗せになり、残業や深夜労働よりも割増賃金が高くなるのでご注意ください。さらに、休日労働に加えて深夜労働となると1時間あたりの賃金に対して60%上乗せになるので、この点を考慮した上で労使協定を定めるのがトラブルを防ぐポイントになります。

裁量労働制導入の注意点

裁量労働制の導入には、前出の通りメリット、デメリットがあります。ここではその注意点をまとめます。

従業員の反発

デメリットの項目で記載の通り、労働者視点から見て「長時間労働の常態化リスク」があり、従業員が導入に反対をする可能性があります。過度な労働を強いることのないような管理体制が必要です。

36協定と裁量労働制

裁量労働制も、36協定から逃れることはできません。みなし労働時間を決定するときは、36協定に定めた時間も考慮して設定する必要があります。
一般的な36協定では、1か月で45時間、1年間で360時間を限度としています。みなし労働時間もこの限度を超えないように設計しましょう。

裁量労働制の問題点と対策

裁量労働制を実施する際の問題点は、実労働時間とみなし労働時間の乖離が発生する可能性があることです。
従業員に時間管理をゆだねたことで、時間の管理が甘くなり「長時間労働の常態化」が起こり、法定以上の労働時間を強いてしまうリスクがあります。これは、労働者側にとって大きなデメリットで労使間のトラブルの要因になりえます。
また、会社側も、法令遵守を怠ったことや、従業員の健康管理を怠ったことに対するリスクを負うことになります。
会社側は、法定外の長時間労働が行われないように、管理や監視体制を構築する必要があり、また、従業員が気軽に相談できる窓口を設置しましょう。

裁量労働制の導入には慎重性を持って

裁量労働制により労働者は多様なワークスタイルを実現し、企業は生産性向上や管理負担軽減などのメリットを得られることは確かです。しかし本記事で解説したように、必ずしもメリットを最大限引き出せるとは限りません。
まずは、自社ビジネスにおいて裁量労働制は本当に必要か否かを見極めることが肝要です。その上で導入した場合具体的にどのようなメリットを享受できるか、想定されるトラブルは何か、などをしっかりと検討し導入可否を判断していきましょう。

参考

  • 労務・制度 更新日:2022/12/07
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