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海外文献から読み解く新型コロナ感染症発生後のHRトレンド ~個人のキャリアのアジャイル化~

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新型コロナウイルス感染症拡大は、世界中の生活や仕事、経済に影響を与えることになりました。日本企業においては、経営マネジメントの在り方が問われた転換期ともいえるでしょう。

そのような中、皆さんは、どのような方法で人事業務の情報を収集しているでしょうか? 

本コラムでは、海外のHR関連の各文献で想定されていた「新型コロナウイルス感染症の終息の見込みのない昨今の世界におけるHRトレンド」が、現時点でどのような進捗となっているのか? 改めて、欧米のメディアの情報から読み解いていきます。バズワードに踊らされずに、あくまでも自社の環境と比較し、経営者やHR担当者の認識を新たにする機会となれば幸いです。

今回は、今年米国ガートナー社が最高人事責任者(CHRO)に対して仕事の未来に影響を与えるトピックをヒアリングした結果、彼らが特定したトレンドの一つである「個人のキャリアのアジャイル化」について取り上げます。

労働市場の断続的な変化

そもそも、社会全体の仕組みが変わるレベルの大きな変化は、徐々に移行し普及していくといったものでした。しかし、この20年を振り返ると、FAANG(Facebook・Amazon・Apple・Netflix・Googleの総称)の登場といった、テクノロジーの発達による生活環境の急激な進化や、「SDGs」が共通認識になるほどの自然環境の変化が起こっています。私たちはこの20年、何が起こるか予測不可能な「VUCA時代」を生きてきたのです。

さらに、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行に伴うライフスタイルや働き方などの急激な変化によって、私たちは不確実な状況を生き抜くことを余儀なくされています。

ここでは、個人の労働観やキャリア観に大きな影響を与えている3つの因子を確認していきましょう。

1. 経済環境の変化

新型コロナウイルスの感染は、2020年12月現在も未だ終息の見込みはなく、需給の両面にショックが起きている経済の回復には10年を要するという予測もあります。各国政府は感染第3波、第4波を防ぐために経済再開をゆっくりとしか進められず、ワクチンがまだ普及していないことから再度ロックダウンを迫られている地域もあります。

世界貿易機関(WTO)は、国際通商の崩壊は世代最大規模になると予測し、超党派の米連邦議会予算事務局では、「米国経済は10年先の2030年まで完全には回復しない」と予測しています。また、欧米を中心とする感染拡大の加速に加え、債務返済負担の増加が景気回復の重石となっています。今後の感染拡大ペースや、ワクチン・治療薬の普及時期等が不透明なことから、先行きの不確実性は依然として高く、世界経済の見通しは幅をもってみる必要があります。

2. 企業の競争環境の変化

「アマゾンがまさかリアル店舗を出すとは!」、「まさか自分たちで音声デバイスを出すとは!」このように異業種の壁を越えてくるような事業展開はこれまでは異質であり、「破壊的イノベーション」として迎え撃つような状況が多かったのではないでしょうか。

しかし、現在は日本においても、自動車製造のトヨタが都市実験プロジェクトを始めたり、家電のパナソニックが自動車を作り始めたりといった流れが起きています。業種の壁を乗り越えた競争が始まり、加速し始めているのです。

3. 雇用・所得環境の変化

新型コロナウイルス感染症拡大による経済状況の悪化を受け、世界中で失業率が急上昇しており、米国では数千万人が職を失い、「今後何年も雇用は記録的な低水準が続く」と予想されています。

対面接触を行うサービス業を中心に、失業率は歴史的レベルに達しようとしており、転職や再就職をめざす人たちは非常に厳しい環境に置かれています。さらに、先行きの不確実性や失業の増加、所得の低迷は、消費・投資の手控えによる需要減・供給減と、危機の連鎖を生んでいます。

今日、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)が経済に及ぼす影響は、米国でさらに広範なプロフェッショナルのキャリアを一変させる恐れがあります。

労働者の流動もどんどん進み、企業側も従業員の一生に責任を持つのは難しいことから、短時間勤務や副業を推奨するようなワークシェアリング、特にリモートワークが標準となっていくことが予想されます。そのような世界では、知識ベースの「ギグワーカー」が活躍する機会が増えていくと考えられており、働き方自体がハイブリッド化していく未来も考えられます。

このように、今後の展開が誰にも見通せない状況下で、その影響を詳細に予測することは不可能なのです。しかし、今起こっている変化は、新型コロナウイルス感染症拡大による世界的なパニックが起こる前から起こっていた変化であることを認識しておく必要があります。変化への対応を後手に回した結果、パンデミックにより時間軸を強制的に縮められ、国家政府も企業も個人も準備する時間が無い中で、「どう生き残るのか?」それぞれが知恵を絞っている状況が今なのです。

キャリアのアジャイル化とは?

ここまでお伝えしてきた通り、私たちの生活は急激に変わりつつあります。特に働き方については、今後より大きく変化していくことは確実でしょう。しかし、「どう変わるのか」までは定かではない状況下で、「自分は何をやるべきなのか?」と自問して、キャリアを考え直している人もいらっしゃるのではないでしょうか。

一方で、この先行き不透明な時代の中、自ら大きな変化を起こすのをためらう人がいらっしゃるのも、世界共通で当然なことなのです。

個人のキャリア観の変化

米ガートナー社の調査では、現在の組織で将来の自分の役割を思い描くことができる従業員は32%にすぎませんでした。実際に企業はしばしばキャリアの成長と発展を約束して従業員を採用しますが、多くの従業員は必要なものが得られていないと感じています。

これまではウォーターフォール型のキャリア開発だった

トップダウンで作業工程を分割してソフトウェア製品を開発する手法は「ウォーターフォール型」と呼ばれます。「プロジェクトの完了日や仕様は、開発途中で変更しない」といったように、緻密な計画を立てて開発していくことが特徴です。

キャリアの世界でも、先のキャリアをイメージして「何年後に〇〇をしよう!」と未来を描くことが、キャリア教育の主流でした。日本においては、計画重視で山登り型の「キャリア・デザイン理論」がこれに当たります。

しかしながら、未来を予測しながら計画を立てていく「ウォーターフォール型キャリア」の場合、そこにバイアスがかかってしまい、今回のパンデミックのように時々刻々と状況が変化している時に、最適な判断ができなくなってしまうのが実情です。

不確実な中でのキャリア開発とは

一方で、計画を立てることそのものよりも、個人が置かれた状況や環境に柔軟に適応しながらキャリアをつくっていくことを重視し、人生の転機の乗り越え方や偶然のチャンスを呼び込むスキルなどを提示する理論の一つが、「アジャイル型キャリア」です。

「アジャイル型」とは、少しずつリリースして、最低限必要なものから作り、顧客や市場の反応など見ながらまた作っていく。完成品を一気に作るのではなく、少しずつ作っていくという、ソフトウェア開発における手法が語源となっています。

時代の変化が激しいソフトウェア開発においては、1年前に良いと思った要件でも、リリースするころには全く環境が変わってしまうことから、ウォーターフォール型では対応が難しいのです。

ソフトウェア開発に限らず、不確実で変化が速い時代におけるキャリア形成にも同じことが言えます。正社員だけでなく、副業や転職、起業、フリーランスなどを通じた経験と学習のサイクルから、キャリアを最適化していくという選択肢も視野に入れていく必要が出てきているのです。

アジャイル型キャリアの進展可能性

当初この概念は、福利厚生などのコストが高い正社員を削減したい会社にとって「非常に都合の良いもの」としか考えられていませんでした。つまり、比較的少数の人が多くの人の犠牲によって得をするトレンドだと思われていたのです。この背景には、医療系福利厚生の廃止や年金制度の崩壊など、長期的な個人・社会への影響が心配されていたことがあります。

アジャイル型キャリアに対する反応

オランダの人材サービス企業Randstad社が行ったアジャイル型キャリアに関する2017年の従業員意識調査では、短時間社員、契約社員、コンサルタント、あるいはフリーランスなどアジャイルな役割に就く労働者(以下、アジャイルワーカー)は全体の11%のみでした。

一方で、「今後2~3年で身軽な仕事への転向を考える可能性が高い」と答えた正社員は39%に上っていました。つまり、この傾向が続けば2019~2020年にはアジャイルワーカーが労働力の半分近くを占めるようになると考えられていたのです。

アジャイル型キャリアの魅力

同調査で最も興味深かったのは、従業員の視点から見たアジャイル型キャリアに対する魅力です。アジャイルワーカーの回答内容のうち、重要な4項目を紹介します。

  • 48%が、アジャイル型キャリアの方が「正社員として働くよりもキャリアの成長が見込める」と考えていた。
  • 56%が、アジャイル型キャリアの方が「収入が増える」と答えた。
  • 38%が、アジャイル型キャリアの方が「安心する」と考えていた。
  • 63%が、アジャイル型キャリアによって「未来の職場への適性を高められる」と答えた。

このように、多くの従業員がアジャイル型キャリアに経済・キャリア面での利点を感じているのであれば、これはキャリア理論として非常に強固な土台となり得ます。これに労使間の忠誠心の低下や従来型企業社会への不信感の高まりが加わり、アジャイル型キャリアにより大きな将来性が感じられるようになれば、こうした働き方を求める人が急増しても驚くに値しない状況だったのです。

【まとめ】個人が生き残るために

紹介してきたように、世界中で個人のキャリアがアジャイル化していく可能性が、現実味を帯びています。そのような事態に対応するためには、「自分のキャリアは自分で創る」という自律的なマインドセットと目標を持つことが大前提になります。

不確実な現代を生き抜かなければならない日本企業においては、年功序列の維持や「従業員個人の人生全般に責任を持つ」ということが当然難しくなると考えられます。

しかし、従来のメンバーシップ型雇用による滅私奉公の採用・配置・処遇や、自社適応のための社内教育では、企業も従業員個人も共倒れの結果が待っています。

不確実性の高い時代を個人が生き抜くためには、従業員個人が国や企業に頼りきるのではなく、国のセーフティネットや企業という成長の場を活用して、「自分は何をやりたいのか?」、「どういうキャリアを選びたいのか?」といったことに向き合って考え続け、自分の人生を歩む気概を持ってほしいと切に願います。

会社としては、今まで「会社に100%奉公しろ」とばかりに副業を禁止してきところを、急に「自立しろ」「複線型キャリアを志せ」と号令をかけて放り出してはなりません。従業員自身のキャリアが時代の変化とともにアジャイル型に適応できるよう、再教育を検討したり、アジャイルワーカーを内包する組織設計や組織風土をデザインしていったりする必要性があるでしょう。今回ご紹介したことを人事戦略に活かしていただきたいと思います。

参考:Gartner:Agile Career Pathing for Dynamic Organizations - 03 November 2020
参考:Randstad:Workplace 2025 - Embracing Disruption in a Post-Digital World

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  • 鈴木秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへの家族移住を果たし、中小企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外の邦人のためのコミュニティ作りなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 人材採用・育成 更新日:2022/02/15
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